第2戦 九条さんVS不審者

 東京都足立区の山の手にある区立桜月さくらづき中学校。九条くじょうあかりは3年C組唯一の学級委員である。



「先生、今朝登校する時、後ろから付いてきた知らないおじさんにカメラで勝手に写真を撮られました。不審者がうろついていて怖いです……」

「それは困ったわねえ。すぐに警察と町内会に連絡して、不審者への対応を急いで貰うわ」


 朝のホームルームで、3年C組の女子生徒は担任である家庭科教師の生内いけうちに不審者から受けた被害を訴えた。



「先生、学級委員から意見があります」

「あら、どうぞ九条さん」


 ピシッと手を上げたあかりに、生内は慣れた様子で発言を許可した。



「この平和な町内に、不審者なんているはずがありません。その人は私たち中学生が犯罪の被害に遭わないよう、いざという時に証拠を押さえるつもりなのです」

「ええっ!?」

「そうと分かればこうしてはいられません。今すぐ警察に行って、正義のために戦うカメラマンを支援して貰います。1時限目は公欠とさせてください」


 あかりはそう言うと恐るべき勢いで教室から走り出し、校外へと全速力で駆け抜けていくあかりを窓から見てクラスの全員が呆然としていた。



 その1週間後、中学生を守るために戦うカメラマンを支援するため町内にはあり一匹逃さない監視カメラ網が整備され、あかりは朝のホームルームで自らの成果を発表していた。


「皆さん、正義のカメラマンさんを支援するための取り組みにより、この町内に不審者はいなくなりました。クラス全体で勇気あるカメラマンさんに拍手を送りましょう」


 あかりの提案に従い、3年C組の生徒たちは顔も知らない正義のカメラマンに惜しみない拍手を送った。



「……結果オーライ、なのかな……?」


 女子生徒の呟きを耳にした者は誰もいなかった。



 (続く)

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