第3戦 九条さんVS地球市民
東京都足立区の山の手にある区立
桜月中学校では各クラスの学級委員が交代で校長と給食を食べることになっており、あかりはその日、3年D組の学級委員と一緒に校長室を訪れていた。
「あなたがこの学校の校長ですね。今の時代に日の丸を掲揚するとは、この中学校のコンプライアンスはどうなっているのですか!?」
「そんなことを言われましても、国旗掲揚は公立学校の責務でして……」
「校長先生、この人たちは?」
給食を前に複数名の大人の男女から糾弾されていた校長に、あかりは不思議に思いながら来客のプロフィールを尋ねた。
「私たちはグローバリズム推進協会の地区委員です。
「そんな、今時地球市民みたいなことを仰られましても。そろそろ昼食の時間ですし、一旦お引き取り頂けませんか?」
厄介な市民団体を適当にあしらおうとしていた校長に、あかりは何かをひらめいた様子で口を開いた。
「校長先生、この世界に地球市民なんているはずがありません。この人たちが言うように、国家間の平和のためにはそれぞれの国にルーツを持つ人に配慮するのは当然ですよ」
「ええっ?」
「そうと決まれば、今日からこの学校は改革される必要があります。皆さん、この給食は何の料理だと思いますか?」
「もちろん、カレーですよね」
あかりは市民団体の女性に給食を見せて尋ね、女性は当たり前のようにそう答えた。
「正確には今日の給食はインドカレーです。これはダイバーシティの観点から問題ですから、次回からは全てレトルトカレーに変更して貰います。フランスパンは食パンにして、校長先生がいつも飲んでいるアメリカンコーヒーはインスタントコーヒーに変えましょう。その方が安上がりですし」
「そ、そんな……」
あかりはそう言うといつもの調子で給食室へとダッシュし、校長は容赦ない宣告に青ざめた。
その1週間後、英語教師の尾田は校長室に呼び出されていた。
「校長先生、どうかなさいましたか」
「尾田君。いきなりで悪いが、君にはこの中学校を辞めて貰うことになった」
「はいっ!?」
驚愕した尾田に、校長は沈痛な表情でその理由を説明し始めた。
「ダイバーシティ尊重のために特定の国家をイメージさせるものは学校から排除されることになって、来月からはこの中学校の公用語はエスペラント語になる。君もクビが嫌ならエスペラント語教員という道は残されているが」
「こんな学校こっちから辞めてやるー!!」
尾田はそう叫ぶと泣きながら逃げ出し、校長は一体誰のせいでこのような事態になったのかを今更ながらに疑問に感じた。
(続く)
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