第250話 熟練度カンストの整列者

 結論から言えば、パチャカマックでの戦闘は一瞬だった。

 うちの最強戦力である巫女が三名とも投入されたのだから、当然の結果と言えよう。


 移民船は、全ての攻撃を水の壁で防がれ、表面装甲を炎で残らず焼き尽くされ、俺になます切りにされた後、リュカによって縮退炉を宇宙へ放り出された。

 俺とリュカ到着後、ほんの数分の出来事である。


「ユーマ様とアタシたち三人が揃うと、本当に凄いですよね……」


「あたしもこんなに呆気なく終わるとは思ってなかったよ。これ、あたしたちだけで世界を救えちゃうかも?」


「いやいや。俺たちの頭数は限られているだろう。だから、世界中の仲間に時間稼ぎをしてもらう必要があった。助けが来ると分かってる戦いと、来るか来ないかも分からない戦い。どっちがましだ?」


 俺が言うと、サマラとアンブロシアは得心いった顔をした。

 リュカはずっと、ニコニコしながら聞いている。

 ちなみに、この土地を守る太陽の戦士三名は、一名が死亡。二名が生存していた。


「我らの大地は」

「守られた」


 二人だけになったので、ちょっとバランスが悪いようだ。

 死んだ一人は、俺たちの到着を信じて死んでいったようだ。

 そいつの思いに応えられたのは、本当に良かった。


「じゃあユーマ、残るのは……」


「ああ。グラナート帝国だな。ストリボーグがいるから、簡単にはやられていないとは思うが……あそこ、広いからな。多分、船もたくさん降りて来てるぞ」


 俺の予想を裏付けるのは、グラナートまでパスを通って向っているアリエル。

 彼女はパチャカマックからグラナート、そしてディアマンテへ戻って、世界中から仲間たちを集めているはずだ。

 つまり、グラナート帝国が決戦の地になる。


「戻りました!」


 横合いの森から、アリエルが飛び出してきた。


「お疲れー。揃った?」


「はい! もう、ユーマさんの世界で言う、民族大移動ですよ! 土の方たちも、火の方たちも、寒い寒いって言ってます。水の方たちは平気そうですけど……あっ、私たちエルフやゴブリン、獣人たちは平気ですよ?」


「サンキュー。じゃ、最後だ。サマラとアンブロシアを送ってくれ。俺とリュカは、直接ワープする」


「はい!」


 今回の戦いの要になるのがアリエル。彼女が使う、森と森を不可視の扉で繋ぐパスの魔法だ。

 それも、これで終わりになる。


 で、この星を守る戦いが終わったら、俺は引退だ。

 エルフの森でだらだらと引きこもって暮らすぞ。

 あとは、こう……。


 リュカが、サマラが、アンブロシアが、アリエルが、俺に注目している。

 向こうには、ローザ、竜胆、亜由美、ヴァレーリアがいることだろう。

 増えたなあ……。


 責任取らなくちゃいけないんだよなあ。

 まあ、しゃあない。

 腹をくくることにする。


「よし、じゃあ行くぞ!」


「うん!」


 リュカが俺の腰に掴まった。

 俺はゲイルに乗ったまま、左目に意識を集中させる。

 まぶたの裏に浮かぶ光景。


 そこは、グラナート帝国。

 俺が宇宙から降り立った場所。


 視界が一瞬暗転し、風景が交じり合って歪んだ。

 そして、俺たちはグラナート帝国の大地に降り立つ。


「待っていたぞ、ユーマ殿」


 そう告げたのは、帝国の魔導騎士ヴァレーリア。変幻自在の魔導剣を操る、うちの陣営トップクラスの武闘派だ。


「本当に忙しいのう! これを終えて、さっさと蓬莱を助けねばな! あ、蓬莱の他の船は、亜由美が荒御霊様たちと仲良くなって、なんか突撃してやっつけたぞ!」


「あっし、あれめっちゃ怖かったっすよ! なんであいつらあっしにだけフレンドリーなんすか!?」


 蓬莱から戻ってきた、戦うお姫様、竜胆。宇宙船から奪った双刃のライトセイバーを振るい、荒御霊からの本格的な支援を受けた今では、常人を超えた身体能力を誇る荒神憑き状態に変身できる。


 俺と同じ現実世界からの転移者、亜由美。何にでも変化させられる絶対武器の巻物を使い、空を飛び、水中を行き、壁になったり攻撃したりと、とても便利な三下娘だ。


「まさか私たちにも出番が回ってくるとはな。私自身は戦力にはならんが、土の眷属を指揮して貴様らの支援を行おう」


 黒いドレスの上に鎧を纏った、黒髪の乙女。土の巫女ローザリンデ。辺境伯として最初期から俺と係わり、執政と事務処理能力に長けている。彼女の手には、魔力らしきものを帯びた光る剣が握られている。これで土の眷属たちに指揮を下すのだろう。


 そして彼女たちばかりではない。


「灰王よ! ちょっととんでもなさすぎるんじゃないかね、こいつは。まあ、家族を守る為に戦うけどな」


「貴公はいつもぶつぶつ言っているな。お館様と灰王陛下のご命令だ。そしてこれは世界を救う戦いでもある!」


 元傭兵にして、火の地方を守る戦士ヨハン。ローザの部下にして実直な騎士、オーベルト。


「わはははは! 血沸き肉踊るってやつだな! 最高に楽しいぜ! お前に付き合ってると退屈せんなあ!」


「灰王様もう泥舟にのったつもりでいてくだされ!」

「泥舟は違うんじゃないかゴメル!」

「そうなのかギヌル!」

「この場合泥舟じゃなくて木船!」

「それも違うんじゃないかギヌル!」

「そうなのかゴメル!」


 騒がしいのは、俺の悪友めいてきたオーガのギューン、そしていつも喧嘩ばかりしているゴブリンロードのゴメルとギヌル。今日は仲がいいな。


「灰王様、私たち水の眷属。空飛ぶ船の用意は万端です。ね、フトシ?」


「うん」


 水の眷属の長であり、恐らくはイカが祖先のマーメイド、プリム。そして彼女の移動用玉座役であり、盾であり……噂によると、夫になるんじゃないかと言われている、異世界転移者フトシ。にぶちんだが、こいつが持つ黄金の盾は俺でも砕くことができない。


「やれやれ、本来はあたしら、戦闘は嫌いなんだがね。ま、せいぜいこの量産したエルド教の長銃で手伝わせてもらうよ。ああ、こいつは連射機能をつけててね」


「我らリザードマン、灰王様のご下命あらば、一気呵成に外敵を殲滅しましょう!」


 ドワーフの女族長と、リザードマンの族長。


「がんばれみんなー! 灰王さまがんばれー」

「がんばレー!」


 なんで戦場に連れて来たんだろう。サマラお付の幼女二人。アイとマルマル。彼女たちを守るように、運搬特化型亜竜のチェアくんがいるからまだ安心か。

 それに、横にはアウシュニヤから来た巨象、アイちゃん2がいる。

 図らずも、二人のアイちゃんの邂逅だな。


「灰色の剣士! 不本意だ! できることなら今すぐ貴様を八つ裂きにしてやりたい!! だがっ! 私には成すべき仕事が!!」


 相変わらずうるさいのっぽ。ラグナ教の執行者、ウィクサール。彼の部下であろう、生き残りの執行者たちを従えての参戦である。


「それに、どうして貴様がここにいるのだ! エルド教の女!!」


「あら、ご挨拶ですわね? わたくし、もうユーマさんとはただならぬ仲でしてよ?」


 あっ、デヴォラがいる。

 俺にちらりと流し目をくれる辺り、これはもしかして、一人増えてしまったか……!? と俺は戦々恐々。

 リュカが俺のお尻をぎゅっとつねった。


「あいた!」


「後で紹介してね、ユーマ?」


「う、うむ」


「これは……。世界中から人が集まってきている……! 宗教も種族も、全ての垣根を超えて……!」


 民族衣装の男が、呆然として周囲を見回す。

 サマラと親しかった、エルデニンの部族の戦士、ユースフ。

 彼は俺を見て、苦笑した。


「全部お前がやったのか、ユーマ。……勝てんな、これは」


「うーむ。俺もこんなスケールになるとは思ってなかった」


「そんな無責任な気持ちで、私を日本から連れてきたんですか!? 責任は取ってもらいます! あ、それと家族と連絡する手段が欲しいんですけど」


 掴み掛からんばかりの勢いなのは、日本から連れてきた元自衛官、深山早苗。

 手には、エルド教のレールガンを持っている。

 そうか、射撃となれば彼女も即戦力なのだな。


 やがて、サマラとアンブロシアが遅れて現れた。

 さっそく、アイちゃん、マルマル、ユースフがサマラの元に走り、アンブロシアとデヴォラが口げんかを始める。


 俺たちは、これから大きな戦いに臨もうというのに、妙に和気藹々としていた。

 彼らを見回す。

 一人残らず、全員が、俺がこれまでの旅で出会ってきた連中だ。


 敵だった奴もいれば、俺を陥れようとした奴もいる。

 俺に助けられるだけだった奴も、今は武器を手に立ち上がっている。

 みんな、この星を守るために集まったのだ。


「ヴァレーリア、状況はどう?」


「船のひとつは、極めて大型だ。魔王……ストリボーグの軍勢がなんとか押し留めている。あれからは、氷でできた怪物が次々に放たれている。他は小型だが、鉄の獣を使う」


「その大型が、恐らくは移民船団の親玉だ。こいつを仕留めれば最後だな」


 そこで、俺の横から影が盛り上がった。

 真っ黒なそれは、人の形になる。シャドウジャックだ。


「灰王陛下。来ますぞ」


「よし」


 俺は振り返る。

 視界を埋め尽くすのは、この星の住民の連合軍。


「これより、最後の戦いを始めるぞ!」


 俺の宣言に応じ、誰かがときの声を上げる。

 それは伝播し……やがて、大地を揺るがすような、全員での大音声だいおんじょうとなる。


 地の果てから、複数の青い移民船が姿を表す。

 そして、奴らが従える氷や鉄の獣たち。


 超科学の申し子たち。

 この星を巡る、最大の戦いが今、幕を開けたのだった。




_______________________________

決戦だよ、全員集合!

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