第244話 熟練度カンストの量産者

「うおおおお!?」


 俺はスラッジを抱きとめながら、下降していくゲイルにしがみつく。


「良かった! ユーマが来てくれた! 本当に、これでどうにかなる……!!」


「ちょ、ちょっとあなた! なんでいきなり飛び乗って来たんですの!? あああああ、落ちる、落ちますわぁぁぁぁぁ!?」


 デヴォラまでしがみついてきたので、大変なことに。

 これでは、すぐ横にある金色の塔に飛び移ることもできないではないか。

 ゲイルは一応、必死に羽ばたいて落下速度を落としてはいるのだが……。


「デヴォラ、武器! 武器が重い! スラッジも装飾品を捨てろ!」


「そうですわね!!」


「わかったよ!」


 二人とも俺の指示に従い、装備を外して落とす。

 これで、重さ的には女性と少年。


 ゲイル的にもなんとか飛べる重量に落ち着いたようだ。

 ゆっくりと、俺たちを乗せた飛竜が着陸する。

 すると、俺たち目掛けて、わーっと民衆が駆け寄ってきた。


「神殺し! 神殺し!」

「ユーマ! ユーマ!」

「神殺しの英雄、ユーマ!」

「ユーマが来てくれた!!」


 うわーっと盛り上がる。

 なんだなんだ。


「みんな、安心して欲しい! ユーマが来てくれたからには、私たちの勝利はすでに約束された!」


 おおーっと大歓声が上がる。

 おいおいおい。

 俺が置いてけぼりなんだが。


「すまないユーマ。見ての通り、我が国アウシュニヤは追い詰められているんだ。私の力では、まだまとめきることが出来なくて、僧侶様にご協力してもらって、なんとか治めている有様で」


「スラッジはまだ若いからな。仕方ない事は仕方ない」


「そして、僧侶様が、ユーマがやって来てあれを倒してくれるということを民に確約したんだ。それに、ユーマが私の師でもあると。そこであの神殺しの場面を民衆に見せた」


「あの野郎」


 いい加減なことを言いやがって……と思ったが、よくよく考えてみると、僧侶は一言も嘘を言っていないじゃないか。

 ここは怒るべきは、あいつが無許可で、俺がここに来てあの船と戦い民衆を救うと話をしたこと……と思いもしたのだが。

 さらによくよく考えてみると、俺はどちらにせよアウシュニヤにやって来て、この土地を救うつもりであった。


「うーむ……。俺は怒るべきなのか。それとも当然の帰結なのか……」


「ウーディル教の僧侶という方は、ユーマさんを手玉にとるほどのやり手ですのねえ。マリア様といい勝負ですわ……あら」


 デヴォラが何かに気づいたようだ。

 見てみると、アイちゃん2が立ち上がり、彼女の膝小僧にくっついている。

 アイちゃん2はミニサイズになっている象なので、伸ばされた鼻がデヴォラのスカートの中に入っているのだが。


「小さい生き物ですわねえ。象は確か、もっと大きかったように思いますけれど」


「その子は僧侶が作り出した生き物でな。本気になると丘くらいのでかさになる。アイラーヴァタ、略してアイちゃん2だ」


「2?」


「オリジナルのアイちゃんは別にいるからな」


「まだ他に象さんがいますの……?」


 デヴォラは何か勘違いをしながら、アイちゃん2を抱き上げた。

 アイちゃん2が、デヴォラにぎゅうぎゅうと鼻を押し付けてくる。


 あれは親愛の情なのだ。

 アイちゃん2は美女が好きだな。


「やあやあユーマ殿。わざわざ足を運んでもらってすみませんな」


 そこへ、どかどかと足音を立てて現れる僧侶。

 いつも通りのこいつである。


「私は必ずや、ユーマ殿がやって来てくれると信じておりましたよ。いやあ、ありがたいありがたい。して、どこです? エルド教の武器は」


 キョロキョロし始める僧侶。

 こいつは本当にいい性格をしているな。


「後ろ後ろ。重くてゲイルが落下しちまうから、その辺りにバラ撒いて来た」


「ははあ、なるほど。おいお前たち。このような、金属でできた筒を探して持って来なさい」


 僧侶は引き連れていた、部下らしき僧たちに命令を下した。

 僧たちがわーっと散っていく。


「で、どうなんだ? バリア張ってるみたいだけど、あの船はお前と同じようなの呼んでるじゃないか。あんなのにやられたらひとたまりも無いだろう」


「そこは今のところ、なんとかやり過ごしていますよ。こちらに来たあの船の覚醒者は、恐らく私とは顔見知りの男だ。だから同じ、人造神という形で船の戦力を実体化させることができるのですよ。もし、お互いに人造神を生み出してぶつけ合った場合、敗北した側が完全に無防備になります。彼は万一にも、私が余力を残しており、人造神を繰り出してくることを恐れているのでしょう」


「人造神……。正直、神を人工的に作り出すなんて、冒涜的な話ですわね」


 デヴォラが顔をしかめている。

 そう言えば彼女、ゴージャスな格好をしてはいるが、一応宗教家なのだったな。

 マリアの片腕だから、つまりは実質、エルド教の現場トップだ。


「おやおや、エルド教はまだ、神の実存を信じているのですかな? 少なくとも、この星で神のごとく振る舞う存在は、精霊王という名の超自然存在ですよ。彼等の権能を調べれば、確かに神と呼ばれるに値する力を持ってはいる。ですが、我々来訪者の側もまた、神に等しい力を持っているとも言えるのです」


「わたくし、この星の生まれですから。力を以て神であると断ずることこそ、傲慢ではなくって? 神とはわたくしたちの心の中にあるものですわ。マリア様は、その力を代行しているに過ぎません」


「それはそれは……」


 僧侶は感心したようである。


「あ、あの、ユーマ」


 俺に話しかけてきたのはスラッジだ。


「こちら、もしやユーマの新しい奥さんなのか? その……それほど多くの女性達に好かれるコツというか、付き合っていくやり方というか……」


「奥さんではない……! で、アムリタと何かあったのか?」


「うん。実は、夜の生活について……」


「残念だがその点ではスラッジは俺を超えた。俺が教えることは何もない……」


「えええっ……!?」


 なぜ困惑するのだ。

 俺はやむなき事情があり、嫁たちに手出しできないのだぞ。

 むしろ、俺がきちんと女性陣に責任を取るために、この宇宙からの侵略者を駆逐して回っていると言っても過言ではない。


 ふと思い起こすと、リュカを助けた瞬間から、国を敵に回し、精霊王と戦い、海で海賊の真似事をして、さらには世界を敵に回して戦い……と、段々規模が大きくなってきているではないか。

 かくも、男女の貞操を捧げ合うハードルとは高いものなのだ。


 高い、高すぎる。

 世の男女は、一体どうやって結ばれているというのか……。


「おや、どうやらエルド教の武器が回収されたようですね。ではこれを量産することにしましょう」


 僧侶の何気ない一言で、現実に戻ってきた俺なのであった。


「量産するんですの!? それはマリア様が作った武器で、複製は不可能のはず……」


「ははは。こんなこともあろうかと、第三監察官殿から量産用の技術を提供してもらっているのですよ。無論、枯れた技術なのでしょうが」


 第三監察官とは、エルド教のマリアのことである。

 先日、エルフの森に僧侶を招いた時、彼はマリアとも接触していたようだ。

 やはりこの男はやり手である。


「ハンディレールガン。これがあれば、一般市民であっても移民船の戦力に対抗できる射手となります。これこそが私の切り札なのですよ」


「ははあ」


「後はユーマ殿が、ちょいっと向こうが繰り出す人造神を片付けてくれればいいのです」


「やっぱり、最後はそれか……」


「悲しいことに、当方の人造神はどこかの凄腕の剣士によって倒されていますからね。完全な再生にはあと数十年を要することでしょう」


「分かった分かった。倒したのは俺だからな。その分の仕事はしていくよ」


「是非お願いしますよ! なにせ、あなたが活躍しないと、我々は全滅ですからな! はっはっは!」


 何たる他力本願であろうか。

 僧侶曰く、今日の夜には量産が完了するとのこと。

 つまり、そこからアウシュニヤ王国による怒涛の反撃が始まるのだ。


「じゃあそれまでの間、俺たちは外で敵戦力の撃滅かな」


「あ、いえ、ユーマ、実は……」


 俺は男どもに剣を教える羽目になった。

 隣では、デヴォラが仕上がった銃を持った国民たちに、扱い方を教えている。


「正直、アウシュニヤが強くなってしまうのは困るのですけれど……。今後の交易的にも、戦力の均衡化はネフリティスの商売がですわね……」


「僧侶曰く、教えられた製造過程で、武器に使用期限のタイマーが仕込まれたそうだ。半年で使い物にならなくなるとさ。ほんと、お前のところのマリアはえげつないな」


「流石ですわねえ、マリア様……」


 しみじみ感心しながら、基本的な剣の構えを教えたり。


 日が傾いてきたところで、みんなぞろぞろとキャンプに帰りだした。

 どうやら、これから茶を飲んでだらだら過ごすらしい。

 避難生活とは思えぬ呑気さだ。


「次にユーマ、アムリタが二人と話をしたいとお茶会を……」


「おいおいおい……!」


 どうやら、エルド教の武器の量産が終了する夜中まで、俺たちはこんなどうでも良さげな仕事をせねばならないようだ。

 他の地方が心配なんだがなあ……。

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