第241話 熟練度カンストの突貫者

 ゲイルが、宇宙船に鼻先を向ける。

 急角度で空を旋回し、突き進むのである。


 空飛ぶ亜竜の機動性は、俺が知る戦闘機やヘリの比ではない。

 こいつは恐らく、魔法的な力を使って飛んでいるのだろう。


「おう、やってるやってる!」


 眼前では、サマラに操られた火の精霊王アータルが、そのその腕を長く伸ばして宇宙船を殴っている。

 だが、基本的にこいつは地上戦を主とする精霊王だ。


 力比べでも、リュカが操るゼフィロスには劣る気がする。

 だが、まあ彼女は特別製だからなー。


「ユーマ様、やっぱりちょっときついー! アタシだと決め手が無いの! マグマの弾を飛ばしても避けちゃうんだもん!」


「あいよ、じゃあ俺が足止めする」


 接近すると、相手の大きさが分かる。

 流石は移民船、蓬莱の第一総督が乗ってきた船よりも、一回りは大きい。


 そいつは俺の接近に気づくと、慌てて腹のあたりを展開し、ロボットの頭を突き出してきた。

 地上で暴れている奴らの同種だが、その頭が丸ごと砲台になっているわけだ。

 これを艦載砲として使うわけだな。


 砲口が光り、俺目掛けて太いビームが放たれてくる。

 大気が焼ける臭い。

 だがまあ、大気中だとビームは減衰する。


 俺はこいつを適当に剣で切り裂き、ゲイルに直進を指示。

 切り裂かれたビームが消滅する中、俺がまたがった亜竜は風を切って飛翔した。


「おっ、今頃慌ててやがる」


 目の前が展開し、ロボットたちが顔を出す。

 馬鹿の一つ覚えのように、こちらにビームや、光の弾丸を降らせようというのだ。


 だが、それはゲイルの速度を甘く見ていると言わざるを得ない。

 向こうの射撃の一射目が始まるより早く、ゲイルは宇宙船の懐に入り込んだ。

 俺は向こうに飛び移りながら、剣を担ぐ。


「“アクセル”行くぜ!」


 飛び込みざまに、目の前のロボットを両断する。

 そのまま連中の股間を抜け走り、見える脚部を片っ端から切断。

 走っているここは、ロボットの格納庫だろう。


『侵入者! 侵入者!』


 警報が鳴り、次々に奥から飛び出してくるのは警備用のロボットだろうか。

 人間サイズのそいつらに向かって俺は走る。

 放たれるレーザーを次々に反射しつつ、反射レーザーで倒れなかったロボットを近寄って斬る。


 今回は、俺がこの船を落とすわけではない。

 俺は最短最速で船の動力を破壊し、これをサマラのアータルに攻撃させればいい。

 

「構造はあの船とは違うか。もっと複雑だ。だとすると……まあ適当にぶっ壊して負担を与えるのがいいな」


 俺はアクセルの構えのまま、手近な壁をぶち抜いた。

 その奥に飛び込むと、雑多な機械が見えるので、これを破壊しながら向こう側に抜ける。


 そこは、一見すると周囲一体が青いガラスで出来たような場所である。

 外側の風景を眺めることができる。


「いっけね。これは装甲板の中だ」


 慌てて戻り、俺が開けた穴に駆けつけてきたロボットたちを切り捨てながら走る。

 結構な距離を走るが、俺は随分体力がついている。

 息一つ乱れない。


 目の前の角を曲がったところで、天井から、恐らくは侵入者撃退用のレーザーが放たれてきた。

 当然の如く反射。

 レーザー発射システムを破壊する。


 奥へ奥へ。


『侵入者、止まれ! 止まれ!!』


 船内に、ヒステリックな叫び声が聞こえてくる。

 止まれ止まれと言うことは、この先は突っ込まれては困るものがあるのだろう。

 無視して直進だ。


 俺目掛けて、隔壁扉が降りてくる。

 これを片っ端からくり抜いて、走る。


『止まらない!! どうすればいいんだ! こんな奴、どうやって止めたらいい!!』


 聞こえてくる叫び声が、まるで悲鳴である。

 船内に用意してある戦力が弱すぎるのだ。

 他の人間ならば充分食い止められただろうが、俺相手には力不足過ぎる。


 最後の隔壁をぶち破ると、そこには分厚い円形の蓋がされた一角がある。

 重要な施設のようだ。

 俺は剣を腰に収めると、身構えた。


 ここまで、侵入からおよそ体感時間で三分。

 いい加減切り上げなければならない。


「“ソニック”!」


 俺が持つ剣技の中で、最速の一撃。

 剣のみならず、斬撃の鋭さで対象を切る。


 分厚い蓋は、この一撃で斜め一文字に切断された。

 船内放送が絶叫になる。

 大変うるさいので、斬撃を放って音を放つらしき設備を破壊しておく。


「さて、ということは、この奥が動力室ということだな?」


 俺は破壊した蓋から、奥にある空間へ歩みを進める。

 だが、期待は途中から疑問符へと変わった。

 確かに、何か機械的なものが動き続けている動力音はする。


 うすい輝きがあちこちに灯り、恐らくは船内の大部分を占めるであろう空間を、ぼんやり照らし出している。

 しかし、ここは間違っても動力室ではなかった。


 壁一面に金属細工の細い柱が、複雑に組み合わされながら立ち並び、それらの間に人が一人入ってしまうほどの大きさのシリンダーが差し込まれているのだ。

 いやいや。

 人が入っていた。


「なーるほど、こいつらが移民してきた人間ってわけか。……その割には……」


「カプセルから離れろ、原始人め!!」


 そこで、俺に向けて射撃してくる者がいる。

 おいおい、ここは移民してきた連中が収まったカプセルルームではないのか。

 俺は撃ち込まれた何かを、視認もせずに躱す。

 だが、それは俺の背後にあったカプセルには到達せず、急ターンして俺目掛けて飛びかかってきた。


「弾丸じゃないな。超小型のロボットか!」

 

 紙一重で避けると、肌がビリビリ震えた。

 特殊な音の鎧みたいなものを身に纏っている。

 体当たりでぶつかったものを、超振動で破壊するような……そういう類の兵器だ。

 

「おたく、あれか。船の船長?」


「カプセルから離れろと言っているのだ! それは我らの誇り! 原始人が触れていいものではない!!」


「あのさ、会話する気ある?」


「原始人の言葉など聞く必要は無い!! 行け!!」


 奴の周囲から、何かが湧き上がるのが分かる。

 例の小型ロボットを大量動員である。


 これはこれは。

 全く会話が出来ない相手だということはよく分かった。

 俺はバルゴーンを、双剣に変化させる。


「よーし、そっちがそうなら、こっちも身も蓋もないことするぞ」


 奴に向かって歩きながら、神経を研ぎ澄ませる。

 ロボットが纏っている不可視の鎧は、周囲の空間に振動を起こしていることは把握している。

 俺の皮膚感覚で実感済みだ。


 ということは、察知は容易であるということ。

 接近を察し、俺は左手の剣を振った。


 切っ先に掠った感触。

 それだけで、超小型ロボットは破壊されてしまったようだ。


「ギリギリか。ではこのタイミングだな」


 次は狙って、飛来してくるロボットを切断した。


「な……なにい!? 光学迷彩、電子迷彩を施したバグを、どうして見抜ける!?」


 答える義理は無いので、さっさと突き進んで片っ端から切り落とした。

 途中からロボットの行動パターンが分かったので、一振りでまとめて七体ほど切り捨てる。

 あっという間に作業は終了だ。


「馬鹿な!!」


「ほい、じゃあな」


 俺はその男を真っ向から切り捨てた。

 頭から股間まで、両断だ。

 これで、こいつがサイボーグ化して頭だけでも機能するやつだった場合でも、ひとたまりもあるまい。


 俺の弱点は、剣が鋭すぎてなんでも綺麗に切断するところだな。

 切り口が汚いほうが、相手にはダメージを与えられる場合も多い。


「よし、念のため」


 振り返りながら、倒れていく男の体を何重かに切り飛ばした。


「ぎええ!」


「あ、やっぱり生きてやがった」


 俺の予想だが、この男の本体もまた、こいつが口にしたバグという超小型ロボットであった可能性がある。

 そちらに自分の意識とか、電脳と言った物を移していたのかもしれないな。

 だがバラバラにしたのでもう安心。


 俺は男が来たであろう方向へ向かう。

 そこは納得の中央制御室。


 これをとりあえず、切って壊す。

 壊した後、真正面にひたすら穴を開けて、大雑把に脱出である。


「しかしびっくりしたな。宇宙から来た移民ども、びっくりするような武器ばかり備えてやがる」


 幾つかの廊下を貫き、部屋をぶち抜き、やがて装甲部分にたどり着いたところで、これを丸く切断する。

 切断箇所を蹴り開けたら、俺はそこから声を発した。


「ゲイル!」


 亜竜がぐおーん、と鳴いて応える。

 俺は彼に飛び乗りながら、下方のサマラに呼びかけた。


「サマラ、やっちまえ! もう反撃は来ないぞ!」


「はーい!! アータル、マグマ弾!!」


 火の精霊王が咆哮をあげる。

 その口が大きく開き、赤く熱された半融の岩石弾が放たれた。


 高熱かつ、質量のある攻撃で、制御を失いつつある宇宙船が空で傾ぐ。

 ゆっくりと、船は高度を落としつつあるようだ。

 あとはアータルに任せて問題ないだろう。


「よし、サマラ、後は任せた。みんな、残党の掃討はよろしくな。それから船の中に移民してきた連中がいるので、処理は任せた」


「はい! ユーマ様も頑張ってください!!」


「灰王様、次はどこに行くんだい?」


 ドワーフの族長に聞かれた質問に、俺はノータイムで答える。


「ネフリティス王国だ。ちょっと海戦をやってくるぞ」

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