第240話 熟練度カンストの測定不能者

『あっ……あんたァ! 何よ! 今、あんたうちに何をした!!』


「見ての通りだ。おたくの重心を崩して転ばせた」


『はあ!? うちの青獅子は重力スパイクを装備してんのよ! 物理的に転ばせられるわけが……』


「うむ。それくらいやって来ると思ったので、余裕を持ってその重力スパイク? とか言うのが働かないくらいまでバランスを崩してやった」


 俺はそれだけ説明し、バルゴーンのサイズを小さくした。


「見た所、あんたが移民船団の最大戦力っぽいな? 他の船はまた違うんだろ」


『とぼけた事を言う……!! 行け、捕獲者!』


 青獅子とか名乗った、ライオン型ロボットの命令に従い、周囲にいた金属製の肉食獣が一斉に俺に襲い掛かってくる。


「灰色の剣士」


「おう、気にするな。こいつらは俺の方が相性がいい」


 俺は自ら、獣たちに向かって距離を詰めた。


 疾走、接触と同時に一体を受け流し、そのまま上下に真っ二つ、なで斬りに切り捨てる。

 反転しながらもう一体を切り捨て、頭上から来るものを一歩前に進みつつ、通り過ぎざまに両断する。

 即座に双剣へ変更し、さらに一歩進み出て、左右からの挟撃を目論む獣の前足をまとめて叩き切る。


『うっそ。装甲の隙間狙うとかセオリー無視して、一番分厚いところを真っ二つとかおかしいでしょ……!』


「分子構造の隙間を狙えばどんな分厚い装甲でも豆腐と一緒だぞ。時間がないからさっさと終わらせていく」


 待っていれば向こうから、正確に飛びかかってきてくれる。

 楽なことこの上ない。

 戦場を確保しながら、少しずつ移動して敵を斬ればいい。


 俺は青獅子に向かって歩きながら、飛びかかる鋼の獣をスッパスパとぶった斬る。

 ちょうど奴の目の前に到着した時点で、雑魚であろう鋼の獣たちは全て行動不能になって倒れ伏していた。


「さっすが灰王様だぜ!!」

「人間にしておくの惜しいぜ……!!」


 ゴブリンの族長二人が俺を褒めそやす。

 そんなに褒めても何も出やしないぞ。


「馬鹿どもが……。灰色の剣士のそれは、既に剣という領域ではない。技を極めただけで、テクノロジーさえ一笑に付すか……!」


 フランチェスコの声が聞こえてくるな。

 俺の前では、青獅子が上空にある何かと連絡を取っているようだ。


『風が!? 馬鹿じゃないの!? そんなもので船が揺らぐとかありえないでしょう! はあ? スーパーセル……!?』


「それはうちの嫁の仕業だ」


 上空に浮かぶ青いカプセルのような船を、湧き上がった巨大積乱雲が包み込んでいる。

 宇宙を渡ってきたはずの船が、風に吹かれてぐらぐら揺れているのはなかなか見ものだな。


 リュカは風の巫女で、空気の流れ全般を自在にコントロールできる。

 そのコントロールの精度や威力というものが、ちょっとシャレにならないレベルで、今までは人里に被害が出るために常に手加減されていたのだが……。


『何、あの風……!? この星ではあんな風が吹くって言うの……!?』


「だから、あれはうちの嫁が」


 宇宙船が、メチャクチャな方向に砲撃を始める。

 どうやら、だが、相手は雲で風である。


 そんなものでどうにかなるものではない。

 メキメキと音を立てながら、船はひしゃげていった。


『そんな馬鹿な……!!』


 青獅子が空に向かって跳躍しようとする。

 俺はそのタイミングに割り込み、ちょっと飛び跳ねながら青獅子を叩き落とす。


『あいたぁ!!』


「目の前に俺がいるだろう。助太刀なんかさせないぞ。ほれほれ」


 俺が剣を振り回すと、青獅子は慌ててバリア的なものを張り巡らせた。

 当然、それらをバルゴーンが切断するが、生まれた反発力で相手は俺から距離を取る。

 これは埒が明かんな。


「よし“ディメンジョン”」


 空間を斬った。

 そこに飛び込みながら、奥に広がる異空間を切断して青獅子の目の前に出現。


『瞬間移動……!?』


「ワープに近い……!」


 言いながら、俺は剣を振り切った。

 青獅子の頭部が縦に裂ける。


『そ、そんな馬鹿なっ! あんた、明らかにその剣しか持ってないのに! なんで……なんでそんなこと!!』


「悪いな、説明している暇はない」


 破壊した頭部の下から、何やら可愛らしい顔がこっちを見上げている。

 なんか泣きそうな顔をしている。


「聞いてないわよ! あんたみたいなのが、なんで辺境宇宙の惑星にいるのよ……!」


「俺は異世界から連れてこられたクチでな。まあバグみたいなもんだ」


 一撃で、青獅子の外部装甲を切り飛ばす。

 後には、リュカくらいの背格好をした、青い髪の少女が残るばかりだ。


「サイボーグ?」


「ガイノイド!! 単身で移民船防衛能力を持つはずのうちが、たかが人間一人に簡単に……!」


 わなわなと震える彼女。


「フランチェスコ。こいつは任せた。上の宇宙船もじきに落ちるだろ」


「うむ……」


 ラグナ教団の中枢たる監察官は、顔をしかめた。


「で、どうなんだ? ここに差し向けられた戦力ってのは」


「恐らくは、捕獲者中心だったことを考えると、主戦力ではないだろう。アブラヒムにマリアからの連絡で、それぞれ一隻ずつの船と交戦中だ」


「おうよ。じゃあ行ってくる」


 俺が日本から帰ってきた時点で、女性陣はそれぞれ、自分が所属する国へ向かっている。

 手近な所から片付けていこう。

 次は、アルマース帝国。サマラだな。


「では頼む」


「待て、灰色の剣士、お前は」


 話の途中で、俺は左目の力を使って跳躍。

 一瞬にしてアルマース帝国に到着する。

 ここにはアブラヒムがいるが、奴の持っているUFOは、俺たちが先日破壊したばかりである。


 多少は仕事をせねばなるまい、と頭上を見上げた。

 すると、巨大な青い宇宙船が浮かんでいることは浮かんでる。

 だが、そいつが周囲に向かって、次々と戦闘力を有しているらしい分身を吐き出し、これをペチペチと軽々叩き落としている存在がいるではないか。


『おう、灰王、遅かったな』


「ワイルドファイアか……! そうか、お前、あそこの山にいるんだもんな」


『火の巫女が、我の撃ち漏らした輩を掃除して回っている。ここにお前の出番はなかろう』


「さいですか」


『ここは我と巫女がいる。故に彼奴らの迎撃は容易だ。だが、竜も巫女もおらぬ場所は、さぞや悲惨なことになっておろうよ。この星には、我も多少は愛着がある』


 ワイルドファイアは、突っ込んできた宇宙船を真っ向から受け止め、空中で静止させる。

 ゼロ距離からワイルドファイアに向けて、凄まじい光が叩き込まれているが、この火竜、それらを正面から受けて涼しい顔である。


『蚊トンボどもを潰して来るが良い。お前は強くなっている。なれば、いよいよ我は本気を出せるだろうよ』


「物騒な事を言うやつだな。まあいい。じゃあ任せた」


 俺は奴にそれだけ告げると、再び跳躍する。

 現れた場所は、火竜の山のふもと。

 遊牧民やリザードマン、ドワーフたちの集落である。


「ユーマ様! 来てくださったんですね!」


「灰王さま!」


「灰王さマー」


 サマラに、アイとマルマル、みんな無事だな。

 俺の横で、火の精霊王アータルが宇宙船と殴り合っている。

 地上には、宇宙船が吐き出したであろう、明らかに攻撃用のロボットが蠢いていた。


 二足で歩き回りながら、地上に向けてビームっぽい弾をばらまく連中である。

 高さは、三階から四階建ての建物くらい。

 とんでもなくでかい、首なしダチョウみたいなものだ。


 これの足元に、亜竜とそれにまたがったリザードマンがひしめいている。

 集中されたブレスがロボットの脚部を溶かし、転倒させる。

 その一角では、逆にロボットが、ばらまく光の弾で現地の奴らを蹴散らしているではないか。


「楽勝とはいかんようだな」


「数が多いです! アタシだと、あの空に浮かんだ大きいので手一杯で……! ワイルドファイア様が帝国の方を守ってくれてるんで、どうにかなってるんですけど!」


「こっちには二隻来てるもんなあ」


 俺は、こちらに向かって突き進んできたロボットに剣を構える。

 射出される光の弾を、バルゴーンで反射してやる。

 だが、奴も自分の武装に対する防備は固めてあるようだ。跳ね返した弾が、表面装甲で弾けている。


「お! 灰王様じゃないかい? あたしらも負けちゃいないからね」


 どすの聞いた女の声がして、続いて野太い男どもがウオーイ、と吠えた。

 ドワーフたちの到着である。


 彼等が作り上げたのは、巨大な投石機。

 乗せる弾は、火山から持ってきた岩石の塊である。


「ちょっとこいつをぶっ放すから、灰王様は攻撃を防いでてくれないかい?」


「王様使いの荒い奴らだな」


 俺は言いながらも、ちょっと楽しい。


「灰王さまがんばれー!」


「がんばレー」


 幼女たちの声援を受け、ロボットたちの前に立ちふさがる。

 放たれる弾丸を、片っ端から反射、反射、反射だ。

 背後では、ドワーフたちと遊牧民たちが力を合わせて投石機をセットし、照準を定める。


「発射だよ!」


 ドワーフの女族長が号令を出すと同時、投石機の固定が解除された。

 スプーン状の部位に搭載された、でかい岩石が勢い良く宙を舞う。

 狙い過たず、ロボットに直撃。


 超重量と衝撃で、ロボットは足をへし折られながら粉砕だ。

 歓声があがる。


「おお、みんなやるじゃないか。創意工夫で科学技術の差は補えるな」


「灰王様がやってくれるおかげだよ! さあ、あと何発かぶっ放すから、灰王様は空から撹乱を頼めるかねえ?」


「本当に王様使いが荒いな……。ゲイル!」


 俺が呼ぶと、空飛ぶ亜竜が舞い降りてくる。

 俺に完全に懐いた彼は、俺の跳躍に合わせ、超低空飛行で下に潜り込む。

 これで搭乗完了。


 命令など無くても、ゲイルはロボットたち目掛けて飛翔していく。

 俺は、やや押されている戦場目掛けて一気に跳び、ロボットの上部に着地。

 足場になったそいつの上面装甲を、走りながら斜め一文字に切り裂き、飛び降りてゲイルと合流。


 火花を吹きながら体勢を崩すロボット。

 そこへ、突撃型の亜竜が群がった。

 ロボットは打倒され、頭部にリザードマンたちが炎のブレスを吐きかける。


「そおれ放てー!」


 また号令が響き、今度は複数の岩塊が投石機から放たれる。

 量産化してやがったのか。

 原始的かつ強力な質量弾が、移民船団の戦闘用ロボットを破壊する。


「ユーマ様、こっち手伝って!!」


 サマラの悲鳴が聞こえた。

 どうやらアータル一体では少々つらい状況になったようだ。


 次なる目標は、敵宇宙船。

 俺を乗せ、ゲイルが飛翔する。

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