第201話 熟練度カンストの集結者2

 アブラヒムをふん縛り、連行する俺たちである。

 ここでヨハン及び、リザードマンたちとは別れることになる。


「あれだけ大暴れしたんだ。帝国もしばらくは大人しくなるだろうよ。それじゃあ、また会おうぜ灰王陛下」


「おう、達者でな」


 軽く声を掛け合い、別れた。

 ヨハンの嫁さんを見てなかったな、と気付いたのは、そのまま随分と進んでからである。


 道すがら、魔王とヴァレーリアを、巫女たちと対面させることにした。


「ほう、氷の精霊王様か。噂には聞いたことがあるが、実際にお目にかかれるとは思ってもいなかった」


 敬意を表しているのか、ぞんざいな口調なのかイマイチ分からないローザである。

 この反応は、ストリボーグにとって愉快なものだったらしい。


『うぬは凡庸な才しかない巫女なのだな? だが、余を前に畏まるでも無い態度、実に面白い』


「惜しむような命でもないが、徒に命を捨てさせない男が後ろに控えているのでな」


『ははははは。良いのではないか。あの男が、女の価値を力や見た目に置いていないと言う証左となる』


 難しい単語を使って会話をしているな。

 分からないわけではないが、この二人のやり取りは腹芸のようにも感じる。

 泰然自若としたローザとは違い、竜胆ちゃんは大変緊張していた。


「はっ……! 凄まじい気迫! ゆ、ユーマ! 何故このようなところに、人の姿をした荒御魂がおるのかや!?」


「それは俺が彼を負かして、協力者にしたからです」


「ほえー! こやつをか!? ほえー」


「竜胆ちゃん口をぽかーんと開けて感心すると、おばかに見えるぞ」


 そして、アリエルはと言うと、


「氷の精霊王ストリボーグ様。風の森の子、アリエルと申します」


『うむ。ゼフィロスに仕える氏族の子か。森と太陽の王ビラコチャと会うならば、うぬも同行するが良かろう』


 精霊王に対する、敬意を込めた立ち居振る舞い。

 彼女は出来る子だったのだな。


 ストリボーグも満足げである。

 その後、氷の精霊王に感想を聞いてみた。


『うむ。風、火、水の巫女であれば、精霊王を従えている以上は余と同格である。畏まる必要は無い。だが、土の巫女の胆力は愉快であったな。危機管理を、丸ごとうぬに預けていて、あの尊大な態度! ああいう巫女もいてよいのかもしれぬな。余も巫女を作っても良いと思えてきた』


 アリエルは教科書どおりの対応、竜胆はアホの子、みたいなイメージらしかった。


 さて、俺たちの旅はすぐに終わる。

 というのも、アリエルがアルマース地方に設けていた、森のパスにたどり着いたからである。

 ここから、ひとっ飛びでエルフの森まで帰ることが出来る。


「アブラヒム、フランチェスコとマリアに連絡しておいてもらえる?」


「うぬぬ」


 今はもう、アブラヒムは拘束を解いている。

 旅の途中で、UFO無きアブラヒムは大したことが出来ない事が判明したからだ。


『第二監察官殿。私も第二総督を呼びますから、ここは二千年ぶりに顔合わせと行きませんかな? ああ、第一総督はユーマ殿に斬られて死にましたがな』


 俺の懐の腕輪から、僧侶の愉快そうな声が聞こえてきた。

 アブラヒムはこれを聞いて、また歯噛みをするのである。



 エルフの森へ帰還した。

 

「お館様! それにユーマ殿とリュカ殿も!」


 オーベルトを初めとした、今やローザ専属となった辺境騎士団が出迎える。


「元気だったかユーマ! まあ、お前さんがどこかにぶっ飛ばされたと聞いたときは驚いたが、俺は無事だと信じてたぜ!」


 オーガのギューンと、土の種族たち。

 エルフの長老こと、白竜。彼はちょっとだけ、ストリボーグを見てびっくりしたようだ。


「お主がまさか、人とともにこの地を訪れるとはな」


『余を負かすほどの男が、この世界の危機だと言っているのだ。精霊王であろうと、動かぬような愚か者ではないさ』


 顔見知りっぽい。


「ユーマ、今、ネフリティスのプリムから連絡があったよ!」


 アンブロシアからの報告である。


「プリムと、マーメイドたち。それと、水竜もこっちに来るそうだよ。何故か緑竜も一緒だけど」


「またデートしてやがったな」


 水竜は緑竜に気があるらしく、こうしてしょっちゅうアプローチをかけている。

 一緒にいたなら話は早いだろう。


「あとは、ワイルドファイアが来ればオールスターだな」


 俺がその名を呼ぶと、辺りに緊張が走った。

 いや、突然、周囲を覆いつくすほどの強烈な気配が、この空間を支配したのである。


「あ、いつの間に」


 俺は背後を振り返った。

 そこに、赤毛で長身の男が立っている。


『祭りのようではないか。我も混ぜよ』


「人間モードのワイルドファイア? そう言う事もできるわけ?」


『緑竜、白竜に出来て我に出来ぬことはない。元の姿の我らが降り立てば、森などたちまち踏み潰されようぞ』


 さあ、案内せい、とばかりに、ワイルドファイアはのしのし進んで行ってしまった。

 白竜が凄い溜め息をつき、彼の後ろを追いかける。


 俺の後ろでは、リュカが竜胆とヴァレーリアを引き連れて、これからエルフの森を案内すると息巻いている。

 サマラはチラチラこっちを見ていたが、恐らく火竜のアシストに行こうと言うのだろう。


「行ってくるといい。何かあったら連絡してね」


「はい! アタシ、ちょっと行ってきます!」


「アンブロシアは水竜の出迎え?」


「そうさね。ちょっと行ってくるよ」


「おう、ラグナの兵士に気をつけろよ。その辺りうろついてるかもしれないからな」


「あたしを誰だと思ってるんだい?」


 アンブロシアはわざと鼻を鳴らすと、力こぶを作って見せた。

 みんな忙しく動き回るのである。

 俺もまた動かねばなあ。


「ローザ、アリエル、アブラヒム、集合」


「うむ、予定表だな? 既に記録用紙は持ってこさせているぞ」


「私が書記を担当しますね」


「なんで私まで……ブツブツ」


 大変不満げな顔をしながら、用意された席につくアブラヒム。

 俺たちは互いに向かい合う円卓に座し、卓の中央にはこの世界の地図が載せられていた。


「そりゃあお前、管理官側の代表をしてもらうためだろう。アブラヒムを中継して、フランチェスコとマリアにこちらの計画を伝えるんだ。それとも、管理官たちは別宇宙の移民船団に、星が占領されるのに賛成なのか?」


「それは困る。彼らがやって来てしまえば、私たちは殺されるだろうからな。だが……」


『諦めたまえ、管理官殿! ああ、ユーマ殿。もうじき私もそこに到着する。稲妻が落ちたら、迎えに来てくれませんか』


「えっ、僧侶、お前稲妻に乗ってやってくるの? 派手だなあ」


『これが一番早いんですよ。いやいや、アウシュニヤから外に出るのも何百年ぶりか。皇帝殿……第二総督はもう少しかかるようですよ』


 俺と僧侶の会話を聞き、アブラヒムは表情を引きつらせながら、妙な汗をかいている。


「あなたは……何をやっているのだ? 宇宙から来る彼らと戦おうと言うのは分かる。だが、西方だけは私たち三人で守ることができるはずだった。まさか、世界そのものを守るとでも言うのか?」


「そういう事だ」


「あなたは、もっと世界に興味が無い種類の人間だと思っていたが」


「世界そのものに価値はないだろ。価値があるのは俺にとっては人間だ。リュカとか、サマラとかアンブロシアとか」


 ローザが手を伸ばして、俺のお尻をぺちぺち叩いてきた。

 アリエルもどこからか取り出した棒で突いてくる。


「ローザとアリエル」


 二人は満足げに頷く。


「竜胆ちゃんもそうだしな。で、みんなそれぞれに世界とつながっている。あと、アウシュニヤには弟子が王位についていてな。蓬莱にも縁があった連中がいる。そういう訳でだな、どうせなら世界そのものを守ってしまえばいいと俺は思いついたのだ」


「無茶苦茶だ。英雄にでもなるつもりか、あなたは」


「結果的にそうなるだろうが、俺はその称号に興味はない。さあ、さっさと計画を立てちまおう」


『うむ』


「あっ、ストリボーグ、お前いたのか!」


『氷の精霊王を忘れて会話に夢中とは大した度胸だ。まあいい。まずは何処に行くかであろう。精霊王たちには、余が口を効いてやろう。まずは海を渡らねばなるまい?』


「うむ、氷の精霊王よ。それについては、クラーケンを動力とする機動船が用意してある。今から、プリム……マーメイドの長が持ってくるはずだ」


 ローザが返答すると、ストリボーグは満足げに頷いた。


『良かろう。人数は少人数が望ましい。小回りを考えるとな。火竜めがこの地におろう。火の巫女は残すべきだ。あやつを多少なりと制することが出来るであろうからな』


「なるほど、サマラさんは残留、と」


 アリエルがメモを取る。


「アンブロシアは連れてくだろ? 海を渡るしな。リュカは必要だろ。一応船には帆があるもんな」


「サマラさんだけ残していったらへそを曲げそうですねえ」


『元より、うぬは土の巫女を連れて行くつもりだったか? それには及ぶまい。精霊王たちには、うぬの言葉で伝えればよい。それより、土の巫女には超越者オーバーロードどもの管理をさせよ』


 超越者オーバーロードと言われて、俺は首を傾げる。

 そしてすぐに、その呼称が管理官や総督たちを表すことに気づいた。

 そうか、人でありながら、人を超越した力を持つ連中だ。


 正しくオーバーロードであろう。

 僧侶の他に、やってくる皇帝はこちらの味方だ。

 これだけ頭数がいれば、管理官と拮抗出来ることだろう。


「ローザ、残ってもらってもいいか?」


「構わんよ。私は元より、そういった厄介な人間関係の調整も仕事としている。力は無いが、知恵はあるものでな」


 頼れる女だ。

 よし、一応護衛として竜胆ちゃんを置いておこう。

 ということは、次なる目的地……新大陸への同行者は、リュカとアンブロシア、アリエル、そしてストリボーグ。あ、ヴァレーリアも行くのか。


 俺を含めて六人か。

 こんなものであろう。


「喜びたまえ!」


 アブラヒムが憎々しげに呟いた。


「フランチェスコ、マリア両管理官は、灰王ユーマ、あなたの意思に賛同を示した。ここで、我ら人とあなたが率いる魔は、協力関係を結ぶことになる」


「サンキュー。後で、フランチェスコとマリアにも会いに行くと伝えてくれ」


「私は通信係ではないぞ……! ぶつぶつぶつ」


 アブラヒムが大変なストレスを抱えている様子である。

 今まで散々、状況のイニシアティブを握ってきたのだ。ここでしっぺ返しを食らうくらいいいではないか。

 だが、エルフの森の美味い茶くらいは、こいつに淹れてやってもいいとは思えるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る