第188話 熟練度カンストの宇宙人2

 船の中を駆け巡るのである。

 船内は広大だ。

 恐らく、広さだけで言えば、リュカが住んでいた村くらいはある。


 通路と壁であちこち仕切られているが、虱潰しに探していくのはいささか骨が折れる。

 ということで。


「ここからは、壁を片っ端から切り落としていく。で、確認したら次の部屋。よろしい?」


「心得たぞ! 敵の守衛は、妾に任せよ!」


 竜胆が力強い返事を返してくる。

 緑竜もニコニコしながら頷く。


 彼女は一見すると、緑色のドレスを纏ったきれいな女性の姿なのだが、近寄ってくる防御機構を拳で殴り倒し、掴んでは引きちぎり、口から吐く酸のブレスで腐食させて、まさに無双の活躍をしている。

 いや、美女の外見で酸のブレスはやめて欲しいなあ。


 俺はそんなよそ見をしながらも、次々と壁面を切り裂いては、船内の区画を確認していく。

 ここは居住区。


 ベッドやテーブル、キッチンみたいなものもあるな。

 複数の人間が生活できていたらしい形跡がある。

 だが地上にいるのは第一総督一人だったと。ふむふむ。


 次は倉庫。

 武器などの類と、薬品などらしきものが保存されている。

 そして、レクリエーションルームに、訓練室、防御機構の保管庫……。と、防御機構が襲ってきやがった。


「竜胆ちゃん、緑竜、ちょっと外は任せた。中の防御機構が一斉に動き出したから、潰してくる」


「うむ、ユーマ、気をつけてな!」


「任せろ」


 俺は屋内に飛び込む。

 背後の扉は、バルゴーンで切り捨てているから既にオープンだ。

 防御機構はそれぞれ、円筒形の胴体の上部に光が灯る。あれがカメラアイなんだろう。


 奴らがまず構えたのは、隠し腕のビームガンだ。

 ここから撃たれたら、俺の背後にいる竜胆たちに当たってしまうかもしれない。


「まあ、抜かせないがな。俺相手にビームを撃とうなど、学習が足りん奴らだ」


 虹色の軌跡が、保管庫の中で閃く。

 同時に、無数の銃口が俺に向けてビームを放った。


 俺はこれを、踏み込みながら初弾、次弾、三弾目と打ち返していく。

 この動きは、映画で見て真似をしたことがあるのだ。

 次々にビームを反射され、防御機構たちは己のボディをビームで焼かれて倒れていく。


 降り注ぐビームの数が減れば、奴らの懐に入ることも容易になる。

 俺は一発のビームも背後に逃さぬまま、奴らを壁際へと追い詰めていく。

 その間にも、防御機構は数を減じていき……。


「これで終わりだ」


 俺がまとめて三体ばかり切り倒すと、動くものはいなくなっていた。

 まったくもって、ワンパターンな戦い方だった。

 もっと頭を使えばいいものを。


 新しく出て来るこいつらも、徐々に竜胆の戦い方に対応してきていたから、通信やら何やらで学習結果をやり取りしているのだとは思うのだ。

 だが、それが俺を前にすると、この有様だ。

 壊れたオモチャのように、同じ攻撃を繰り返すしかなくなる。


「俺の仲間に、こういうロボット系に詳しいやつがいればなあ……。まあ無理か。ファンタジー世界だしな……」


 無駄に防御機構を全滅させた俺である。

 ぶらぶらと通路に戻ってくると、今まさに、竜胆が最後の一体を倒すところだった。

 彼女の場合、動きを読まれてはいるのだが、読んだって回避や対抗が出来なければどうしようもないよね、という真っ向勝負な戦い方をする。


 強引に正面から相手の胴体のど真ん中に、ツインビームサーベルを回転させながら叩き込むのだ。

 相手のビームサーベルは無理やり弾く。


「とりゃああああーっ!!」


 ピガガーッ! とか音を立てて、防御機構が停止した。

 彼女の後ろでは、攻め寄せてきた防御機構を鉄くずの山に変えた緑竜がまったりしている。


『外は鉄壁の守りと見えましたが、内に入ってしまえば、こうも脆いものなのですね』


「人間サイズで通路が作られてるからな。防御するシステムだって、それに合わせなきゃいけない。そうなると、組み込める仕掛けもたかが知れるだろ? おっ、竜胆ちゃんお疲れ。じゃあ行こうか」


「うむっ! 妾、随分強くなったような気がするぞ!」


「気がするというか、かなりインスタントに実戦経験積みまくったから、相当腕が上がってると思うよ」


 実戦で大事なのは、知識や実力もだが、何よりも慣れだ。

 戦って、勝つという成功体験を積み重ね、そこに強い得物とそれなりの腕前があれば、この通り。


「さあ、まだいるなら出て来るが良いぞ! 妾は逃げも隠れもせぬからな!」


 竜胆が調子に乗っている。

 というか、かなりテンションが高まっているようだ。

 ビームサーベルは引っ込めているものの、得物を振りかざしながら先陣を切って通路を行く。


「だが竜胆ちゃん。俺が見る所、さっきの奴で最後なのだ」


 俺の言葉に、竜胆は目を見開いた。


「な、なにっ!? そうじゃったのか……。調子に乗って狩り尽くしてしまった。もっと、大切に狩っていくべきだったのだな……」


「まるで動物を狩りすぎて減らしてしまった時のような発言が。だが、やってしまったものは仕方ない。それに、これで邪魔者が無くなったと考えるほうがいいんじゃないか? ほら、サクサク行くぞ」


 俺は二人を率いて先に進み始めた。

 地下格納庫のような場所にも到達する。

 ここには、船に搭載されている戦闘機みたいなものがあった。


 数は三機。

 おかしなことに、どれも有人式の操縦方法だ。

 間違いなく、この船には第一総督以外の人間がいたのだろう、かつては。


 その辺りにドラマがありそうだが、別に興味が無いのでスルーする。

 それよりも、格納庫の奥深く、何やら指令を出すっぽいガラス張りの一角があり、その中に大きなディスプレイがついたなんとも物々しい場所がある。


「これはコントロールパネルかな?」


「なんじゃ、こんとろーるぱねるって?」


「うむ、何というかな……。船の説明書みたいな。説明書って分かる?」


 竜胆が困った顔をして首を傾げた。うむ、その仕草可愛いね。


「まあ、もしかして船の地図を呼び出せるかもってことだ。おい、僧侶、僧侶ー」


『やあ、快進撃を続けているようですな。君たちが船の外壁を砕いてくれたおかげで、通信ができるようになりましたよ。それと、朗報です。船は今、身中に入り込んだ虫……つまり君たちに注意を払っており、地上への攻撃が止んでいる。……もっとも、すぐに再開されるかもしれませんが』


「じゃあさっさと攻略しないとな。僧侶、コントロールパネルみたいなものを見つけたんだが」


『素晴らしい! では早速ハックしましょう。腕輪を載せてください』


「ほい」


 俺が腕輪を取り出して、パネルの上に載せると、腕輪がキラキラと光りだした。

 同時に、ディスプレイが点灯し、瞬き始める。

 無数の数字が画面を流れる。


 よし、ここはこいつらに任せて、俺たちは一休みするとしよう。

 あっ、コーヒーメーカーがある!



『ふむ、かなり強烈な抵抗があったが、船内図は手に入れましたよ。ご存知とは思いますが、メインコンピューターは動いています。だが……ここから先はユーマ殿にお任せしましょうか……。何飲んでるんです?』


「コーヒー……? なんか妙に甘いんだが」


『ああ……第一総督の故郷には黒豆煎茶というものがありましてね。いわゆるコーヒーに近いのですが、苦味の代わりに甘みが』


「うむうむ、これは美味いのう! 種があるのかや? では戻ったら育てて増やそうぞ!」


『いいですねえ。私もこれは好きな味です。そうだ、私の眷属からも何人か出しましょうか? それで農園を作りましょう』


「良いのう! ぜひやろう! そうなったら、生き残った妾の国の民も呼び寄せて……」


「おっ、それなら俺の国も広げていかんとな」


 未来の計画で盛り上がる俺たちである。

 そんなわけで、黒豆煎茶の種を回収していく。

 お茶用のものだけでなく、煎じる前の生豆もあった。


 宇宙服のポケットに次々放り込んでいく。

 気がつくと、俺も竜胆も、ポケットをパンパンにした状態になった。


『うーむ……それは君たちの自由だと思うのですが、その状態で戦えますか?』


「ハンデがある状態で戦うことにかけては、俺はベテランぞ」


「ああ……。ユーマは確かに万全ではない状況で戦うことが多かった気がするの」


 ということで、船内図を手に入れた俺達は一路、船の制御室へ向かうのであった。

 途中、据え置き型の防衛システムが発動したのだが、


「レーザーは反射するぞ」


『ピーガガー!!』


「障壁は切り裂くぞ」


『グゴゴォオン!!』


「ブロックごと切り離す前に切り離す装置を破壊するぞ」


『ピギギギギガガ!!』


「おっ、もう俺たちを邪魔するものは無いな」


「……何というかのう。ユーマに今更こう言うのもなんじゃが……。身も蓋もない戦い方をするのう、お主。先が見えているのかや? 向こうが何かしようとしたり、した瞬間にもう勝負を決めておる」


「伊達にニート時代に知識を蓄えてはいなかったからな。いやあ……熟練度上げの単調作業の間、横の画面に動画やら電子書籍やらを流しておくんだが、これが捗ってな……」


「何を言っているのかさっぱり分からん……。じゃが、敵がかわいそうに思う瞬間が時々あるのう」


「そういう話は事を終えてからにしようじゃないか」


 俺は目の前にある扉に向けて、剣を振るう。

 特殊な材質で出来たらしい扉は、いつも通り豆腐のように刃に切り裂かれ、崩れ落ちる。


 踏み込んだ先は、暗い空間だった。

 あちこちの壁面で光が点滅しているが、それらはこの部屋の中央部に鎮座する主が、船の隅々に命令を出している証左だろう。


「よう、やって来たぜ。お前がこの船を制御する装置か」


 俺が声を掛けると、そいつはゆっくりと目を開いた。

 そう。

 そいつには開く目が存在していた。


 第一総督の脳を収めていた、地上の試験管のような、もっと大きなガラスっぽいケースに収まって、そいつは浮かんでいたのだ。

 それは、全身の大半を機械化された人間だった。


「お前、第一総督の肉体ってわけだな?」


『侵入者……。よもや、この中央制御室まで侵入を許してしまうとは……!』


「一つだけ聞きたい。あとから来る移民船団って、みんなこんななの? このサイズは少々面倒くさいんだが」


『おのれ……おのれおのれ……。私は最後に命令すら完遂できなかったのか……! ならば貴様ら侵入者を道連れに自爆……』


「ていっ」


 物騒な言葉が聞こえたので、俺はサックリと制御室の中心にいる男を斬り倒した。

 具体的には、横から十二分割して縦に真っ二つ、さらに周囲につながってるコード全部を一気に切断した。

 そういう訳で、この男は最後の高笑いとか、何か俺たちに残す言葉とか一切無く死んだ。


『あー、正しく彼が第一総督の分身だったようですねえ。ハッキングがスムーズになりましたよ。あ、いけない、ユーマ殿。この船爆発しますよ』


「なんだって」


『恐らく皆さんが入ってきた時には、彼はヤケクソになっていたようですね。データは抜き出しましたので安心してください。君たちは何とか自力で生還を。またお会いしましょう!』


 ふはははは、みたいな笑い声と共に通信を切る僧侶。

 あのやろう、次に会ったらぶっ飛ばしてやる。

 ……というわけで、慌ただしくも脱出なのである。

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