第181話 熟練度カンストの対面者

 白い甲冑連中は、さほど時間をかけずに片付ける事ができた。


「えいっ!」


 と竜胆が甲冑の膝あたりを横から叩いてたわませると、


「今だ野郎ども!」

「ハイホー!!」


 動きを止めた甲冑に、異人たちが弾丸を叩き込む。

 レールガン方式で射出されているから、小型に見える銃でもなかなかの貫通力があるようだ。


 穴だらけになった甲冑が、ところどころから火花を散らし、ぶっ倒れる。

 で、他の甲冑はガトリングガンみたいなのを持った異人が牽制し、近づかせない。

 こうしてちょっとずつ敵を減らしていたというわけだ。


 ちなみに亜由美は大雑把で、敵のど真ん中に空から飛び込んで、微塵がくれの術とか言う物騒な技で自分もろとも吹き飛ばしていたようである。


「見事にロボットだった」


 白い甲冑どもの残骸をチェックして、俺は頷く。


「ろぼっと、とはなんじゃ? ユーマは時折、妾には分からぬことを言うが……どうも亜由美とは分かり合っておるような。お主たちの故郷では、このようなものが歩き回っておるのか?」


「そうと言えばそうっすねえ。違うっちゃー違うっすねえ」


「俺たちの世界でも、こういうのはあまり大手を振って歩いてはいないが、存在はするな。だから、こいつらロボットを扱う蓬莱帝ってのは、俺と亜由美ちゃんの世界よりももっと進んだ技術のあるところから来たんだと思うぜ。ほら、船長たちが持ってる武器も、蓬莱帝と同じような世界の奴が作ったもんだ」


「ああ、このとんでもねえ威力の銃だな」


 船長が、一見してこの世界風の、それなりに優美な感じで作られた長銃を掲げる。


「そうだ。でな、そういうのを作ったご本人とこれから面会なわけだ。行くぞ」


 俺は言うなり立ち上がった。

 通りをまっすぐ行けば、紫階殿。

 どうも、天に繋がる階段を意味しているらしい。


 門は閉ざされていたが、いつも通り切断だ。

 この中には、防備は施されていないようだ。


「刃穿とその部下たちが、都の守りを担当していたのやもしれんな」


「なるほど。普通、まっとうな手段じゃあのチタンの門を破って入ってこれないしな。少数の賊を狩るなら、あの人数で十分だ」


 竜胆の言葉に、俺は納得。

 刃穿から回収した、紫色の筒を弄びながら門をくぐって進んでいくのである。


「おや? ユーマ、それを拾ったのかや?」


「うむ。使い方を調べてみようと思ったんだがな。見てろ」


 俺は、筒の底についたスイッチを押す。

 すると、先端からピンク色のビームが飛び出して、刺突剣の形を作った。


 当然ながら、刃ができても筒の重さしか無い。

 竜胆も異人たちも、びっくりして俺から距離を取る。


「こいつをだな、こうすると」


 ブンッと振って、周囲の木を切りつけてみる。

 すると、一瞬で幹が焼け焦げ、燃え上がりながら真っ二つになってしまった。

 なかなかの威力。


 だが、一抱えもある大木相手なら、切り倒すのは難しかろう、という程度の火力だ。

 そして、


「確かに攻撃している感覚はあるんだが、軽い筒だけを振っているような頼りなさだ。これは、多少なりとも武術を噛んだやつには扱えんな」


「どーれどれ、あっしに貸してみるっす」


「亜由美ちゃんに貸したら絶対大惨事になるからダメだ。これはそうだな……ローザくらい戦えない人が使えばちょうどいいだろう。そうだ、ローザ専用の武器として保管しておこう」


 俺はそう決めて、袖口に入れておいた。

 ちなみに今の俺の服装は和装なので、収納場所は袖のだらんと垂れた所である。


 このビームサーベル、柄を握りながら下のボタンを同時に押す必要があって、どうやら人間が握っていることを認識してから発動するっぽい。

 そのため、仕舞っていたら誤発動、なんてことはない。


「ちぇー。けちー」


 亜由美がむくれた。

 そして勝手に先に行ってしまう。

 ありがたい。彼女は優秀な罠感知器だ。勝手に引っかかって、それでも罠では死なないから、こちらも安心して先に行かせられるのだ。


「ギェーッ」


 ほら。

 先に行った亜由美の凄い悲鳴が聞こえてきた。


 もう聞き慣れてきたな。

 みんなでわいわいと駆けつけてみると、ほほう……赤く塗られた、木製っぽい巨人が二体、手にした棍棒で亜由美をぺちぺち叩いている。


「金剛力士じゃ! あれも、ユーマの言うろぼっととやらになっておるのじゃな!」


「うむ。通路の両脇に立って、通りかかった不埒者をああやって撲殺するのだろう。通ったのが亜由美ちゃんで良かったな」


「おう……あの女、なんであんなに殴られてるのにケロッとして悲鳴をあげてられるんだ」


「上に金色の布を纏ってるだろ。あれが衝撃を大半殺してる。まあ、あれが無くても亜由美ちゃんなら大丈夫だな」


 俺たちが話していると、亜由美がこめかみに青筋を立てて怒った。


「こらあああああ!! あっしが大ピンチだってのに、何をくっちゃべってるっすかあ!? はやく、はやく助けるっすー!!」


「仕方ないなあ」


 俺はバルゴーンを抜いて、金剛力士たちまで詰め寄った。

 ここは通路とは言え、それなりの広さだ。

 金剛力士の大きさは俺の倍近くもあるし、それが棍棒を振り上げたり振り回したりしても、通路の柱にぶつからない程度には広い。


「亜由美ちゃん、ちょっと頭下げて」


「? なんすか……って、むぎゃあああああ」


 俺は大剣に変えたバルゴーンを、回転しながら投げつける。

 剣は弧を描きながら、亜由美の引っ込めた頭の上を通過し、振り下ろされた棍棒をまとめて切り飛ばしながら通り抜けていった。


「来い、バルゴーン!」


 俺の手に、剣の感触が戻ってくる。


「きちゃまー!? 一瞬あっしが首を引っ込めるの遅かったら、頭と胴が泣き別れっすぞー!!」


「亜由美ちゃんならできると信じていたぞ」


「心にも無いことを言うなー!! あっ、攻撃が止んだ! 今のうちっす!!」


 亜由美がカサカサと地面を貼って俺の後ろにやってくる。


「おいユーマの旦那! 俺たちも攻撃するか?」


「よろしく」


「よっしゃ! 野郎ども、一斉射撃だ! ぶっ放せ! 柱や天井がどうなろうが知ったこっちゃねえ!」

「うおー!!」

「喰らえーっ!!」


 船長と異人たちが咆哮を上げながら、弾丸の雨を降らせ始める。

 俺は亜由美を拾い上げると、後方に撤収だ。


「……妾も前に出ていたら、その、そういう風に抱き上げてもらえたのかの?」


「? 竜胆ちゃんは前に出たら危ないだろう。亜由美ちゃんはゴキブリを凌ぐほどの生存能力があるから前に出しているのだ」


「そ、そういうことではなく!」


「はあーっ。乙女心が分からん男っすなあ。ちなみにあっしも、よく分からんっす」


「よし、では今同じように抱え上げよう。来るのだ竜胆ちゃん」


 俺は亜由美をぽいっとその辺に捨てて、手を広げて竜胆を待ち受ける。

 竜胆はきょろきょろすると、赤くなった後、おずおずとこっちにやって来て俺にしがみついた。


 むむう、いい匂いがする。

 そして柔らかい。亜由美とはまた、感触が違うんだよな。彼女の方が、バランス良く鍛えられている。


「よし、旦那、片付いたぜ……って、なんで抱えてる女が竜胆に入れ替わってるんだ!? そっちのニンジャガールは大の字になってぶっ倒れてるし……」


「お、お、乙女を投げ捨てるとは、なんたる非道を働く男っすかー!!」


「こ、こりゃ亜由美! お主は色々と、ユーマに目をかけられている事を自覚せよ! たまには妾も良いじゃろうが!」


「それは別に構わないっすが、さっきのぽいっと捨てられるのはなかなか堪える……!!」


「むむむ……!」


「おっ、二人共話は終わったようだな。では行くとしよう。今は蓬莱帝が優先だからな」


 俺は竜胆を抱き上げたまま、のしのしと廊下を行く。

 金剛力士は弾丸によって完全に破壊されて、内部の機械構造を剥き出しにしながら倒れている。

 そして、行く先では、数カ所に同じような仕掛けがあるようだ。


「これは、あと何度か同じのを倒す必要があるな。まあ、楽勝だろう」


「ユーマ! もう、もう下ろしてくれていいから……! 妾を抱いたまま戦うなど、出来ぬであろ!?」


「えっ、いや、いけるぞ。ちょっと見ててくれ」


「えぇっ!? ひゃ、ひゃあああああ」


 かくして、俺は竜胆を小脇に抱えたまま、襲いかかる金剛力士の攻撃を真っ向から切り飛ばし、接近するなり奴の足を太ももから切断すると、崩れ落ちる力士の腹を、下から上に向けて切り上げる。


 切り上げながら力士の体を駆け上がり、今度の相手は対面の金剛力士。

 これを、跳躍からの真っ向唐竹割りで切り倒す。

 着地すると、竜胆が「ひゃあーっ」とまた悲鳴をあげた。


「な?」


「ななななな、なじゃ、なーい!! やれるとしても、やる奴があるかーっ! もう、もう! 妾は降りる!」


「そうかあ……」


 ちょっと憤慨して、竜胆が離れていってしまった。

 大変良い匂いだったので、ちょっと残念。


 何やら、ドヤ顔で亜由美が順番待ちをしている。

 よしよし、望みに応じてやろう。


「亜由美ちゃん、飛ぶのだ!」


 俺は彼女を抱きかかえると、次々に現れる金剛力士目掛けて突っ走りながら指示を下した。


「ば、ばかなーっ!? 甘酸っぱいハグからの協力バトルじゃなかったっすかー!? ええい、こうなればヤケクソっすぞ!!」


 亜由美が金色の巻物を取り出す。

 それはあっという間に、彼女の背中に張り付き、巨大な折り紙の飛行機に変身する。


 すると、ふんわりと俺たちの体が浮き上がった。

 これはいい。


「よし、俺は両手をフリーにするので、後ろから俺を支えているのです」


「乙女の細腕にそんな負荷をかけようと!? あんた鬼っすか!?」


 文句は言いながらも、しっかりやるところが亜由美である。

 ぷにぷにしたものが俺をホールドしたので、これで安心して空中戦と洒落込める。


 俺はバルゴーンを大剣に変えながら、金剛力士の頭に叩き付けていく。

 そして、切った相手を蹴り飛ばしながら、次の金剛力士へ。


 戦闘状況のイメージとしては、自分が鳥になり、一撃離脱が可能になったようなイメージだ。

 俺の跳躍に合わせて、紙飛行機は高らかに飛ぶ。


 天井にぶつかる辺りが亜由美ちゃんらしいが、衝撃は亜由美が「ぐへえ」吸収するから大丈夫。

 すごい声を出したな。


 俺は今度は天井を蹴り、眼下の金剛力士たちに突撃する。

 振り回される棍棒を切り払い、手近な一体を袈裟懸けに切ると、着地からの跳躍、飛翔。


 飛びながら、もう一体を切り払う。

 敵が俺たちにかまけていると、下の方を異人たちによる一斉掃射が薙ぎ払うと。


 なかなかのコンビネーションである。

 あっという間に、金剛力士たちは片付いてしまった。

 俺は手を伸ばして、亜由美を後ろ手にぺちぺち叩きつつ、


「よし、降りよう」


「おのれ、乙女のお尻をぺちぺち叩きおって!」


「あっ、尻だったのか。す、すまん」


 流石に俺も女性の尻をぺちるのは気が引ける。

 それを見ていたのか、竜胆が何やらむくれながらこっちに走ってくるではないか。

 うぬ、女は難しい……!


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