第180話 熟練度カンストの開門者2

 対面した破穿は、ビームサーベルの刃部分を収納すると、再び俺を見据えた。

 奴の攻撃を一度受けたときに、幾つか仮説が思いついた。

 検証するとしよう。


 俺は体勢を立て直す。

 破穿は時間を止められる能力があるようだというのに、俺のこの、体勢を立て直す動作を見過ごしている。

 これは……ふむふむ。


「来い。お前の能力は見切った」


 俺は奴に向かって言葉を投げた。

 いわゆる、煽りというやつである。こいつで敵の反応を見る。

 すると、破穿は一瞬息を止めて、それから笑った。


「愚かな。帝より賜ったこの追儺の力、例え荒御魂であったとしても、破れるものではな……」


「いや、俺が思うにその力は複雑すぎる。戦場じゃ使い物にならんだろう」


 俺はあえて、被せて発言してやった。

 破穿が、凄い目をして俺を睨みつけてくる。おうおう、怒ってやがる。


 そして、奴は身構えた。

 俺も、バルゴーンを持ち上げる。


「ならば、その身で追儺の力を味わうがいい! 冥府に落ちよ不敬者が!!」


 奴の言葉が響くと同時に、俺は後方へジャンプをした。

 そして前方に、バルゴーンを構える。

 次の瞬間だ。


 突き出していたバルゴーンと、ビームサーベルが激突している。

 そこは、ちょっと前まで俺の体があった場所だ。

 出現した破穿は、何故か凄まじい量の汗をかいていた。


 顔色は青い。

 どうやら、俺が奴の能力の仕掛けを見抜いたことに気付いたか。


「き、貴様……っ!!」


「引っ掛からなかったか。思ったよりも慎重だ……なっと」


 俺は着地し、すぐさま破穿に向かって間合いを詰める。

 俺は喋りながら、自然に間合いを詰めたので、僅かでも俺の言葉に反応していると対応が間に合わない動きだ。

 するりとバルゴーンを伸ばすと、破穿の首がすぐそこに。


 だが、斬り飛ばすかと思われた寸前、破穿の姿が消えた。

 次に現われたのは、左手側。俺から随分離れた場所だ。

 尻餅をつくようにして、こちらを睨んでいる。


「なるほど……。これで確証が持てた。時間を止める前に移動先の座標を設定しないと、目的地にたどり着けないな?」


「ぬうっ……!!」


 破穿の表情が、驚き、焦り、そして怒りへと変わる。

 そして、背後で待機していた部下に向かって声を張り上げた。


「ええい、お前たち! この男は私が相手をする! その間に、他の者たちをやってしまえ!」


 彼の命令に応えて、白い甲冑軍団が動き出す。

 今まで微動だにしていなかったのだ。


 破穿と俺のやり取りをみても、一切反応が無かったことを思うと、こいつらは本当にロボットか何かだろう。

 俺も、後ろで待機していた……というか、目を白黒させて戦いを見守っていた仲間たちに発破をかける。


「船長、お前ら、遠慮はいらん。銃をぶっ放せ。竜胆ちゃんはこいつらの関節を狙って殴れ。亜由美ちゃんはひたすら金色の手裏剣投げたりして、仲間を巻き込まないようにしながら慎重に大暴れするんだ。巻き込んだら大変な事をするぞ」


「ひいーっ!? あっしに対する指示だけが曖昧かつ具体的っす!?」


「ちょっと羨ましいのじゃ。だが、分かったぞ! よし、者ども、妾に続けえ!」


 ここに来るまで、竜胆は異人たちと片言ながら意思疎通ができるようになっている。

 後半の言葉は、たどたどしいながらも、意味が伝わるネフリティス語である。

 彼女があげた鬨の声に、異人たちはうおーっと盛り上がった。


「可愛い女の子が号令をかけてくれるとテンションが上がるな!」

「竜胆はユーマの旦那の女でさえなければ俺が口説いてたぜ」

「ばっか俺が口説くんだよ、引っ込んでろ」

「おめえら!! 馬鹿な話をしてるんじゃねえ! 嬢ちゃんが先に突っ込んで行くぞ!」


 こいつら仲がいいなあ。船長が、馬鹿話をする異人のケツを蹴っている。

 かくして、ロボットvs竜胆・亜由美・異人たちの戦いも勃発だ。


 ロボットの武器は実体のある槍。

 ビームスピアとかじゃないのな。いや、その必要が無いのだろう。

 つまり、破穿がビームサーベルを使うのには、理由がある。


「さて、俺たちも決着と行こう。また俺の座標は定めたんだろう? いや、さっきの動きを警戒して、俺の背後に座標を定めてるかな」


「貴様……どこまでも私を、この力を賜られた帝を愚弄するのか!! 貴様に何が分かるというのか!」


「少なくとも、あんたが時間を止めて移動中、目も見えなきゃ音も聞こえないことは分かる」


「なにっ!? ば、馬鹿なことを!!」


 吐き捨てるように言うなり、破穿の姿が消えた。

 俺は奴の消滅と同時に、バルゴーンを大剣に変えて跳躍している。大剣を支えにしながらの高飛びの要領。


 跳躍が頂点になるところで、バルゴーンを引き上げる。

 勢いよく、虹色の切っ先が跳ね上がった。


「ぐうおっ!!」


 現われた破穿は、想定どおり俺の後ろにいる。

 跳ね上がった大剣に頬を掠められ、呻いたところだ。


「お前の能力は、時間を止めてるっていうか、時間干渉を受けないバリアみたいなもので体を包んで行動するものみたいだな。で、光も音も止まるから、辺りは真っ暗闇だし無音。そりゃあ行く先の座標を定めなきゃ行動できないだろう」


 着地しながら、俺は剣を振りかぶる。

 だが、俺が注目しているのは、破穿の目線。


 ……左。

 俺は剣を振り下ろすと見せかけて、左側に向かって投げた。


「ぐうっ!?」


 直後に、左手側から呻き声が聞こえる。

 剣を投げた先に出現した破穿のものだ。

 バルゴーンに腹を貫かれている。


「これが魔法的な時間停止だったら仕組みやら何やらは分からなかったが、蓬莱帝からもらった時間停止だろ? そんなもん、SFに決まってるんだよな。いくらでも前例があるぜ」


 俺は、うずくまった破穿に向かって歩いていく。

 奴の腹に刺さった剣だが、スッと薄くなって消える。


 なるほど、バルゴーンの機能を新発見だ。

 俺が自在に呼び出せるこの剣、投げても俺の意思で、手元に呼び出すことができる。

 すぐさま、俺の右手に虹色の刃が蘇った。


「そして、本来は内側からも外側からも干渉が不可能なバリアだろう。だからこそのビームサーベル。そいつじゃなきゃ、バリアを抜けて攻撃できない」


「き……貴様の剣は、一体、何なのだ……! 何故、追儺の纏いを斬ることができる……!!」


「ああ、こいつは何でも斬れる。で、俺も大体のモノの斬りかたを知ってる。でな、俺が竜胆ちゃんを突き飛ばしたとき、刃先に何かを斬った手応えがあったんだよな」


 俺は体を沈めて構えた。

 破穿を迎え撃つのだ。


「そこで、お前は何か斬ることが出来るもの・・・・・・・・・・を纏って移動していると察した。後は……うむ、SF知識だな。俺じゃなかったら死んでた」


 時間停止……いや、時間跳躍行動とでも言うべき、この能力は凶悪無比だ。破穿が姿を消した瞬間には、既に必殺の一撃が放たれる用意は完了していると見るべきだろう。


 つまり、破穿の消滅に合わせて座標をずらせない奴は死ぬ。

 次に、追儺の纏いと言う時間遮断バリアを破れない奴は死ぬ。


 ちなみに俺は、破穿の動き始めに合わせる事ができる。

 追儺の纏いも破ることができる。

 と言うわけで、だ。


「言わせておけば、訳の分からぬことをつらつらと……!! 貴様がこの技を破ったというのなら、見せてみよ!!」


 破穿の姿が消えた。

 こちらに攻撃座標を決定したのだろうが、その時間がいつもよりも短い。

 しかも腹に重傷を抱えたまま、うずくまった姿勢からの攻撃だ。


 奴の心中に、もはや一切の遊びはあるまい。捨て身で決めに来る。

 俺は既にバルゴーンを構えている。


 斜め前方。

 広く刃を使えるように。

 そこに、破穿が出現した。


 バルゴーンが、バリアを裂く感触。それと同時に、何も無いところから破穿が現われるように見える。

 奴がまるで、不可視の卵の殻をまとっていて、それが剥けていくようである。

 ビームサーベルは振り切られることなく、俺が突き出したバルゴーンとぶつかり、火花を散らしていた。


「お前の攻撃の癖だ。打ち込む高さは変えたほうが良かったな。さもなければ、このように簡単に受け止められる」


 破穿の剣の振りは、もう覚えていた。

 俺はビームサーベルを押し戻すと、その動きに任せて剣を回転させ、武器を握った破穿の手首を切り飛ばした。


 破穿の目が泳ぐ。逃げるつもりだ。

 座標を定めない、でたらめな移動。それがあの脱出の真相だろう。

 だが、目玉が動くよりも速く斬ってしまえばいい。


 手首を返して振るったバルゴーンが、破穿の胴体を真っ二つにした。


「……!!」


 奴の断末魔は聞こえなかった。

 その代わり、一瞬、破穿の上半身が消えた。


 そして、次の瞬間には、かなり離れた道の真ん中で、大量の血を撒き散らしながら破穿が死んでいた。

 時間を止めて、蓬莱帝の下へ向かおうとしたのだ。で、力尽きた。


「ギヒェー!」


 あっ、目の前を亜由美がぶっ飛ばされていく。いきなりシリアスな空気をぶっ壊しに来たな。

 また何が凄い攻撃を食らったのだろう。


「どうしたどうした」


 俺が駆け寄ると、亜由美はヒョイッと起き上がった。


「うむ……、微塵がくれの術で奴らを撃破したっすが、火薬が多すぎたっす。あっしも吹き飛ばされるとは……!」


「自爆だったのか……。よし、そろそろ俺も参戦しよう」


「えっ!? もう勝ったっすか!? 時間を止める能力とか、超ラスボスっぽいじゃないっすか!」


「からくりが分かれば案外イケるぞ。剣の熟練度上げの最中、ながらでアニメとか映画とかサイドビューで見てた俺に死角は無い。似たような能力なら幾らでも推測できるからな」


「なんたるオタク知識……!! あー、そんなのにやられるとは、あの時間止める奴も浮かばれないっすねえ……」


 俺は手近な白い甲冑に接近すると、突き出してきた槍ごと真っ二つに叩き切った。


「いや、それでもあの能力じゃ、乱戦は無理だったぞ。移動先の座標を設定できない状況じゃ、無力だ。時間停止なんて現実ではそこまで便利じゃないかもな」


「ほう、では弱かったっすか。ちょえーっ!」


 亜由美が奇声をあげながら、三節棍型にした金の巻物でロボットを叩き伏せる。


「いやあ、タイマンなら無敵だろ、あれ。初見殺しもいいところだ。流石の俺も、初見殺し殺しができなかった」


 そこは反省である。

 俺もまだまだ修行が足りない。

 初手で相手を倒さねば、どんな面倒な被害が出るとも分からない。


「戻ってきたのかユーマ!! よし、者ども! 一気に押し切るぞーっ!!」


 竜胆はパッと表情を輝かせると、異人たちに号令をかけた。

 異人たちのノリのいいこと。

「うおおおおっ!!」とか叫びながら、銃をぶっ放しつつ猛然と走り出した。


 勢いに押されたか、白い甲冑どもの動きが止まる。

 そこへ、みんなで襲い掛かった。


 指令を与える事ができる破穿がいなければ、所詮はただのロボットである。

 数分ほどで、連中は全て、地面に散らばる残骸と化した。


「よし、蓬莱京は制圧だ。次は紫階殿だな。いよいよ蓬莱帝と対面だぞ」


「うええ、大仰なことになってきやがったなあ……。分かっちゃいたけどよお」


 船長が青い顔をして眉を寄せた。

 弱気である。


「妾も、こう、お腹が痛くなってきた……。だが、ユーマがいてくれるなら、頑張るぞ」


「うむ、俺はいるぞ」


「ふふ、頼りにしておるぞ!」


 俺と竜胆は、目と目で通じ合う感じで見つめあう。

 すぐに、竜胆は頬を赤くして顔を逸らした。


 あれか、戦前の高揚ってやつだな。

 俺も気合を入れていかねばな。

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