第14話 いざ魔道具工場へ


 窓を開けると、早朝の澄んだ空気が気持ち良い。

 シェフのチャーリー特製の具沢山サンドイッチを頬張り、急いで身支度して、アパートメントを出る。


 ふと宮廷制服がすっかり馴染んできたなぁと思いながら、王城への階段を登っていった。


 政務塔へ到着して、法務部の自席に座る。朝の鐘が鳴ると業務開始だ。

 今日の立ち入り調査に参加する法務部の文官と第二騎士団の騎士、商業ギルド員は、リュカ法務副大臣の執務室へと集められた。


 執務室には、数十人ほど控えていた。その中には、ケネス、副ギルド長のブルーノさん、同僚で先輩のフェリックス様の姿見えた。

 皆が揃った所で、リュカ法務副大臣が口を開いた。


「皆さんよく集まってくださいました。今回立ち入り調査する魔道具工場は、売上や生産数の過少申告の可能性と、北のブカネーヴェ皇国から奴隷を不当に購入して働かせている疑惑があります。外交問題になる可能性も否めませんので、慎重に、そして丁寧に調査しましょう」


 挨拶が終わると、仕事の割り振りや、騎士とのペア組を発表された。

 立ち入り調査は、魔道具工場の従業員の名簿、一人一人の労働時間、帳簿の開示要求、隠している書類がないか捜索等を行う。


 私は、奴隷の捜索がメイン。また捜索する際に、工場内の設備に、違法と思われるものがないかについても、注視するよう指示された。


 そして私のペアの騎士は……


「まさかアクアと仕事するなんて思わなかったな」

「そうね。よろしく、ケネス」


 どういう訳か、ケネスと組むことになった。縁が強くて、びっくりする。

 私は新人だから、副団長をつけてくれたのかしら。でも普通副団長って、指揮をとったりするんじゃないのかな。


「ケネスは副団長なのに、捜索に加わるの?」

「ああ。今日は団長も来てるからな。ほら、あそこの黒髪の男が、アラスター・マーティン団長だ」

「あの三つ編みの……?」

「そうだ。団長が騎士達の指揮をとるんだ」

「なるほど」


 出発の時間になり、三つの馬車に分かれて乗り込み、目的地の魔道具工場まで向かった。


 何だか鼓動が早くなっている。落ち着かずにソワソワして、窓の外を眺めた。

 すると横に座っているケネスが私の顔を覗き込んでくる。


「緊張してるのか?」

「……ええ。初めての立ち入り調査だもの」

「ははっ、似合わねぇな」

「もう、失礼ね」


 揶揄うように笑うケネスにムスッとしていると、肩に手を置かれて、他の人に聞こえぬよう耳元で声を絞って告げられた。


「お前の事は、俺がきちんと守る。だから安心して任務を遂行しろ」


 余りにも優しい声、そしてあまりに近い距離で、思わず恥ずかしくなってしまう。

 間近でみたケネスは、男らしく整った顔で、そういえばイケメンだったのだと、思い出す。


 こういう所が、年上なのだと、途端に意識してしまって、耳が熱くなるのが分かった。

 私はこのムズッとした感情を隠すように、言葉を放(はな)った。


「ふふっ。ありがとう。頼りにしているわ、ケネス副団長殿」

「おまっ、副団長は付けるな。身震いしてくるんだよ」


 うげーっと腕をさするケネスを見ていると、何だか緊張が解けてきて、いつも通りに笑えた。



 ◇◆◇



 魔道具工場につくと、リュカ法務副大臣と、アラスター第二騎士団長が、先陣を切って工場内に入り、声高らかに宣言をする。


「商業ギルドへの通報を受けて参った! これより法務副大臣リュカ・ルノワの命により立ち入り調査を行う! 工場の関係者は指示があれば、我々に従うように」


 その言葉を持って、私たちは、あらかじめ決められていた各自の仕事をするために、足音をたてて、続々と中に入ってゆく。宮廷制服と、騎士服、ギルド員の制服をきた集団が一同に工場内に進んでいく様子は圧巻だ。


 工場で勤務されている人々は戸惑う様子でざわめきが広がる。緊迫とした空気の中、奴隷として買われた人がいないか、探すのであった。



 ◇◆◇



 見回りを進めるも、不気味なほど、何処にでもありそうな普通の工場だ。

 商業ギルドの通報ポストは、悪意を持った人の投函は跳ね返される魔法がかけられているので、いたずらはあり得ないのだが……。


 人工魔法石の製造レーンをじっくりと見る。この魔道具工場で一番の生産数を誇っているのが、人工魔法石。結晶化させた綺麗な石が、次々と機械から出てきて、それに魔導士が魔力を練り込んでいるようだ。とても神秘的な光景で目を奪われる。


 一昔前までは、魔力を吸い込む天然の魔法石を、魔道具に組み込んで、利用時に魔力を注いで動かすのが主流だった。うちのアパートメントにある魔道エレベーターもその仕組みで、半永久的に稼働する。だけど天然の魔法石は、採掘されすぎて高価で希少なものになってしまった。


 そこで、この魔道具工場では、人工的に作る魔法石が開発されたそうだ。

 人工魔法石は、あらかじめ魔力が付与されているので、魔道具などにセットして、魔力を使い切ったら、新しい魔法石に交換する方法となる。大量生産しているので安価で手軽。まさに前世の日本でいう電池のような使われ方だ。魔力が少ない人でも魔道具が使いやすくなり、人工魔法石は、一般的になった。


 我がグリーンネス王国では、今この時代も、人工魔法石を使った外交を行われているほど、生活を支えるだけでなく、政治の場でも重宝されている。


「そんなに人工魔法石を見て、……何か気づいたことがあったか?」

「いいえ。不審点がなくて、困っているところよ」


 ケネスに声をかけられてハッとする。そして、他の魔道具の製造レーンを次々と視察した。コンロや、冷蔵庫、オーブンなど日本の家電のようなラインナップから、一回だけ魔法が発動できるスクロールや、大容量すぎる魔法袋などファンタジーな魔道具も生産されていた。


 特に異常はなく、不正が行われている気配もない。私たちは、休憩室や、執務室、事務室など、魔道具が製造されている所とは別の場所へ向かうことにした。

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