第74話 事件の後始末

「将軍!!

 やめてください!!」


部下たちが将軍を止めようとする。


軍のトップである将軍がただの冒険者に頭を下げることなどありえないこと。


だが、将軍は逆に部下たちを怒鳴り散らす。


「過ちを謝罪することに立場など関係ない!

 その奢りがこのような事件を生んだと、なぜわからん!


 …今後は同じようなことが起きないよう、最善を尽くす。

 どうか、軍や帝国全部がこいつらと同じ考えではないということはわかってくれ。」


ロックとティナは顔を見合わせ、頷き合った。


そして、ロックが将軍に対して口を開いた。


「頭をあげてください。

 正直なところ、帝国に対して不信感を抱いていました。

 でも、あなたのような方が最高責任者でよかった。

 もう2度と僕たちのような犠牲者が出ないようにお願いします。」


世界最大の国における軍の将軍の立場は、とてつもなく強い。


意見できる人間は数人しかいない。


そんな人物が頭を下げ、真摯に謝罪をしてくれている。


その様子に安堵するロックとティナだった。



「もちろんだ。

 そして、今回の件の落とし前もしっかりつける。」


そういうと、言葉を発する間もないほどの速さで、将軍の剣が何かを切り裂いた。



「え?」



その1秒後、スレッグ大佐とマルコフの頭部が、ゴトリと地面に落ちた。



「キャア!」


「しょ、将軍!?」


突然の事態に驚きを隠せないロックとティナ。


レイカは目を背けている。



部下たちは当たり前のように首のなくなった死体を処理しはじめた。



「こいつらは国民を守るという軍の役目に大きく反した。

 今後同じようなことを繰り返させないためにも、生かしておくことはできない。

 後で処罰する、では犠牲者にとって結果が見えんしな。


 ただ、そこの2人は軍の一員ではない。

 君が望むなら私の権限で、同じようにここで処罰しよう。

 どうするかね?」


目の前で突然2人も首をはねられて動揺するロック。


しばらく深呼吸して、落ち着いてから話し始めた。


「父さん、母さん。

 僕を育ててくれたのは、スキルが目当てだったの?」


「ち、ちが…。」


嘘をつかないよう、将軍が睨みを効かす。


「う…。

 そ、そうだ…。


 スキル5つ持ちは世界でもほとんどいない。

 立派に育てることができれば、貴族としての立場を強くすることができる。

 お前が保護されてきたときに、どの貴族が育てるか、争いがあったほどだ。

 結局、多額のお金を国に払って、私たちはお前を引き取った。


 …だが、使い物にならないスキルで結果的に大損をしてしまった。

 その腹いせに、あんなことを…、してしまったんだ…。」


「そう…、だったんですね…。」


「だが!

 今は反省してる!

 あのあともずっと悔やんでたんだ!!

 生きていてくれてよかった…!」


「ロック!

 母さんもあなたのことずっと心配してたの!

 また一緒に暮らしましょう!

 スキルなんて関係ないわ!」


返事をせず、沈黙するロック。


育ての親は目の前で2人が斬首されているのを目の当たりにして気が気ではない。


「将軍。

 



 2人を…、





 殺さないでもらえますか。」



「「ロック!!

 ありがとう!!」」


許してもらえたと、ロックに縋る2人。


だが、ロックはその手を振り払う。


「ただ、人を殺そうとした罪は償ってもらいたいです。

 帝国の法で、2人を罰してください。

 どんな理由でも育ててくれた恩がありますので、死刑以外でお願いします。」


将軍はロックをまっすぐ見て、頷いた。


「立派に育ったな。

 本来国にとってとても大事な存在である君を殺そうとしたとなれば、間違いなく死刑だ。

 しかし、そうならないように対処しよう。」


「ロック!?

 育ててやったのに、恩を仇で返す気か!?」


助かると思った2人がわめき散らす。


「黙れ!

 死なないだけありがいと思え!!

 

 おい、連れていけ!」


将軍が部下に指示すると、叫び続ける2人を数人がかりで連れて行った。



「2人とも大変な人生を歩ませてしまったな。

 これから何かあったらいつでも私を頼ってきなさい。

 

 そして、お願いがある。

 強くなって、この世の理不尽から人々を守ることに協力をして欲しい。」


「それは、魔族と戦う、ということですか?」


「そうだ。

 魔族との戦いは劣勢だ。

 2人が人々を守る戦力となることを期待している。」


「…がんばります。」


「皇帝も、君には期待していた。

 生きていたことを知ったら喜ぶだろう。」


「帝国の皇帝が僕を!?」


「ああ。

 スキルがどうなっているかは聞かないが、ここにC級冒険者としているということは、困難を乗り越えたんだろう?

 いい仲間もいるようだ。

 帝国だけでなく、世界の人々のために強くなってくれ。」


「…わかりました。

 ありがとう…、ございました。」



こうして、ロックやティナ、ミラに起こったような悲劇の終わりに光が見えた。

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