第73話 将軍の器量
「僕をご存知で?」
「もちろんだ。
スキル5つ持ちは世界でも稀な存在だ。
当然知ってるさ。
…だが君は訓練中に死亡したと聞いていた。
一体どういうことか、よかったら聞かせてくれるかね?」
「…はい。」
ロックは自分のスキルが不遇なスキルばかりで両親に殺されかけたことを話した。
「…報告では確かに3つ目まで★1で思わしくない成長だとは聞いていた。
しかし、4つ目のスキルがそれ以上にひどいスキルで、その影響で命を落とした、と…。
両親は泣いて悲しんでいたと聞いていたのだが…。」
「…いえ。
僕が命を落とした直接の原因はスキルではありません。
育ててくれた両親です。」
「…。」
沈黙する一同。
「それに、ここにいるティナも同じような目に遭っています。
彼女は担当する教官によって、エシアドの崖奥地に取り残されました。
…今回のミラの件もそうです。
帝国はなぜこのようなことをするのでしょうか?」
今まで大きな疑問だったことを、帝国軍最高責任者へぶつけるロック。
ティナもじっと将軍を見つめ、答えを待つ。
「…場所を移そう。
ギルドの訓練場を借りてもいいかな?」
「あ、は、はい!
どうぞ。」
急に話を振られたレイカさんが慌てながら対応する。
将軍は部下に何かを指示し、スレッグ大佐を連れて歩き出した。
その後に付いてロック・ティナ・レイカも訓練場へ向かった。
訓練場についてしばらくした後。
「ちょっと待っててくれ。」
将軍はそう言ってから、一言も発さない。
重い空気に、その場にいる他の誰も話そうとはしなかった。
「来たか。」
将軍の部下が3人の人間を連れて帰ってきた。
そのうち2人は…、
ロックの育ての…、
親だ。
「…マルコフ教官…。」
もう1人はティナの教官だった人らしい。
ティナを、置き去りにした張本人。
「マルコフ。」
将軍が威圧感のある低い声で教官の名を呼ぶ。
「…はい。」
「ここにいるティナはお前の担当の子だな?」
「はい…。
そうです。」
「訓練中にモンスターのエリア内で置き去りにしたと聞いたが、本当か?」
「い、いや、そうなんですが、彼女の覚醒したスキルが私たちの命を脅かすものだったので、やむをえず…。」
「やむをえず…か。
彼女は気がついたら気を失って1人になっていた、と言っていたが、それも間違いないか?」
「い、いえ!
スキルの影響がないように距離をとって移動はしましたが、気を失わせるようなことはしておりません!
距離はとっていましたが、彼女に何かあれば助ける準備はしていました!
ただ、彼女がはぐれてしまったようで…、その途中で何かの拍子に気を失ったのでしょう。」
「よくもそんな嘘を…!」
ティナが反論しようとするのを、将軍が制す。
「マルコフ、お前が故意に置き去りにしたのであれば、それは殺人と同じだ。
しかし、仕方なく距離をとった結果、たまたまはぐれてしまったのであればお前に非はない。
気は進まないが、どちらが本当のことを言ってるのか、大臣にみてもらうしかないな。」
「え!?
いや、それは…、その…。」
「なんだ?
都合の悪いことでもあるのか?」
「いや…。
そ、そんなことは…。」
「私に隠し事ができると思うなよ!!
今のお前の態度が嘘をついていることを証明している!」
「す、すみませんでした!!」
マルコフは頭を地面に擦り付けて謝りだした。
「あまりにひどいスキルだったので、もう存在する価値はないと…、そう判断して置き去りにしてしまいました…。」
「今までも同じようなことをしたことがあるのか?」
「いや…!
ありま…」
「嘘はバレるぞ。」
「…あ、あり…ます。」
「…そんな非道を行う軍に、人が集まると思うか!
信頼されると思うか!?
お前のやっていることはこの国を衰退させる行動だ!
1人1人を大事にしない国に未来はない!!」
将軍はそういうと、ロックの育ての親の方を向いた。
「聞いていたと思うが、嘘を言ってるかどうかを確かめる術がこちらにはある。
…あまり頼りたくはないんだがな。
隠しても無駄だから正直に話せ。」
そう促された2人は、観念したように正直にロックを殺そうとしたことを話した。
「実の子ではないとはいえ、赤ん坊から育てたんだ。
愛情が湧くのが当たり前だろう。
不遇なスキルで1番落ち込むのは本人。
それを支えるのがお前らの役目だろうが!!」
檄を飛ばす将軍。
ロックの育ての親は何も言えず俯いている。
「ロックにティナ。
帝国で冒険者を育てるのは軍の役目。
今まで起こったことは将軍である私の責任でもある。
…本当にすまない。」
将軍は2人に向かって頭を深々と下げた。
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