第12話 ロックと5つのプルプル

「カイルさん、一度村に戻った方がいいんじゃないですか?」


凶暴なワニのモンスター、ワニダイルに噛まれてしまったカイルを心配するロックとティナ。


「ん?

 魔法で回復したから大丈夫だぞ。

 俺も何回も連れて来れるわけじゃないから、先に進むぞ。」


ティナと顔を見合わせるロック。


「もし痛むようでしたら、教えてくださいね。」


「わーったよ!

 俺の回復魔法は強力だから大丈夫だって!

 ガハハハ!」


腕をパンっと叩いて、笑顔で笑い飛ばすカイル。



(あの村の人は、本当にみんな優しいな。)


カイルに感謝しつつ、先に進むことにした。






その後はモンスターに遭遇することなく、目的地に到着した。



「この辺りはスライムとか弱っちいトカゲなんかしかいないから、2人でがんばれ!

 ケガしたらすぐに言うんだぞ!」


「は、はい!

 がんばります!」



ロックにとって引率者なしで初めての戦闘。


ティナにとっても同じだった。



「が、がんばろう、ティナ。

 無理はしないでね。」


「あなたもね。

 戦ってる最中に、よそ見なんかしちゃだめよ。」


「…え?え?

 そ、そんなことしない、よ?」


「そう?

 ならいいけど?」


意地悪な笑いを浮かべるティナ。



(もしかして、バレてる…!?)


胸元に目線がいくと、女性はわかるらしいよ、ロック!


(いやー、ちょっとしか見てないし、たまたまだよ…ね?)



「よ、よーし!

 がんばるぞー。」


「ふふ。」



気を取り直して、2人はモンスターを探し始めた。


カイルは村の食料調達のため、一時的に別行動となった。



「まずはティナのレベルに追いつきたいな〜。」


今の2人のステータスはこうなっている。




************


名前:ロック

パーティ:ラフリンクス

Lv:4

HP:501

MP:50

体力:45

力:43

素早さ:49

器用さ:42

魔力:48

スキル:

【力30%UP ★★】

【成長促進(パッシブ) ★★★★★】

【隠密 ★★★】

【誘惑 ★★】

【スキルスナッチ ★★★★★】


************


************


名前:ティナ

パーティ:ラフリンクス

Lv:7

HP:593

MP:86

体力:61

力:51

素早さ:53

器用さ:60

魔力:84

スキル:

【   】

【慈愛の祈り ★★★】

【全能力50%UP ★★★★】


************




ワニダイルとの戦闘でティナが1歩先を行っている状況だ。




-----------------------



経験値には法則がある。


同レベルのモンスターを1人で倒した場合を100とした時、レベルアップに必要な経験値が


Lv1 → Lv2:1200

Lv2 → Lv3:1300

Lv3 → Lv4:1400


と、100ずつ増えていく。


同レベルモンスターなので倒す大変さは変わらないが、倒す数はどんどん増えていくと言うことだ。


また、違うレベルのモンスターを倒した場合、経験値が変化する。



▼自分よりレベルの低いモンスター

 レベル差:獲得経験値

    -1:80

    -2:60

    -3:40

    -4:20

    -5:0


▼自分よりレベルの高いモンスター

 レベル差:獲得経験値

    +1:150

    +2:300

    +3:550

    +4:900

    +5:1350



自分よりレベルが5低いモンスターは、倒しても経験値が入らない。


自分よりレベルが高いモンスターは、レベル差があればあるほど経験値ざっくざく!


…ではあるが、現実は厳しい。



人間と違って、モンスターは種族ごとにスキルが決まっていることが多い。


高レベルになれば、レア度の高いスキルをほぼみんなが持っているのだ。



人間は完全にランダムでスキルを覚醒する。


高レベルになっても、変わらず同レベル帯のモンスターを倒せる冒険者は少ない。



ちなみに、同じレベルでもモンスターの強さはバラバラ。


でも、経験値は同じだ。


つまり、”弱くて高レベル” のモンスターがおいしい、ということ。


なかなかいないですが…。



-----------------------






2人が草むらを歩いていくと、プルプルのあいつがいた。


それも、1…、2…、3匹!



スライムのレベルは3前後。


モンスターも、敵を倒すと経験値が入るらしい。


モンスター同士でも。



なので、同じモンスターでもレベル差がある。




「3匹か…。どうする?ロック。」


(あのプルプルの動きが…。

 さっきの記憶を呼び戻しちゃう…。)


「ロック?」


「な、なに?

 プ…、ティナ?」


「ぷ?」


「あ、スライムだよね!!スライム!

 3匹はちょっと危険かな…。」


むっつりしてたら本気で死ぬので、ロックはなんとか気持ちを切り替えた。



「うーん。

 今の僕たちじゃ、レベル3のスライムだとしても1撃では倒せない。


 僕がスキルを使えば2撃でいけるか…?」


「ロ、ロック?

 そんなのわかるの?」


「レベルとステータス、ダメージの関係は大体頭に入ってるからね。

 もちろん個体差や種別ごとの違いがあるし、そこまではわからないから参考程度だけど。

 スライムならわかるよ!」



もちろんティナもスライムとはたくさん戦った。


だが、今のレベルになってから戦うのは初めて。


ティナにはできない領域だ。



「僕の力30%UPのスキルは、消費MPが最大値の6分の1。

 6回は使えるから、やってみようか?

 多少ダメージを負っても、身を潜めとけばティナの【慈愛の祈り】で回復できるし。」


「わかったわ。

 やってみましょう!」


「じゃあ作戦は…」






作戦を決めて、2人だけの初めての共同戦線。



「行くよ?


 <力30%UP>

 <隠密>。」



力を強化し、隠密で気配を消したロック。



ティナは弓での攻撃をギリギリ当てられる距離へ移動する。



(…3、…4、…5!)



シュッ…、…ドシュっ!



1本目の矢がスライムにヒット!


こちらに気づいたスライムはプルプル、ポヨンポヨンしながら近づいてくる。



(もう1本っ…!)


…ドシュッ!



別のスライムにも的確に刺さった!



(もう1本いけるかしら…!?)



一瞬迷ったが、ティナは矢を構えた。


しかし、思ったよりスライムのスピードが早かった。



(ちょっと無理だったわね…。)



スライムが飛びかかろうとした、その瞬間。



ザシュッ!!



突然背後から切られたスライム。


矢のダメージもあり、絶命。



残りは2匹。



距離の近いロックに飛びかかろうとするが、ロックは横に飛びのいた。



そして、誤射する心配のなくなったティナが3本目の矢を射る。


2本の矢が刺さったスライムは溶けて動かなくなった。



どうしようか迷ってる様子の3匹目。



ティナが矢を構える。



スライムの意識がティナに向かった時、ロックがスライムに切りかかった。



だが、スライムもただのゼリーではない。


ロックがくることも予想していたのか、同じタイミングで体当たりしてきた。



相打ち。


どちらもダメージを負った。



両者の距離が空いたのを見て、ティナが4本目の矢を放った。


見事命中。



ティナはロックに駆け寄った。


「ロック!

 大丈夫!?」



それはうかつな行動だった。



ポヨンッ!



3匹目のスライムはまだ生きていて、ティナに向かって体当たりをしかけてきた。



「危ないっ!」



3匹目が死んでいないことも想定していたロックがティナを押し倒す形でかばう。


体当たりは躱せたはずだが、スライムはティナの上に。


「え!?

 躱したはずなのに、なぜここに!?」


プルンプルンの感触がロックの手にある…、と思ったら…。



「ん…。ロック…。」



…ティナの大きなプルプルとプルプルだった。



「うわー!ごめん!!

 ごめんなさい!!!」



混乱と魅了の状態異常にかかったロックへ、スライムの攻撃。


パニック状態のロックは倒れ込む。



ティナは起き上がったが、この状況、この距離では弓で攻撃できない。


スライムがティナに飛びかかろうとした時、ロックがスライムに飛びかかった。



「やめろ!

 このプルプル野郎!

 この!この!」



プルプル大好きむっつりとプルプルスライムの肉弾戦。


HPが底をつきかけていたスライムは、抵抗虚しく動かなくなった。



「はぁ…。はぁ…。」


「ロック、大丈夫??」


「なんとか…。HPが半分くらい減っちゃったかも…。」


「鼻から血が出てるわ。」


ティナはそう言って持っていた布で血を拭ってくれた。



(それはティナのせいで出ちゃった血なんだけど…。)



「ロック?」


「はい!?

 そ、その、ごめんなさい!」


「なんのこと?

 さっきは助けてくれて…、ありがとね。」


「あ、あ〜、そ、そんなの当たり前だよ!

 怪我はない??」


「おかげさまで。

 私のスキルでロックが回復するまでどれくらいかしら?」


「えっと…、たぶん1時間くらい。」


「じゃあ、ちょっと休憩しましょ。」


「うん…。」



ティナのプルプルを思い出したことにより、例の諸事情で立ち上がれなくなったロックは、モンスターがこないことを強く、強く願った。

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