第7話 美少女から奪う

「ユニークスキル!?

 すごいじゃないですか!」


自分と同じ★1のマイナス効果スキルを覚醒していると思っていたロックは、思わず大きな声を出してしまった。


その驚きはすぐに疑問に変わった。


(ユニークスキル保持者を、なぜ森に置いて行くんだ…?)


その様子を見ていたティナは、ため息を一つついて、続きを話し始めた。


「2つ目のスキルは★3の【慈愛の祈り】、

 そして3つ目は★4の【全能力50%UP】だったわ。


 【慈愛の祈り】は、仲間と認識した対象を自動で回復してくれるの。」


ロックは驚きのあまり固まってしまった。


最高ランクであるSランク冒険者の星の総数の目安は10以上だとされている。


まず、スキルが覚醒するのは1000人に1人と言われている。


さらに、スキルが覚醒した人のうち、スキルの数ごとの割合は、


 1つ:2人に1人

 2つ:2.5人に1人

 3つ:10人に1人

 4つ:1000人に1人

 5つ:世界中で数人


とロックは習った。


スキルを1つや2つしか持たない人は、S級に到達するのはほぼ不可能。


3つだとしても、★5のユニークスキルや★4のとてもレアなスキルがないと10には届かない。


5つのスキルを持つロックへの期待は計り知れなかっただろう。


そして、その反動も大きかったと言える。


もちろん、それで殺そうとする理由にはならないが。


星の数が11もある冒険者は世界中でもトップクラスの人たちだけだろう。


「S級冒険者にだってなれるすごいスキルじゃないですか!」


ところが、ティナは表情ひとつ変えず、ロックをじっと見つめている。


(そうだ。

 ティナさんはそのスキルがあったのに僕と同じような目に遭ったんだ。

 なぜ…。)


ティナはそれ以上語ろうとしない。


あとは察してくれ、ということだろう。


(全能力UPに、自動で仲間を回復してくれるスキル…。

 ティナさんがみんなと離れる理由…。)


(【スキルリバース】というユニークスキル…。


 …そうか。)


「ティナさんのユニークスキルは、スキル効果を反転してしまうスキルなんですね?」


そう考えると、全てがつながる。


(自動で仲間を回復する効果が反転すれば、近くにいるだけで仲間の体力を減らしてしまうことになる。


 そうならないように、みんなから離れてたのか。


 家に入っても、「すぐに出て行くことになる」と言ったのも、ここにいたら僕の体力が減り続けるから?

 気だるく感じたのは、ティナさんのスキルだったのか。


 だからヨムじいさんは身体が治ってから話を進めてくれたんだ。)


ティナは目を閉じて、諦めたように口を開いた。


「そうよ。

 ご想像通り、私といると体力がどんどんなくなっていくの。

 少しずつでも、スキルを持っていない人なら1時間くらいで全部なくなってしまうわ。」


「そういうことだったんですね…。」


「あなたがどんなスキルを持ってるかは知らないけど、どうにかできるとは思わない。

 どうせ変わらないなら希望なんて持ちたくない。」


ティナはロックを強く睨みつけてきた。


「だから、もう帰ってくれる?

 一緒にいたら死んでしまうかもしれないから、早く出たほうがいいわよ?」


(これは僕のスキルなら助けてあげられると思う…。

 でも、ヨムじいさんはなんであんなに悩んでたんだろう?)


「待ってください。

 最後に僕の5つ目のスキルの話を聞いてください。」


「5つ目の?」


「はい。

 このスキルであなたのことを助けてあげられるかもって思ったんです。

 僕も絶望から抜け出すことができたから。」


「…いいわ。

 でももし、なにも変わらなかったら、すぐにこの村から出て行ってくれる?

 あなたを憎んでしまうと思うから。」


(優しい人だな。

 絶対に助けたい。)


「いや、絶対に助ける。

 こんな優しくて可愛い女の子がずっと1人でいるなんて、ダメです!」


(…って、余計なこと言っちゃった!)


うっかり「可愛い」と言ってしまったロックは、耳がゆでだこみたいに真っ赤に。


それを見たティナが初めて笑った。


「可愛いって、こんな時に口説いてるの?

 それに可愛いのと1人でいるのは関係ないと思うけど?」


「く!?く、口説くって、そんなつもりじゃ…!」


(恥ずかしい…!

 けど、笑うともっと可愛い…!

 ミラ、なんだかごめん…!)


「なんか気が抜けちゃった。

 あなたの5つ目のスキルのこと、教えてもらっていい?」


(これはこれで、結果オーライ…、か?)


「は、はい…。

 僕の5つ目のスキルは、【スキルスナッチ】っていうユニークスキルなんです。」


「ユニークスキル!?あなたも!?」


「はい。

 そしてこのスキルは、対象のスキルを奪うことができる。

 まだモンスターにしか試せてないけど、スキルの説明を見る限り、人からも奪えると思います。」


あまりの衝撃にティナは言葉が出ない。


(ヨムじいさんと同じ反応だけど、ティナさんは驚いても可愛いな。)


「それで、ティナさんの【スキルリバース】を奪ったらどうかと思うんです。

 よかったら、スキルの詳しい効果を教えてもらえませんか?」


正気を取り戻すまでに数秒かかったが、ティナが開いた口をいったん閉じてから話し始めた。


「え、ええ。

 【スキルリバース】の説明にはこうあるわ。」


そう言ってステータス画面からスキルの説明文を見せてくれた。


ステータス画面は、本人が許可した場合のみ、他の人も見ることができる。




++++++++++++


【スキルリバース ★★★★★】・・自分のスキルを反転し・効果を倍増させる。選べるスキルは1つ。使用するとこのスキルはなくなる。使用せずに保持している間は、自分の全てのスキルの効果を反転させる。


++++++++++++




「なるほど…。

 使用すると反転だけじゃなく倍増しちゃうんだ…。」


「そうなの。

 【全能力50%UP】に使ってしまおうかと考えたけど、反転・倍増したら全能力が100% DOWN、つまりなくなってしまうかも、と思って…。」


(これって、僕のスキルに使ったら…。)


「説明によると、ユニークスキルは相手の同意がないと奪えないみたいなんです。

 奪っても大丈夫ですか??」


「もちろん!

 こちらからお願いしたいくらいなんだから。

 でも、あなたはこのスキルを奪って大丈夫??」


「はい!

 むしろ、今あるマイナス効果のあるスキルが化けるかも!

 奪わせてもらってもいいですか?」


「ふふ。なんか変なやりとりね。」


(そう言われると、なんかエロく感じてきた…!)


「か、からかわないでくださいよ。

 じゃあ、奪いますね。」


そして、ロックはティナに手をかざし、こう唱えた。


「<スキルスナッチ>。」


『どのスキルを奪いますか?』


ガメリオンの時とは違うアナウンスだ。


ガメリオンは1つしかなかったからか。


ティナの3つのスキルが表示されたウィンドウが現れた。


「【スキルリバース】で。」


『【スキルリバース】を奪いました。どのスキルと入れ替えますか?』


(受け身か民間療法だな…。

 どっちも大していらないから、とりあえず受け身にしとくか。)


「【受け身】で。」


『【受け身】スキルは完全に消滅しますが、よろしいですか?』


「はい。」


『【受け身】スキルと【スキルリバース】スキルを入れ替えました。』



「できた。ちょっと見てみますね。」




************


名前:ロック

Lv:3

HP:285

MP:28

体力:26

力:25

素早さ:27

器用さ:23

魔力:29

スキル:

【スキルリバース ★★★★★】

【成長抑制(パッシブ) ★】

【隠密 ★★★】

【民間療法(パッシブ) ★】

【スキルスナッチ ★★★★★】


************




「よし!

 ちゃんと奪えてた!

 ティナさんのステータスはどうですか!?」


「本当に…?

 本当にあのスキルが消えてくれたの??」


ティナは震えた声でつぶやいた。


「ステータス…。」




************


名前:ティナ

Lv:4

HP:400

MP:51

体力:40

力:29

素早さ:32

器用さ:35

魔力:51

スキル:

【慈愛の祈り(パッシブ) ★★★】

【全能力50%UP ★★★★】

【    】


************




「あ…、本当に、本当になくなってる!!」


「よかった!よかったね、ティナさん!!」


「うん!ありがとう、ロック!!」


感極まったティナはロックに抱きついた。


ロックは椅子に座っていたため、ティナの豊満な胸の膨らみがロックの顔を激しく、そして優しく包み込む。


(や、や、柔らかい…。そしていい匂い…。スキルの神様、ありがとう…。)


そんなロックのいやらしい感想どころではないティナは、ロックを抱きしめて涙を流していた。


(よかった。

 このご褒美は別として、助けられて本当によかった…。)

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