第6話 1人暮らしの美少女の部屋へ…

ヨムじいさんにスキルのことを打ち明けてから4日後。


ロックはカイルのおかげですっかりケガが良くなった。


骨折箇所が思ったより重症だったようで、予想より時間がかかったらしい。


(それでも、あのケガがこんな短期間で治るなんて、カイルさんの回復魔法すごい!

 あんなにごつい見た目なのに…。)


回復魔法が使える人は魔力の値が大きめで、がっしりした人は多くない。


回復しながら肉弾戦をする人もいることはいるみたいなので、カイルもそのタイプなのだろう。


「ロック。調子はよいか?」


そう言いながらヨムじいさんが部屋にやってきた。


「おかげさまで!

 すっかりよくなりました!」


「それはよかった。

 早速で悪いが、ティナのことなんじゃが…。」


「はい。

 どうでしたか?」


「何度か話したんじゃが、


 「どうにかできるわけない!ほっといてください!」


 と言っておるんじゃ。


 事情があって、人と距離をとる子での。

 もしよかったら、ロックから話してみてくれんか。」


「まだ顔も見たことないんですが、僕が話して聞いてもらえるでしょうか。」


「あの子は優しい子じゃ。

 お主のことは気になるようで、ずっと容態を聞いてきておった。

 同じような境遇じゃから、なにか感じるところがあるのじゃろう。

 もしかしたら直接話したら聞いてくれるかもしれん。」


「わかりました。話してみます。」


ヨムじいさんにティナの家の場所を聞いて、ロックは家を出た。


(それにしても、みんなとずいぶん離れたところに住んでるんだな…?)


50人くらいの小さな村なのに、ティナの家だけはポツンと離れたところにあるようだ。


「ヨムじいさんの言ってた「事情」ってやつかな…。」


話を聞いてもらえるか改めて不安になってきた。


「は〜。ふ〜。」


ロックは深呼吸をして、ノックをした。


コンコン。


「ティナさ〜ん。

 ヨムじいさんにお世話になってるロックです。

 お話をさせてもらいたいんですが。」


すると、家の中からティナの声が。


「お話しすることはありません。

 お引き取りください。」


こんな経験のないロックは、言葉に詰まってしまった。


(どうしよう…。

 やっぱり聞いてもらえないか…。

 あ、その前に…。)


「お伝えするのが遅くなってすみません。

 ずっと食事を作ってくださってありがとうございました!

 とっても美味しかったです。」


数秒間の沈黙の後、


「ついでですから。

 …もう身体は大丈夫ですか?」


(お話ししてくれた!!)


返事をしてくれたことで、ロックは胸を撫で下ろした。


「はい!おかげさまで!

 あんな崖から落ちて、助かるとは思わなかったです。

 それに、この村の皆さんが倒れてる僕を見つけて看病してくれなかったら死んでました。

 本当にありがとうございます。」


「…なんで崖から落ちたんですか?」


(ヨムじいさんは、詳しいことは話してないのかな?)


「実は僕、スキルが5つあるんです。

 それで僕を引き取って育ててくれた両親が期待してくれてたんですが、覚醒した4つがひどいスキルばかりで…。

 期待を裏切ったと、モンスターをけしかけられて落ちてしまったんです…。」


ガタッ!


「…なにそれ…。ひどい…。」


ビックリして立ち上がるような音がして、その後絞り出すようなティナの言葉が聞こえてきた。


「詳しくは聞いてないんですが、ティナさんも僕と同じような境遇だと…。

 森の奥に1人でいたと聞いたんですが、もしよかったらなにがあったかお聞きしてもいいですか?」


返事がない…。


(踏み込みすぎたかな…。)


ロックが無理に話さなくても、と言いかけた時、ティナが小さな声で話し始めた。


「私もスキル覚醒のために、森に行ったの。

 教官と、他にも覚醒が必要な人たちと。


 私は1つ目のスキルが覚醒してて、2つ目と3つ目がまだ覚醒してない状態。


 1つ目が希少なスキルで、期待されたわ。


 でも、Lv5で覚えた2つのスキルが酷くて、森の奥で置いてこられたの。

 気を失って、どこだかわからない状態で。


 身を隠しながら彷徨ってたら、ここの人たちに助けられた。」


自分よりひどい境遇のロックに共感したのか、口調も少しくだけている。


「ひどい…。

 僕と似てますね。


 夢のために強いスキルは欲しかったけど、ダメなスキルだからってなんでこんなことをするんだろう。


 モンスターから守ったり、怪我を治したり、人のために使うのがスキルなのに、スキルのために人を陥れるなんておかしいですよね。」


ロックも近い境遇、近い年齢のティナに対して思わず胸の内をさらけ出した。


「…入って。」


ティナがギィ…と扉を開けた。


初めてティナと顔を合わせるロック。


(…想像していたより、ずっと可愛い…。)


深く透き通るような青い髪と瞳。

スリムな身体のラインに、肌の露出が少なく目立たない感じの服を持ち上げる胸の存在感がすごい。


むっつりのロックはティナの声から、どんな姿なのかずっと想像していた。

別にやましいことは考えてないのだが、勝手に考えてしまうのだ。


だってむっつりだから。

悪気はないんです。


(あ、こんなに見てたら失礼だ…。)


むっつりだけど誠実なロックは自分を戒めた。



「…入っていいんですか?」


「多分、すぐ出て行くことになるけど。」


(どういうこと?)


その言葉に疑問を感じながら、ロックは家の敷居をまたいだ。


(ていうか、1人暮らしの女の子の部屋に入るの…、緊張する…!)


「おじゃま、します…。」


ギクシャクした動きで入り、直立するロック。


「? 座ったら?」


急にぎこちなくなったロックに座るよう促すティナ。


「あ、ありがとうございます…。」


いい匂いがする…、などと思いながら椅子に腰掛けるロック。


(そういえば…)


「ところで、すぐに出ることになるっていうのは、どういうことですか?」


目の前の椅子に腰掛けたティナに問いかける。


「さっき、「人のために使うのがスキル」って言ったわよね。」


「はい。」


「人に害を与えるスキルもあるのよ。

 私みたいに。

 そして、それを知ったら毛嫌いし、離れて行くのよ。」


少し縮まったと思った距離を、突き放すようなティナの言葉。


「だからこんなに離れたところに住んでるんですか?」


ロックはティナだけが村のみんなから離れた家に住んでるのを不思議に思っていた。


「そうよ。

 助けてくれたみんなに迷惑をかけたくないし、嫌われたくないから。」


「だから食事を作る時も顔を合わせないんですね。」


「迷惑はかけたくないけど、恩は返さないといけないから。」


ヨムじいさんが優しい子だと言っていたのがよくわかってきた。


(きっと話すのが辛いことなんだろうな…)


「じゃあ先に僕のスキルから話しますね。」


(ん…?)


ロックはなんだか体に気だるさを感じた。


その様子を見てティナがフイッと顔を逸らした。


(病み上がりだからかな?)


大したことはなかったので、ロックはヨムじいさんに説明したように、4つのスキルの話をした。


「僕の故郷は魔王が居城にしている国なんです。

 産まれてすぐのころに、滅ぼされてしまって…。


 だから、みんなの仇をうって故郷を取り戻すのが僕の夢。


 でも、成長を半減させたり、しまいには経験値が入らないスキルなんて覚醒しちゃって…。


 もうダメだと思ったんだけど、5つ目のスキルのおかげで変われました。


 そして、そのスキルで君のことも助けられないかとヨムじいさんに相談したんです。


 もしよかったら、ティナさんのスキルのこと、教えてもらえませんか?」


逸らしていた目を、辛そうに戻すティナ。

ロックの目を睨むように見つめながら言った。


「この部屋に入ってから、何か身体に違和感はない?」


「え?

 特にはないけど…、病み上がりだからか少し気だるい感じがします。」


再び目を逸らすティナ。


「私のスキルは、


 【スキルリバース】


 ★5のユニークスキルよ。」

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