第22話 救出作業?
本命を創った後の準備期間で主に何をしてたかというと、根回しと一時的な経路造りだった。出来るかどうか半信半疑なところはあったけど、それぞれの神様のご協力を得て何とか実現の見込みが立った。アルファとかオメガとかデルタとか最初は言ってたけど、神様の数がそんなギリシャ文字の数で制限されてる筈も無いからね。単にイメージ的に伝わりやすいから使われてただけぽ。
旧オメガさんはやはり数多の神々の祖でもあるらしく、最終的には大勢の方々のご協力を得る事が出来た。いやぁ、神徳って大切ですね。ガラティナさんに一通ずつ認めてもらったお手紙の効果は抜群でした。読む前と読んだ後とで顔色変わってた神様達多かったし。
そんな緊急配管工事の手配と並行して、戦う為の準備と、それから救命か救済につながりそうな措置も用意してみた。これはどの神様も試した事が無いらしいし実験も出来ないのだけど、人が神の似姿に創られた存在であるのなら、神に作用し得る可能性はある。まして、自分に与えられたGDプリンターは、アルファ謹製の、想像力が及ぶ全てを創造し得る代物なのだから。
考えられる準備を終えた俺は、アークに搭乗して魔王と共にガラティナさんの世界へ移動。そこでガラティナさんを拾って、元オメガさんの元へ。数十億の魂リソースを収めたアルファ謹製の膜というか巾着の中身は、1割には届かないにしろその半分くらいは減っているように見えた。
「ガラティナさん、手筈通りにお願いします」
「私自身でも、あなたが用意してきたモノを目にした時の私自身の反応を読めません。十分な注意を」
「まぁ、賭けになりますね。このままだとそう遠くない未来にあの魂リソースはしゃぶられて無くなりますし、そうなったらもう手をつけられない筈」
「ですね。いきましょうか」
リバーサルに搭乗した俺は、ガラティナさんに機体を結界で覆ってもらいながら、巨大すぎる元オメガ、神々の間での呼び名はサクリファさんが惑星サイズの魂袋を舐めているその舌先辺りへと移動すると、GDプリンターのスクリーンを展開。
GDプリンターのスキルレベルは27まで上げていたので、製造最大サイズはおよそ十億立方cm、約1000立方kmにまで達していた。
惑星サイズに比べれば微小とはいえ、魂袋を舐めているおぞましい気配が止まって、GDプリンターのスクリーンに映された映像に関心が向いた事が伝わってきた。
ここが勝負どころと、ガラティナさんから各神様達に合図を出してもらってから、語りかけた。
「大いなる女神サクリファよ。この神の像を手にしたくはありませんか?」
知性や理性が残っているのか怪しかったけれど、ガラティナさんはまだ健在なのだ。希望は残っている筈だ。
文字通り、惑星サイズの手、というより指先が立体映像の表面に怖々と触れた。おっかなびっくりという感じだった。
立体映像を回転させ、違うアングルも見せつける。関心が高まる度に圧も高まってきててキツイ。
だけど、このプレゼンは完遂しないといけなかった。
「お代は、今あなたが手にしている魂です。素材は、あなたが手にしていて、魂を収めてる袋を元に創りましょう。いかがです?」
迷ってる感じがした。すぐに却下されないのであれば、突き進むしかない。
「その魂を手放す事に不安を感じているかも知れません。原初の魂の器への経路は閉ざされたままですし。でも先ほどから、あなたに縁のある神々が、それぞれの魂リソースを彼らの世界を通じてここへ流し込んでくれています。感じませんか?ずっと停滞し腐敗していくだけだったこの
空間が揺らいだ。きっと身近で太陽が首を左右に巡らせたら、このくらいの圧は感じて当然なのかも知れない。
「あなたが取引に応じてくれるなら、この像を創り、閉ざされた原初の魂の器への経路を、髪の様に細い一筋でもつなげてみせましょう。
だから、取引を受けては頂けませんか?」
"出来るのか?"
頭の中に直接声が響いた。
「出来ます。でも、女神サクリファの御名において誓って下さい。約束は、守ると」
"約束が守られるのなら、私も約束を守る。早く、創るのだ。急げ"
「それでは、創造を開始します。素材は、端の方から頂いていきますね」
何で出来ているのか謎物質でも、元の世界の神様お手製の黄色っぽい半透明の謎物質をインベントリーに取り込み、神様像の創造を開始。足下から積層させて形成していく。
サイズがサイズだけに、製作時間も半端無い。
「しばらくお待ち頂く間に、この像の元となった方に仕える者達から分けて頂いた画像や映像、音声などもお楽しみ下さい」
この待ち時間をどう乗り切るかも難題の一つだった。像の周りにランダムに表示させたり消失させたり、音声を再生したりしていく。
さらにそれらの裏では、原初の魂の器へとつながる経路の出口を探索したり、像の出来上がり分に応じた魂リソースを袋の中から頂戴したりしていた。本当は出来上がりを見てもらってからの方が良いのかも知れないのだけど、ご満足頂けない間永遠に創り直しを要求されるかも知れず、それは一時的に経路をつないでくれてる神様達も自分も保たない故の妥協策だった。
ガラティナさんも、袋がそのまま像に置き換わっていくなら、その間は少なくとも正気は保たれるだろうと保証してくれてたのもあった。
1秒で1立方kmが創造されていく。1000立方kmなら1000秒の計算だけど、直方体を創る訳ではないから、実際はもう少し短い。
空間が凝縮していき、像のサイズに合わせて縮小してくれていってる感じがした。助かる。側に恒星がいるようなのは、人間にはきついのだ。
さて、次の段階だ。
「女神サクリファよ。像を創作している間に、原初の魂の器への経路をつなぎ直さないといけません。その出口がどこにあるのか、私めにお示し頂けないでしょうか?」
"経路の出口は、それぞれの神の神核に直接つながれている。おいそれと誰かに見せられるものではない"
「しかし、今はここに経路をつないで頂いてる神々も、いつまでもは無理です。彼らは彼らの世界を維持しないといけないのですから。像が出来上がるまでの間。それが彼らに取り付けた協力の期限です」
だいぶサイズが縮まってくれたせいか、巨大すぎるけど人の姿が見てとれた。今は膝から腿くらいまでの高さになった像を前に悩んでいるようだ。
なら、背中を押してあげるしかない。
「もうずっと閉ざされていて、あなた自身では開けなくなっているのでしょう?だからあなたは終わろうとしている。しかしどうせなら、この像が出来上がった時くらいは、元のあなたの姿を取り戻してから、終わりませんか?」
助けられる、とは言わない。試してもないのだから、結果なんて保証できる訳も無い。
人間にしてみたら、自分の体を抉って心臓をさらけ出せと言ってるに等しい事は想像出来た。
じっと考え込んでいる間に、像は腰の辺りまで出来てきていた。造形に注文をつけたがっている素振りを見せたが、
「調整はいったん完成してからご相談に乗ります。その前に、経路を再接続させておかないと、たぶん、あなたは保ちません。あなたの残滓は残るかも知れなくても、あなたという存在はたぶん二度と取り戻せなくなる」
自分が言うような事は何重にも推察し検証し理解できてる筈だ。腐っても神様なんだから。あ、ちょっ、心読むの止めて!怒らないで!
"いいでしょう。やってみなさい。最悪でも、像が完成すれば、その出来映えが満足できるものなら、私は文句をつけません"
何か言いたい事がわき上がりそうになったけど、意志の力でねじ伏せた。危なかったぜ、とか思ってると、ガラティナさんもサクリファさんも言いたい事は伝わってしまってる表情をしてた。プライバシーの尊重を求めます。
サクリファさんがその豊かな胸元を開き、その開いた扉はこちらが認識しやすいように視覚化してくれてるんだろうけど、縦横1kmずつくらいの通路が、遙か彼方まで続いてたので、ガラティナさんと一緒にリバーサルで移動した。まぁ、概念上の距離を移動しただけなので、バカ正直に数百kmを移動したわけでもなくすぐに着いた。本来なら、何百万光年とか移動させられててもおかしくなかった訳だし。実際それだけぽんと転移させられててもおかしくない訳だし。気にしても無駄だ。
神核というのも、本来なら全宇宙の背後で動いてるエンジンみたいなものだから、天文単位の大きさなんだろうけど、自分の認識できるサイズに合わせてくれたのか、おおよそ100km四方の菱形の立方体。
もう一台のGDプリンターのインターフェイスを起動し、解析を開始。対象は、原初の魂への器への経路の出口と、その入口。出口はすぐに見つかった。入口も、おそらく、だけど見つかった。経路が閉鎖されてるせいか、正攻法だとたぶん開けなくなってる。そこが自分でどうにか出来てしまうのなら、経路閉鎖なんて措置が採られる訳も無いしね。
「では、いくつか、処置を開始しますね。いくらか、痛みなどを伴うかも知れません」
"気にせずに行うが良い。像はもう胸の辺りまで出来た。残り時間は少ないぞ"
「確かに、急がないといけませんね。それでは、始めます」
先ずは神核に手を触れ、出口の外側に例の鏡の片割れを外向きに、入口の外側に鏡の片方を内向きに、原初の魂の器へ向けて取り付けた。
さて、一発でうまくいくかどうか。神様からもらった光剣で、限界まで出力を絞り、神様が扱える限界の細さ、たぶん光子一個分の直径の光の筋を通そうとしてみた。それは確かに経路は貫いてくれたんだけど、原初の魂の器の入口は貫けなかった。
「これは堅さどうこうとかじゃなくて、条件だな。じゃあ、許可はもらってるから、続きやりますよ、サクリファ様」
"肩から首にかかっている。急げ"
「了解です。では、リバーサルの再生の鎌に光剣をセット。そして弾倉には、逆転弾を装填。再生の鎌に光の刃を生成。いきます!」
サクリファさんの現在の体はおよそ身長1000km。そんな長さに光の刃を伸ばすのはあまり現実的ではなかったし、そもそも実際のサイズは天文単位以上だ。だから、
「サクリファさんの再生が必要な部分を全て切り飛ばす!」
という願いを込めて、再生の鎌をリバーサルで振るった。神核を収めた部屋の壁に細い光の筋が吸い込まれ、神核以外の壁も部屋も、サクリファ様の体もばらばらになった。
暗黒物質めいた塊であちこちが充満したけど、かまわず切り飛ばし、逆転弾を乱射し、さらに内容物というか効果は同じな特性ウィルスを周囲の空間に可能な限り撒いた。アークと作品達には、像の守備を命じた。神核は、自分のリバーサルと陽奈のハルナの担当だ。
ハルナの直剣も、再生の鎌と同じ仕様で、光の直剣も内蔵してたし、ファンネル達からも逆転弾を雨霰と撃ち込んでいた。
グノーシーやラフルェル達も同じ暗黒物質めいた何から創られてたんだろうなと、今になれば分かった。込められたSPは数万から数百万程度とかなりばらけていた。外見に特に意味は無いのだろう。終わりかけの神様の体を構成していた何かだ。こちらの認識に基づいて外観も勝手に想起され決定されてると割り切っておいた方が苦労が少ない。
再生の鎌で切られた相手は、暗黒物質めいた何かから、光の粒子となって原初の魂の出口から入口へと向かって、そこで詰まっていった。
"顔が半分まで出来た。急げ。微調整がいろいろ必要だ"
うん、つなぎとめてくれる何かがあると、何かは保ちやすいらしい。しかし、経路はまだまだ半分以上埋まってない。最低でも、あの経路は正常に戻った魂リソースで埋めてあげないと、判定は覆らない。
「マイキー!アークの波○砲を最大出力で撃て!対象は、サクリファの再生を必要とする全ての細胞だ!」
「そんなもの、魂リソースが足りないぞ!」
「ここで得た魂リソース全部使って構わない。足りなければ、元の世界から奪われたのも全部つぎ込め!」
「それは・・・」
「取り戻せとは言われたけど、取り戻した後の使い道まで指示されてない。どうせこのままじゃ持ち腐れで終わる。いいから撃て!」
「わかった。発射シークエンス開始する」
自分はヤ○トよりは、アンド○メダの拡散○動砲のが好みなのだ。今回向けでもあるだろう。○マトタイプにして、神核から経路を撃ち抜く事も考えたけど、たぶん蓋は壊せないままSPの無駄遣いだけに終わるか、神核に余計な傷を与えてしまう結果に終わるのが予想出来たので止めておいた。
「私も、私に残された魂リソースをここでつぎ込みます」
「頼みます!」
ガラティナさんの姿は見えなくなってたけど、きっとこの時の為に備えててくれたのだろう。そう思う事にした。
やがて一分が経った頃、マイキーのカウントダウンが終わると同時に、アークの前後左右上下360度方向に向けて、逆転弾と同仕様の拡散波動○が放たれた。
光の筋は消える事なく、暗黒物質めいた塊を光の塊に変える度に勢いと太さとを増していき、そんなうねうね自動追尾する光の矢に追い立てられるように、原初の魂の器への経路が正常に戻った魂で埋まると、原初の魂の器の入口が開き、詰まっていた魂達が器へと流れ込み始め、その渋滞が解消される頃には出口の蓋も開き、原初の魂の器から、魂の源泉が流れ込み始めた。
ガラティナさんを通じて一時的な経路を開いてくれてた神々の経路はとっくに閉じてしまっていたし、かなりぎりぎりだった。
目に付く限りの暗黒物質の塊の粘土細工の様な不気味な相手はいつしか全滅していた。
神核ももう見えなくなっていた。そうする必要も無くなったからだろう。
今は、出来上がった像を前にした一人の女性。それはミーリアさんともガラティナさんとも似ていたけど異なる、サクリファさんが、像の顔の前の空間に浮かんで手招きしていたので、おとなしく従った。
「ひさしぶりに身軽になれたわ。神は普通、他の神に直接手出し出来ないから、腐りきって切り離されて自滅していくしかなかったりするんだけど、さっぱり出来てうれしい。お礼を言わせて頂戴」
「いえ。自分はあのじいさん神様から頼まれた事をしただけですし」
「じいさん神様。まぁ、あなたの記憶を見る限り間違った印象ではないけど、この像、いろいろ手直ししてもらいますからね」
「かまいませんけど、でもこれ、彼の配下の者達にだいぶ監修してもらったものなんですけどねぇ」
「甘いわ。そんなの、部下にかっこつけてる上司の姿にすぎないもの」
「手厳しいですね」
「そうよ。あいつとは、本当に永い間、いろいろあったんだから・・・」
神様の回想モードなんて人の一生がいくつあっても足りなさそうなので、あわてて遮った。
「とりあえず、すぐ直せそうなとこから手直ししていきましょう。でも、自分がどうなったのか心配してる人達もいるので、そちらに結果とかを知らせてからでもいいですか?」
「もちろん。どうせそれなりの時間はかかるんだから。覚悟決めてつきあってもらいますからね?」
「はは、お手柔らかにお願いします」
まぁ、そんな感じで、救うべき対象は、たぶん、救えた。
取り戻せと言われた数十億人分の魂リソースは、取り戻したかも知れないけれど、サクリファさんを取り戻す為に使い切ってしまった。
宇宙規模の彼女が人間サイズのSPしか感じなくなってるので、本当に名残りという感じの存在になってしまっているけど、それでも、だ。
原初の魂の器に還ってしまった魂は、どんな神様にももうどうしようも無いらしいからね。文句言われてもどうしようもなかったと言い訳をしようと考えていた。
ミーリア様世界に戻り、マクリーニャやマーシャさんに首尾を伝えた。
「ええと、では、とりあえず創司の元の世界の神様から課せられた任務は果たした、筈、なのですよね?」
「たぶんね。失敗なら失敗と言ってくるにせよ、もうやり直し効かないだろうし、文句あるならとっくに言ってきてるだろうけど言われてないし」
「では、子供が産まれる前に、結婚式を挙げましょう」
「いいけど。でも」
「創司様が不安に思われるなら、子供には皇位継承権を持たせません。そもそも、あなたがどの世界にいて何をしていても、私も子供もついていくのですから、皇位を持っていたとしても関係ありませんしね」
「姉として、皇帝として、いろいろ言いたい事が無い訳ではないが、きちんとした式を挙げて、二人が結ばれて子を成したと世に知らしめられればとりあえずの不満は無い。とりあえずはな」
マーシャさんにはいろいろ言いたい事がありそうだったけど、地雷の雰囲気がしたのでスルーしておく事にした。
元々準備は進めてたみたいで、それまでの間にサクリファさんと像の改修は進めつつ、当日を迎えた。まぁ、ミーリアさんは自分が光臨して云々という演出は考えてたらしいんだけど、それよりも、じいさん神様が現れて祝福とかを与えてくれたのも、予想の範囲内だった。さらに言えば、そこにサクリファさんが現れてじいさん神様の首根っこをつかまえてどこかの世界に連れ去ってしまったところまでお約束と言えばお約束だろう。うん。ぼくは見なかった。マイキーも目をそらしてたし、でも少しうれしそうだったから良い事にしておこう。
そんな訳で、次がその後の日々なエピローグとなる訳であった。
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