第20話 人質救出作戦会議
出発元の世界というか、ややこしいから新オメガのをミーリア様世界、旧オメガのをガラティナ世界と呼ぼう、ミーリア様世界に戻ってから、魔王には言われてしまった。
「いざ事を起こす時になったら、声かけろよ。お前には、いろいろ世話んなってんからなぁ」
「お世話なんてしたっけ?」
「人間側をとりまとめただろうに。魔王領に引き上げていく軍勢は襲われなかった」
「それは帝国や現地の人達の功績でしょう。ぼくのじゃないです」
「
「あ。それなんですけど、魔王だけに創るとバランスが悪くなって、人間側にも創れって事になって、どうせ新たな火種になるだけなんで、どうせならこんなのならみんな楽しめるんじゃないかと考えてみたんですが」
「言ってみろよ。楽しい事なら大歓迎だぜ」
人類側と魔物側との領域を不可侵にしつつ、互いの交流の場を設けてガス抜きまでして、さらに趣味の領域も満足させる、一石三鳥以上の思いつきを話してみたら、魔王もノリノリで乗ってきて、二人でその場で熱く語り込んでしまったから、浮遊城への帰りが遅くなってしまった。
「心配、したんですからねっ!」
帰還するなりマクリーニャに抱き締められて涙ぐまれてしまった。
「ごめん」
すぐに詳細は説明できなかった。魔王との趣味の話が盛り上がってしまってなければ数時間は早く戻れたとか。
ともあれ、夕食を終えた後、中央管制室で、マイキーとマクリーニャ、陽奈に、ガラティナさんと話した事や見せられた事なんかを伝えた。
「期限て、あるんですかね?」
マクリーニャ、さすが賢い!先に言われた陽奈はくやしそうにしてた。
「大神の寿命とも言えるからな。数十年数百年以上今の状態が保たれたとしてもおかしくはないとも言えるし、いつ起きてもおかしくない状態とも言える」
マイキーの説明はまっとうだった。
「俺も、そう思う。だから、なるべく早く、解決策を見つけだして、その為に必要な何かを創って、試していきたいと思う。リトライが可能かどうかわからない。なにせ、溺れてる人がつかまって息継ぎしてる何かを取り上げるような行為だからね。敵意を直に向けられた時、どんな理不尽な事が起きても不思議じゃないし」
「確か、魂の複製は出来ないのよね?」
陽奈の言わんとしてる事も分かった。
「そうだね。
「というか、そうなると思っていた方がむしろ無難だな」
「ありがとう、マイキー。でもさ、複製は無理。偽物に入れ替えるのも無理だと、相手に気付かせずに奪い返すのは無理じゃね?」
「かなり困難であるのは事実だろう」
んーむ、と一同で考え込んでしまったが、マクリーニャが提案してきた。
「あの、素朴な疑問なんですけど」
「どうぞ。何でも自由に言って」
「ありがとう、創司。あのね、創司の元の世界の神様、アルファ様っていうの?そのアルファ様に、旧オメガ様を、その本体をどうにかしてもらえないのかな?説得っていうか」
「どうなのマイキー?それでどうにかなりそうなら、俺に頼む遙か以前に、神様自身がカタをつけてたと思うんだけど」
「その通りだな。神として、別の神の領域やその在り方について、直接介入するのは非常に強い禁忌に当たる」
「その世界で生まれた魂を何十億と奪うよりも?」
「同程度以上には忌避されているな。お前の元の世界の言葉で言うなら、主権侵害などが当たるだろう」
「神様に説得役任せられないなら、自分達でやるしかないのかな~」
「創司の気が乗らないのなら、私がやろうか?何となく、気が合いそうな気がしないでもないし」
それ、ダメな方向にじゃなくて?、とは確信めいて思えたけど、怖くて口に出せなかった。ちらりとマクリーニャとマイキーに目配せしたけど、二人ともかすかにうなずいて同意してくれた。
やはりか。
「あー、まぁそれは、俺がどうしても自分では出来なくなった時だけ頼む事にするよ」
「そう。気が向いたらいつでも言ってね」
ああ、とは応えておいたものの、陽奈が何かにターゲットロックオンしてしまった気がしたので、後で警戒度に応じた措置を組み込んでおくよう、心のメモ帳に書き込んでおいた。
「さて、滅びかけとはいえ、神様の間でも最上級らしいから、これと正面から戦うとかは、たぶん、無い。やったとして、一時的にでも対話可能な正気に戻ってもらう為、くらいかな」
「妥当な判断だろう」
「ありがとう、マイキー。んで、だから戦闘の準備も一応はしつつ、説得と人質の交換に必要な何かを創る」
「ちなみに、どんな物を?」
「これといった何かはもう思いついてたりするけど、ここではまだ秘密かな。マイキーには協力してもらう必要があるけど」
「む、なるほど、そういう事か。確かに、それは成功の目があるだろう」
「だよね。それを本命として、奪われた魂リソースを取り返すだけじゃなくて、それ以上を実現できそうな何かも創ろうとしてみるけど」
本命以外の策についてはその場でいろいろ話し合って、その夜。マクリーニャに告げられた。手を、わずかに膨らんだそのお腹に導かれて、授かりました、と。
会った頃とかは
「そうか。そうなんだ。嬉しいよ。とっても。ありがとう、マクリーニャ」
「喜んでもらえて、私も嬉しいです!もし喜んでもらえなかったら、私、どうしようかと」
「そんなバカな。俺の方こそ、こんな立場で召還されて活躍できてなかったら、こんな事には絶対なってなかったのに。ごめ」
「謝らないで下さい!それは、私もあなたも侮辱する行為です!」
初めてマクリーニャに怒られてしまった。いつもニコニコしたり喜んだり驚いたりする姿しかほとんど見た事なかったけど、この表情を見られてちょっと嬉しいとか、思ってない。思ってない筈なのに、頬をむにっとつままれてねじられてしまったのは悟られてしまったせいなのだろーか?
また謝りそうになった自分を瀬戸際で止めて言った。
「わかった。もう謝らないよ。嬉しい。ほんと、それだけ。でも、本当にありがとう。俺を受け入れてくれて」
「私の方こそ」
という訳で、その日からはいたさない事になったのはいい。いいんだけど。その翌日。
「よーっ!起きてるか勇者!?早速昨日話したアレ作りに行こーぜ!」
て魔王が浮遊城にまでやってきてしまって、誤魔化そうにも昨日二人で熱の入った会話をその場で再現しつつさらにあれから魔王側でも考えた事を付け加えられたりしたものだから、
「ちょおおおっと、お待ち下さいね」
と、俺ではなくマクリーニャが魔王に応対し、両こめかみに青筋浮かべた彼女の圧に押されたのか魔王も出直すわといなくなった後、
「創司、正座」
と陽奈に命じられるまま石畳の上に正座させられ、畳んだ両膝の上に悪のりしたマクリーニャに乗られて抱きつかれながら、こんこんとお説教をされました。
もう謝らないと言った翌日に、何度でも謝らせられた。マクリーニャ曰く、それはそれ、これはこれなんだそうな。
陽奈は陽奈で、俺にお灸を据える良い機会として捉え、ただでさえ苦痛にうめいてる俺の肩に体重乗せてきやがった。いつか仕返ししてやる。しかしそんな思惑はマクリーニャにも陽奈にもなぜか即バレして、体勢を変えられたりさらに肩に体重かけられたりした。痛々々いです。マクリーニャも足つんつんしたりするの止めてくだごめんなさい。
でもまぁ、魔王と話してた事は、人間側と魔物側の間の和平を恒久化させる為の物でもあったのは確かなので許してもらった。
ただし優先すべきは旧オメガ様の方って事で、その日は元の世界に戻って、マイキーに意見もらいながら、本命の何かを創作して、あれこれダメだしくらいながらも、なぜか呼んでないのに現れた彼の同僚たち大勢にも意見もらいながら、最後には彼ら全員に傑作と言われる何かを完成できた。事が全部済んだ後には、彼ら全員にレプリカのデータを渡す事になった。偶像崇拝は禁じられてるけど、物理でなければ微妙にセーフなんだって。むずかしいね、世の中って。いろいろ。
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