第18話 創るべき機体

 魔王に設けられた三ヶ月の猶予の内、一ヶ月ほどが過ぎ去っていた。俺は、神様から与えられたミッションを果たす為に、何を創造すれば良いのか考え続けていた。


 アダマンタイトは相当量手に入っていた。アムカストラの坑道は海水で満たしてから凍らせて、氷をインベントリーに取り込んでいく事で、坑道内の掃除も環境整備も済んでたし、地底世界への探索ついでに鉱物資源も物色して、未知の金属を見つけてて、これは魂鋼ともアダマンタイトとも違う使い方が出来そうだった。


 ウィルス類の製造はしてなかった。したらそれが何かのトリガーになって強制イベントとか起きそうだったしね!

 ゾンビを活動停止状態にして、時間をかけて身体を修復して、魂や人間性を取り戻すような回復系ウィルスの設計にも挑んでみたけど、コストがクソ高かった。一人二人とか限定された対象に使うならまだしも、人類全体に対して使えるような代物ではなかった。


 次の異世界に行った時に使う機体の事を考えたり設計したり部品パーツを創ったりするのは、ほとんど気分転換になってた。

 浮遊城内に、MS整備工場な感じの製造スペースを設けて、試作機を並べるとか、かなりwktkです。テンション上がり過ぎて、マクリーニャにさえ若干引かれてしまうくらいに。。

 まぁ、戸惑いながらも、ちゃんと絡んできてくれるのは嬉しいんだけどね。


「今度はどんな機体を創ろうとしているんですか?」


 試作機はもう十体以上創っていた。フルサイズではなく、1/35くらいでコンセプトを確かめてたりしてた。材料もったいないのもあったけど、スキル上げには創造物のサイズはほぼ関係無くて、創る→解体して素材に戻す→また創る、のループが効率的なスキル経験値稼ぎ手段なせいもあった。経験値効率下がってきたら、ちょっとずつ変化を付け加えて低下率を減らすとかも有効な手段。


「攻撃や防御、偵察や探索とか、それぞれに特化したようなのを創ってみてきてたけど、今度のは、その良いとこ取りをしたのを創ってみようかなと」

「でも、同じ機体だと同時に実現できないから、いろんな試作機を創ってきたのではなかったですか?」

「そのまま同じ機体の限られたスペースに詰め込もうとしたら、大きすぎて重すぎて取り回しや操作性が犠牲になったりとか、あまり良い事無さそうだけど、ほら、自分はインベントリーを使えるから」

「なるほど。陽奈さんがそうしている様に、その時々で最適な装備を取り出し、付け替えられるようにするんですね?」

「そうそう。それが基本コンセプトになる。あとは試してみたい新機構もあって、それがGDプリンターで創れるかどうかも試してみたい」

「どんな新しい機構なんですか?」

「うまく動くかどうか、その前にちゃんと想像通り創れるかどうかも分からないから、出来た後のお楽しみになるかな」

「え~。教えて下さいよ~」

「ん~。そしたら、敬語無くしたら少しは?」

「教えて?」


 単にほほえみながら、小首を傾げて言っただけなんだけど、マクリーニャがかわいすぎる。心の中で吐血した俺がいた。

 こんな娘と俺が、って正にファンタジーやな。夢物語だ。

 よろめいたと思ったら遠い目をして立ち尽くした俺の前で、心配したマクリーニャが手を振りながら呼びかけてくれてたりした。

 さて、自分なりの現実に戻ろう。


「コンセプトは、そうだね。何があっても何とかなるようにする、かな」

「そんなの可能なんですか?」

「可能かどうかわからないから、創ろうとしてみる感じ?あちらにいった時にどんな状況に置かれて、何をしないといけないかも分からないから」

「じゃあ、何があっても逃げ帰って来れるような脱出機能とか?」

「うん。それに近いものを準備するつもりだよ。そこさえ何とか出来れば、後はオプション装備の切り替えとかで何とでもなりそうだからね」


 純粋なMSとかは、基本、戦闘用だ。それも敵MSを戦闘で倒す事を目的としている。でも、今回自分が行こうとしてる世界で求められてる事は、たぶん違う。

 主軸とするコンセプトは、次元移行。ほぼ、異世界転移に近い。アニメとかマンガでありがちな、相手の攻撃を次元の狭間や異世界に転移する事で避ける、みたいなね。

 なぜその機構が主軸になるかというと、神様を相手にしなくちゃいけないって難問があったから。敵対してる関係だし、相手は神様でこっちは人間(またはゾンビ)なんて力関係で、所有してるSPも桁違い。神様は、その世界の中で万能の力を振るえる。となれば、その世界の中でいくら逃げても逃げようがたぶん無いから。他次元や別世界への移動も封じられてしまう可能性はあるだろうけど、普通に走ったり移動して逃げようとするよりはたぶんマシな筈だ。


 あとはやっぱり、どう魂リソースを取り戻すか、その方法を探る事だった。ウィルスを使う事を忌避するならなおさら、別の方針を模索する必要があった。

 魂リソースSPの特性を改めてまとめておくと、

・複製不可

・SPを使ってSPは生み出せない

・畑に種芋を植えて適切な肥料を与えれば増える、みたいな性質は持たない(ただし生物が自分の中に収容するSPを成長に伴い増やす事は一般的に起きている)

・あえて例えるなら、ビットコインなどの仮想通貨に似ている。神にしか生み出せず、神自身でさえも複製不可(故に、通貨として機能している?)


「そもそもの話なんだけどさ」

「はい?」

「奪うのって、基本的には、自分が持ってないからだよね」

「その方が多いでしょうね。嫌がらせとかで奪うというか、取り上げてしまうというのもあるでしょうけど」

「うん。足りないか、自分が持ってないか、あるいはその両方で、これから得られる見込みが無いから奪う。それが一番単純に考えられるし、基本線に置いてみよう。

 で、気になってたのが、奪った魂リソースの量に対して、自分の元の世界や、魔王軍とかに与えられてたリソースの量が少なすぎるって事なんだ」

「どうやってわかったんですか?」

「自分の元の世界で遭遇した主犯の手先は一体だけで、1万SP程度だった。こっちに転移した時にやりあったのは三体で、同程度のSP持ち。

 それから魔王軍の大半を撃滅していったけど、筆頭は魔王の百万SPで、次が大竜の十万SPくらい。他の竜が千から一万SPくらいだったから、それぞれ元の十倍くらい強化されてた可能性がある。帝都防衛戦に生き残ってた一流の冒険者でも数千SP程度だったし。

 魔王軍から徴収できたSPは、300万SPくらいかな。そして魔王と戦ってる時、来ててもおかしくなかった主犯の手先は来なかった。十万SP程度のを数体寄越されるだけで、こちらはかなりピンチになった筈だけどね」

「つまり、それだけ余力が主犯の神様に無い、とか?」

「素直に考えるなら、そうなるよね。足りなくて奪った。その中からなけなしの量を、協力してくれた魔王とその軍勢に振り分けた。でも、それだけの量を自分の世界に持ち帰って、何かにすでに使ったか、使おうとしている」

「魂リソースがどんなものかわからないのですが、畑みたいな場所に撒いて、増やそうとしているとか?」

「そういう可能性もあると思う。たった数十億ぽっちの魂リソースなんだし。でも、もしそうやって使われてしまっているなら、元の世界の神様も、心配しなくても取り戻せるって言わないと思うんだよね」

「使われてしまっていても取り戻せる状態にあるのでしょうか。増えた分から使った分をもらう、だと奪われた物を取り返すという事にはなりにくそうですけど」

「だから、創るとしたら、何らかの目的ですでに使われてしまってたとしても、元の魂の姿と在り方を取り戻させる何かかな。畑に植えられた種みたいな状態になってるなら、そこから助け出して、かつ代替品みたいな物と入れ替えないとすぐに気付かれちゃうだろうし」

「でも、SPが足りないんじゃないんですか?魂リソースを増やせるような何かと換えないといけないなら、特に」

「まぁ、情報が足りないよね。だから今は、創れるだけの物を創って備えておくよ」


 武器は、マクリーニャと話してて考えついた。死神の鎌だ。HPやMP、生命力を吸い取り、相手の魂の緒を断つとされる武器なら、状況的にも一番ふさわしいだろう。

 機体もだから、実体と半実体と非実体を行き来出来る物が望ましい。浮遊城を持ち込めるかどうかもわからないけど、結局活動ベースが必要になるなら・・・。いや、万が一の時の逃げ込み先としてこちらに置いといて、敵地で使うのはやはり戦艦みたいのにしようか。資源量的には賄えそうだし。次元潜行船みたいのでも楽しそうだよな・・・。


 GDプリンターのスキルレベルは、1上がる毎に創れる大きさは倍々で大きくなっていった。レベル1なら15立方cm、レベル2なら30立方cmだ。レベル10なら7680立方cm、76.8立方mに達した。レベル20なら?7864320立方cm、約78.6立方km。ここまで来るともう素材の量が現実的では無くなるけどその内宇宙コロニーでさえ、GDプリンターで組み立てられそうだ。

 一応書き添えておくと、スキルレベル9までの最小創造可能単位は1/10mmだったのが、10以降は1/100mm、15で1/1000mm、つまり1ナノメートル、さらに20で1/10000mm、0.1ナノメートル、ウィルスや原子の大きさの物まで創造可能になっていた。

 GDプリンターには、解析メニューがあるから、それがコンピューターの基盤だろうがCPUだろうが、人体だろうが植物だろうが、原子や分子レベル以上で可能で、解析してブルー・プリント設計図が手に入れば、ほぼ創造可能だった。素材が足りなければSPで補ったりしてね。


 ともあれ、機体だ。

 ガ○ダムシリーズに、死神の鎌みたいのを武器にした一体があって、自分の作品にもいたので、そいつをモデルにお試し版て感じにフルサイズを組んでみた。

 バックパックは翼にもなれば、クロークとして認識阻害機能を持つし、次元の狭間に潜む事も可能にした。もちろん、緊急脱出装置的に、対となる鏡を設置した場所への転移機能も本体に装備。同様の機能を持つ自分の身体のサイズに合わせた鎌とクロークも創ってインベントリーに入れておいた。

 デザインは自分流に仕上げ、武器には魂や生命に働きかける物を複数搭載したので、死神の鎌を意味するデスサイズではなく、リバーサル逆転と命名した。魂リソースの行方をどうにかする期待を込めて。


 リバーサルの組立が完成する頃に、陽奈も彼女用のをリクエストしてきた。


「いやでも、俺は魔王と二人であちらの世界に行こうと思ってたんだけど?」

「却下。私は絶対についていく。私は創司の護衛」

「だとしても、機体は必要無いだろ。ボディガードっていうなら、今のサイズの方が適切なんだし」

「でも、使う機会があるかも知れないから、創司はリバーサルを創ったんでしょ。だとしたら、肩を並べて戦える、別コンセプトの機体があってもいいじゃない?」

「・・・マクリーニャに、ベア○ガイさんを創ってあげたのに対抗してるわけじゃないよな?」

「べ、別に、そんなの気にしてる訳無いじゃない!」


 むきになるところは怪しくなくもなかったが、まぁ、自分の予備機って意味でも、リバーサルに足りない中長距離火力とか移動速度を補うような機体があってもいいかも知れない。船を創るのなら、それの護衛に回してもいいのだし。

 という事で、基本は陽奈人形の外観を踏襲。武器もフィストガード付きの直剣2本を始めとして、アタッチメントの追加や取り外しで複数用途に対応可能なビームライフル、飛行モジュール、次元潜行モジュール、さらにパペルガグラヴィトンに装備してたファンネルの大型バージョンも付けて、攻守共に隙の無い機体に仕上げた。


 名付けでは一悶着あって、陽奈は創司がいいとか言ったけど、紛らわしいし、外見はどう見ても女性体なので、陽奈の機体という事で「ハルナ」と名付けた。


 ハルナを創った事で、今度はマクリーニャのご機嫌がいささか斜めになってしまった。


「もしよければ、創ろうか?」

 と提案してみたが、

「いえ。自分は戦闘には不向きでしょうし、あのベア○ガイさんで十分です。それよりはですね、リバーサルの塗装、もうちょっと何とかしませんか?」

「まぁ、確かにアダマンタイトの成形色ほぼそのままだから、こげ茶というか黒っぽくて、渋い感じ自分は嫌いじゃないけど」

「創司様は勇者様でもあるんです。あの銀色の大鎧も悪くなかったですけど」

「ふむ。そしたら、ハルナは同じ様な素材で創られてるけど陽奈人形と同じ白銀で揃えてるから、似た感じにする?」

「いえ、せっかくですから、こんなのはいかがでしょうか?」


 マクリーニャの提案は、確かにロボットアニメ的なものではなかったけれど、死神的な雰囲気を消すのには効果的に思えたので採用した。

 リバーサルは、マクリーニャの毛並みと同じく、水色と白のグラデーションで整えられた。毛先が白で縁取られてる感じなので、その特徴をうまくマージして、かなり全体の雰囲気が変わった。やはり塗装は大事だな。

 さらにマクリーニャの提案で、尻尾に相当する様なパーツまで取り付けられる事になった。単なる飾りではなく、魂リソースの在所や周囲のSPの急激な変動などを検知する為のセンサーとしての機能を持たされていた。ハルナにも付けるか陽奈に聞いてみたけど全力で却下された。まぁいいけど。


 リバーサルやハルナの操縦訓練などもしつつ、さらなる異世界で活動拠点とする探索船アークも、出発までの残り2ヶ月の間に仕上げた。なお、船ごと異世界転移する際のSP量を抑える為にも、リバーサルもハルナも、MS設定上のサイズよりは一回りは小さい15mほどの大きさにしておいた。どんな敵と戦うかどうかもまだ見えてないからね。グノーシーやラフウェルなんかは正面から叩き潰せるし、その五十倍から百倍以上の敵が出てきても対応可能な様に設計創造した。


 こちらはまぁ、海賊船じゃないけどア○カディアなんかを参考に、大気圏内飛行や航行なども可能な宇宙船を創った。

 武装はほぼ全て艦内内蔵か引き込みが可能でMS整備倉庫には、倍以上になっても良いように五機まで整備可能にした。といっても、普段はインベントリーに入れておくだけでもいいんだけどね。こういうのは雰囲気も大切なのさ。

 船には、食料その他の製造ラインも設けた。これらはさらなる異世界や元の世界の今後を睨んでの設備だ。活用されることになるかどうかは全くわからないけど。

 船そのものの管理維持には、アムカストラの災厄のゴーレムコアを転用した。遙か過去の天才ドワーフ技師の逸品で、無尽蔵に沸き出す地底からの魔物を撃退する為に、最硬の体を持ち、周囲の資源を取り込んで自らの眷属をも自前で製造可能な、元の世界でいうなら超高度なAIでもあった。

 ただし、最優先課題を坑道の維持にしてしまったが故に、坑道を資源採掘で損なっていくドワーフその他人類も排除対象にしてしまい、再設定しようとしても何度も戦闘した後で近づけなくなり、逆に坑道には害を為さず、ドワーフ達とも地底の魔物とも戦う悪夢溶岩蜘蛛とその眷属は味方として認識されてしまって、アムカストラ坑道は封印されることになってしまったそうな。

 AIの中身をどういじれば良いかというのは自分の専門外でもあったので、マイキーに調整を依頼してもらったものをアークの中枢に据えた。いざという時には、自分や陽奈が気を失っていても自動的に回収して、マイキーのいる浮遊城にまで転移して戻るよう設定されていた。


 そんな風に諸々の準備を終えた頃には、魔王と敵親玉のいる異世界へと転移する日がやってきたのだった。

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