第17話 さらなる異世界転移までの間に

 あの後、急遽ベンチを中心としたコテージをその場に仕立て、ベンチはベッドに改造。寝具とかは自分の部屋のをインベントリーを通じて転移して、まぁ、その、ごにょごにょしました。

 お互い初めてだったから、最初はいろいろ試行錯誤だったけどとか詳しい話はとりあえず飛ばして、お互い疲れ果てて、でも、幸せの中でまどろもうとする時に、マクリーニャさんは、いやマクリーニャは尋ねてきた。


「それで、どんな事を思い詰めてたのですか?」

「ん~・・・」

「無理に話して下さらなくてもいいですが、少しでも気が晴れればと」

「いや、大事で、とても重い話なんだけどさ」

「はい、お伺いしますよ」

「うん、ていうか、もうちょっと砕けた話し方にしない?せっかく、その、こういう仲になったんだし」


 お互い裸で、彼女は自分の左腕を枕にしつつ、半身を重ねていた。毛布の下で彼女の尻尾の先がどこを刺激し続けているかは黙秘の対象だ。


「はい。ではもう少しだけ。ええと、じゃあ、どうしてあんなに思い詰めてたのか、聞かせてもらえますか?」

「もらえますか、てのは今後省いていいよ。まぁ、自分のミッションとか、ユニークスキルについては伝えてあるよね?」

「はい。創司さんの世界の全人類が滅ぼされて、数十億人分の魂のリソースが奪われ、その奪還の為に選ばれ、神の次元の創造装置GDプリンターというユニークスキルを与えられたと」

「そのGDプリンターのスキルレベルが上がってね。何が出来る様になったと思う?」

「さあ?想像もつかないです」

「生命の類を創造できるようになった」

「それ、ほとんど神様の御業みわざじゃないですか」

「そう思うよ。でね、最初から複雑な生命、人間とかはもっとずっと後にならないと創れないけど、一番最初は、生命とは呼べない、ウィルスとかを創れるようになったんだ。でね、その中に、自分の世界の人類を滅ぼした物まで含まれてたんだ・・・」

「それって・・・」

「うん。たぶん、その推測で間違ってないと思う。奪われた魂リソースを一気に注ぎ込まれたら自分なんてぷちって蚤の様に潰されるだけだと言ってきたけど、心配する必要は無いって、ずっと神様に言われてたんだよね」

「・・・奪われた物を、仮に奪い返せたとして、創司様の世界の人類は復活出来るのでしょうか?」

「さあ。ゾンビ化ウィルスから人類を解放するウィルスは設計出来たけど、それだけだと生身の人間に戻った時に大半は本当に死ぬか不具者としていずれ死ぬかの違いしか無い。神様、元々自分の世界の人類の数を調節するつもりで元となったウィルスを撒いてたとか言ってたと思うから、自分に決定権なんて無いと思うけどね」

「では、思い悩む必要は、なんて言えませんよね・・・」

「うん。裏で力を貸してくれてるのが神様にせよ、神様には神様としての柵(しがらみ)とか関係性とかがあるらしくて、自分が手を下さないといけないみたいだし」

「辞退は、出来ないのでしょうか?」

「さあ。自分の他に人類はもう生き残ってないし。あえて言えば陽奈がいて、自分か神様に命じられれば淡々と与えられた任務を果たして戻ってくるかもだけど、それは、なんか、違う」

「ふふ。やっぱり、創司さんは優しいのですね」

「優しかったりしたら、魔物や地底世界の生き物とかを百万以上の単位で殺してたりしないよ。元の世界でもゾンビになった人達を数千人以上の単位で殺してるしね」

「でも、それは、避けようが無かったのでは?魔物は魔物で人間を殺すのにためらいなんて無かったですし、元の世界のゾンビとて、人ではなくなっていたのでしょう?」

「魔物は、そうだね。そうやって割り切ってる。ゾンビとかも同じように割り切ってるつもりだったけど、元の人間に戻せるかもって選択肢が出てきちゃうとね・・・」

「仮に、ゾンビとして生き残ってた人達が人類に戻れた時、あなたが大量殺人鬼として責められる事になる、ですか?」

「社会なんて完全にぶっ壊れてるから、裁判にかけられてとかってのは無いだろうけど、責められはするだろうね」

「そんなの、後から分かった事なのでしょう?どうしようも無かったじゃないですか?きっとまだ全員がゾンビになってなかった頃は、まだ人間な誰かは生き延びる為にゾンビと戦って殺すのが当たり前の事だったのでは?」

「それは、そうなんだろうね。まぁ、自分の元の世界の行き先とかはいったん置いておいたにしろ、魔王に連れていってもらう、奪われた魂リソースがある世界がどんな状況にあるのかわからないにしろ、覚悟は、しておいた方がいいのかなって」


 マクリーニャは、しばしじっと考え込んだ後、仰向けになっている自分の上に腹這いになって乗ってきて言った。


「そのウィルスを相手世界で撒くしかないのかどうか、それはその時になってから悩むのでも良いと思います。今はそれで奪われた魂リソースを取り戻せるかもわからないのですし」

「それはそうだね」

「それとですね。そうするよう神様に命じられたとして、従うか従わないか以外の選択肢は無いのでしょうか?」

「どういう事?」

「それは、ほら。生命を増やして、奪われた魂リソースを補えば、奪い返さないでも済むんじゃないかって」

「それは、自分も神様に聞いてみた事あるんだけどね。元の世界だと、地球って星はものすごく広大な宇宙にあるたった一個の惑星に過ぎなくて、星の数だけで言っても宇宙には数千億個以上あって、地球上だけでも生命の数で言えば人類はその内のほんの一握りでしかない。なのに、どうして奪い返す必要があるんですかって」

「そしたら、どう答えられたのですか?」

「んー、答えをはぐらされた気もするけど、自分の作品とかを引き合いに出された気もする。自分が魂を込めた作品を奪われたり壊されたりして、全く同じ物をまた与えられたとしても、それは別物じゃないかとか」

「・・・何となくですが、わからないでもないですね。もしあなたとの間に子供を授かったとして、神様に取り上げられて全く同じ姿の別の誰かを渡されたとしても、元の子供をどうしたって取り返そうとするでしょう」

「まぁ、そだね・・・、ってちょっ、マクリーニャ」

「まただいぶ元気になりましたし、まだもう少し夜が明けるまでに間はありますから・・・。ダメですか?」

「ダメじゃ、ない、です」


 そんな訳で、その日起きだしたのは昼過ぎくらいになったけど、誰にも文句は言われなかったし、マクリーニャの付き人のラーシアさんには何かお小言でも言われるのかと思ったけど、深く感謝された上で、陽奈人形が近くにいないか、話を聞かれてたりしないか念押しされた上で、二人きりで大切な話があると言われ、念の為に、ステータスウィンドウの作品一覧の中から、非活性化というメニューが増えてたので、陽奈人形をその対象に選んでから、マクリーニャも完全に遠ざけた上で、彼女は無関係なラーシアさんの独断という事で、重要な情報告げ口を聞いた。

 帝城の中に侵入した魔物達を自分が掃討してる時、召還陣の間で陽奈からマクリーニャやマーシャさん達に発された警告。俺に手を出しても殺す。陽奈が話せる事を俺に告げても殺す。って、物騒過ぎるだろ・・・。


「マクリーニャ様は、想いを遂げられたご様子。一方的に押し切った結果ではないとは思いますが、とはいえ関係を持ったのが事実だとすれば、陽奈様の感情が振り切れた場合、何が起こり得るのか、私は危惧せざるを得ません。もし告げ口した事で殺されるのであれば、私はこの首を差し出します。誓って、マクリーニャ様やマーシャ様達は、この私の独断には関わっておりません」

「信じるよ、そこは。陽奈ならそんな事言ってても何の不思議も無いし。教えてくれてありがとう。助かったよ。何か取り返しのつかない事が起きてからじゃ手遅れだったし。陽奈人形には、何かの制御をかけておくよ」

「陽奈様にも私達が救われた事は事実でございます。どうか、寛大なご処置と配慮を。我が身はいかようにして頂いても構いませんので」

「あーうん、大丈夫だと思うよ。とりあえず任せておいて。結果どうなったかは、伝えるから」


 ラーシアさんと分かれた後、もう後回しには出来ないなと判断。ステータスウィンドウのメニュー操作から、陽奈人形の行動にいくつかの制御をかけてから、目の前に召還した。


「陽奈。まず、そこからいいと言うまで動くな。守れるか?」

「・・・・・ええ」

「それじゃ、先ずは確認だ。俺とマクリーニャがどうなったかは、把握してるか?」

「・・・・・・はい」

「そうか。待機中にも、こちらの状態は伝わってるんだな。護衛や警備上の理由から、それは今まで通りで構わないか。

 そしたら次だ。マクリーニャも、マーシャさんも、ラーシアさんも、誰も、殺すな」

「でも、それは・・!」

「彼女達が武器をかざして俺を殺そうとしてきた時に止めるなとは言わない。可能な限り殺さず傷つけず無力化して欲しいけど、そうするよう制御もかけたけど、この場で約束して欲しい。彼女達には、お前が口にした様な意味で、手を出さないと」

「聞いて、創司!」

「ずっと、話せたんだろう?その身体を得てから」

「それは、そうだけど、でも」

「お互い、話せたら、話したくない事でも話さなくちゃいけなくなる。そしたら再会してから今までみたいな関係はうまく回らなくなってしまうかも知れない。それは、分かるよ。でもさ、彼女達を脅すとか、どうなんだよ、それは?俺の身を案じただけじゃないよな?」


 陽奈は、しばし沈黙した後、こくりとうなずいた。


「俺を独占し続けたかっただけだよな?」


 またしばらく逡巡した後に、悔しさに歯ぎしりしてそうな表情で、うなずいた。

 俺は、ため息をついて、提案した。


「はっきり言おうか。制御はいくつかかけたけど、陽奈なら抜け道を探して目的を果たしてしまうんじゃないかって恐れてる。そんな事しないと誓ってくれるかも知れなくても、信じられない」

「・・・どうして?」

「お前が、どうしようもない根っこのところで、本心で、俺を独占したがっているから。俺の意志よりもお前の意志の方が優先されるべきって、心のどこかで堅く信じてしまっているから」

「・・・私も、本心で話すね。聞いてもらえる?」

「ああ」

「あなたを独占したいと思ってるのは、本当。だけど、そう出来なくても仕方無いかとあきらめてるのも本当なの」

「なら、なぜあんな脅迫をしたんだ?」

「あなたが玉座の間から出て行った後、彼女達を見て、命を救ったあなたをすでに特別視してるのが見て取れたから。妹の方は単に異性として、と言えなくも無かったけど、次期皇帝となる姉の方は、あなたを利用する気満々だったのも見て取れたし」

「でもそれは言い訳だよな?」

「・・・認めるわ。でも、あなたがぽっと出の誰かにかっさらわれて、あなたと結ばれて家族を作るのをその傍らで見てないといけないなんて、耐えられるとも思えなかったの」

「なら、ずっとステータスウィンドウの中で待機してるか?非活性状態なら、何も見えないし聞こえない状態になるんだろう?」

「お願いだから止めて。あれは、眠っているというよりは、停止されてる間殺されてるようなものだから」

「その間に事態は動いてるのに、自分には何も手出し出来なくて、結末だけを知らされるから?」

「そうね。もしどうしてもあなたが私を信じられないというのなら、あなたが私を殺して、終わらせて」

「そうしないと、止まれないから?」

「マクリーニャさんや、他にあなたと結ばれる女性達が増えていったとしても、私は絶望しない。でも、あなたが私だけは絶対相手にしないと言ったりするなら、私は絶望する」


 そもそも今の身体だとそういう事は無理だろうに、とも思ったけど、陽奈は陽奈でじいさん神様や女神様に直談判してたし、自分のユニークスキルのスキルレベルが上がっていけば、俺だけでも何とかなってしまう問題かも知れないし、実現性が無いかと言えば有るとしか言えなかった。


「まぁ将来的にもしも陽奈がそういう事が出来る身体を得たとしてだ。自分はマクリーニャと結ばれたばかりだし、他の誰かが欲しくなるとも思えない。自分のやりたい事とかやらなきゃいけない事とかも考えると、そんなぽんぽん増やしたいとも増やせるとも思えないし。

 だから、今は、最低限の事を誓ってくれ」

「何を、どう?」

「俺は俺の、マクリーニャはマクリーニャの、お前はお前のものだ。他の誰のでもない。そんなの、俺の何百倍も何千倍ももててたお前がわかってないわけないだろ?それだけ誓えて、受け入れられるのなら、これまで通り俺を支えて欲しい。神様からのミッションを果たした後の事は、果たした後で考えよう。果たせるかどうかも分からないんだし。でも、誓えないというなら、ずっとステータスウィンドウの中で非活性化する。どちらがいい?」


「・・・いくつか、聞かせて。創司は、私の事が、嫌い?」

「好きか嫌いかで言えば、嫌いではないと思うよ。嫌いだったらそもそも蘇らせるような事もせず、同行なんてさせてる筈が無いだろ。でも、そういう相手としては、今のお前は、到底受け入れられない」

「私が、あなたの意志よりも、私の意志を優先してしまうから?」

「そうだ」

「なら、今はもう一つだけ教えて。あなたが私を受け入れてくれる可能性はあるの?」

「それは、分からないってのが、正直な答えだよ。これからの事がどう展開していくかなんて、神様だってわからない事があるみたいだしな」

「分かったわ。今はその答えを受け入れる。あなたの望む通り、あなたと結ばれた誰かや結ばれそうな誰かとかについても、私は手出ししない。あからさまに危害を加えようとしてたりしてれば止めるけれど、可能な限り殺害じゃなくて無力化しようとする」

「OK。じゃあ、そんな感じで当面頼むよ」


 それから大学生になってから以降の話とか、両親がどうやって誰になぜ殺されたのかとかも聞かされたけど、別にそれは陽奈のせいじゃないと言って聞かせた。

 そんな思い出話も現在につながって終わりを迎えた頃、陽奈は提案してきた。


「あの、創司。怒らないで聞いてくれる?」

「内容によるに決まってるだろうが」

「・・・ウィルスについてなんだけど」

「自分に命じてくれれば撒いてくるとか言うなよ。ついでに言うなら、どこの神様や魔王とかに直談判したりして勝手にやったりもするなよ。これは絶対の命令だからな!お願いじゃないからな!」

「・・・わかった」

「向こうが取引を持ちかけてきても乗ったりするなよな?乗ったりしたら絶交だからな」

「絶交・・・、それは、ダメ」

「だったら暴走したりしないでくれ。絶対に。取り返しがつかない事態になるから」


 こくりと、真剣な表情でうなずいてくれた。


 陽奈とは、いつかちゃんと話さないといけなかった。後回しにしてきた事が解消したのは良かったけど、陽奈がちゃんと約束を守り続けてくれるかどうかは一抹の不安が残った。

 陽奈が望んでいる事を自分が望むようになるかは、全くわからなかった。そんなのは全て終わってから気になるようなら気にすればいいと割り切って、もっと優先すべき事や楽しそうな事に、関心を切り替えたのだった。

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