第14話 ファンタジー金属と迷宮と

 帝国からはいろんな報酬を提示されたけど、あまり心動かされるものは無かった。

 むしろ、冒険者ギルドや商業ギルドなんかからの、どこにいるどんな魔物からどんな素材を得られてどんな製品が作られるのかとか、世界各地の迷宮や鉱山のリストやそこで取得可能な素材なんかの情報の方がよほど興味を引かれた。

 ミスリルとかアダマンタイトとかオリハルコンとか、違い良くわかってないし、魔法使える訳じゃないから魔力を流した時に得られる効果についても、参考情報として一応覚えておくかってくらい。

 ただ、今後いろいろ創造なり生産していく上で、鉄や鋼以上で魂鋼未満の新素材の獲得や開発研究は必須事項だった。次の世界でも、この世界同様のドンパチが繰り広げられるかどうかはわからないけれど、数十億の魂リソースをつぎ込まれた何かが目の前に展開された時、アニメのやられ役みたく、呆然としたまま立ち尽くすとか芸が無いしね。(毎週違うロボ作成しても主人公達の似た手口にしてやられるのもどうかと思うけど)


 さて、世界各地の素材採集とEXP/SP獲得旅行の中で、いくつか興味深いスポットがあった。未踏破のダンジョンとかも面白そうだったけど、かつてアダマンタイトの産地として名高かった地下坑道が、地底からわき出した魔物の群れに侵略されて廃坑となり、封印されてしまったというアムカストラ廃坑に今日は向かっていた。

 なんでも、ドワーフの複数種族の精鋭と、冒険者ギルドによって集められたS級とA級冒険者達による奪還作戦はここ数百年で何度か行われたものの、相当やばい相手がいるらしく、ほとんど生きて帰ってこれなかったんだとか。


 マクリーニャさんに搭乗可能なベアッ○イさんまで創ってしまったのは、彼女がどうしてもついてくるって譲らなかったから。

 いくら魔王軍を単独で滅ぼした自分でも、アムカストラの災厄と呼ばれる伝説上の存在に挑むには危険過ぎると彼女やミーシャさんその他の人々にまで思いとどまるよう説得されたけど、自分がこれから行こうとしてるさらなる異世界は、もっとずっと危険で、自分はそれまでに出来るだけ自分自身と作品達を強化しなくちゃならない、って説得した。

 では、創司さんについていくなら危険は無いという事ですね?と変な言い回しでマクリーニャさんがついてくる事を許可しなくてはならなくなって、かといって生身でついてくるとかありえないし、坑道のサイズ上、パペルガグラビトン(帝城に乗り込んだ際に使った銀色甲冑仕様外部装甲)が持ち込めるぎりぎりの大きさで、自分の背後にいればおそらく庇えるサイズにベアッガ○さんの大きさは調整した。子ベ○ッガイさんはサイズ的な死角を消してくれるだろうし。

 そもそも、数百年もドワーフ達が採掘し続けた立体迷宮とも呼べる廃坑を逐一探索しながら魔物を掃討していくつもりもなかった。現在だと数十体の作品を同時展開し、数千体のフィギュア部隊を護衛させたとしても、ヤバイ相手と遭遇したら救援を送る前に全滅するかもしれないし。


 という訳で、先ずやってきたのは、廃坑出入り口を封印してる扉の所じゃなくて、廃坑の天井部にあたる分厚い岩盤の地表部分。ここから掘り下げていく事も昔は考えられたのだけど、アダマンタイトの含有率だとか何かの都合で、現在の出入り口のみになってるのだとか。


「ここで、なにをされるのですか?」

さに強いというドワーフ達でも長時間の滞在は厳しいという坑道が、地底からの魔物達に占拠された後はもう人間が活動できるような環境じゃなくなってしまったって話だよね?」

「は、はい。対応した魔道具なども開発されてはきたのですが、限度があったのだとか」

「うん、だからね、偵察を送り込みつつ、環境そのものを変えないといけない」

「だから、この、細いとんがった何か、なんですか?」

「サンダ○バードに出てきた通称ジェ○トモグラ。ドリルも外装も魂鋼製だから高熱にも耐えられる。ドリルはSPで覆うから、どんなに固い地面でも掘り進んでいけるはずだしね」


 戦車の様な台座に載せられた長さ30cmほどのジェッ○モグラが十台ほど。台座の後ろが持ち上がり、ドリルの先端が地面へと向けられた。ドリルがSPの白銀の輝きに包まれて回転し始めると、台座から滑り落ちたジェットモ○ラ達が固い地面をがりがりと削りながら、それでもそれぞれ十秒とかからずに地中へと姿を消していった。


「ええと、大丈夫なんでしょうか?」

「何が?」

「小さな穴ですが、ここを通じて何か廃坑内の魔物達が地表に出てくるような事は・・・?」

「だいじょうぶ。仕掛けもしていくし、正面入り口から派手にしかけるしね。何かあるとしたら、そっちになるから」


 俺は、ジェット○グラ達が潜っていった直径十cm未満の穴に特別製の蓋をしていった。蓋からは留め金の様な杭が自動的に周囲の地面に食い込み、誰かが外そうとしてもそう簡単には取れないようになった。


「さて、じゃあ入り口の方に向かおうか」


 アムカストラ廃坑正面の入り口には、アダマンタイトの鉱脈を取り戻す事を悲願としてるドワーフ氏族からの精鋭達(封印の守人というらしい)や、監視作業に交代で派遣されてる一流冒険者達、冒険者ギルドの所員、さらにはここに魔王軍を駆逐した勇者がやってくるとどやってだか聞きつけたドワーフや人間その他のギャラリーが数百人単位で集まってしまっていた。


「危険はたぶん無いと思うけど、邪魔はさせないでね」


 ドワーフ氏族の代表として封印の扉を開閉を司る封印の守人の代表、グレゴランというドワーフの老人が進み出た。若い頃は見事な赤毛だったらしいけど、だいぶくすんでしまっていて、人間だったらとっくに立ってられないくらいの老齢らしい。


「創司様。魔王軍をも単独で退けたあなた様のお力。どうかドワーフ氏族の悲願を叶えるため、お貸し下さい。悲願が成就された折には、ドワーフ氏族は全て、あなた様の配下となります」

「そういう重いのあんまりいらないんだけどね。とりあえず邪魔はしないでおいて。野次馬は、そうだな。ここがぎりぎり見えるくらい、数百メレは離しておいて」

「わかりました。しかし、私を始めとした封印の守人達は」

「全部で五十人くらいだっけ。なら、自分が展開する手勢の後ろにでも控えてて。もし何か自分で手に負えないような事が万が一起きたら、ここで食い止めるんじゃなくて、世界に警告を発して」

「承知しました。ご武運を祈っておりまする」

「大丈夫だと思うよ。任せておいて」


 自分はもうすでにパペルガグラビトンに搭乗していた。ギャラリーが遠ざけられ、封印の守人達が梯子などを辿って、封印の五カ所に設けられた錠に鍵を差し込み、秘儀とされる開封を始めた。

 こちらも、1/144サイズのド○やア○グやブラ○・ブロ達を展開していく。耐熱性が高いというアグラーマというやはりこの世界にしかないというファンタジー金属製。それぞれのモノアイには通信可能なビデオカメラとかも取り付けられてて、坑道内をかけ巡りながら、この正面入り口へと魔物達をおびき寄せてもらうのだ。アッ○さん達にはそのドリルを使って逃げ道作ったり別のミッション任せてたりするけど。


 封印の扉に隙間が出来ると、黒い○ム3機が先行して突入した。彼らのボディーには魂鋼もふんだんに使われていて、サイズも1/35と大きめでSPも多めに渡してあった。彼らにはアムカストラの災厄の位置を探り当て、可能なら入り口方面に誘導してもらう大役を任せていた。

 自分も抹殺銃ターミネーターのロングバレルバージョンを銃座に添え、脇には30mm八連バルカン砲を同じ様に構えた陽奈人形が、そして二人の手前には、これまで出番を与えられなかったモビルスーツ作品達五十体が、それぞれの獲物を構えた。


「自ら動く人形の軍勢、だと?!」


 職人魂も併せ持つ封印の守人数名が近寄ってこようとしたけど、そうでもないらしい純戦士系の数名がかりで引き留められてた。一番強引に引き離されていったのがグレゴランさんだったというのはもはやお約束だろう。

 ちなみにマクリーニャさんの乗るベ○ッガイさんは、俺と陽奈人形の間の後ろだ。もし万が一の事態があれば逃げるようには伝えてある。浮遊城も背後上空にステルス状態で控えさせてあるし、問題無い筈だけどね。

 

 封印の扉が開ききると、幅15メートル、高さ10メートルの大通路が姿を現した。作品達がポジションを微調整して通路の全空間を射界に収めていった。


「さて、楽しもうじゃないか。これだけの機体数同時展開して派手に稼げる機会があと何回あるかわからないしね!」


 ギャラリーも多いし、また近寄ってこられても面倒だと、グレゴランさんや他の皆さんの為に、いくつかの空中スクリーンを設営したのだった。



<グレゴラン視点>


 扉が開ききり、開錠作業を終えた連中が戻ってきた頃には、自分の頭も少しは冷えていた。


おさ、もう暴れませんか?」

「あ、ああ。すまんかったな。年甲斐もない姿を見せてしまった」

「あのパペルガグラビトンという大鎧も、あのヒナ人形という生きているとしか思えない人形ひとがたも、この世界のことわりから外れた技術で創られてますからね。長みたいな職人上がりには這いずってでも近づこうとする気持ちはわからんでもないですが、って、長!」

「ひ、髭を引っ張るな!」

「長が聞き分けないからでしょうに!勇者様の気分損ねたらどーするんです?もうこれ以上の機会なんて今後もう二度と来ないんですよ?!」

「わ、わかっておる。じゃがな、あの小さな人形というかあんな者達で地底からわき出た魔物達を狩れるのかと・・・」

「それは口実ですよね」

「幾度もの奪回作戦がどう失敗してきたのか、我々からも冒険者達からも、わずかな生き残りが伝えてくれた情報は全て勇者様に伝えてあります。後は、信じるしかないでしょう」

「じゃが、じゃがなぁ、あれらが活躍する様を、もっと近くでもっと詳しく見たいではないか!」

「年を考えて下さい年を!あまりにも聞き分けないなら、私の権限で解任して、監禁しますからね!ここなら一応見えるけれど、完全に見れなくなりますよ!」


 などと数分やりとりをしていると、パペルガグラビトンの頭上に、縦横数メレずつの何かが映し出された。


「あれは、なんだ?」

「もしかして、帝国の者達が見せられた動画や映像というものでは?」

「見ろっ!あれは大通路からさらにずっと先、三階層は下のメレジュオ通路だ。どうやってあそこまで?」

「扉が開き始めた頃に先行していた人形達がいた。かなり素早く動いていたから、そいつらの視界が映し出されているのでは?」

「見ろっ!大通路に魔物の姿がっ!」

「通路の地面すれすれを紫色の人形達が滑るように進んで魔物達を引き寄せているのか」

「数が、多いぞ」

「前回扉を開いた時からすでに五十年以上が経っている。ずっと浅層で待ちかまえていた者達なのだろう」

「身長2メレはあるアグラーマ・ゴーレムだけで五十体以上は見える」

「あいつには鋼鉄くらいの硬度の武器は一切通用しない。勇者様はどうされるつもりなのだ?」

「天井を伝ってあいつらも来てるぞ!アムカストラの悪夢の眷属達だ!」

「前回は、あいつらを振り切って扉を閉めるだけでも多大な犠牲が出た・・・」

「蜘蛛の魔物の類でありながら溶岩地帯を住処とし、その糸はミスリル以上の魔力を通した刃でないと断ち切れない」

「そんな糸を吐いてくる子蜘蛛達が数百、数千。これは、長・・・」

「覚悟を決めろ。腹をくくれ。今更じたばたあがいても仕方あるまい。一人で魔王軍を退けたという勇者の実力、見せてもらおうじゃねぇか」


 そしてわしは、地面にどかりと腰を下ろし、十メレ以上は先の大通路の入り口を塞ぐように展開した勇者とその手勢が、どう戦おうとしているのか、中空に映された映像とやらに見入った。


 先ず吼えたのは、銀色の巨躯の鎧が構えた細長い筒の武器。筒の先が白銀に光ったかと思うと、映像に映されたアグラーマ・ゴーレム達がその体の中央を貫かれて、光の粒子に姿を変えていた。


「待て待て待て!あいつらだって魔法抵抗力はそれなりだ!今のが雷の魔法の類だったとしても、一撃で十体以上を直線で貫いて倒すとか、あり得ないだろ!?」

 近くの若めのドワーフが叫んでいたので殴って黙らせた。

「あれは魔法じゃないわい。何かを撃ち出した。その何かがとてつもない硬度と速度をもってゴーレム達を貫いて倒した。今わかるのはそれくらいじゃわい」

「し、しかしあれがそんな高威力だとしても、だからこそ、連発なんて」

「見て見ろ。しとるじゃろうが」

 わし自身、見ていて信じられなかったが、数秒に一発発射される何かは、直線状に敵を貫き倒して続けていた。

「だ、だけど、いくら直線で倒しても、あの数は無理・・・」

 そう言っていたドワーフ達もいた。思わず自分の獲物を構え、今にあの入り口から魔物が溢れてきても我が身を投げ出せるようにと。良い覚悟だったが無用だった。

 ブオオオオオオッという音が響き、美しい女体の人形が構えた八つの細長い筒が円状に連なった何かは、その筒の先からやはり何かを吐き出し、アグラーマ・ゴーレムや通路を満たす魔物達を粉砕し始めた。


「な、なんだ、何が起こっている?」

「落ち着け。あれはきっと、八つの筒の先から順々に、勇者様が放っておるのとは違う何かを立て続けに放ち続けておるのだろう。ああ、近寄りたい。近寄って触れて分解したい。じゃが、今はそんな時ではないことくらいは、今のわしでもわきまえておる」


 そして入り口から子蜘蛛達の群の先頭が100メレを切るくらいに到達すると、小さな人形達も似たような攻撃を始めた。

 数え切れない子蜘蛛達は、その糸を吐き出せる距離にまで近づく遙か手前で細い光線に貫かれ、次々に光の粒子になっていった。

「す、すげえ・・・」

「めちゃくちゃな勢いで倒してる!」

「だ、だけど、じわじわと近寄られていってないか?」


 子蜘蛛達の先頭は、100メレ地点くらいだったのが、70メレからさらにじわじわと押し込んできていた。

 さらにその先頭が50メレに達しようという頃、新たな手勢がおよそ五十体以上の人形達のさらに隙間を埋めるように展開していた。それはやはりドワーフや人間達が見たことのない上下で大きさと形の違う長方形に、円形の足の様な何かが左右についていて、勇者や女体の人形が持っているような武器がそれぞれに取り付けられていた。だが、その大きさは15から25サンチも無いくらいだったものの、その数は百から二百。さらにその何かに乗っていた身長5サンチ程度の人形が千体ほどだろうか。手に手に小さな武器らしき物を持ち、子蜘蛛達の先頭が50メレに達した辺りで攻撃を開始した。

 それは、細かな光の豪雨の様だった。細さが数ミレから1/10ミレも無いくらいの光の筋が子蜘蛛達を残らず蜂の巣というのも生温い穴だらけにしていき、標的は死体となりつつ、光の粒子となって大通路に降り注ぎ続けた。


「す、すげえ、あの物量を、倒しきっている!」

「アグラーマ・ゴーレム達も勇者様とその従者様とで全滅させてる。後続はまだまだ来てるけど、でも、これなら!」

「アムカストラの悪夢と災厄。両方を倒せれば、だな」


 だが、勇者とその手勢は、途切れることのない敵に全くひるむことなく、撃ち倒し続けていた。

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