第13話 スキルレベル上げとマクリーニャと

 さて。三ヶ月を長いとみるか短いとみるか。

 元の世界には無かった素材を集め、スキルレベルを可能な限り集め、また新たな世界に渡った時に必要になりそうな何かを作っておく。野良魔物も可能な限り狩って、SPも集めたいし。


 今の自分のステータスは、こんな感じだ。


名前:三田創司

種族:人間(オメガ世界)

状態:人間

レベル:79

体力:32

筋力:25

素早さ:16

集中力:100

器用さ:100

HP:326

SP:723,490

EXP:3,736,029

ユニークスキル1:GDプリンター

 スキルレベル:15

 スキル経験値:178,240

ユニークスキル2:魂込め

 スキルレベル:2

 スキル経験値:25

ユニークスキル3:???

出撃可能作品数:1000+78


 ユニークスキル2の魂込めのスキルレベルも経験値も低いままなのは、その素材が集まらないから。ぶっちゃけこのスキルは普段使いするようなものではないから気にしない。

 それよりは、GDプリンターのレベルを20、欲を言えば30まで上げておきたかった。その為には、ひたすらに創り続けなければならない、のだが。


「勇者様。今日はどちらに参りましょうか?」

 なんかもうすっかり浮遊城暮らしが板についてきてしまったマクリーニャさんがいた。お付きの人と一緒に、毎日どこかに遊びに行こうと誘ってくる。

 その度に陽奈人形がこめかみに血管?を浮かべそうになるのだが、他意は無い。いくら彼女が猫耳娘で、白と水色が混じった毛並みの耳と尻尾がとてもカワイらしくぴこぴこ動いていても、手を出してはいけない。

「今日もどこかの野良ダンジョンとかで素材集め部隊を派遣して、何かを創りながら、ぶらぶらしようか」

「昨日は南西のマルジェーユ湿地帯でスライム狩りでしたよね。どんな物を創られたんですか?」

「衝撃吸収パッドとかかな」

 テーブルの上に、半透明のゴム板の様な物をインベントリーから取り出してみせた。

「触ってもいいですか?」

「どうぞ。その為に出したんだし」

「じゃあ。って、これ、ぐにぐにしてますね。固くないですけど、衝撃を吸収できるんですか?」

「うん。装甲板の間に挟んだり、鎧の内側に取り付けるだけでも結構変わると思う。それに、靴底とかも有用だろうね」

「装甲板の間とかはまだわかりますけど、靴底、ですか?」


 首を傾げる仕草がめちゃかわいい。やばい。元の世界にケモミミ女子とかいなかったし、メイド喫茶とか行った事無かったし、そういう属性は無かった筈なんだけど、付け耳ではない天然物の威力というものなのだろうか。

 後ろに立ってる陽奈人形が、しゃーっとか威嚇してるし。え?しゃーっ!って、喋ってないそれ?振り向いたらそっぽを向いてエア口笛に切り替えた。空耳?まぁいいか。


「ちょっと、足のサイズ見せてもらってもいい?」

「はい、どうぞ?」


 テーブルの下で両足をこちらに伸ばしてくれた。もちろん、テーブルの下に潜り込んで、とかしませんよ?ちょっとのぞき込んで、目視でサイズ感つかんだら、GDプリンターで足形をスキャンし、底にスライム製の衝撃吸収材を敷き、布でつま先から足の甲、足首までを覆うようなシンプルな靴を創作。

 新しい素材で新しい何かを創るとスキル経験値的にもおいしい。色は、マクリーニャさんの毛の色と揃えた。


「履いてみて。どこか当たって痛いとか、ぶかぶかだったりしたら、サイズ調整とかもすぐ出来るから」


 マクリーニャさんは、履いていたサンダルを脱ぐと、初めて見る形の靴に驚きながら、足を差し入れてみた。トントンとつま先で地面を叩いたり、ちょっとジャンプしたり、歩いてみたり走ったりしてから戻ってくると、俺の両手をつかんでぶんぶんと上下にシェイクした。


「すごいですっ、創司様!こんな靴、初めてですよ!足にぴったりで、あんなに動き回ってもどこも痛くならなくて!」

「そ、そう。気に入ってもらえたなら嬉しいよ。なんだったら代えのもいくつかとか、お付きの人のも創ろうか?」

「ぜひっ!ラーシア、創ってもらって。すっごい動きやすいから」


 お付きのラーシアさんは、黒子というような感じで、用事がなければ口を開かない人なんだけど、


「私めなぞにもったいないです」

「いえいえ。こっちもスキル上げの肥やしになるので、ぜひ創らせて下さい」

「はぁ。そこまで仰られるのであれば」


 ラーシアさんの履いてたのは、上等な皮製の靴だった。靴底は厚めの皮だったけど、衝撃吸収性なんて皆無だろう。デザインはほぼ踏襲したけど、スライム素材の底と布は融着したし、紐を通す穴とかも現代工業製品並の精度を持った金具を創って使用したので、見た目はかなりグレードアップした。

 ラーシアさんは、恐る恐るといった感じで靴を受け取り、丁寧に靴を履き替えると、さっきのマクリーニャさんと同じように動き回ったりした後、頭を下げてお礼を述べた。


「あの、ありがとうございます。こんな靴、本来なら大貴族様でも手に入らないような物なのでしょうに」

「気にしないでいいよ。自分が好きで創ってるだけだから」

「創司様!私にも同じ感じの創ってもらえますか?」


 あれ、いつの間に名前呼びに変わった?と思いつつ、快諾しようとした時だった。


「いいです、よっ!?」


 陽奈人形が俺の両肩を掴んでぐりんと体を振り向かせ、自分の足下を指さした。


「言いたい事は分かった。だが、お前に靴は必要か?

 浮けるし、空中起動できるし、それに普通の靴だとすぐに破けたり壊れたりするだろ」


 そういう事じゃない!とかぶりを振りながら地団駄を踏む陽奈人形。他の人がもらってるんだから自分も、という事なんだろうけど。


「まぁ、外装と同じ感じでそれらしく整えればそれでいいか?」


 ちーがーうー!というアピールなのか、体を前後にがくがく揺さぶられた。体力や筋力を上げておいて良かった。骨身がきしんでない。

 ちなみに、元の世界でゾンビや魔物だらけだった時はほぼ裸体でも何も気にしてなかったけど、こちらの世界に渡る前に、体は鎧の様な外装を身につけるように換えていた。ただ、基本的に戦闘用の体だし、実家から持ち出した衣服は素体の上から着れない事はなかったけど、着た状態で戦闘に入ればあっという間に服がおしゃかになる事は、幾度かの戦闘後に明らかになっていた。だから、この場でマクリーニャさんやラーシアさんに創ってあげたような靴を創っても、同じ運命を辿る事がほぼ確定していたのだ。


「あの、お洒落なんて、気分の問題なんですから、創ってさしあげたらいかがでしょうか?」


 マクリーニャさんが、陽奈人形を気の毒そうな同情の眼差しで見つめて言った。

 陽奈人形としては、同情されるのは半分気にくわなかったらしいが、いい事言った!とサムズアップしていた。意味通じるのかなそれ?マクリーニャさんも同様にサムズアップ返ししてみせたから、通じたらしい。さすが勇者召還を担う巫女の系譜?!


 何はともあれ、俺はもう議論する気は起こさず、GDプリンターで陽奈人形の足形をスキャンし、マクリーニャさんの靴の底板の二倍、いや三倍の弾力を持つ衝撃吸収素材を選び、足の甲を覆うのも布ではなく、スライム素材にしてみた。

 陽奈人形の足は地表から少し浮いてたので、GDプリンターで創造したものをそのまま実体化して履かせた。


「底板はかなり強めのを選んで、皮もスライム製のだから、ある程度無茶してもすぐには破れないかもだけど、試そうとするなよ・・・、ってオイ!人の話聞け!」


 陽奈人形はよほど嬉しかったのか、浮遊城の外郭を囲うベランダ通路、一周約200mほどを風を巻き起こす速度で何周もしやがった。

 いちおう靴は無事だった。GDプリンターの製造レベルのおかげだな。


 戻ってきても飛び跳ねてる陽奈人形に言った。


「喜んでくれてるのはいいけど、戦闘時には脱げよ?さすがに壊れるだろうから。間に合わなければ気にするな。また創るからさ」


 陽奈人形はまた何かをしばし悩むと、靴を脱いで返してきた。インベントリーに仕舞っておけという意味にとらえてその通りにした。


「また履きたくなったら出すから言え。てゆうか、陽奈人形にも専用のインベントリー創れたら便利だよな。武器交換とか、いちいち俺が手を貸さなくても済ませられたら、だいぶ戦闘時に取れるオプションも増える筈だ・・・」


 インベントリーは、俺に付随したスキルだから、他人には利用不可だと思いこんでいたけど、魔法のバッグやアイテムボックスや四次元ポケットみたいなの、創ればいいだけじゃないかと思いついた。

 今ならSPの余裕はあるし、容量小さめなら、そんなにSPも消費しない、筈、だ。


 えーと、確かラノベとかだと、魔法のかばんとかにしろ、魔法陣がキーになるんだっけかな。そんなん知らないし、今から学ぼうとしたら時間かかり過ぎるし、たぶん自分には要らない。

 四次元ポケットみたいなのの鍵は、要は収納と接続だ。自分はもう自分用のは持っている。だからそこに接続できるようにすれば良いだけ。だったんだけど、自分に何かあった時にインベントリーにアクセスできなくなってると、それはそれで致命的なタイムロスにつながる可能性もある。

 そして、自分はもう接続手段に関しては手にしていた。異世界間をつなぐ技術を応用した鏡だ。


 インベントリーにつなげるのとそうでないの、どちらを先に創ろうかと思ってたけど、ふと思い出した事があった。

 自分が創って使ってる銃器類の給弾は、弾倉付けてるものもあるけど、その中身が空になれば自動的にインベントリー内にある予備弾薬が補給される仕組みになってた。これは浮かぶ部屋だった頃の砲台とか、フィギュア部隊が使ってる銃器の類も同じだった。20mm六連バルカン砲とかもそうだけど、フィギュア部隊の銃弾も弾頭の表面部だけを薄くSPで覆う事で攻撃力を高めつつSP消費量も極小にまで抑えている。フル・メタル・ジャケットならぬ、サーフェイス・ソウル・ジャケットって感じかな。


 ともあれ、この話で肝要なのは、自分の作品であれば自分のインベントリーにアクセスできるという事だ。

 戦況に応じた最適なオプションパーツを、作品達自身が選んで装着あるいは脱着して換装するとか、胸熱ですなっ!むはぁっ!


 一人で興奮してると、側にいたラーシアさんや陽奈人形は若干引いていた(陽奈は慣れてるといえば慣れてるので懐かしいものを見る表情でもあったけど視線は生暖かいものだった)けど、マクリーニャさんは興奮してる俺を見て興奮してくれてた。なぜに?


「創司様!何かすごい事を思いついてしまったんですか?次はどんなすごい物をお創りになられるんですか?」

 距離も近めで猫耳美少女に迫られると、こう、今までに感じた事のない何かがぐっと込み上がって来る気もした。これは、付け耳や付け尻尾なんかのコスプレでは不可能な何か。だと思っておこう。

「ええとね、自分は自分のインベントリーから自由に物を出し入れ出来るけど、自分の作品も同じ様に出来たらかなり便利だし戦いにも役立つんじゃないかって思ったんだ。武器の弾薬が自動的に補給されてる事に気付いたから、技術的にはもう確立されてるし、後はどういう形にすればいいかだけなんだけど」

「おおーっ、すっごい発明ですね!さすがですっ!」

「そ、そうかな?まぁすごいのは裏でそういう想像を実現化してくれてる神様の力なんだけどね」

「それでも、その力を使いこなしてるからこそ、私や姉様や他のみんなも救ってもらえたんです。だから、創司様はすごいと、私は思います」

「ほめてくれるのは、嬉しいよ。ありがとう。そうだな。最初は陽奈人形用の装備とかを優先して創るけど、その技術応用した何かを創ってあげるよ」

「今日はもう素敵な靴を創って頂きましたし、創司様が気が向いた時に創って頂ければ、それで十分です」

「忘れないようにするよ」

「そのお気持ちが嬉しいですっ!」


 尻尾がぶんぶん振られる様が、やばい。瞳もきらきら輝いてて、背後で陽奈人形が威嚇音を発してるような気もするけど、目はなかなかマクリーニャさんから離せなかった。



<マクリーニャ視点>

 勇者召還の巫女役は、誰でもがその力を授かる訳ではない。女神ミーリア様による選別が行われるけど、勇者が召還される時期の巫女は、獣人系の血を発露した娘、自分みたいな者が選ばれる事が多かった。

 勇者様の世界にはいない存在で、一部の勇者様には、とても刺さる・・・らしい。現に、スタイルがとても良い姉様や陽奈様、メイド姿のラーシアにはあまり関心を示さないのに、創司様は私の頭部にぴんと立った猫耳や尻尾には、目が釘付けになっている事が多い。さりげない風にちらちらと視線を向けてて、いかにも触りたがってるのに我慢してる様子も伝わってきていた。


 触ってもいいですよ?、とはとっくに伝えていた。この身命は勇者様召還の為に女神様を通じて既に捧げられたものですからと繰り返し伝えている。彼が来てくれていなければ、私も姉様も他の生き残ったみんなも、ほぼ全員死んでいたのは確実なのだから。

 帝城と帝都を襲っていた魔物を壊滅させたり、外壁などの修繕、他のいくつもの都市や城塞も救い、魔王軍も撃滅してしまった。創司様お一人の力で。

 姉様や、生き残った帝国首脳部達とも話し合って、すぐに方針は打ち出された。創司様が望むものが何であれ差し出すと。女性であればほぼ誰でも。既婚者を望まれた場合ですら本人が応じればという条件付きではあるものの、誰でも創司様の望みに応えると伝えていた。もちろん、私や姉様を筆頭にだ。

 だが、創司様は、女性だけでなく、金銭や装飾品、魔法の武器や防具や道具や邸宅や地位や領地などにも、ほぼ全ての褒美の品の数々に関心を示さなかった。これからいろいろ入り用になるだろうし、気にしないでいいと仰って下さった。

 関心を示したごくごく例外が、彼の世界には無かった鉱物や、魔物由来の素材、魔力を充填したオーブといったエネルギーに関する様な物だったけど、彼はいくつかをサンプルを得て、どこで狩猟ないし採取可能かとかを尋ねて、後は自分で取りに行くからいいというくらいで済ませてしまった。


 もちろん、お礼をする側のこちらとしては、それで済まされる筈も無い。姉様や母様達とも話して、私は大役を任されていた。彼に見初められ、彼に望まれ、彼のつがいとして、彼と結ばれ子を成す事だった。もちろん、私もそうなる事を望んだ。

 ヒナさんの気持ちとか心情には気を使う必要はあるだろうけれど、それはそれ、これはこれだ。帝国の伝統とも言えるけれど、帝国皇帝の血筋に勇者の血脈を取り入れてきた。

 特殊なユニークスキルとかがそのまま発現する事はほぼ皆無と言い切れるくらい低確率だったけれど、身体能力やスキル的に優秀な子孫が生まれる確率は高かったのだ。


 だけど、私はそんな建前はどうでも良かった。まぁ確かに、死んでしまった兄様達と比べたりすれば、外見的にはどうしようもないくらいの差があるだろう。身長も、女性として背の低い方の自分とさして変わらないくらいだし、体形的にもぽっちゃりしてたりするが、それがどうしたというのか。

 異世界から召還した勇者は、優れたユニークスキルやステータスを与えられた者ほど傲慢になりがちで振る舞いも荒くなりがちだった。魔王を倒すほどに育った勇者様が英雄譚で人生を終われなかった例など珍しくもなかった。

 魔王を倒す事を選択しなかった創司様を責めたい気持ちは、私の中にも無いではなかった。でも、彼はどの勇者も成し得なかった、魔王との和平を勝ち取ってきた。人類側が望み守る限り破られない和平だ。もう次の勇者様は得られないのであれば、おそらく最善の判断でもあると姉様達も同意した。


 どんな勇者様が現れても、私はこの身も心も捧げると女神様に誓っていた。それは果たされなければならない約束。私は女神の巫女なのだから。

 でも、そういった堅苦しい事のせいだけじゃなくて、創司様となら、仲良くなれる気がしたのだ。魔物の群れを一方的に殲滅してしまう空恐ろしい存在であるのも確かなのだけれど、誰も創った事のないような何かを創って、誰かにあげて対価も得ずに喜べてしまえるような人なのだ。もらった側が心苦しくなってしまうくらいに。それでいて、彼を利用しようとする人は遠ざけるくらいの思慮がある事は簡単に見て取れた。単なるお人好しでも無いのだ。たぶん、ちゃんとした大人なのだ。


 自分は獣人の系譜として身体的にも、帝国の法でも、十五歳として大人になっていた。誰とでも結婚できるし、子供を作る事も出来る。ただし、勇者様の世界だと二十歳以下は未成年の子供として扱われ、二十歳以上でも勇者様と年齢差があり過ぎると、勇者様側が受け入れようとしない事も何度もあった。

 ヒナさんとの関係を見るに、創司様は、おそらく臆病だった。押しすぎてはいけない。ちゃんと、彼が望むように、そして私も望むような形で、関係を築き上げていかないといけない。


 今日は、ヒナさんの腰周りにポーチの様な物を取り付けて、外見上のサイズとは全く釣り合わないサイズの武器なんかを取り出せるようになっていた。

 私にも似た類の何かを創ってくれると言ってくれてたけど、お断りしておいた。もう本当に、靴くらいのものでも十分過ぎるのだ。こちらからは何もお返し出来ていないのに。

 それでも何か欲しい物は無いかと聞かれて、彼が召還している小さなゴーレムのような何かを私向けにも創ってもらえないかと頼んだ。快諾された。その後ろでヒナさんが悲しそうな表情を浮かべてたので、ちょっとだけ頭を下げた。ごめんなさい。でも、私も退けないのです。


 翌日の朝には、かわいらしい熊のぬいぐるみ的な何かを贈られた。名をベア○ガイさんというらしい。彼が召還し、使役してる人形達はとても凛々しく戦闘向きな何かという姿をしているが、この一体はおもむきが違っていた。とても好ましい方向に。ヒナさんが何かものすごく悔しそうにしていたけれど、これも必要な課程だと受け入れてもらうしかない。

 かわいらしい姿だけど、両手や口などに仕込まれた武器で、そこらの魔物ならこれ一体で殲滅できてしまうらしい。

 とても気に入ったので、うれしさを抑えきれなくて彼を抱きしめてしまったけど、一瞬だったので許してもらいたい。彼の手が私の耳や尻尾に触れたがってでも思いとどまるよう引かれたので、尻尾の先で彼の手に触れて、いつでもいいんですよ?と耳元で囁いておいた。


 さらに数日後には、身長が2メレ以上あるベアッガ○さんを贈ってもらってしまった。彼の白銀の鎧と同じく、着込むというより、中に乗り込んで操縦するという代物だった。どんなドレスや宝飾品や恋のうたなどを贈ってもらうよりも、嬉しかった。

 贈り物を固持しても彼を困らせるだけなので、


「ありがとうございます。とっても、嬉しいです」


 と伝えて、今度は彼を正面からぎゅっと抱きしめた。尻尾の先を彼の片手に絡め、もう片方の手を私の耳先へと導いて触れさせた。

 いいの?と聞いてきたので、いいんですよ。お好きなだけどうぞ、と囁いた。

 最初は怖々と、触れるか触れないかくらいだったけれど、自分からすりつけるようにしたら、柔らかく優しく触れてきてくれた。私も嬉しくて気持ち良くなってきて、彼をもっときつく抱きしめて、体を押し付けた。


 ヒナさんや他の人が周りにいなければ、もっと欲張ってしまったかも知れない。彼がしばし私の耳や尻尾を堪能した後、


「じゃ、じゃあ、そろそろ、機体の操縦方法とかを教えるよ」


 と伝えてきたので、名残惜しそうに身を離した。

 この機体は単なる飾りとかプレゼントではなく、一緒に迷宮ダンジョンに降りて、経験値を稼ぎレベルを上げる為に、創ってくれたらしい。また嬉しくて、彼の腕に抱きついてしまった。機体の操縦方法を教わる時とかも、互いの体温が伝わるくらいの距離を保って彼をどぎまぎさせたりした。


 彼がまた違う世界に行くまで三ヶ月と言っていたけど、そこまでは時間をかけられない。出来れば一ヶ月で、そして彼が去るまでの間には授かっておきたい。

 彼を怖がらせずに、彼に私を狩らせてみせましょう。猫人は、優秀な狩人ハンターでもあるのですから。

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