第12話 魔王との対話

 迷ったけど、浮かぶ東屋あずまやみたいなのを創って、そこでサシで話し合う事にした。50万SPとか持ってる相手に、数千から数万SP程度の護衛が何人ついててもほぼ無意味。


「自爆されて一連託生とかバカらし過ぎるでしょ?ほら、自分は単純に殺されても生き返れるからさ」


 陽奈人形が一番最後まで納得してくれなかったけど、それでもついていくと主張するならステータスウィンドウの中に戻すと言ったら、それで折れてくれた。いざとなればその場に召還出来るけど、意味無いけどね。


 次期皇帝始め、魔王には何言でも言ってやりたいとか復讐したい人達だらけだったので、彼らは全員お留守番。浮遊城で粗相したらそのまま地表に投げ落とすと脅しておいた。

 巫女さんに願われて中継はしてあげる事にしたけど。


 さて、東屋を日本風の茶室にするのも考えたけど、あちらにすればイミフだろう。西洋庭園とかに設置されてるような無難なのにした。

 テーブル越しに向かい合った。恐ろしい程の美形男子だ。イケメンなんてレベルではない。頭の左右から伸びてる赤い角とか、瞳が紅いとか歯が牙の様に鋭いとか、服装が原宿系ならワンチャンいるかもとか、人によっては些細な減点はするかも知れなくとも、容貌は神様レベルと言えた。


「マウヴェスだ」

「創司だよ」

 茶も茶菓子も出すつもりもなかったし、向こうも気にせずどかりと腰掛けた。握手とかするのかなと思わないでも無かった自分は、ほんの少し動かしかけてた片手をさりげなくお尻の脇に置く事によって何かをごまかした。たぶんうまくいった。俺以外誰も気にしてなかったとしても。


 そんな自分の心境は全く気にしてない風にマウヴェスは言った。

「お前は、何者なんだ?」

「何者って言われても、人間で、創司って名前ですけど」

「勇者だとしても、これまでに召還されたどの勇者とも違い過ぎる。何なのだ、貸し与えられたラフウェル三体を召還直後の一番弱い筈の時でさえ退け、数万体の魔物の群れを独力でいくつも殲滅していくとか。あり得ないだろうが」

「まぁ、普通の勇者だったら召還即エンドだったのは同意します」

「お前も、死んだ口だったのか?」

「おや、あちらの事情をご存知で?」

「断片的に、だがな。勇者が召還される筈が無いタイミングで大規模攻勢をかけ、勝利に勝利を重ね、完全勝利をお前一人にひっくり返された」

「神様なんてものが絡んでくれば、何だってありでしょう。で、あなたは首謀者に隷属させられてるんですか?」

「もしそうなら、されてると答えると思うか?」

「隷従させられる条件次第では?特定条件に背かない限り、普段は自由にしてられるとか、ありそうじゃないですか?」

「人間や勇者、魔物や魔王が考えが及ぶような範囲で、刃向かう事を許されてない、くらいは言える」

「なるほど。で、首謀者の名前は?」

「言えない」

「首謀者の目的と、あなたの役割は?」

「目的は知らない。俺は単なる名義貸しの様なものだ。その報酬に大量の魂リソースを受け取り、魔王軍や自分を大幅に強化した」

「それ、先行投資っていうか、借金ですよね?」

「人類社会では、そうとも言うかも知れないな」

「利率は?」

「言う事に従ってれば、利息は取られんよ。借金の返済も求められない」

「ふむふむ。あなたはあなただけでも人類をとっくに滅ぼせた筈だったのに、なぜそうしなかったんです?」

「言えない、というかお前も知っているのではないか?」

「自分がこの世界に来てからまだ一週間も経ってないんですよ。何も知らないです」

「お前の元いた世界から奪われた膨大な魂リソースは、もう予測はついてるだろうが、この世界にはない」

「らしいですね。首謀者の世界に乗り込んで、魂リソースを保存してる器みたいのを破壊すれば使命達成てのが楽で良かったんですが」

「お前は、神と戦って勝つ気でいるのか?」

「まぁ、神様たって、いろいろでしょうから、どの神様ともとか言う気は無いですけどね。あなたでも、有象無象の類のなら相手にもならないのでは?」

「見かけ上の魂リソースの差異だけが強さではない事くらい、お前なら分かっているだろう?」

「そうですね。SPを使ってSPを稼ごうとするの、効率悪過ぎですし」

「SPとは魂リソースの呼び方の一つか?まぁ、それは事実だろうな」

「今回、魔王領を攻めてて、首謀者の手先みたいのが出てこなかったのはなぜなんです?」

「お前、分かってて言ってるのか?煽ってるのか?ああ?」


 超美形がマジギレすると超おっかない事を俺は学んだ。超無駄な知識だ。超要らない。


「マスドライバーで巻き添えにして倒したのもいるでしょうけど、SPが5000から10000以上あるような個体なら、自分がいた所にそのまま転移してこれたんじゃないんですか?」

「お前、さっき、SPを使ってSPを稼ぐの効率が悪すぎるって自分で言ってなかったか?」

「言いましたけど、それが何か?」

「農作物の穀物とかでも、一粒の種から数倍から数十倍、種類によっては数百倍の収穫を得るとか、普通だろ。生物の生殖による結合と細胞増殖とかだってそうだ。だとしたら、何が考えられる?」

「そんな通常手段が行えないような非常事態に陥った。だから、大量の魂リソースをどこかから奪ってこざるを得なかった?」

「俺も正確な内情は聞かされてないから、正解は知らない。だが、お前が言った推測は当たっている可能性があると思うぞ」

「ふーむ。それで、あなたが首謀者に選ばれた理由は?」

「似たり寄ったりな理由だ。人類側からの侵攻ははるか昔から続いてた。勇者なんてチート野郎どもの相手を何度させられてきたと思ってる?やっとこさ倒しても、連中に傷つけられた領土と人口を回復した頃には、次の勇者が召還されるんだ。やってられるかってんだ」

「だから、取引に乗った?」

「もう勇者が召還されなくなるなら、それだけでもメリットしか無かったからな」

「まぁ、ぼくの目的はあなたを倒したり魔族をゼロにする事じゃないので、あなたを生かしておく事にあまり頓着はありません。あなたの持つSPは惜しいですが」

「あくまでも、奪われた魂リソースの奪還が目的ってか」

「それは神様の目的であって、ぼくの目的からは外れてますけどね」

「お前の目的はなんだ?」

「秘密です」

「教えてくれたら、俺もお前が知りたい事を教えてやるぞ?」

「それが正しい情報だって保証できます?」

「隷属させられてるなら信じられるかってのもわかるが、信じる信じないはお前次第だな」

「あなたが人類を絶滅させなかった理由。魔王領攻撃してても首謀者のそれなりな手先がこちらを襲ってこなかった理由。どうやって奪った魂リソースを目的の形で転移させ保つ事ができたのか。ぼくが納得いく理由をくれれば、話してもいいですよ?あらかじめ言っておきますけど、ぼくの目的なんて本当にくだらないものですが」

「最後の一つは特に無理だな」

「じゃあ、あなたがぼくを首謀者の世界に連れて行ってくれたらとか、どうでしょう?」

「おいおいおい、正気か?」

「出来るんですね?」

「いきなりお前の言う首謀者の目の前に連れて行ったりしたらどうなると思ってるんだ?」

「どうにもなりませんよ。そのつもりがあるなら、とっくの昔にぼくなんて消滅させられてるし」

「適わない事も理解してるんだろ?なぜ行く?」

「そうしないと、奪われた魂リソースの取り返し方もわからないからですよ」

「それが奪い返せるかどうかも分からないのに?」

「どんな状態なのかもわからなければ、その判断も下せないし、完全に無理な事をあの神様は自分に頼んできてない筈です。だとしたら、たぶん、何とかなりますよ」

「お前、すげぇ自信家だな」

「知らないですよ。そんなの他人が勝手に判断するだけなんで」

「くっはは、いいぜ、連れてってやる。その後どうするかはお前の勝手だ」

「そしたら、お礼に、あなたを首謀者に隷属させてる何かを取り除いてあげましょうか?」

「いい、余計な事をしようとするな。これは俺をあいつから守る役割も果たしてる。神様ってのはお前が想像してるよりもずっと自由じゃない」

「世界そのものだから?」

「・・・・・・・・お前、ほんと何者なんだよ?」

「ただの趣味人ですよ。自分が創った何かが命を与えられて活躍するのを見て楽しみたいだけの、身勝手な人間です」

「神様に気に入られるわけだ。それじゃ、いつから行く?」

「いちおう、自分がここにいなくなってる間の平和も保たないといけないので、人類との間に和平条約でも結んでおいてくれませんか?そうだな、百年くらいでどうでしょう?」

「お前、自分が何言ってるのかわかってんのか?お前が俺を倒せば、魔族全滅させて史上初の人類の完全勝利に手が届くところにいるのに」

「勇者が魔王を倒した事なんて何度でもあった筈ですよ。じゃないと勇者がそれだけの数何度も呼ばれてた筈無いし。そんな歴史談義に興味も無いし、あなたの領土のめぼしいのはもう全部経験値EXP魂リソースSPにしちゃったから、ぼく的にはもう用が無いんです」

「お前が後から裏切らないって保証はあるのか?」

「それ言うなら、首謀者の世界に移動する時に、あなたはぼくをどうとでも出来るでしょう?だから、お互いに信じられるんじゃないかと」

「お前、変な奴だって言われないか?」

「言われ過ぎててもう気にならなくなりました」

「まぁいい。お前の言った条件は飲もう。だが、俺も旅立つ前にある程度の準備期間が要る。誰かさんが無茶苦茶にしてくれたせいでな」

「ぼくのせいじゃないですよ。先に手を出してきた方が悪いんですから」

「ちっ。それじゃ契約魔法使った書類作るから持っていけ。そこにサインした国主が約束を破らない限り、こちらからも破らない。まだいくつかの人類側の国に出張ってる軍勢はあるが、全部引き上げさせる。戦争やってるどころの状況じゃ無くなったからな」

「平和になるのは、良い事だと思いますよ」

「お前が言うな」


 なぜだ。

 その後もぶちぶち悪態をつきながら、魔王は一枚の書類を作った。一枚10円のコピー用紙に印刷したのと対極にある、無駄に立派な装飾と魔法が施された羊皮紙に書かれた何か。

 読めない筈の文字が読めたのは、きっと神様特典か何かだろう。受け取った書類はくるくる巻いてインベントリーにしまっておいた。


 再会の場所と合流の仕方を打ち合わせて、魔王とは別れた。浮遊城に戻ってからの事を考えると面倒臭さしかなかった。

 経緯を一応説明してみたものの、

「なぜ魔王を倒さないのです?!」

 て人達を説得するのは途中であきらめた。

「倒したいのならご自分でどうぞ。魔王倒せるのは、自分じゃないと絶対無理だと思いますが」

「できるなら、とうにやっておる!できないから勇者を」

「召還してきたんですよね。でも、もう召還できなくなりました。おそらく、自分が最期の勇者です。でも魔王は違います。それにさっきも話した通り、自分はこれからまた違う世界へ行きます。そっちが本来の行き先だったので。そっち行ってる間にあなた達が魔王に手を出したら、誰も守ってくれる人いませんよ?」

「だから、あなたが倒しておいてくれれば!」

「俺は、やらないと言っている。魔王は少なくとも、人類側から攻められない限り攻めないと契約書を書いて寄越した。これはたぶん王が代替わりしても後継者がサインすれば有効に機能する。良かったじゃないか。もう勇者呼ぶ必要も無くなって」


 ぐぬぬぬと悔しそうに歯噛みするおっさん連中をもう自分は無視する事に決めた。それでも騒ごうとする連中を、最後は、次期皇帝とか巫女さんとか本当の主要人物達が止めてくれた。これ以上騒げば自分が手を下すと。助かります、そういうの。


 いったん帝都へと団体さんを下ろしてから、しばし旅に出ると伝えた。それはそれで一方ひとかたならぬ波紋を呼んだけど知らん。

 巫女さんと付き人さん、他引退済み二名はどうしてもついてくる事になってしまったが、無理を言う人達ではないので受け入れた。


 さて、魔王が言うには短くても三ヶ月くらいはかかるって言ってたから、その間は異世界観光くらいはさせてもらおう。EXPもSPもスキルレベルも全然稼ぎ足りてないし、首謀者の世界は思ってたような状態じゃないかも知れないし。


 まだまだ先行きは遠い。それを楽しみととるか苦しみととるか、微妙なところだった。

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