第11話 終わらせ方についてと、魔王との闘い
異世界へと渡る前、俺は、じいさん神様と女神ミーリアに訊いてみた。
「奪われた魂リソースを奪い返すって大筋は聞いてますけど、どうやったら全部取り戻せるのか、まだ聞いてませんよね?」
じいさん神様は髭をしごき、女神様は両腕を胸の下で組んだ。意味あるのか?
「魔王を倒したり、その軍勢を全部倒したらおしまい、じゃないですよね?」
「ふむ、察しが良いのう」
「アルファ様。この子、もらえませんか?」
「ダメじゃ。今のところ、わしの世界の人類のほぼ唯一の生き残りじゃしな」
「ケチですね」
「ケチじゃと?これまでどれだけ」
「あーはいはい、そうでしたそうでしたね。私はあなたに頭が上がらないんでしたね」
おざなりなかけあいが一段落してから、もう一度尋ねた。
「魂リソース、どこにどうやって蓄えられてて、どうやって取り戻すんです?魔王を裏から操って支援してる奴がやばすぎて神様達でも手出しを控えてるくらい強いのなら、
「そこは、やり様がある」
「魔王城とかから、その邪神か誰かの世界に飛んで、そこに魂リソースを蓄えてる器みたいな何かを破壊すれば、奪われた魂リソースを元の世界に自動的に取り戻せるとか、そんな単純な話じゃない、ですよね?」
「なぜ、そう思う?」
「魂って、存在そのものが推測はされてても確認されてなくて、普段はどこかに貯められてて、適切な器が作られた時に自動的にそこに流れ込んで、魂を留めておけないほどに壊れたり劣化したらそこから去る。そんな性質の何かなら、普段は触れられないようなどこかに保存されてるか、すでに何かに宿ってる状態なんじゃないかな、と推測しただけです。魔王軍の軍勢にもある程度割り振られてパワーアップに使われてただろうけど、それは全体の一部じゃないかなー、と」
「じいさま、やっぱり」
「やらん。して、創司よ。お主の推測が当たってないにしろ完全に外れていないとしたら、どうすれば良いと思う?」
おれは少し間を置いて、本気で言ってるのか?とジト目でじいさん神様を見つめてから言った。
「質問に質問で返さないで下さい。そもそもの話なんですが、人類を絶滅させられたからといって、全地球の生命が断たれた訳じゃないですよね?だったら、魂リソースが、人類のは特別扱いなのかも知れなくても、全生命の内に占める割合からすれば、かなり少なくて、全宇宙レベルで考えれば、それこそ浜辺の砂の一掴みよりも少ない損失なのでは?やられっぱなしにしておけないという理屈はわかりますけど、あなたのゴールは何なんですか、神様?」
じいさん神様は、全身を痙攣させたかと思うと、クックックック、ふぉーっふぉっふぉっふぉとか大声で笑い始めた。
「わしの目的は最初から伝えておる。奪われた魂リソースの奪還じゃ」
「それには、相手の世界そのものを破壊するような行為が必要になるんじゃ?」
瞳が驚きでぴくりと開かれかけたけど、意志の強さで動きがキャンセルされた。まぁ神様だし、演技なんだろうけど。
「もしそうなら、魂リソースが奪われた時に、創司が住んでいた世界も壊されていたのではないかね?」
「奪った主体は、あくまでもウィルスだった。ゾンビ・ウィルスに感染することで、人はゾンビとなり、元々持っていた大半のSPを奪われた。ほぼ全ての人々は、自分の意志や人間性といったものを保てなくなった。失われた膨大な魂リソースの行き先は、本来ならこの世界の魂が還るべきところになる筈だったのが、どうにかしてその行き先は書き換えられた?そこまでゾンビ・ウィルスに仕込まれてたかどうかは知りませんけど。それでも主犯は魔王じゃないことははっきりしてる。その裏で糸引いてるという誰かか、あなた自身のどちらかしかいないのでは?」
「神同士で異世界間で魂リソースなどをやりとりする仕組みがすでに出来上がってる事は伝えては問題無かろう。人間社会なら、銀行預金と振り込みや引き出しの仕組みが近いと言えば理解しやすかろう。そしてわしは主犯ではないし、愉快犯でもない。そこまで暇神でも無いわい」
「でも、その仕組みの説明だと、真の犯人に魂リソースを振り込めたのはやっぱりあなただという事になりませんか?」
「すでにこの世界で流行っていたウィルスを変質させたのが主犯。その製造元が魔王のいる世界であり、変質させる設計図を書いたのが主犯で、きゃつめが設計費や特許料という形で利益を吸い上げているという構図なら納得できるか?」
「ふむ。だとしたら、その銀行システムに
「まぁ、悪くない線いっているとだけ伝えておこう。全ては語れないが、失敗するとわかってる事に無謀に特攻させる事もせんよ」
「俺は、魔王城とかをつっついたら、邪神の手下みたいのがうじゃうじゃ出てきて返り討ちに逢うって未来が容易に想像できて、非常に動きづらいし、計画も立てにくいんですが」
「もっと単純に考えてみよ。単にミーリアの世界の人類社会を崩壊させるだけなら、奪った魂リソースを即座に利用して可能だった筈だと。それがそうなってないのは、そう出来ないだけの理由がある筈だと」
「それでも、危機には陥ってはいるんですよね?」
「お主を釣り出す為でもあるからの」
「やれやれ。だったら、相手の全ての企みをその背後から全部潰せる位置から始めるのが一番楽だし確実なんですが」
「ダメ、却下。物語的に、命をかけて勇者召還陣を死守し必死に助けを求めてる娘達の元に現れないで勇者などと呼べませんし」
「いや、呼んでもらおうとも思ってないのですが?」
「ダメったらダメです。あなたは救世主になるんですからね!」
「なりたいと思ってないのですが」
「でも、あなたの創った何かに活躍して欲しいのでしょう?難敵を倒した達成感には浸りたいのでしょう?人々の賞賛は要らないと思ってるでしょうけど」
「神様だからって、人の深層心理を赤裸々に暴かないで下さいな」
「却下です」
自分をおもちゃにする気満々な女神を前にため息をついた俺は、宣言した。
「そっちがいろいろ注文をつけて来るんなら、こっちも好きにやりますからね。いいですか、自重しませんから覚悟しておいて下さいよ?」
そんな話を、異世界に渡る前にしていた。
じいさん神様も、女神ミーリアも、俺の勢いに押された訳ではないにしろ、俺を止めなかった。つまりこれは、神様的なストップが神秘か何かでかからない限り、何をしても良いというフリーパスをもらったという事だ。俺が今そう考えられている事が何よりの証拠だ。
帝国内の主要な敵勢力はすでに根絶やしにした。他の国に入り込んでるのは後回しにすると次期皇帝その他大勢に伝えた。
魔王領を、継戦不可能なまでに破壊してしまえば、補給を断たれた派遣軍はただの野良魔物の集団にまで落ちる。後は各個撃破すれば良いだけになる。
理屈ではそうかも知れないが、魔王領を更地にするなどどれだけの軍勢と物資と時間がかかるかわからないと軍師だの参謀さん達にも言われたけど、軍勢も物資も時間も要らないと答えると絶句された。全部自分でやるから、時間もそうかからない、筈だ。なぜかまた陽奈人形がこの上ないドヤ顔して皆さんを見下してたけど止めなさい。
どうやってやるのかについて、今度は絶対についていくと譲らなかった次期皇帝も同行する事になった。お付きが数十人単位で増えそうになったのはさすがに断って、新しい軍団長と魔法師団長てのと他十人だけが断りきれなかった。
まぁいい。やる事に一切口出ししない事が同行の条件だったし。
やる事は単純だ。
潰した敵の前線基地辺りの岩山や地面を一定サイズで採掘し続ける仕組みをセットします。これは単純なロボット達に任せても良かったのだけど、自分のインベントリーを介した方が手間も時間も省けたので、GDプリンターを自動操作できるマクロを組んで準備はおしまい。
次に、この星の衛星軌道より少し下くらいにまで浮遊城を上昇させ、GDプリンターで組んでおいたマスドライバーの部品を接続していって、準備はほぼ完了。すでに魔王領全土は観測測量済みで、SPの反応からどこに軍勢がいるのかも分かってたから、試射を兼ねて打ち出していった。
ほぼ宇宙空間だから、加速に必要な消費SPは最小限に抑えたまま、最大限の質量弾を載せてマスドライバーは次々に射出され、目標地点の地形を滅茶苦茶にしていった。魔物?ははっ、生きてられる訳無いね!着弾した時の熱量も衝撃波も、魔王とか勇者の最終奥義くらいの威力は出てるそうだし。SP効率もうまうまでした。
次期皇帝と随行員含め、偵察衛星からの戦果映像に魂を抜かれたように言葉を失っていた。相手の都市だか城塞だかをいくつか潰した後は、いよいよ魔王城を標的にした。
さすがに何らかの反撃手段は来るだろうと覚悟していた。今の自分に手に負えないレベルの何かが来たらとっとと逃げ出す算段は組んでたけど、一応の迎撃手段も準備していた。狩れるSPは狩っておかないともったいないし。
魔王城も無防備では無いだろう。幾重もの結界、強力な魔法による迎撃機構とかがこちらの攻撃を迎え撃ってくるに違いない。だとしたら、こちらもその防御を打ち破るだけの期待には応えないといけない。
大質量弾の弾頭は魂鋼製にして、相手の結界や魔法を無効化し、ついでに空気抵抗を無くしたものや、分裂して散らばるもの、ナパーム弾や酸素爆弾、毒ガス弾など、多種多様な攻撃手段を取りそろえてみました。
衛星軌道からのレーザー攻撃みたいのもSF的にはありかもなんだけど、純粋なSPによる攻撃って、相手にそれ以上のSPで待ちかまえられてたらほぼ無駄撃ちに終わる。注ぎ込んだ分だけ相手の防御を削れても、相手の方が絶対的に大量のSPを持ってる場合、消耗戦はこちらの負けにしかならない。
帝国領に侵攻していた軍勢と、魔王領のいくつかの拠点を潰した事で、獲得SPを100万を大幅に越えていた。だけど、それっぽっちだ。たかがグノーシーの百匹程度でしかない。予想してたより一桁、いや欲を言えば二桁は少な過ぎた。こちらの獲得SPが少なければ少ないほど、敵はまだ余力を残していつでもこちらを上回れるのだから。
まあ、悩んでても仕方ないかと、魔王城への攻撃を開始した。最初の数発は防ぎ切られたけれど、五発目以降で結界は壊れ、十発目以降で迎撃は止み、魔王城に集まっていたSPの持ち主達がばらばらに逃げ始めた。
なるべく多くを巻き込めるよう、分散する弾を逃げ先に撃ち込んだりしてると、大きなドラゴンに乗った、大量のSP持ちが上空へと昇ってきていた。
追随するドラゴン達でおよそ千から数千SP、稀に一万SP以上、一番大きなドラゴンは十万SP、そこに乗ってる誰かさん、ほぼ間違いなく魔王は、なんと百万SPだった。
普通の人間の勇者にどうにか出来たレベルとも思えないので、きっと主犯に
そんな物思いに浸りながらも魔王城近辺へのマスドライバー絨毯爆撃は継続しつつ、数を増やしさらに強化したファンネルによるレイルガンで迎撃した。
追随するお手頃な竜達をSPに換えていき、一撃数千単位のSPを注いだ魂鋼製の弾で大きな竜を狙い、さらに自分の抹殺銃に、対結界弾、対魔法防御弾、対竜弾、対魔王弾など、様々な弾を込め、魔王に向けて撃ちだしていく。
互いの距離が十キロに縮まるまでの間に、大きいのも含めてドラゴン達は消滅していった。そのSPを直接弾代にした?いいや、そんなもったいない事はしない。
遠距離攻撃で、魔王のSPは75万にまで減っていた。こちらはドラゴン達を倒して補給はしているものの、削ったのと同等程度には消費していた。
SP100万の敵を倒すのに、SPを100万以上使ってたら赤字だ。そんな事では最終的には絶対勝てない。俺はだんだんと近づいてくる魔王に向けて、これまで混ぜていなかった鏡弾を装填し、発射した。
鏡弾は魔王の張った防御結界に接触すると、結界を無効化しつつ、地上で採掘し続けインベントリー内で接続していた大岩の連なりを出現させた。異世界間をつなぐ鏡の機構技術の転用であり応用した作品だ。1秒で1トンくらいの大きさのは採掘してたので、少なくとも数千トン以上の重みだ。厚みもものすごい事になってるので、生半可な武器や魔法でも削りきれない。重力そのものが直接的に襲いかかってくる。魔王がどうしのいで来るか読めなかったので、大岩の連なりの背面に別種の鏡弾を当てると、そこにはロケットノズルが出現し点火。大岩を勢いよく後押しした。
俺は周囲を警戒させてる陽奈人形に、異変が起こっていない事を確認した。まぁ、神様レベルの相手に警戒ったって、気休めでしか無いんだけどね。魔王レベルの敵複数に囲まれるだけでも普通に終われるし。余裕なんてどこにも無かった。
魔王は大岩の連なりと格闘していた。そのまま落下すれば魔王領に大きな被害が生じる事は確かだったから。なので、自分はインベントリー内で大岩に装着させていた爆薬に点火した。全部で数メガトンくらいの威力かな。純粋な爆薬じゃなくてSPも混ぜ込んでるし。爆発そのもので魔王がどうなるとも思えなかったけど、大岩の連なりがばらばらになって落下していけば、あきらめて、こちらに向かってくる筈。大岩の連なりを止める為に魔王が心中してくれるとも思ってなかったので、爆薬の中に、鏡弾に使ったのと同じ鏡を仕込んでおいた。
光剣には、ランダムにそれらの鏡から刃を出現させる鏡を被せてあった。そして出現した刃の先には別の鏡が位置取り、刃を反射させる。その反射が、敵に当たるまで続く。群れ飛ぶ光刃の檻に囲まれた魔王が切り刻まれていく。
魔王が耐えかねて放った波動か何かで全ての鏡が割られてしまったが、魔王のSPは50万以下に減っていた。こちらはまだ75万近く残っている。このまま力押ししても勝てると言えば勝てるだろうが、美味しくない。さっきので倒せてればまだしも、これ以上のSP消費は悩ましかった。
接近戦でシトメる策も何通りかは考えていた。むしろ短期の接近戦の方がSP効率は良かった筈だし。ただし、自爆攻撃というクラッシックな道連れ手段を採られるとおそらく回避不能なので控えていた。数十万SPを対価にした自爆攻撃とか、どんな内容と効果になるのか恐ろしくて想像すらしたくないレベル。
魔王と接触し、情報を得る事も考えないでも無かった。ただし異世界の神デルタだかに隷従させられてたりすると、何を話されても信じられないし、本人が信じ込んでしまってると嘘をついてるかどうかも信じる判断基準にはならない。
いろいろ考えたが、結局、魔王を倒すのは最終目的でも何でもない事を判断基準に、停戦をもちかけてみる事にした。これだけ派手に魔王領で暴れてるのに、裏から支援してる神からの手先が一体も出てこなかったのも気にかかっていた。
魔王軍は壊滅的打撃を受けた。魔王一人で人類を滅ぼす事くらいは出来そうだけど、自分がいる限りはたぶん防げる。その意味でも、交渉の余地はありそうだった。
こちらが攻撃を停止した事で、あちらも何かを考えるように停止し、互いに見合ったまま数分が経過していった。
魔王は意を決したように、懐から何か、たぶん小さな鳥のような何かをこちらへと放った。それはミニチュアの竜で、魔王の言葉をこちらに伝えてきた。
「そちらがこれ以上魔王領を荒らさないのなら、停戦したい。そちらが望んでいる情報を、私は持っている筈だ」と。
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