第10話 順調な滑り出し?

 異世界転移時、グノーシーを倒した時に保留したEXPを使ってレベル40から開始する事にした。

 転移先の器となる体は女神様が用意してくれる事になり、どんな外見の要望でも応えられると言われたけど、陽奈人形の無言の、しかし必死な身振り手振りから今のままというか、ゾンビになる前の元の姿のままという要求が通り、ただし、年齢は今の陽奈人形とお揃いくらいの年にまで若返る事も決まった。


 そういった事は、自分はどうでも良かった。異世界側の体なんて、どうせ役目を果たす為の仮宿なんだし、許されるならゾンビの方がよほど便利かも知れないと主張したけど、じいさん神様はともかく、ミーリアという女神様には全力で却下された。


 まあそんな事はともかく、緊急事態な状況にぶち込まれるのは確定してたから、どんな機体を準備して乗り込むかの方が死活事項だった。殺される時にその肉体の外観なんて意味があるわけない。考えるだけ時間の無駄だった。

 サイズ的に、原寸大のMS(モビ○スーツ)は無理だった。陽奈人形にも使ったのと同じ材質で全体を創ろうとすると、百万単位のSPが必要だと言われて泣く泣く諦めた。

 サイズ的に可能そうな主人公ロボットで言うと、オー○・バトラーがコンセプト的にもお手頃そうだったけど、あれは創ってみせたら同じ類のを創ってくれと絶対に要求されるのが目に見えてたので避けた。


 そして思いついたのが、ダーク・ファンタジー系のゲームに出てきた敵小ボスの一体。サイズ的にはぎりぎり人間?てくらいで、だけどその鎧や盾や武器なんかは、重量的に絶対人間には扱えなさそうなの。

 だって、黒くて長くて大きくて堅そうなただの鉄の棍棒みたいな武器は、それだけで200-300キロくらいありそうだった。鎧もごつごつしてて膨らみがあって同じくらいの重量はありそうだったし、盾は盾で高さ3m幅1m重さは150キロくらいはありそうな代物で、正しくファンタジーな鎧だった。


 自分が着目したのは純粋な鎧ではなく、外部装甲、パワードアーマーとして創作する事だった。巨人とかもいる世界で、混血なら、身長3m以上とかの人間も希にはいるらしいので、特に異世界から来た存在ていうなら、それも深くは突っ込まれないと踏んだ。


 分厚すぎる胴体部分の構造上、コックピットというには狭すぎたけど、それでも十分な装甲厚を確保した上で着座した状態で全体を操縦可能にした。

 陽奈人形同様、足裏に小型浮遊石や結界装置も仕込んでるので、重さに足が取られる事も無い。さらに体のあちこちに埋め込まれたバーニアを吹かせば急加速や一定高度までのジャンプも可能。アタッチメントを付ければ空中戦も可能にした。

 装甲の内側に動力機構などを埋め込んだ関係で軽量化と魂鋼の量の削減にも成功。外見上は兜のスリットからしか外は見えない筈が、モニターカメラやセンサー類は全身に仕込み死角は無かった。

 盾はファンネルの組み合わせ、なだけではなく、敵の攻撃を受け止めるか吸収するか選択出来るようにした。相手がつぎ込んだのと同量以上のSPが用意出来なければその時点で詰むとか、無理ゲーだからね。

 それがどの程度の無理ゲーかっていうと、あれだけやばかったグノーシーでも一万SPくらいの相手なのに、奪われた魂リソースの総量は数十億って、桁がかけ離れてるんだよ。数百SPをせこせこ集めて必死にやりくりしながら戦ってるとこに、一千万SPに相当する攻撃ぶち込まれたら、それだけで終わってしまう。

 まぁ、事はそれだけ単純な話ではないにしろ、今回の帝国陥落は、勇者召還が間に合わなければ女神ミーリアの世界の人類側勢力の敗北につながる一手だった。

 勇者が現れなければ帝国は滅亡。現れれば現れた時に確実にシトメるだけの何かを準備しておく。俺ならそうする。

 魔王の配下ではなく、グノーシーの様な、その裏から力を貸している存在の配下が複数。そいつらを退けたら、もしくはそいつらもろとも遠距離攻撃。それもどうにか防がれたら避けようもない質量攻撃で、少なくとも帝都は押し潰し、戦略的な勝利は確実にしておく。

 それらの企てをこちらは全て潰さなければならなかった。そしてどうにか、相手の目論見は全て覆してみせた。向こうは、こちらの手の内を何枚も暴けたから差し引きでプラス収支と見込んでいるかも知れない。対魔王連合の中核だった帝国の兵力がほぼ全て失われたのだ。これから徴兵して補充していくにしろ、数年単位で時間がかかる。

 向こうは豊富な魂資源に任せて力押しでその時間を与えようとはしないだろうし、それら全てを阻止しようとするには自分の手駒が足りな過ぎ、かつ非力過ぎる。

 最低でも数十億という単位の魂リソースから、グノーシーと同程度なら数十万体も作れてしまうのだ。


 この緒戦で得たEXPで、自分のレベルは55を越えた。あの悪魔、ラフルェンというらしい、三体のSPは倒した時点で5000を越えていた。俺が防いで吸収した攻撃は、ほぼ同量を越えていた。まともに戦おうとしていたら、敗北は必至だった。


 だが、何とか賭けに勝ち、ラフルェン以外の魔物達も狩り尽くしたのだが、収穫は膨大だった。レベルは60を越えた程度だったが、SPはなんとなんと50万を越えた!およそ五万体の敵が帝都や帝城に侵入して戦っていたと考えるなら、1体当たりのSP内包量は平均で10近くもあった事になる。

 ただし魔物の種類や個体による差異が激しすぎるので、平均値にはあまり意味が無かったにしろ、一つの目安にはなる。

 1/35フィギュア部隊をこちらの世界でも運用するなら、一度の攻撃に費やすSPの量などを調整するか、平均的な雑魚敵がどの程度の最低攻撃値で倒せるのかも検証していく必要があった。


 とはいえ、今は、次期皇帝という女性とその妹という女性達と共に、帝国が今回の戦でどの程度の兵力を失ったかも確認する必要があった。

 これからどう反撃するのかも早急に決めて、俺は出立する必要があった。


 前皇帝の后や、一部高級官僚達といった非戦闘員は、城の地下通路に隠れていて無事だったらしい。それでも帝都の帝城の守備兵力は、9割9分以上の死傷率(死亡が9割以上)。帝都側の被害は帝城よりは若干軽微だったけどそれでも五割以上が死亡、残りの半分も何かしら傷を負っていた。帝城を陥落させる事を魔王軍が優先させていたお陰らしい。


 俺は当然、お通夜の様な帝国再建会議への出席を要請されてたけど断った。帝国の内情なんて知らないし、それよりも、同時に攻撃を受けてまだ抵抗してる城塞や都市があるなら、そちらの救援と解放を優先すべきと主張すれば、次期皇帝の同意もあって認めてもらえた。一応、会議はビデオカメラで録画して後で見ますからと伝えて、それはそれでちょっとした騒ぎになったけどそこは割愛。


 帝城と帝都の戦いが一段落した直後から、上空から四方へと偵察は出して、正確な地形図の作成もさせていた。帝都は帝国の中心だから、街道沿いに飛ばしていけば最低限の情報は自動的に集まる。そして超高々度から魔物の大規模な群をいくつか観測してあり、その群の大きさとまだ抵抗が続いてそうかどうかを駆けつける判断基準とした。

 本当なら、個別に機体を派遣して、同時に救援するのが望ましいのだけど、数万SPの敵が一体でも含まれてたり駆けつけてきたりしたら、撃破は免れなくなってしまうので、俺含めた全員で、浮遊城で最速で移動していった。


 同乗者は、巫女さんとその付き人。前近衛騎士団長と前宰相という顔ぶれだった。非戦闘員と、引退済みだったご隠居さん達といった感じだ。


「すごい、すごいっ!本当に空飛んでるんですね!」

 なんて巫女さんの純朴な反応はまだかわいらしかったけど、前近衛騎士団長のラールヴさん、前宰相のウィフィリアさん達は、あちこちのぞき込んだりしつついろいろ突っ込んだ質問とかしてくるのでやっかいだった。

「まだ取り込み中ですので、質問には後でお答えします」

 と後回しにさせてもらってた。あ、ちなみに移動中は外部装甲は脱いでた。長時間乗り込んでるのはさすがに疲れるので。ただし、一般にはあの鎧姿が勇者という形で触れ込みをかけてもらう事にして、自分の素の姿を知るのは帝国首脳部だけにしてもらった。次期皇帝もそうだけど、巫女さんも自分が普通サイズの人間だと知って心底安堵してた。何故なんだろう?わからん。姉の方はちょっぴり残念そうでもあったけど、まぁスルーしておこう。


 そして帝都にもほど近い衛星都市を順次解放、というかEXPとSPに換えていった。まだ都市首脳部が生き残ってたら、前宰相達が手短に状況を説明。見知らぬ俺が説明するよりその方が信頼されるからね。帝都から離れた東西の城塞や都市も解放するまでに二晩ほどかかった後、魔王軍の補給路の要ともなってる前線基地を付き添いの人に教えてもらい、そこも殲滅してから帝都へと帰還した。


 帝都には、解放した諸都市とかからの伝令や報告が魔法的な手段も含めて伝わってたので、復興途中ではあるものの、お祭り騒ぎになっていた。

 自分はその騒ぎに巻き込まれる前に、帝都外壁の破壊されてる部分をGDプリンターで修復していった。資源の有効活用って奴だね!三重の外壁のあちこちを治してから、帝城の城門とか城壁までさくさく修復した。スキルレベルも上げられたし、インベントリーの空きスペースも確保できたし、良い事だらけだね!帝国都民やお偉いさん達も大喜びしてたし!


 てわけで祝勝会とか欠席しちゃ駄目?褒美とかいらないからそっちのが嬉しいんだけどと伝えたけど、次期皇帝や巫女さんその他皆さん揃って、頭を下げたまま頼み込んでくるから、断りきれなかった。

 皇帝や皇太子その他まで多数討ち死にしてるから、お通夜も兼ねたようなしめやかな立食パーティーみたいなものだったけど、自分はとにかく挨拶してくる人が多すぎて、絶対に誰が誰だか覚えてられない自信があった。次期皇帝さんにも巫女さんにもそう伝えたら、自分たちが覚えてるので大丈夫ですよと言ってもらえた。優しいな、二人とも。


 翌日には帝城内の修復を終え、さらに翌日からは、骨折した人や負傷者の治療の手伝いをしたりした。GDプリンターは生体を生み出す事は出来ないのだけど、骨折してる骨を綺麗に修復してつなげたり、裂傷を縫合したり、腱や神経をつなげたり、手足を失った人には義手や義足を創ってつなげてあげたりして、とても喜ばれたりした。勇者であり賢者であり聖者でもあると巷では噂されてるらしい。帝国全土から治療や救いを求めて帝都に巡礼しに人々が向かい始めてるとかいう報告まで聞いて、自分は脱出する事を決めた。


 もちろん、名目は、魔王軍の攻勢を受けている他の国々を救援しつつ、魔王軍の軍勢を削り、魔王軍そのものを殲滅していく事だったから、文句のつけられようが無いしね!時間を置けば置くほど、相手もこちらへの対策の準備を練り終えるだろうし、こういうのは速度が大事なんです!と繰り返し主張した。

 次期皇帝は国を離れられなかったけど、巫女さんと付き人さんと前回の二人は今回もついてくると主張して、受け入れた。まぁ最少人数だろうしね。大量のSPとかもゲットしたから、浮遊城もまた拡張して装備も充実させたし!

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