第7話 異世界への転移装置?とリベンジ
コボルト達は市役所を基地にしていたようだ。だが妙な事に、生活感が無かった。人間は全部死んでるんだし、ゾンビを食料にはしてないだろう。連中が寝床にしてたのだろう藁布団的な何かは多数見つかったのだけど、食料庫にあったのは、大量の干し肉くらいだった。
「だとすると、可能性が絞られてくるね」
「普段はあちらにいてこちらには来てない可能性が一つ。こちらに来ている時は最小限の物資しか持ち込まないようにしていた可能性が一つ。あの干し肉の備蓄は非常用で、普段はこちらに来てなくて、敵の進入が検知された時だけこちらに渡ってきてる可能性もある」
マイキーによる分析は妥当なものと思えた。
「当然、ここの指揮官が倒された事も伝わってますよね?」
「そこまで知恵が回る相手なら、いくら何でも留守番くらいは残すだろう」
「その留守番が現地に還ってるとことか?異世界をつなぐなんて鏡が日本全国に自治体の数だけあるなんてのもちょっと考えにくいし、起動するのにある程度のエネルギーが必要だから、いったん閉じて開いた後はまたしばらく充填の時間が必要になるとか?」
「ふむ、ゾンビの頭でそれだけ考えれるのなら上等だろう」
なぜか陽奈人形が、むふんとドヤ顔をしていた理由は気になったけどスルーしておいた。
「ちなみに、神様は天使とか悪魔とか使役できるんですよね。どうして逆侵攻とかしなかったんですか?」
「前にも言ったと思うが、異世界間や神々の間での関係性やパワーバランスとか、そういったものの駆け引きの結果だ。決して我が主が非力だとか弱気だとかいったせいではない」
そこら辺は一人の人間というかゾンビが気にしすぎても仕方ない事だと思うので、それ以上の疑問は重ねないでおいた。
1/35フィギュア達の偵察隊によると、鍵になりそうな何かは、一番奥まったところ、最上階の市長室に据えられていると伝えられていた。
陽奈人形を先頭に慎重に進んだが、敵の奇襲は無いままに市長室に到着した。おそらく市長が使っていた立派な机などがあった筈が見あたらず、部屋の奥まった壁には、立派な枠にはめ込まれた大きな鏡が据え付けられていた。
「あれが、おそらく?」
「そうだな」
「起動しそうになったら、教えてもらえますか?」
「ああ、その時は迷わず破壊しろ。これは単なる鏡で、あちら側から何らかの細工をされて、つながる時はつながる様になっているだけの可能性もある」
陽奈人形が部屋の中を念入りに調べて罠や待ち伏せなんかの類が無い事を確かめてから、自分でも鏡を調べてみたが、見たままそのものの鏡にしか見えなかった。試しに木の玉をゆるく投げつけてみたけど、表面が波打って吸い込まれるとかもなく、単に表面に当たって床に落ちただけだった。
「ま、やっぱり、やるしかないですよね」
俺はGDプリンターを鏡のサイズに合わせるように展開し、メニューの中にあった解析を実行してみた。
"解析中。物質的には、人類社会で生産・流通していた鏡で、何の特筆事項も無し。ただし・・・"
この"・・・"の間が長くて、数分はかかってから、途切れ途切れにシステムメッセージは続いた。
"異世界側から対となる要素から操作される事で、異世界間をつなげる門(ゲート)として機能する事が推測、されます"
"類似機構の構築が可能か解析中。また、対となる門の構造についても解析中、しばしお待ち下さい・・・"
「GDプリンターが解析中なんで、まだ時間かかるみたいなんで、その間話でも聞かせて下さい。魂リソースを取り戻す為には、異世界に行かないといけないんですよね?」
「そうだな。お前がかつかつでやりくりしてるSPも、あちら側に行けば潤沢に手に入るだろう」
「だったら、どうして最初から向こうで始めなかったんですか?」
「それは、お前やお前のユニークスキルなどをある程度こちらで育てておく必要があったからだ。その等身大人形の様な存在も居ると居ないでは大きな違いになるだろうし」
「え?てっきり魂みたいな状態で行き来するもんだと思ってましたけど」
「その人形もすでにお前の作品として新たに登録されてるだろう。確かめてみろ」
システムメニューで召還可能な作品の一覧が、元々あった1000から、レベル数分増えていた。ちなみに現在のレベルは45だった。
「お前があちらに行った時にも、作品は召還可能だ。目立つだろうから、使いどころは選ぶだろうが」
「逆に、陽奈人形は、それなりの服装してれば、人形だとはばれないでしょうしね」
「あちらの世界は、こちらの世界から奪った魂リソースで魔物の攻勢を受けているだろうから、お前の異世界行きはある程度急ぐ必要がある」
「でしょうね。でも、その前に、借りは返しておきたいですけど」
「あの時ならともかく、今のお前なら何とでもなるだろう。お前専用の武具も開発しているのだろう?」
「構想と設計までは終えてるんですけどね。全部創って完成させるにはSPが心もと無さ過ぎて」
「意地を張らなければ、解決は難しくないだろうに」
「作品を壊されかけましたからね。その恨みは晴らしておかないといけません」
やれやれとマイキーが肩をすくめた頃には、GDプリンターによる解析が終わり、異世界への移動の為の模倣品の製造が可能になった。
でも、相手側世界のどこに出るのか対になる装置が必要になるんじゃないのか?と尋ねたら、相手側世界の神の協力を得られればそう難しくはないと答えられた。
俺は状況をその場にいた仲間たちに伝え、鏡は一応壊してから外へ戻り、浮かぶ部屋の拡張工事などを行って、隣町で一部資源を直接回収。さらに海沿いである物を拾い集めたり、朝まで周辺の町を巡って雑魚を狩ってSPにある程度の余裕を取り戻してから、いよいよ、一度は逃げ帰った、スケルトン・ナイト達が根城にしているデパート上空に達すると、すでに警戒態勢が敷かれていたのか、剣や盾や弓矢で武装したスケルトン・ナイト達がデパートの外や屋上で待ちかまえていた。その数、ざっと見えてるだけでも五十体以上。
「いくら陽奈人形が強くて、作品4体に護衛させたとしても、正面からバカ正直に攻める必要は無いわな。あのやばい雰囲気の奴、ずっと残ってるみたいだし」
スカウ○ーで存在とステータスを調べようとしてみたけど、直接視認できないと駄目なのか、確認できなかった。
「仕方ない。一番単純な作戦で始めてみようか。陽奈、よろしくね」
拡張された浮かぶ部屋の桟橋の先に二人で並び、俺がインベントリーから出したテトラポット、港とかに設置されてるコンクリート製のごつい構造物のアレです、を、陽奈人形が勢いをつけて、眼下およそ100mは下の地上にいるスケルトン達に向けて投げつけた。
自由落下よりはかなり速度を増した重量物は、先ずはデパート入り口にいたスケルトン・ナイト達を粉砕。続けて、デパート屋上にいた弓兵達もろとも天井を砕いた。
上空100mともなれば、普通にジャンプするとかでは届かない。上空の何も無い筈の場所から重量物が次々に投下され続ければ、何とか出来そうな奴が出て来るか、対空兵器のような何かで反撃されるかだけど、何とか出来そうな奴がいるならそいつが出てくると予測していたし、それは当たったようだった。
テトラポッドが十いくつか投げ落とされた頃には、ヤバい気配は落下中のテトラポッドを粉砕しながら飛び上がってきた。
「来たぞ!積層型結界展開!」
勢いを殺すには、本体に直接SPを叩き込むよりは、薄くても数を展開する方が良い。浮かぶ部屋の床下から下に向けて伸ばしたアンテナの様な細い棒には20cm毎に小型の結界装置を付けて、計五十層もの薄い結界を展開した。
しかし勢いは殺せたかも知れたかも知れないにしろ相手は薄い結界は全て貫いて、浮かぶ部屋本体の結界を直撃。大いに揺さぶってくれたし、余分につぎ込んでおいた結界用のSPをトータルで100以上削ってくれた。
もちろん、こちらもやられてばかりではない。地上と上空全周360度に向けた砲撃が可能な様に床下にもベランダにも壁にも天井というか屋根にも銃座や砲塔が据え付けられてて、発砲を開始した。
とはいえ、BB弾で鋼鉄製の戦車を止められないのと同じ手応えだった。
「陽奈、頼む」
陽奈人形は、桟橋から飛び出して迎撃に向かった。今回は完全に空での戦いになると分かっていたので、背中にブースターパックを装着し、空を文字通り飛んでいた。
俺は陽奈を見送ってから部屋の中へと戻り、モニター越しに敵の姿を確認した。異形の翼ある者というのが、ぱっと浮かんだ印象だった。ファンタジー的に言うならドラゴンゾンビと翼持ちの悪魔を魔合体させ、手や首を余計に増やした代わりに足は無い感じの不気味な存在だった。
ス○ウターでステータスを探ろうとしても、名前だろうグノーシーという表示以外は???と計測できなかった。コボルト・センチネルと戦った時の二倍以上の素早さで動き回る陽奈人形が動きについていけておらず、防戦一方になってるところからも、たぶん全てのステータスが最低百から数百という、RPG的に言うなら中ボスというより序盤中盤に置くのはおかしいくらいの相手なのだろう。陽奈人形の反撃をわざと食らおうとしてないのは、一応警戒されてるのか遊ばれているのか微妙なところだった。
とはいえ、分析だけ続けている訳にはいかない。
浮かぶ部屋の外側に付けられた全砲門は随時射撃を続けていた。最初だけSPを込めて打ち込んでいたが、次からはいろいろな素材の弾を試していた。SPの節約もあったし、相手の弱点を探る為でもあった。相手が余裕をかまして豆鉄砲の弾はかわそうとしないのもこちらとすれば助かっていた。
戦闘ログを追いながら効果を検証する。
「木、石、鉄、その他金属弾、通常火器と同種の原理で撃ち込んでも効果は微少。少しの傷がついても自然回復で消されてしまってる。ちょっとは期待してた銀製の弾も他と同様か。残念。
次に毒の類も駄目か。化学薬品も表皮を焦がしたり溶かしたりといった効果は確認できたが、こちらも自然回復を超過出来るほどのダメージを与えられてない。
逆に相手が放つ瘴気の様な黒い稲妻に触れたものは腐食し崩壊していく、か。ヤバすぎるな」
陽奈人形も何度か避けきれずに食らっているが、表面を覆うSPに保護されてなんとか無傷を保っていたものの、SPを吸われる度に相手が強化されてる感まであった。
「やっぱり、分析しながら戦うなんてのも無理があるな。予定通りいこう」
相手は少なくとも全知全能の神では無い。その手先の一体だとしても、光の早さで動いてる訳でもない。
俺は、浮かぶ部屋の水平方向の四方1km先で待機させていたファンネルに装備した武装、レイルガンを起動した。電力の代わりにSPを使用し、センサーにかかった位置に音速の約7倍で打ち出されたパチンコ玉は、陽奈人形を
認知できる範囲の外側から有効打を与えられた事に驚いたのか、射撃が来た方へと注意をそらした。ここぞとばかりに他のファンネルに装備したレイルガンからもつるべ撃ちにしてダメージを重ねた。
痛みにもだえるグノーシーの下に潜り込んだ陽奈人形が両手の剣にSPを注ぎ込んで切りつけ、初めて有効打を与え、ヘイトを稼ぎ、相手の注意を下へと引きつけた。
「今だ!」
相手は苛立ちを晴らすように黒い稲妻を周囲に振りまこうとしていたけれど、一瞬早く、浮かぶ部屋の全周に取り付けられた放電装置からのプラズマがグノーシーを捉えて感電させ、攻撃を未然に防いだ。
今度こそ数秒の空白が生じた。
俺は陽奈人形に合図を送り、戦いの前に創っておいた秘密兵器、例の鏡の模造品、対となる鏡の前に何かを転移する鏡を取り出しグノーシーの体に押しつけさせた。
そして俺は間髪を置かずに、光剣の筒の先に取り付けられた鏡に向かって光の刃を生じさせ、刃は陽奈人形が持つ鏡の先からグノーシーを貫いた。
陽奈人形は鏡をランダムな方向に振るってグノーシーの体をばらばらに切り刻んでいった。グノーシーはいくつもの頭から聞き取れない呪詛の言葉を吐きながら光に溶かされる様に消滅していった。
「勝った、か。なんとか・・・」
脳裏にはいくつものシステムメッセージが流れてて、重要なのも混じってたけど、戦いの前に余裕を持って500は集めたSPが、戦いの終わった瞬間には25にまで減っていた。本当にぎりぎりだった。だが、それだけの賭けに勝った甲斐はあった。
大量に得た経験値でレベルはだいぶ上げられそうだったし、SPはなんと一万以上獲得していた。て、EXPが保留されてるってどゆこと?と思ってると、マイキーが説明してくれた。
「よくやった。あれは、魂リソースを直接的に奪った神の手先ではなく、その後ろ盾となり、我が主も警戒する相手の手先だった者だろう。異世界に渡った先では、遭遇する機会も増える筈だ。常に警戒を怠るな」
「ええ、それはそれとして、EXPが保留されてるのはどうしてですか?」
「異世界に渡った先のお前は、別の体を用意される。そちらでレベル1で始めるよりは、保留されたEXPでレベルを上げた状態で始めた方がよほど安全だろうという配慮だ」
「なるほど。そんな事が可能なら、それは確かにそうですね。まぁ、それはそうと、あちらに行く前に、こちらでいくつか用事を済ませておきたいのですが」
これまでは知っててもSPが足りなくて不可能だった事が、望外の大量SPが手に入った事で可能になったのだ。
「あちら側の魔物とかって、SP注ぎ込まないと倒せないとかないですよね?普通の剣とか武器とか銃器とかで倒してもSPは回収可能ですか?」
「可能に出来ると言えば出来るが、銃器?あちらで製造する気か?」
「その為に必要な素材はこちらで継続的に確保出来る算段を立てておきたいんです。あちらの敵の攻勢が激しくなってるなら、急ぐんですよね?」
「まぁ、な」
「今回みたいな敵を相手にする時に、SPの残量を気にしてたらその内負けますよ?そしたら魂リソース取り戻せませんよ?」
「うーむ・・・」
「だから、SP使わないで倒せる相手は、なるべく、SP使わないで、大量に、効率良く倒していかないと。大丈夫、核兵器とかの類には手を出しませんから」
「あちらの人間社会には、流布や流通させるなよ?」
「大丈夫ですよ。自分か自分の作品にしか使えないという制限かければ良いだけですから。さーて、向こうに行った時の体や社会条件に合わせた武装も創っておかないとだし、忙しいなっ!」
「その割にはうれしそうだな」
「当たり前ですよ。自分の夢の実現に近づいていってるんですから!」
部屋に戻ってきていた陽奈人形は、そんな自分を見て微妙な表情を浮かべていた。
その意味合いに想像がつく部分もつかない部分もあったけどひとまずスルーして、会社で働いてた時の予備知識も掘り起こしたり、本屋や図書館などで情報を探しながら、自衛隊基地を訪れてそこに残されていた装備を徴収したり、火薬の製造工場を訪れ、原料の調達先なんかも調べたりしつつ、自前の製造設備を作成してインベントリーに収納した。素材や原料は異世界間でもインベントリーを通じてやりとり出来るとマイキーに確認したので、1/35フィギュア部隊には、原料産地の周辺から雑魚敵を掃除していくよう命じた。SPを1000単位で注いだ守護神的な存在も付けたので、スケルトン・ナイトやコボルトの数倍の強さの敵までなら対応可能な筈だ。
あちらの世界に持ち込む装備や、どんな状態で始めるか等々、こちらのおじいちゃん神様自称アルファと、あちらの世界の女神様オメガといろいろ話し合って決めて、準備万端で異世界転移しました。あちらの世界の人間達の最前線、今にも陥落しそうになってる帝都とお城を巡る攻防のまっただ中へと。
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