第6話 対コボルト・センチネル戦
1/35部隊は、住宅地の一角、スーパーの外壁を背に半円形陣を敷いて、開けた駐車場で防御戦を繰り広げていた。
おそらく現在の態勢を整えるまでに盾となったのだろう戦車や歩兵が陣の外側で破壊されたりして動きを止めていたが、総勢五百体以上の一割以上二割未満といったところだった。その二倍以上のゾンビ犬が駐車場の外側にいて散発的な攻撃を繰り返しては撃退されて消滅していってたが、たぶんあれは増援が来るまでの間、部隊をここに引き留めておく為の時間稼ぎだろう。
陽奈人形はすぐにでも飛び出していこうとしたけど止めた。
「陽奈が相手にするのは、敵の増援の方、ここは俺の作品だけで十分だから」
俺はスーパーの屋上にガン○ンクとGMスナイパ○カスタムを降ろし、フィギュア部隊の火力支援を命じた。二体はすぐに砲撃と狙撃を開始。味方が来たとフィギュア部隊の士気も上がったようだった。
浮かぶ部屋を敵の増援の進撃ルートに向かわせると、たぶんコボルトっていう人型犬頭の魔物の群が百頭以上向かってきてた。どれも時速40-50キロくらいは出てそうだった。
「陽奈、いける?」
陽奈人形はうなずくと、ベランダから飛び出し、群の先頭を走っていたコボルトを縦に両断しながら着地。そのまま両腕を左右に広げて上半身を回転させて先頭集団の体を上下に分割しながら敵の中央へと突進。
敵の進撃を完全に止め、群がる敵を両手の直剣で一度に二体ずつ以上しとめていった。得たばかりの体で戦ってるのが信じられないほど、陽奈の適応性は高かった。
昔から、才色兼備、文武両道、俺が守ってやるような場面なんて無くて、むしろいつも守ってもらってた方だった。どんなスポーツでも得意で、今の動きは昔強引に新体操部に誘われてそこで両手で
コボルト達も最初の襲撃の衝撃が落ち着いてから、連携してタイミングを測って合わせたり外したり上下左右どこからでも襲いかかり、その内のいくつかは陽奈の体の一部を捉えた。けれど、コボルトの爪先や牙くらいでは陽奈の特別製のボディーにひっかき傷すらもつけられなかった。
コボルトの死体が山と積み重なっているのを見ると、武器にSPすら纏わせていなかった。敵を倒すのに効率が悪いと感じた陽奈人形が死体の山の向こう側へと突入したところで、コボルト集団の最後尾にいて様子見をしていた個体が陽奈人形へと突進をかけ、その両腕の攻撃をフィストガードに内蔵した小結界で受け止めさせた。
「へぇ、やるじゃねぇか。ちったあ保たせてくれよ?退屈しのぎなんだから、な!」
他のコボルトよりは一回り以上たくましい体つきをしたそいつは、道路脇の建物や街灯、電柱なんかを足場にしながら飛び回りつつ加速し、陽奈人形へと襲いかかった。
陽奈人形が直剣にSPを纏わせた攻撃は体をひねったり、拳の背で剣の腹を叩いたりしながら防ぎ、陽奈人形のボディーに拳を叩き込んだりした。体の結界は最小限に展開して、受けた衝撃を地面を滑る事で殺し、足裏に展開した結界の足場で勢いをため込んで逆襲に出たりしたけど、立体機動では相手に一日の長があるせいか、攻撃は空振りが続いていた。
作品の中からまだ援護は出せたけど、手出ししないで、となんとなく雰囲気で伝わってきてたので、フィギュア部隊への増援を創りながら時々部屋を地面に降ろして増援を駐車場へ向けて発進させ、挟撃を命じた。
スピードだけなら特別なコボルトの方が上らしく、SPの追加投入を陽奈人形からリクエストされた気もしたけど、俺は少し考えて、相手が足場としてる電柱や街灯、そのついでで敵コボルトの数を削ぐよう意思伝達した。
浮かぶ部屋は結界に覆われてるから外からは見えない。もちろん光学迷彩も展開されるという素敵仕様だ。俺は浮かぶ部屋をコボルト達の頭上へと移動しつつインベントリーからスキル上げで大量に創った木や石や鉄の玉や
陽奈人形はすぐに意図を理解してくれたのか、まともに立っていられなくなったコボルト達を狩りながら、街灯や電柱を切り飛ばしていった。陽奈人形はわずかに地面から浮いてるので、ばらまかれた玉や撒菱の影響はいっさい受けない。
逆にコボルトの指揮官は味方が邪魔で陽奈人形に襲いかかれなくなり、玉や撒菱で地面は安全な足場では無くなり、立体機動の足場をも次々に失う事でさらに攻め手を減らしていた。
「くそっ!堂々と戦いやがれ!」
とか言いつつ地面で踏み込もうとしても大量の玉に足を取られて、態勢を崩す事もしばしば。好機とばかりに陽奈人形が踏み込んでくると、味方の死体を足場に逃れたが、陽奈人形は迂闊に追撃をする事は避け、SPを纏わせた武器でコボルト達の死体も消し飛ばしながらさらに盤面を有利にしていった。
その間、俺は思いつきで、某有名マンガに出てきた相手の戦闘力を測る小道具を創作していた。いわゆるスカ○ターって奴です。
相手のSPがわからないと、どれだけをつぎ込まないといけないかわからないしね。SPは無駄に出来ないから、これからの必須アイテムになるだろう。ファンタジー系小説なら鑑定というのがおなじみのチートスキルになるんだろうけど、自作出来るならそれに越した事はない。
さっそく起動してみると、その他大勢のコボルトはこんな感じ。
コボルト
HP:25
体力:12
筋力:8
器用さ:5
素早さ:23
SP:7
コボルトの特殊個体は、だいぶ高め。
コボルト・センチネル
HP:52
体力:34
筋力:20
器用さ:9
素早さ:78
SP:101
対して、スカウターで見た場合の陽奈人形は、こんなステータスだった。
陽奈人形
HP:107
体力:52
筋力:37
器用さ:25
素早さ:65
SP:305
頑丈さ:100(結界展開時には∞。ただし1秒につきSPを1消費する)
陽奈人形は生体ではないから、体力とか筋力とかは疑似的な表現だろうけど、相手は陽奈人形を捉えられたとしてもダメージを与えられず、陽奈人形の方は相手を捉えられないという図式が理解できた。
そんな分析をしてる間に、陽奈人形は、百数十体はいたコボルトを全滅させていた。
コボルト・センチネルは悔しそうな雄叫びを上げた後、瞳を紅く輝かせて宣言した。
「遊びは、終わりだ!」
どくん、とその体が脈打つと、体格が一回り以上膨れ上がり、ステータスも跳ね上がっていた。
コボルト・センチネル(状態:暴走化)
HP:52
体力:34(一秒ごとに一減少。体力が尽きた時に暴走化は止まる)
筋力:20→40
器用さ:9→4
素早さ:78→234
SP:101(一秒ごとに二減少。SPが尽きた時には消滅する)
「逃げ回ってれば相手は自滅する!けど、SPつぎ込んでもいいからしとめろ!相手の素早さは、今のお前と同じくらいから4倍になった!」
叫ぶように伝えた時には、陽奈人形は防戦一方になっていた。目に止まらない速度の突進が道路両脇の建物の壁を足場にして繰り返され、陽奈人形は結界を最小限に展開しながら攻撃を受け流していたが翻弄されていた。
が、何度目かの猛攻をしのいだ後、相手の突進のタイミングに合わせて、両手の直剣からx字の斬撃を放った。
コボルト・センチネルが地面につま先を蹴り込んだり、手のひらで地面で弾く事で器用にかわしたが、そんな交錯が何度か続く事で、陽奈人形の狙いは明らかになった。
「足場に出来る壁が無くなったか。だが、それだけの話だ!」
スカウターで見る限り、相手にはもう二十秒も残されていなかった。だが、それを俺は陽奈人形には伝えなかった。相手が何かさらなる奥の手を隠しててもおかしくは無いのだから。
コボルト・センチネルが地面に爪先を埋め込んで最後の突進に備えて力を溜めていると、陽奈人形がコボルト・センチネルとの中間位置をその剣先で示し、一瞬だけその瞳を山際に没しつつある太陽にちらりと向けた。
俺はその一瞬で、陽奈人形が何を望んでいるかを推測し、陽奈の実家を訪れる時に創った照明用ア○グガイをインベントリーから出して、示された地点へと投下した。
すでにコボルト・センチネルの姿は消え、ちょうどその中間地点に達しつつある瞬間に、アッグガ○の大きな瞳のライトがコボルト・センチネルを正面から捉えた。
コボルト・センチネルはおそらく目が眩みながらも勢いに任せてアッ○ガイを弾き飛ばしたが、そこにはX字に放たれた白銀の斬撃が到達していた。
コボルト・センチネルは勘に任せてか地を這うように四つ足で前に回避。そこに上下に回転しながら飛び込んできていた陽奈人形に体を左右に分割されて命を断たれ、光の粒子になって消えていった。
大量のEXPと少しのSPが手に入った。レベルも上がった。やっぱり雑魚敵を大量に倒す方が、強敵を相手にするよりSPをずっと効率的に稼げるようだ。
俺は浮かぶ部屋を地表に降ろし、ほぼ全部隊にひとまずの撤収を告げたが、偵察部隊をコボルト達の本拠地だったであろう建物に向かわせた。
俺は陽奈人形を最初に労ったのだけど、損傷したアッグガ○を悲しげに抱いていたので、すぐにGDプリンターに放り込んで修理した。
1/35部隊も負傷者の部品などを兵員輸送車に乗せて帰還してきた。自ら動けなくなった戦車とかは、ガンタ○ク達が牽引してきてくれた。俺はフィギュア達も次々に修理して復活させ、戦車達ももう一台のGDプリンターを展開して修理のジョブをセットしておいた。
一息ついてると、マイキーが話しかけてきた。
「まぁ、よくやったと言ってやる」
「そりゃどうも」
「これからどうするつもりだ?」
「とりあえず、相手の本拠地が空な間に、検分は済ませておきたいですね。重要な手がかりとかがあるかも知れないし」
「そうだな。くれぐれも油断はするなよ?」
「わかってます。ところで、この浮かぶ部屋ってまだ拡張していけますよね?」
「今の
「インベントリーも拡張されていってるから、見かけ上の重量はほとんど増えない筈です」
いろいろアイディアは浮かんでるので、全部実現しようとすると足りなくなるかもだけど、コアを拡張したり複数設ければ済む話だ。やはり足かせとなるのはSPだった。
俺は補給と修理を終えたフィギュア部隊をインベントリーにいったん戻してから、工場が集まってるエリアまで浮かぶ部屋を移動してフィギュア部隊を降ろして再度の資源調達を命令。その総勢は千体にまで増え、護衛となる戦車や対空戦車なんかも倍増しておいた。
その後は、隣町の中心部へと取って返し、偵察部隊から報告を受けていた敵本部へと乗り込んでいった。
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