第5話 陽奈の新しい体
部屋に女性を連れ込む、というのは幼い頃から陽奈が何度でも遊びに来てたのでワードとしては慣れたものだったけど、大人になってからは、無かった。大学生以降無かったというのが正しいけれど。
まぁ、お互いゾンビだ。お互い何も気にするところは無い、筈なんだけど、なぜか少しどきどきしている自分がいたのは事実だ。心臓、とっくに動いてない筈なのに。
陽奈ゾンビは、少し広めの部屋を埋め尽くす模型や空箱や雑誌や製作机なんかをしげしげと眺めていたが、変わってないなぁ、とこぼしているような気がした。
俺は彼女から視線を切って、部屋を上空25mくらいに浮かべ、結界の強度も少し増しておいた。これから創る物に全神経を集中して、邪魔を入れられたくなかったから。
部屋の中央の床に座り込んだ俺の隣に陽奈ゾンビも座ってきて、何かを期待するように見つめてきたので、一応は説明した。
俺がゾンビとなってからも模型作成に没頭してたら、神様に見いだされて魂リソースの奪還というミッションを与えられて、その為にGDプリンターなるユニークスキルとかも授けられて、ゾンビ狩りなどを始めた事。スケルトン・ナイトとかと遭遇して、危うい戦闘などがあって、もっとやばい気配も感じて、この部屋を移動可能な浮遊城と化して、隣町に逃げてきて、EXPやSPを稼ぎながら、実家に戻り、陽奈の家を訪ね、そして再会した事などを伝えた。
その話してる間にも、GDプリンターを展開して、陽奈の新しい体の部品を創っていた。サイズ的にワンショットではなく、部品を創ってから接合する予定だった。
当人がゾンビ化したとはいえ目の前にいるから、なるべくサイズは合わせて、手のひらと指のセット、手首、腕、二の腕と創っていった。関節は球体関節でつなげた。左手のセットが出来上がると、陽奈ゾンビに組み上がった物を見せた。
陽奈ゾンビは、ほーっと感心しながら、くるくるあちこちを回したり曲げながら眺めていたが、やがて表面をコンコンと叩いて、何の材料で創っているのかと尋ねてきた。もちろんジェスチャーだけで。
「さあな。どうせ半分以上ファンタジーな世界になっちまってるんだ。なら、ファンタジーな金属で創った。その名も
陽奈ゾンビは何となくジト目で見つめてきたけど気にしない。ミスリルやオリハルコンなんて身近には存在してなかったし、魂リソースをそのまま武器の強さや防具の頑丈さに最大限に発揮できる素材があるとしたら、それが最高の素材に決まっている。そんなご都合主義もGDプリンター、おそらくGDはGod Dimensionだろう、神の次元のプリンターなら、実現可能に決まってた。
俺は続けて、右腕のセット、両足のセットも創っていったが、陽奈ゾンビとしては二の腕はともかく、太腿のサイズについては若干絞るよう要求してきた。
いやでもと視線で現在の太腿(あちこちかじられた跡があったけど)を見たら叩かれた。危なかった。創ったばかりの腕で叩かれてたら即死は確実だった。そっちで叩こうとして思い留まってくれた陽奈ゾンビの人間性の名残りに感謝するしかなかった。
太腿の外周サイズは一割減にしたけどまだご不満らしく、指で倍くらい削れと要求してきた。だけどそれはあまりにも強度的にも不安が残ったので、十五%減で両者合意したサイズに落ち着いた。
さて、ここまで来たら、胴体と頭部とかになる訳だが、陽奈ゾンビも眼差しが真剣になって譲ろうとしない頑なな決意も見て取れたけど、伝えた。
「分かってると思うけど、これから胴体や頭部を創る。お前に居られると正直困るから、ちょっと席を外しててくれないか?」
当然、反応は、イヤイヤという左右の首振り。両者譲らず、平行線を辿ったまま時間が過ぎていき、最後には陽奈ゾンビが立ち上がり、俺の腕を取って、眼下の陽奈の実家を指さした。
「あそこにいったん戻れと?」
こくりとうなずいたので従うと、陽奈ゾンビは一人で家の中へと戻っていった。
俺は、これ幸いと、下半身と上半身と首、頭部の素体をそれぞれ創り終え、現在の見た感じと記憶にある、高校生くらいまでの陽奈の姿から、プロポーションや顔の造形を調節していった。
およそ二、三時間経った頃に、両手に大きなトランクを下げ、両脇にアルバムを挟み、首にデジカメを下げた陽奈ゾンビがようやく戻ってきた。もはやその姿はゾンビとは思えなくなってきていた。
「えーと、もしかして、トランクの中身は服とかか?」
こくりとうなずいた陽奈ゾンビは、アルバムとデジカメを押しつけてきた。アルバムは、まだいい。子供の頃から社会人になるくらいまでの成長記録の様な写真が納められてて、懐かしさとほろ苦さが蘇った。やっぱり、陽奈は、自分の記憶の中にある通り、美しすぎた。
続けてデジカメの方は、主に大学生以降の姿が納められてて、おそらく学友とか友人達と海に行った時の物だろう水着姿があった。つまり参考にしろと訴えてきているのだろう。
続けて見ていくと、大人になった後、結婚式のウェディング姿とか、子供との写真もあったのだけど、隣とかに写り込んでる筈の旦那の姿は、編集でカットしたのか、大半は腕だけとか肩までに削り取られていた。まあいいけど。
「えーと、資料ありがとう。てわけで下半身からだな。すでにゾンビになってるし、これは戦闘用の素体でもあるから、排泄や生殖機能なんかは無くて、基本的に関節を連携した、それらしい外観だけを整えたものだけだからな」
という虚しくも真剣な説明をして見せると、一応はほぼ納得してくれたのか、それでもヒップはもう少しだけ丸みをつけろという要求に従うと、納得したのかうなずいてくれた。
続けて取り出した上半身。もちろんどこが焦点になるかは確定的に明らかだった。
「それらしい膨らみだけだ。乳首は付けない。不要だからな」
それを付けない事には少し悩んだ上で納得してくれたみたいだけど、胸の形とサイズについては、デジカメを不器用に扱いながらも目的の写真を探し、何とか拡大して、ほらほら、もっとよく見て!と強調してきた。
そこから何度も
「瞳は、心配するな。とりあえず目が開きっぱなしなのは素体的に問題無いだろうけど見てるこっちが怖くなるかも知れないから、うまい具合に調節されて、ちゃんと人間の時と同じように開け閉め出来るさ。もっと小さな1/35フィギュアとかも関節部なんて作ってないのに、普通の人間ぽい動きしてたし。
それから髪についてはそれらしい素材を代替にしてもいいんだけど、注いだSPで生やせばいい。きっと綺麗な髪になる」
そう伝えると納得したのか、頭部を返してくれた。
さて、それぞれの部品をいったんインベントリーに取り込み直し、GDプリンターの中で関節をつないでいって、足の平や胸の奥に仕込みを施し、最後に上半身と下半身を腰部関節でつなげ、上半身と頭部を喉パーツでつなげると、出来上がった陽奈の新しい体を彼女の目の前に出現させた。
陽奈ゾンビは、その全身をチェックするようにぐるぐる何周でもして細部や動き具合なども確認していったが、自分と素体を指さして、どうやって移るのかと尋ねてきた。
まぁ、その前に、俺は俺で、スキルレベルが10に上がったとシステムメッセージが流れていた。
"GDプリンターのスキルレベルが、10に上がりました"
"GDプリンターがもう一台同時展開できます"
"スキルボーナスとして、インベントリーのサイズが倍加しました"
"新しいユニークスキル、「
"魂込めに使用する、魂の宝石が創れるようになりました"
マイキーが顔のすぐ隣に現れて言った。
「達したか。本来は別の用途に先に使う筈だったが、まぁ問題あるまい」
「別の用途が何だったかは後で聞くよ。それで、どう移せばいいんだ?」
「そこのゾンビを、主から授かった光剣で貫け。すると、その女が持つ魂リソースも人間性もお前の中に格納される。次に、魂の宝石を創り、その中にその女の魂リソースと人間性、魂を込めろ。そこまでいったら、後はその魂の宝石を、その
俺もそうだが、陽奈ゾンビも真剣に聞いていた。
「えぇと、たぶん、間違いなくうまくいくけど、なにぶん初めてだからさ。うまくいくように信じて祈って?」
自信無さげな俺の手を、陽奈ゾンビは両手でくるみ、光剣の筒先を自分の胸の中心に向けた。
頭部でなくとも、こういう時はご都合主義的に大丈夫だろう、大丈夫な筈!と光の刃を一瞬だけ伸ばして陽奈を貫いた。陽奈ゾンビの全身は光の粒子に姿を変え、光剣へと吸い込まれていった。他のゾンビと比べてもずっと多くのSPと、それから暖かな何かが自分の内側に流れ込んできた。
それが何かを確かめる前に、俺はシステムメニューから、カタカナにすると何かに触れそうな魂の宝石を創作。やはりメニュー操作から、自分の中に漂っていた暖かな何かを捧げ、魂の宝石の中へと込めた。自分の、彼女への贖罪の様な想いも一緒に込めて。
それからGDプリンターのスクリーンを彼女の新しい身体に重ね合わせ、胸の仕込みとは別に、頭部の中心に埋め込んだ。どちらかが無事ならたぶん無事になるように。
全てが終わると、またスキルレベルが1上がり、魂込めを成功させた事で得られたシステムボーナスが何とかとか言ってたけど、スルーした。
目の前の陽奈人形の全身が白銀に包まれ、魂鋼の無骨な輝きが白銀の皮膚、おそらく魂リソースの光沢に覆われた。瞳が何度か瞬きして眼に命の輝きが宿り、スキンヘッドだった頭部にはやはり白銀の髪が生えて伸び、綺麗に流れ落ちてまとまった。
ピグマリオンの伝説を思い出さずにはいられなかったが、
「陽奈・・・?」
と声をかけてみるのが精一杯だった。
たぶん、陽奈のもっとも美しい時の造形。全裸であり、球体関節だとしても、美の化身とさえ言える姿は造形した本人からしても圧巻の迫力を備えていた。
陽奈は、顔の筋肉の具合を確かめるように何度か表情を変えてほほえむと、ぎこちなく身体を動かして歩み寄り、バランスを崩して転びかけたので抱き支えた。が、重みに耐えきれず、押し倒され、押しつぶされ、そのまま死亡した。
パニックに陥った陽奈にはマイキーが事情を説明してくれてた。復活までの待ち時間の間に、俺は継続的に稼いでたEXPでレベルが上がった分のポイントを、体力と筋力に割り振っておいた。せめて、抱きつかれた時に殺されないようにと。
ついでで、彼女に使ってもらう武器もセットで創った。
両刃の直剣にフィストガードよりも少し大きめの盾がついてて、その裏側には小型の結界装置も組み込んだ。
復活時間が終わる頃には、陽奈は土下座してなかなか頭を上げてくれなかったけど、何とか立ってもらって、創った武器を持ってもらった。
「これからその武器を使って、戦ってもらう事になる。たぶん、スケルトン・ナイトよりもずっとやばい相手とも。それでもいいか?」
イヤな訳が無いという風に陽奈人形はうなずいたので、尋ねた。
「あのさ、話す事は、出来ないのか?」
陽奈人形は悩ましい表情を浮かべてしばし面を伏せてから、悲しげに首を左右に振った。
「そっか。とりあえずの意志疎通は出来そうだから問題は無いとしておこう。武器とかその身体について説明しておくな。それから、人間の時と関節の可動範囲が全然違うから注意して使いこなしてくれ」
肩も腰も首も360度回ってしまうのだ。肘や手首や膝の可動範囲も全く違う。部屋の中は武器を振り回すには狭すぎたので、実家の庭に降りて、陽奈人形は少しずつ身体を慣らしていった。両腕を左右に開いて剣を水平に向けながら、腰の角度をずらしつつ上半身を360度回す回転切りや、両足の底に仕込んだ小さな浮遊&結界石で空中に足場を作って立体起動をしたり、自分で創っておいてなんだけど、うん、人間離れした戦士に仕上がっていた。
「具合は良さそうに見えるけど、どこか不具合を感じたりはしないか?」
陽奈人形は首を真後ろに回してから左右に振ったけど、それはちょっと怖いので止めてほしい。
「武器にはSPを纏わせる事も出来るから、ただの剣としてだとダメージを与えられない敵に遭遇したら試してみてくれ。フィストガードに埋め込まれた結界装置も同じ感じだ。敵のやばい攻撃はそれで受け流してくれ」
ちょうど慣らし運転が終わる頃に、脳裏にアラート音が響いた。
1/35フィギュアの部隊が大量のゾンビ犬の襲撃を受けて後退中。救援を求むという意識が流れ込んできて、おそらく街中へと放った偵察部隊から、中心部からコボルトだか狼男みたいな集団がそちらへ向かっているとの警告が動画イメージで伝わってきた。
「陽奈、出撃だ。行けるか?」
陽奈人形は力強くうなずき、二人して浮かぶ部屋に戻ると、1/35フィギュア部隊が苦戦している現場まで急行した。
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