第4話 隣町にて
浮かぶ部屋の速度は、自転車と原付の中間くらいだった。SPを消費すればもっと早く飛べたのだろうけど、ぱたぱたと可愛らしく羽ばたく四枚羽に任せていた。
隣町への道路上では低空飛行。ベランダにはスナイパーと長距離射程タイプの機体を部屋の前後のベランダに配置。ゾンビを狩りつつ、遺棄された自動車の類からも有用な資源を回収して、EXPとSPの獲得にも務めた。
移動中、マイキーは部屋の中央に据えられた直方体にもたれて休んでいた。
「何から何まで頼り切ってたら、もしいなくなった時とか、どうしたら良いかわからなくなるもんな」
見慣れた隣町の住宅地の端に着くと、道路すれすれに浮かび、1/35フィギュアを降ろした。道中で増産して、総勢五百体以上。作品の中の戦車や対空戦車、兵員輸送車を
ちなみに、装甲車や兵員輸送車で2、対空戦車で3、戦車でも5しかSPは注ぎ込んでない。鉄素材で頑丈に作ったしね。
装甲車はラジコンカーくらい俊敏に繁華街の方へ向かって行ったし、装甲師団は三つの集団に分かれて住宅地に整然と散開していった。ミリタリーモデラーなら感涙の海に溺死できる光景だった。
さて、考えなきゃいけないことは無数にあった。
あの大量にわき出したスケルトン・ナイトへの対処方法は考えてあったし、この浮かぶ部屋のギミックで、あの時感じたもっとヤバそうな存在にもたぶん対処できる。
ただ、マジもんの巨人だのドラゴンだのそれ以上の存在に出てこられたら、たぶん負けてしまう。
スタータス画面の右上の方には、ログ管理メニューが増えていて、戦闘ログと生産ログが確認できるようになってた。
戦闘ログでは、自分やメ○サーや木竜、そしてフィギュア達が何SPを消費して何SPやEXPを獲得したかを確認できた。あの鎧付きスケルトン・ナイトは、なんと単体で200SP以上持ってた。後から出てきたスケルトン・ナイトは50から70前後だったから、やっぱり特別な相手だったのだろう。なら、あの時感じたヤバイ相手というのは、おそらく鎧付きの数倍の強さは少なくともあると想定出来た。
リアルタイムで更新されていく戦闘ログでSPが黒字で獲得されていく様を確認してからいったん閉じ、生産ログを開いた。
こちらでは、どんな素材とSPを用いて何を作り、スキル経験値をどれくらい得られたかを確認できた。初回の光剣は900SP消費とバカ高いコストでスキル経験値は50も得られたけど、それ以外はおおむね消費したSPに等しいスキル経験値だった。1/35フィギュアなら1消費で1スキル経験値という具合に。
ただし、スキルレベルが上がれば上がるほど、単純な量産で得られるスキル経験値は、2割減、3割減とどんどん減っていった。いずれ全くスキル経験値が得られなくなるのなら、新しい何かを生産し続けなければならなかった。
とはいえ、ヤバイ相手を倒すには、一気にSPをたたき込んで倒してしまった方が安全だろうし、その為にはマージンとなるSPは数百以上の単位で残す必要もあった。
俺は思索しながらも、浮かぶ部屋を飛行させて、隣町で一番馴染みのある一画、生まれ育った家のある辺りに進ませていた。
人類が絶滅してるっていうなら、両親も近所に済んでた幼なじみなんかも、まとめて死んでるかゾンビになってるかのどちらかだった。
生家は、記憶にある姿のまま残っていた。昭和前半に建てられた和風家屋。小さな畑まである庭すれすれに浮かぶ部屋を降ろして、玄関前に向かい、おそるおそる引き戸を開けた。
両親は死んでいるのがわかっていても、むごい死体やゾンビとなってる二人に遭遇するのは、
がらがらと音を立てて引き戸が開けられた先は、やはり、少し荒れていた。誰かが土足で上がり込んだ形跡があった。床に残された足跡を辿り、居間へと向かった。
そこに惨劇の痕跡があることは容易に予測できたので、覚悟を決めてから、居間へと入った。
乾いた血溜まりがあった。それも二カ所。死体は無かった。たぶんここで襲われて、死んで、ゾンビになったのだろう。
ゾンビにかじられて死ぬとどの程度でゾンビになるのか、自分もその一人ながらわからない。たぶん襲われたのだろうけど、その前後の記憶があやふやになってるのだ。
自我を失っていれば、死んだことなど気付かず、ただのゾンビとして人間を襲うだけの存在になり果てていただろう。
そこからさらに足跡が入り乱れ、血の付いた赤い足跡を辿った。家中を探索したようで、二階も一部屋ずつ丹念に獲物を探したような形跡があって、最後は裏口のドアを開けて出ていったらしい。
雨でも降ったせいか、時間の経過のせいか、道路上にはもう足跡は残っていなかった。
俺は両親の死体が無かった事にも、そのゾンビにも遭遇しなかった事にも感謝しつつ、いったん、表玄関の方へと戻り、そこからもう一つの気がかりになっていた、お向かいさんの家へと向かった。
大学は自分は工学系を選んだので、陽奈はついてこれず、都市部、確か大阪かどこかのそれなりの大学に進んだ。
それからは完全に人生は分かれて、年末年始とかに実家に帰った時に顔を合わせるくらいの関係になってた。同窓会はめったに出席しなかったし。
お互い社会人になって、三年目か四年目くらいに、つきあってる男が出来て、プロポーズされたんだけど、どうしよう?と相談されて、好きにすればいいと言ったら、バカっ!と罵られた。
その後、二人は結婚して、どこか新居で生活を始めたと両親から聞いた。ふーん、と気にも止めなかった。
ただ、互いに三十になる頃、離婚したと聞いた。幼い子供を実家に連れ帰り、シングルマザーになったと聞いた。その頃から長期休暇でも実家には戻ってなかった。陽奈のせいというわけではなく、年末年始のようなまとまった日数を休める機会はそうそう無いのだから、趣味に没頭するのに忙しかったからだ。
子供の頃は何度も遊びに来てたけど、模型趣味を始めた小学生の頃からだんだん足が遠のき、十歳になる頃には陽奈の誕生日会とかで無理矢理呼ばれた時くらいしか訪れなくなってた。
玄関前から庭を眺めると、草ぼうぼうになってた一角に盛り土された形跡があり、そこに石碑の様な大きめの石が置かれていた。
とても雑に表面が削られて、パパ、ママと文字が何とか読みとれた。
つまり、たぶん、陽奈は看取って、埋めたのだろう。蘇らないような処置を施した上で。
自分は、期待を戒めた。人類は絶滅しているのだと。自分が遭遇する可能性は三つくらいしかない。死体かゾンビか、あるいは遭遇しないかのどれかだ。
なのに、ゾンビなのに、心臓の鼓動が速まってる気さえした。
俺は光剣を片手に、家の周りをぐるりと回ってみた。あちこち傷ついてたけど、庭に面した大きな引き戸は頑丈そうな雨戸に覆われてたし、他の窓とかも板が打ち付けられたり金網とかで補強されてたりした。
これなら、かなり粘れたんじゃないかと予想出来た。けど、食料はいつまでも保たない。水道や電気なんかのライフラインが止まった後はなおさらだ。どんなに外が危険でも、出て行かないといけない。
だとしたら、子供を連れてどこかへ出て行って、その旅の途上で倒れ、ゾンビになったか土に還ったのかも知れない。
そう考えて玄関のノブに手をかけ回してみると、鍵がかかっていた。
うん、外出するなら鍵を締めて出かけるよね、とも思ったけど、なぜか、そんな感じがしなかった。家の中に何かがいると、そう確信出来た。
俺は少し迷った後、ドアを光剣で切り飛ばした。外を閉め切ってるせいか、家の中は暗かった。人間だったら真っ暗闇というところだろうけど、ゾンビは夜目が効く。
ただ、閉め切られた暗い空間で、ゾンビか、最悪は悪霊と化した陽奈とご対面したくなかった俺は、ひよった。びびったと言ってもいい。
マイキーと作品2体は、浮かぶ部屋でお留守番してるので、自分が召還出来るのは一体だけだった。なんとなくだけど、兵器とかの類は避けたかった。襲われてもすでにゾンビだし死んでも蘇るから何も心配する事は無い筈なんだけど、反射的に攻撃指示を出してしまう事が怖かった。禁じておけばいいかもだけど、それでもパニックに陥ったらどんな命令を下すかなんてわからない。
俺は998体の作品一覧を眺めながらも決めきれず、陽奈との思い出もたぐり寄せて、過去に作った筈だけど一覧にはいない存在に思い当たった。
「そうか。アッ○ガイ、だったかな。あれはカワイイと思ってたから、あいつの誕生日にあげたんだっけか。かわいくないとか、何考えてるんだとか怒られて、いらないなら俺がもらうと言ったらもっと怒られて、結局取り上げられたというか返してもらえなかったというかキープされたままになってたような・・・」
小学四年か五年の頃の話だ。今の自分ならさすがに贈らないとは思うが、そうだな。大人の女性の体を止められるくらいの、50-60cmくらいあればいいか。
そのデザインを記憶から掘り起こし、全長18mくらいを1/30、いやスケール揃えて1/35にするか。GDプリンターを起動し、豊富な素材の中から金属を中心に汲み上げ、ただ体表には無駄に発光素材や塗料、照明なんかをモリモリに盛り込み、大きなモノアイはそのまま懐中電灯みたいなライトの仕様にした。これ、当人からすれば目の前が光ってて何も見えない感じになるだろうけど、サブカメラとかセンサーの類をあちこちにつけておけば困る事もあるまいと決め込み、作成を開始。
かなり大きめで、両手に二本ずつついたヒートロッド(特別仕様)とかもあったので、完了まで五分近くかかった。
ちょっとは余裕が出てきたSPから奮発して、40SPを入れた。30は少ないし50は多いだろと葛藤して妥協した結果だ。ゾンビの一体やニ体が相手なら、余裕で拘束し続けられるだろう。
俺はインベントリーに溜まり続ける資源を元に、SPを込めない木や石や鉄の玉や、金属製の撒き菱なんかを数百個単位で交互に作り続けていた。もちろん、スキルレベルを上げる為で、一個ずつの獲得経験値は微々たるものでも、塵も積もればだし、無駄にはしない使い道も考えてあった。
素材さえあれば、GDプリンターにジョブはセットしておけたので、ア○グガイの制作で一時中断はしたものの、その完成時にはスキルレベルは7に到達した。
○ッグガイは床に踏み出すと、早速その全身をきらめかせてくれた。きんきらきんという訳ではないし、歩く広告塔という感じでも無いんだけど、歩く照明器具みたいな・・・?
自分の前を歩き、自分が向いた方をモノアイのライトで照らすよう指示を出すと、さっそく家の中を歩き始めた。
光るアッグガ○がいれば、周囲の暗闇はかなり後退した。雰囲気的にも。先ずは一階のリビングやキッチンから確認してみた。空き缶とかの類が山と積まれてたので、資源として収納しておいた。冷蔵庫の中は、電気が止まってたせいもあるだろうけど、空になってた。誰かの死体の一部とかが入ってなくて良かったと、後になってから気付いたりもした。
一階で特筆すべきは、たぶん陽奈のご両親の部屋(和室)にあった仏壇に、二人と、それから幼い子供の遺影が飾られていた事だった。ご両親の写真立ては汚れていなかったのに、子供の写真立てはかなり汚れてて写真が見えにくいくらいなのが気になった。
死体も無いしゾンビもいない事を確認した後は、いよいよ二階だ。アッグ○イはそれなりに重いボディーの筈が、ひょいひょいと軽くジャンプしながら階段を上っていってしまった。
そこで最初にするか最後にするかは迷ったけど、感じる気配がこちらを認識してる気がしたので、最初にする事にした。陽奈の部屋だ。
俺は何があろうと近くにいるゾンビを滅消しないよう強く念じた。○ッグガイはうなずいてくれた。俺がピンチに陥りそうなら拘束して、俺を逃がしてくれるようにも頼むと、任せておけという風に両手のロッドで床をぴしぴしと打ち付けた。
その物音のせいか、部屋の扉の向こう側の存在がはっきりとこちらを向いていると感じた。扉には、陽奈の部屋と書かれたプレートがかかっていたけど、同じプレートに吹き出しのようで、壮士という名前も加えられていた。これが子供の名前なんだろうか。
不吉な予感を覚えつつ、ノックはせずに扉を開いてみた。記憶にあるレイアウトとは違うけれど、いくつか見覚えのある家具もあった。
とはいえ、視線は、見覚えのある面影を残したゾンビに注がれた。彼女は、ベッドに寝かされた小さな死体の手を握りしめながら、俺と、アッグガ○の姿をじっと見つめていた。
小さな死体には、頭部が無かった。
何があったのかはわからない。ただ、陽奈の体のあちこちはかじられたのかかきむしったのか判別がつかないくらい肉がぼろぼろに欠けていて、骨がむき出しになってない箇所の方が少ないくらいだった。
何か不幸があって、防げなかった自分を責めたのかも知れないと想像は出来た。
かけるべき言葉があるのか。かけたとして言葉は通じるのか。通じなくてもかけるべきなのかとか迷っていると、ゾンビは、机の上の棚に置かれた小さなガラスケースの中身とア○グガイ、そして自分の間を、視線を順々に、何度も行き来させた。
それからおもむろに立ち上がり、ふらふらと近づいてきた。さっき作ったアッ○ガイが間に入って立ちふさがったけど気にされてない。攻撃してくる様子も無かった。
視線の先のガラスケースの中身は、たぶん、俺がかつて贈ったア○グガイだった。今の俺からすればとても拙い完成度だったが、贈られた当時のままの姿を保っていた。
まずいな。食べられてしまってもいいかなとか思ってしまってる。
まるで、そうちゃん?と尋ねるように口をもごもごさせている陽奈が、俺に向かって腕を伸ばし、あともう少しで俺の体に触れる寸前で、アッグ○イに両足を拘束されて止まった。
「マイキー」
呼びかけると、すぐに傍らに出現してくれた。
「何用かな、創司?」
創司、という言葉にも、陽奈がぴくりと反応した。
「このゾンビなんだけどさ、知り合いなんだ。たぶん、人としての魂が残ってるんじゃないかと思うんだけど」
「ふむ・・・」
マイキーは、陽奈の頭の周りを飛び回り、その瞳をじっと覗き込むと言った。
「欠片ほどの人間性だろうけども、残っているというか、戻ったようだな」
「なら」
「人に戻す事は、出来んよ」
「やっぱり、そうなのか」
「お前は、人に戻りたいか?」
「そりゃ戻れるならね。でも、寝食とか無しで趣味に没頭し続けられるなら、今のままでも良い気はしてる」
そんなの間違ってる、という風に、陽奈はぶんぶんと首を左右に振った。
「というかこの陽奈ゾンビ、言葉を理解出来てないか?」
「だとしても、お前が今私と会話できるような人間性が、そうだな、100残っているとしたら、この娘のは、ほんの10未満といったところか」
「それでも、残ってはいるんだな」
「何を考えている?」
「害が無いなら、連れていこうかと」
「このままなら、却下だ」
「なぜだ?」
「いずれ説明する予定だったが、良い機会だな。お前は我が主から使命を与えられた身だ。覚えているか?」
「当然だ。奪われた魂リソースの奪還だろ?忘れてないし、放棄するつもりも無い」
「人の身なら、普通数十から百以上は潜在的なSPを内包している。それがゾンビとして動かす為の最低限のSPだけを残して、奪われているのだ。奪われた魂リソースがどこにあるかはもう分かるな?」
「奪った側の本拠地、異世界か」
「そうだ。お前にはいずれそちらへ渡ってもらわねばならん。渡る時は、基本的に魂の状態で転移する」
「でも、あのスケルトン・ナイトとか、もっとやばそうな奴とか、そのままの姿で転移してきてないか?」
「その話はまた後回しだ。で、お前のその転移に、この娘は連れてはいけない」
「でも、置いてはいけない」
「お前はかつて、この娘の気持ちを捨て置いたのだろう?趣味に没頭する為に」
半分当たりで、半分外れだった。
「それはもう過ぎた話だ。どうにもならないし、どうでもいい。それよりも聞かせてくれ。魂リソースを奪い返した後、俺はどうなる?」
「つまり、使い捨てにされる事を懸念しているのか?」
「それもある。お役御免と情けとして消滅というか成仏てか昇天させられるのが褒美なら、要らない」
「その選択肢は残しておこう。だが、不死の身で、ずっと好きな趣味に没頭し続けられるのも褒美の一つではないのか?」
「それ、神が、魂リソースを取り返した後にどうするつもりなのか次第なんじゃないのか?また人類社会を作り直すつもりなんじゃないのか?また十数万年とかかけるかどうかは知らないけど」
「さあ、な。それこそ神たる我が主こそ知る、だ」
「神なら、ゾンビを人間に戻すくらいは軽いだろ?SPだって数十億人分を取り戻す予定なんだ。それくらいの褒美があったっていいだろ?」
「つまり、お前は、この女とやり直したいのか?新世界のアダムとイブにさせろと?」
じっと俺を見つめ続ける陽奈ゾンビを見つめ返しながら、俺は答えた。
「そこまでの高望みをするかどうかは知らない。だけど、俺と陽奈とが生活するくらいの小さな箱庭世界くらい、用意してもらえるんじゃないのか?」
「エデンの園か?」
「さあ。俺のユニークスキルが失われないのなら、月でも火星でも居住可能にテラフォームしていく事だって可能だろ」
マイキーはまた陽奈の目を覗き込んでから言った。
「ゾンビの
「スキルレベルは・・・、もうすぐ8に上がれるくらいか。10に上がるまでは、あと一日か二日はかかるかも知れないけど、置いていけないぞ?」
陽奈ゾンビは同意を示すように、こくこくとうなずいていた。いやこれ完全に言葉通じてるだろ。
「なら、それだけスキルレベルが上がるだけの何かを創るのだな。それだけ早く条件は整う事になる」
何を創るのか。それはもうすでに頭の中には浮かんでいた。ただ、当人の前でそれを創るのはためらわれたのだ。
「ここで待っててくれるか?」
陽奈ゾンビは首を左右に振った。
「でも、その、それは連れてはいけないぞ?」
俺は視線で、首から上の無い小さな死体を指した。
陽奈ゾンビは、しばし逡巡した後、両足を拘束してるア○グガイを指さした。たぶん拘束を解けって事だろと解釈してアッグガ○のロッドから陽奈ゾンビを解放させると、陽奈ゾンビは大切そうに小さな遺体を両手に持ち、部屋から出ていった。
俺はアッ○ガイ達とともについていくと、庭に出て、陽奈ゾンビは二つの盛り土の手前に遺体を降ろし、何かを探すように辺りをきょろきょろ見回した。
「スコップを探してるんなら、もうちょっと良い物がある。まあそのものを創ってもいいんだけどな」
俺は作品からア○グを召還。両腕がドリルになってる機体だ。アッ○に、二つの盛り土の横に、小さな遺体がすっぽり収まるくらいの穴を掘らせた。
それはものの数分で終わったのだけど、陽奈ゾンビは、頭部があったとしたら必要になるスペースにも穴を拡張するよう手振り身振りで要求してきて、それは三十秒もかからずに終わった。
陽奈ゾンビは、おそらく息子の遺体を大切そうに抱え、穴に横たえ、ゆっくり、ゆっくりと土をかけていった。別れを告げるように、言葉にならない言葉をもごもごと語りかけ続けていた。
俺はいったん背を向けて屋内へ戻り、仏壇にあった写真立てを三つ取ってきた。GDプリンターで石材を元に墓碑を三つ作り、写真立てをはめ込んだ。もちろん、子供の写真立てのガラスは新調したので、そこで初めて俺はどんな子供だったのかを知る事になった。陽奈には半分くらいしか似てなかったので、残り半分は旦那の遺伝子なのだろう。
陽奈ゾンビは土をかけ終わっていたので、俺はその上に刻んだ石材を薄く積み、低い古墳のように装飾して、頭部の後ろの部分に写真立てをはめ込んだ墓碑を設置した。
「お前の両親の方のにも、同じ様にするからな」
そう声をかけると、陽奈ゾンビはうなずいてくれた。
俺は陽奈が刻んで設置したのであろう石碑も二人用の墓碑に取り込んで、表札に出ていたお二人の名前もそれぞれに刻み、墓碑を設置。土の小山をやはり石材で綺麗に覆って装飾し、ミニチュア古墳が三つ並んだ。
陽奈ゾンビが俺の腕をつつき、手振りで壺の形を伝えてきたので、俺はニ個ずつの石の花瓶を創作。ついでに線香の焼香台みたいのもでっち上げてそれぞれ据え付けた。
陽奈ゾンビはお礼を言うように俺の手を両手で握ってぶんぶんと振ってから、いったん家に戻り、線香やライターを持ってきた。だが、ゾンビの手ではうまく着火できなかったので、代わりに火をつけ、線香の包み紙とかを火種にして、線香にも着火。
陽奈ゾンビは線香の束を大きく三つ、いや四つに分けて、俺にその内の一つを渡すと、残り三つをそれぞれの焼香台に添えると、庭から雑草の様に生えていためぼしい花を見繕ってきて、空の花瓶にさしていった。花瓶の出来の立派さに比べると花のボリュームが圧倒的に足りていなかったが、それはまた来る時に見繕ってくればいい。そう思えた。
陽奈はそれから一つずつの古墳の前で祈りを捧げた。捧げてる相手は、俺の会った神様ではたぶん無いのだろうけど、そんな事はどうでもいい。俺も線香を小分けにしてそれぞれの墓前に供え、陽奈ゾンビの隣で、それぞれの冥福を祈った。すでに起きてしまった事の取り返しはつかなかったとしても。
しばしの静寂の時間が過ぎてから、立ち上がった。陽奈ゾンビも促されるように立ち上がり、俺の手を握った。
なんかこう、再会した直後から比べると、刻々と人間味が急速に戻ってきてるみたいだけど、もちろん気付いてる筈のマイキーが何も言わなかったので、俺も言わなかった。言葉にして語るには、つらい事が多すぎただろうから、今はまだ、このままでいいとも思えた。
資源もSPもEXPもだいぶたまり、スキルレベルもなぜか8を過ぎて9への半ばくらいにまで達していたので、俺は浮かぶ部屋へと戻りつつ、陽奈の為の新しい移し身をどう創るか考えていた。
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