第21話 急転直下の急展開⁉
俺もそれに合わせるようにして押し黙る。
エレベーターはぐんぐんと上昇していき、目的の階へと到着してドアが開く。
外廊下に出ても、華は俺の方へ視線を向けることなく、スタスタと一歩先を歩いていってしまう。
居心地悪く俺が歩いていると、華が突然とある扉の前でぴたりと足を止め、鍵穴を差し込んだ。
ガチャリと施錠が解除される音が聞こえ、取っ手を引くと、玄関の扉が開き、そのまますっと中へ入っていく。
俺がしばらくぼけーっとたたずんでいると――。
「入って」
と声を掛けられた。
「お、おう……」
俺は慌ててドアノブへ手を置き、華の部屋へとお邪魔する。
玄関で靴を脱ぎ、フローリングの部屋に足を踏み入れて辺りを見渡す。
部屋は1Kで開放的な作り。
玄関の左側にはキッチンがあり、右側には浴室やトイレなどが完備されている。
その先にはメインの部屋が広がっていて、正面にはベッドが鎮座していた。
俺が危惧していた寝具の上は、きれいに整頓されており、ひとまずあの男とそういう行為に至っていないことを確認できて安堵する。
「ごめん、今食材とか飲み物とか全部切らしちゃってて」
「平気だよ。別にもてなされなくてもいいし」
「そう……じゃあ適当に座ってくれる?」
「分かった」
そう言われて俺はキョロキョロと辺りを見渡して、ローテーブル近くに置いてあったクッションへと腰かけた。
心なしか、クッションはまだ生温かい一肌の感触が残っているような気がして少々気味が悪い。
華も何やら色々と片づけ終えると、ローテーブルの所に置いてある座布団へと腰かけた。
そして、またも訪れる沈黙。
「とりあえず……色々と悪かった」
俺は沈黙を破るようにして、開口一番に頭を下げて謝罪をする。
「何が?」
「その……急に家に押しかけてきちゃったり、変な勘繰り入れたりとか含めて、色々と……」
「別にいい。もう気にしてないから。それに私の方も、さっきは取り乱してごめんなさい」
「平気、今は落ち着いたんだろ」
「うん、冷静だよ」
「なら良かった」
とは言うものの、華の口調は相変わらず平坦なままで、いつもの抑揚のある声はなりを潜めている。
「それで、どうして
「あっ、えっと……それは……どうしても伝えたいことがあってきたんだ」
「伝えたいこと?」
俺の歯切れが悪くなると、訝しむような目で華が睨みつけてくる。
しかし、ここで戸惑っていては何も解決しないし、なにより俺自身が前に進めない。
意を決するようにふぅっと息を吐いて、俺はすっと華へ視線を向けた。
「実は俺、華の事が好きなんだ……友達としてじゃなく、異性として」
「あっ……そう……って、へっ⁉」
予想外だったのだろう。
華はぽかんと口を開き、呆けている。
俺はそのまま言葉を続けた。
「ディスティニーに行く前からずっと、華のことを異性として意識してた。でも華には、俺のほかに気になってる奴がいるから、ここで自分の気持ちに区切りをつけて整理するために、こうして直接自分の気持ちを伝えに来たんだ……」
華は口を閉じ、神妙な面持ちで話を聞いている。
「華には俺の勝手な気持ちを押しつけることになっちゃって本当に申し訳ない。でも、自分のけじめとしてこれだけは言っておきたいんだ」
俺は居住まいを正して華と向き合う。
「ずっと前から好きでした。俺と付き合ってください」
もう叶わないとわかっていても、俺は頭を下げ、誠心誠意今の自分の気持ちを込めてずっと言いたかった言葉を伝えた。
これで華が『他に好きな人がいるから大翔とは付き合えない』と言ってくれれば万事解決。
俺も吹っ切れ、華も自分の恋に向かって突き進むことができるだろう。
すると華はふぅっと大仰にため息を吐いた。
「ホント……バカじゃないの」
「あぁ、自分でもそう思う」
「そんでもって、私も大馬鹿者。ほら、とっとと顔上げて」
華に促されて顔を上げると、目の前にいる彼女の表情は、自分が思ったものとは違っていた。
頬を真っ赤に染め、恥ずかしそうに身を捩り、軽く上目遣いでちらちらと俺の表情を覗き込んでくる華。
あれ……どうして華はそんなしおらしい態度を取ってるんだ?
そんな疑問に首を傾げていると、華は覚悟を決めたように姿勢を正した。
「はい……喜んで……」
……わっと⁉
えっ……今、喜んでって言った?
ん……んんんんん⁉
「えっ……どういうこと?」
理解が追いつかず、俺は華へそう問いかけてしまう。
「だ、だから! 付き合うの、いいよっていう返事」
「はぁ⁉」
驚きのあまり無意識に大きな声を上げてしまい、手で口元を押さえる。
「えっ……なんで、だって華には他に気になってる人がいるって……」
「それなんだけど、大翔はずっと勘違いしてる。確かにディスティニーで気になってる人がいるって言ったけど、それは大翔のことが気になってるよっていう遠回しの意味で……」
「ってことは、俺はずっと勘違いしてたって事?」
「私も言い方が悪かったから、勘違いさせちゃって申し訳なかったなとは思ったんだけど……あはは……」
「ちょっと待って」
理解が追いつかず、俺は手を前に出して待ったをかける。
「それじゃあ、さっきいた男は?」
「駿平君の事? ただの同じゼミナールの男の子ってだけだよ。今日大学休んじゃって、わざわざ様子見に来てくれただけ。友達も、私が大翔の件で落ち込んでるの知ってたから、駿平君を派遣することでいい感じに次の恋へと仕向けたかったみたい」
「なるほど……それじゃあ、ディスティニーでわざわざ俺のベッドに潜り込んできたのは?」
「それはもちろん……大翔と一緒に添い寝したかったからです」
なんと、華の行動は全部好意から行われていたことに唖然とさせられる。
「そ、それじゃあ……蛍光ピンクのパンツの意図は⁉」
「そ、それは……私も男の子が興奮する下着ってよくわからなかったから。ほら、恋愛ってピンク色のイメージでしょ? だからそれで無防備にさらけ出してたら大翔も理解してくれるかなと……えへへっ」
照れ隠しのように頭を掻く華。
それを見て、俺は思い切り脱力してしまう。
「なんだよそれぇー」
今まで悩んでいた自分が馬鹿らしく思えてきてしまう。
「だからその……私も大翔の事異性として好きだよ。告白してくれて凄いうれしいし、これからも一緒にいたいなって思ってます……」
首を傾げつつ、彼女は頬を真っ赤にしてしおらしく言う。
そんな彼女を見たら、一気に今まで色々と溜め込んでいたものがどうでも良くなってきて、可愛らしく思えてきてしまうから不思議である。
まあそれくらい、俺は恋というなの毒に自分の心が浸食されているということなのだろう。
こうして無事に、お互いの誤解を解いた二人は、晴れて付き合い始めることになりました。
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