第20話 エントランス前での最悪な出会い

 三時間前。

 来汰らいた発破はっぱをかけられた俺は、早速ははなと話をするため電話をけた。

 しかし、何度電話を掛けても、華との連絡は繋がらない。

 どうしたものかと悩んでいると、そこへ来汰がやってきた。


「なに突っ立ってんだよ?」

「それが華の奴。全然電話に出てくれなくて……」

「バーカ。連絡が繋がらないなら、会いに行けばいいだろ?」

「はぁ……⁉ 来汰お前それは流石にアホすぎだろ。都内までどれだけ時間かかると思ってんだ⁉」

「バカはそっちだよ。本当に華ちゃんが好きで気持ち伝えたいなら、授業サボって都内まで行く誠意っていうのを見せてみろ。でなきゃ、相手に気持ちなんて伝わらないぞ?」

「だからって……急に行ったら華に迷惑が掛かるかもしれないし」

「あ“―もう! あーだこーだ言い訳してねぇで、とっとと行ってこい! もし華ちゃんがお前のこと好きなら、お前のことを心の底から待ってるはずだっての! いいから行動で示せ!」


 来汰に再び背中を押されて、俺は言われるがままに学校を飛び出し、そのままターミナル駅から新幹線へと飛び乗った。

 その間も、華へ何度も連絡をこころみるも、繋がることはない。

 もしかして、何か変な事件にでも巻き込まれたんじゃ……。

 そんな不安が俺の頭をよぎる。

 大丈夫だ、きっと華も大学の講義中とかで出れないだけだろ。

 そう何度も頭の中で考えれば考えるほど、嫌な予感が頭の中を支配していく。

 ふと頭に浮かんだのは、華が涙を流して助けを求めている様子だった。

 いやいやいや、考え過ぎだ俺。

 こういう時は落ち着くんだ。

 そう自分に言い聞かせて焦る気持ちをぐっと抑えるものの、新幹線の車内で何度もスマホの時刻を確認しては、時間が全く進んでいないという行為を繰り返し、気が気じゃない時を過ごした。


 東京駅に到着してから、地図アプリで以前華に荷物を送る時に聞いた住所を入力して目的地までの交通手段を確認する。

 都内の電車に苦戦しつつも何とか最寄りの駅へと到着してからは、俺はもう気づけは無意識に走っていた。

 そして、目的地であるマンションのエントランスへと駆け込み、インターフォンの所で華の部屋番号を確認していると、不意にエントランスの扉が開いた。

 ふと視線を上げた先には、パーカーを羽織った華と、隣には困惑した様子の高身長の金髪男が立っていたところで今に至る。


 エントランスの扉をはさんで向かい合う二人の間に、重苦しい雰囲気が立ち込める。

 もちろん華の隣には、謎の高身長金髪男がこちらの様子をうかがっていた。

 金髪男は、俺と華を交互に見つめて、必死に状況を理解しようとしている。


「えっと……それじゃあ俺は、この辺りでおいとまするね」


 男はただならぬ空気感と己の危機を察知したのか、顔を引きつらせて華に向かってそう言った。


「それじゃあ華ちゃん、また学校で」

「えっ、あっ、うん。またね駿平しゅんぺい君。今日はありがとう」

「うん、それじゃ……」


 手を上げて華に別れの挨拶を告げると、華に駿平君と呼ばれていた金髪男はこちらへと歩いてくる。

 俺はギロリと鋭い視線で睨みつけた。

 向こうも一瞬ちらりとこちらを睨んだものの、すぐに視線を前に向けて俺の隣を通り抜けていく。

 結局そのまま金髪男は特に何も語ることなく、マンションの外へと出て、駅の方へと歩いて行ってしまった。

 何とも言えない空気感漂う中でエントランスに取り残された俺と華。

 そんな中、最初に沈黙を破ったのは華だった。


「どうして……どうして大翔がここにいるの?」


 驚きに満ちた表情で尋ねてくる華に対して、俺はふぅっと息を吐いてから答えた。


「ちょっと、伝えたいことがあってな。何度も電話したんだけど、華が全然気づいてくれないから来ちまった」

「えっ……」


 華は驚いたように慌ててスマホの画面を確認する。

 そこには、俺からの大量の着信履歴が表示されていることだろう。


「やっぱり、気づいてなかったみたいだな」

「うん……ごめん」


 申し訳なさそうに謝ってくる華。

 けれど、気づかないのも仕方がないと思った。


「気にするな。目当めあての男が家にいたんだから、そりゃスマホを確認しろって方が無理だよな」

「違う、駿平君はそういうのじゃなくて――」

「そんな必死に否定しなくても、俺はもう分かってるから」

「違う、大翔は全然わかってないよ!!」

「分かってるって……。だってそういうことだろ? 昨日の電話の時だって、男と一緒にいたからあんなに否定して――」

「違う!!!!!!!!!!」


 すると、華は今まで聞いた事ない程の大きな声を上げて激昂げっこうした。

 その声を聞き、俺は思わず唖然あぜんとしてしまう。

 華は眉間にしわを寄せ、明らかに不機嫌そうな様子で激怒していた。


「大翔はなんにもわかってない……」


 そう再び口にして、華はぷるぷると身体を震わせ、唇をぐっと噛み。今にも泣き出しそうな顔で俺を睨みつけてきた。

 俺はそこではっと我に返り、慌てて華をなだめようとする。


「華、とりあえず落ち着けって……なっ?」

「落ち着けるわけないでしょ⁉」


 そう言い切り華は俺の方へ向かってきて、そのまま胸元へ思い切り体当たりしてきた。

 俺は華を真正面から受け止めると、華は俺の胸元を拳でドンドンと叩いてくる。


「なんでわかってくれないの⁉ どうして毎回毎回こんなタイミングが悪い時ばかりに現れるのよ⁉ 私だって、ちゃんと大翔に伝えなきゃいけないこと、たくさんあるんだから!!」

「俺だって、華にどうしても伝えたいことがあって――」

「伝えたいことって何⁉ また私をそうやって苦しめるつもり⁉ もう私、わけが分からないよ……大翔は何がしたいわけ……?」


 華は最後に一度ドンっと拳で俺の胸元を叩くと、そのまま視線を下におろしてしまう。


「落ち着けって……お互い言いたいことがあるんだからさ」


 俺は華の両肩へ手を置く。

 ひとまず、エントランスでこんな姿を他の住人に見られたら、後々変な噂をたてられるかもしれない。


「とりあえず、こんなところ人様に見られたらまずいから、一旦どこか二人で話し合える場所に移動しよう」

「……や」

「えっ……?」


 聞こえなかったので聞き返すと、華は洟を啜ってからもう一度声を上げた。


「私の部屋でいい?」


 華の提案に対して、俺は一瞬の抵抗感が生まれてしまう。

 その理由は、先程華の隣にいた、金髪男の存在。

 もしそのまま家に案内されて、部屋の中が荒れていようものなら……俺は耐えられる気がしなかった。


「大丈夫。駿平君は私をお見舞いに来てくれただけだから、大翔が考えてるようなやましい行為は一切してないよ」

「……本当か?」

「うん、それだけは神に誓って言える」

「……分かった。華がそこまで言うなら、部屋に上がらせてもらうよ」

「うん……ついてきて」


 華は俺の胸元から離れると、すっと踵を返してエントランスのインターフォンに鍵を差し込んでドアを開ける。

 何も言わずエレベーターの方へ一人歩いて行ってしまう華を、俺は急いで追いかけるのであった。

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