第18話 ひとときに現れた彼 ~Side華~

※9月4日 熊原琉璃(くまばらるり)→熊原瑠衣(くまばらるい)へ名前を変更しました


------------------------------------------------------------------------------------------------


 シャワーで身体を流し終えてサッパリしたら、多少頭が軽くなったような気がした。

 そしたら、ぐぅぅぅっとお腹が鳴り、空腹であることを知らせてくる。

 昨日の夜から何も食べていないので、私は空腹を満たすため、何かないかと冷蔵庫を開く。

 しかし、冷蔵庫の中には調味料以外の食材がほとんどなく、食材を切らしてしまっていた。


「うーん……」


 シャワーを浴びてすっきりした直後に外に出るのも面倒くさい。


「よしっ……あれにしちゃおう」


 私はキッチンの方へと向かい、シンクの下の扉を開け、中に入っている緊急用に常備してあるカップ麺を一つ取り出した。

 電気ケトルに水をためて、ポチッとスイッチを押してお湯がくまでにドライヤーで髪の毛をかわかす。

 ドライヤーを終えてローテーブルに戻れば、既にケトルのお湯は沸いており、カップ麺のふたを開け、中から調味料類を取り出して、かやくを投入してからお湯を線まで入れる。

 ポチっとタイマーを三分にセットして、カップ麺のふたひらかないようタイマーをおもわりに置いておく。

 そのあいだに手鏡を取り出し、自分の顔を覗き込む。

 昨日眠っていないこともあって目尻にはくっきりとくまが出来ていた。

 改めて見てもひどい顔をしているなと思う。

 そんなことを思いつつも、お風呂上がりのスキンケアを進めていく。

 化粧水をペチペチと肌へしみこませていると――

 

 ピピピピッ、ピピピピッ、ピピピピッ。

 あっという間に三分がち、タイマーが鳴り響く。

 タイマーを止めてカップ麺の蓋の上から取る。

 残りのカップ麺の蓋をベリベリとがしていく。

 もわっと中から湯気が湧き上がり、一緒にラーメンの美味しそうな香りが鼻孔びこうをくすぐる。


「あっ、おはしお箸」


 立ち上がり、キッチンにお箸を取りに行く。

 お箸を取り出して、食器棚からグラスを手に持ち、お水を注いでからテーブルへと戻る。

 後入れスープをカップの中へ入れてお箸で麺とからめると、醬油しょうゆベースのスープのこうばしいかおりが部屋の中を充満していく。


「いただきます」


 手を合わせて、私は麺をお箸ですくい上げ、一気に口の中へズズっとすすっていく。


「んんっ……!」


 濃厚スープが麺に絡み合い、口の中で香ばしい香りと麺のコシのある噛みごたえ。


「はぁ……」


 至福なため息が漏れ出る。

 これを食べているだけで、今まで悩んでいたことがつまらないようなことに思えてきてしまうから不思議だ。

 ピンポーン。

 そんな時、家のインターフォンが鳴る。


「ん、なんだろう?」


 立ち上がり、インターフォンの受話器の前に行って、カメラを覗き込む。


「えっ……」


 するとエントランスのカメラに映っていたのは、先程通話した駿平しゅんぺい君だった。

 私は受話器を耳元へと持っていき、声を上げる。


「はい、乃々村ののむらです」

『もしもし華ちゃん? 駿平しゅんぺいだけど……お見舞いにきた』


 そう言って、駿平君はカメラに向かってビニール袋をかかげてみせる。


『良かったらあげてくれないかな?』

「うん……分かった」


 私はエントランスの施錠を解除するボタンを押してあげた。


『ありがとう』


 駿平君はにこやかに微笑んで、エントランスを通り抜け、エレベーターの方へと向かっていく。

 どうして駿平君が私の家に?

 そもそも、なんで私の家を知っているの?

 様々な疑問が頭に浮かぶものの、考えているうちに部屋のインターフォンがピンポーンと鳴り響いてしまう。

 私は慌てて適当に部屋着の上にパーカーを羽織り、玄関の方へと向かっていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る