第17話 すれ違い通信~Side華~

 大翔ひろとが立ち上がったその頃……。

 私は一人自室で、部屋の明かりもつけずに体育座りをしてうずくまっていた。

 昨夜、心の準備ができぬまま大翔に連絡してしまい、いざ核心の質問をされたときに本音を言えず誤魔化してしまった結果、私に他に好きな人がいると大翔に勘違いされてしまい、勝手に通話を切られてしまう始末。

 自暴自棄じぼうじきになった挙句、偶然お店の外で出会った駿平しゅんぺいくんにもひどいことをしてしまい、彼にも合わせる顔がない。

 なので、私は家に帰ってきてからずっと、一人部屋の中で籠り、自分が犯してしまった過ちについて何度も反芻はんすうしては落ち込んでということを繰り返していた。

 暗闇の部屋の中でずっとそんなことを繰り返しているうちに、気づけば日が昇り、それからもしばらくため息ばかり吐きながらその場にへたり込んでいた。


「……はぁ……私何やってるんだろう」


 思わずそんな独り言がこぼれ出る。

 ふと壁にかけられている時計を見れば、時刻は正午を過ぎてもうすぐ午後一時になろうとしていた。

 すると、バッグの上に置いてあったスマートフォンの画面が明るくなる。

 明るくなったスマートフォンの画面を覗き込めば、なんと大翔からの着信だった。

 私は慌ててバッグの上に置いてあったスマートフォンを手に取る。

 しかしその指先は、なかなか応答ボタンへと進んでくれない。

 私は悩みに悩んだすえ……意を決して応答ボタンをタップ――

 しようとしたところで、タイミング悪く着信が切れてしまう。


「あっ……」


 まるで、唯一の希望が滑り落ちていくような気分に陥る。

 大翔の方から電話を掛けて来てくれる最後のチャンスかもしれなかった。

 もしかしたら、昨日の弁解を出来るかもしれなかったのに、私はその機会を今まさに逃してしまったのだ。


「はぁ……私ダメダメだ」


 私はまた落ち込んでしまう。

 そんな時、再び手の中でスマートフォンの画面が明るくなる。

 画面を見れば、再び着信が来ていた。

 しかし、相手は大翔ではなく、駿平くん。

 私は震える手で応答ボタンを押して、今度こそ耳にスマホをかざす。


「もしもし……?」

『あっ……もしもしはなちゃん? 俺、駿平だけど、今平気かな?』

「うん……」


 か細い声で私は首を縦に振る。


『その……昨日のこと謝ろうと思ってさ。華ちゃんにも色々と事情があったのに、その……無理矢理引き留めようとして悪かった』

「ううん平気だよ。ありがとう、昨日は私も色々思う所があったから、駿平君に酷いことしちゃってごめんね」

『俺は平気だよ。ただ、さっき瑠衣るいちゃん達から聞いたんだけど、大学にも来てないって聞いたからさ。大丈夫かなと思って……』

「心配してくれたの?」

『まあ……そんな感じ』

「そっか。ありがとう気にしてくれて。でも、もう平気だから。悪いんだけど、瑠衣たちにもそう伝えといてくれると嬉しいな」


 私は無理やり明るくそう振る舞い、その場をしのごうとした。

 すると――


『……全然大丈夫そうに聞こえないって』

「……えっ?」


 駿平君から驚きの言葉が返ってきたので、私は思わず頓狂とんきょうな声を出してしまう。


『……今どこにいるの?』

「家、だけど……」

『わかった』


 そう言って、駿平君はプツリと通話を切ってしまう。


「……」


 思わず、私は通話画面を見つめてしまう。


「……まさか……ね」


 一縷いちるの可能性が頭をよぎったものの、私はすぐにその考えを振り切るように首を横に振って立ち上がった。


「おっとっと……」


 久しぶりに立ち上がったので、よろけてしまう。

 ようやく二本足で立ちあがり、辺りを見渡す。

 部屋は閑散かんさんとしており、時計の針の音だけが室内に聞こえる。


「シャワー浴びよ……」


 昨夜帰ってきてから、風呂にも入っていなかったので、まずは身体をきよめることにした。

 そして、スマホをバッグの上に置いてから、脱衣所へと向かっていく。

 直後、そのスマートフォンの画面が再び着信を知らせるものの、その想いが華へ届くことはなかった。

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