第15話 自分の弱さ~華Side~

 大翔ひろとからの電話は一方的に切られ、耳元にかざしたスマホからは音一つ聞こえてこない。


「あぁ……やっちゃったぁー!!!!」


 私は思わずその場にしゃがみこんで、頭を抱えてしまう。


「私のバカ、私のバカ、私のバカ! どうして素直に気持ちを伝えられないわけ⁉」


 素直になれない自分に対して怒りを覚え、私は首をぶんぶんと激しく横に振る。

 正直、大翔から先にメッセージが来たのは予想外だった。

 しかも、その内容が蛍光ピンクのパンツについての言及だったので、私の頭は混乱してしまい、気持ちの整理がつかぬまま電話を掛けてしまったのが悪かったのだろう。

 結果、大翔に蛍光ピンクのパンツは何の意図もなかったと恥ずかしさから嘘を吐いてしまった。

 それを聞いて、大翔は完全に私の気になる男子が他にいるものであると勘違い。

 誤解を解くことが出来ぬまま、通話は終了。

 私の気になっている人は大翔なのに……。

 はぁ……こういう時に素直になれない自分が情けない。

 恥ずかしがらず、蛍光ピンクのパンツは大翔を喜ばせるために履いていったと白状すればよかったのに……。

 でも、いざ問われたら、恥じらいが勝ってしまい、本当の気持ちを伝えることが出来なかった。


「はぁ……私、何やってるんだろう」


 ようやく頭が冷静になってきたら、一気に虚無感きょむかんおそってくる。

 自分のおろかさに嫌気いやけがさし、一人になりたくて、そのままお店に戻らず帰宅することにした。


「あれはなちゃん? こんなところで何してるの?」

 

すると、不意に声をけられ顔を上げると、そこにいたのは駿平しゅんぺいくんだった。


「駿平君……」


 駿平君は、一人雑居ビルの横でタバコを吸っていた。

 そのタバコをふぅっと一吸ひとすいしてから、さっとポケット灰皿にしまう。


「悪い悪い。ちょっと休憩しててさ」


 苦笑した笑みを浮かべた駿平君は、居酒屋で調子に乗っていた時とは違い、随分と大人しい様子に見えた。

 まるで、夏休み前のような落ち着いた雰囲気をまとっているよう。

 そこで気づく、やはりあのキャラは、無理して演じているらしい。

 こうして一人お店の外で煙草をふかしてたのも、無理している自分を誰にも見せたくなかったのだろう。


「ごめん、私先に帰るね? 悪いけど、他の人にも言っておいてくれると助かるな」

「えっ、うん分かった」

「それじゃ……」


 私はそう一言断りを入れて、駿平君の横を通り過ぎようとしたところで、不意に目の前の通路をふさがれる。


「……待って」


 立ちふさがったのは駿平君だった。


「……何?」


 私が少しむすっとした顔で見上げると、駿平君はじぃっと私の顔を覗き込んでくる。


「華ちゃん……もしかして、何かあった? もし俺で良ければ、相談に乗るよ?」

「ううん、何でもないよ。大丈夫だから」

「でも明らかにさっきより様子が変だし……何か嫌なことでもあった?」

「本当に大丈夫だから」


 そう言って、私は駿平君の横を通り過ぎてそのまま立ち去ろうとしたら、今度はガシッと腕をつかまれる。


「待てって……」

「嫌だ、離して!」

「どうしたの華ちゃん。落ち着いて!」

「いいからほっといて!」


 私はそこで感情が爆発してしまい、強引に駿平君に掴まれた手を振り払おうとする。

 そして、駿平君の手から逃れるため彼の手をつめいてしまった。


「いって……」


 駿平君は一瞬眉根をひそめ、険しい表情を浮かべたものの、すぐに私を労わるように神妙な表情で見つめてくる。


「……ごめんなさい」


 震える声で謝り、私はきびすかえしてその場を立ち去る。

 何とも言えない様々な感情がき上がってきて、目元には涙がにじんできた。

 嗚咽をこらえ、鼻をすすりながら、私は一人足早あしばやに駅へと向かっていく。

 改札前で振り返ると、もう駿平君の姿は見えなかった。

 私は安堵するようにため息を吐き、柱にもたれかかる。


「……もうヤダ、最悪」


 自分が情けない。

 私のせいで、関係のない駿平君まで傷つけてしまった。

 そんな弱い自分を咎め、自身のあやまちを何度も何度も悔いて反芻はんすうして、ひたすら落ち込むのであった。

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