第14話 言えない本音とすれ違い

 バイト先を後にして家に帰り、俺は風呂にも入らずにベッドの上に寝転がり、ずっと華とのトーク画面を覗き込みながら悩みに悩んでいた。


「聞くって言ったって。これは一体何て書けばいいんだ?」


 はなにどうやって真相を聞き出したらいいのか分からず、頭をいてしまう。

 思考を巡らしているうちに、来汰らいたのとある言葉が思い浮かぶ。


『当たって砕けろ!』

「いやいやいや、待て待て待て……ここにきていきなり告白はまずいだろ……」


 俺は考えを振り払うように、首を横にぶんぶんと振る。

 そして、次に思い浮かんできたのは、来汰が言っていたもう一つの考え。

 もし華が脈なしだった場合、あの蛍光ピンクのパンツは何だったんだよと軽いノリでネタとして聞くことができると言っていたことを……。


「そう……だよな。変な期待は持たない方がいいよな」


 俺はそう決心して、華へのメッセージを打ち込んでいく。

 そして、熟考したうえで考えたメッセージが――


『なぁ、この前の蛍光ピンクのパンツって、あれどういう意味だったの?』


 という当たり障りのない文章。

 俺はふぅっと一つ息をいてから、ぽちっと送信ボタンを押した。


「よしっ、これで後は返信を待とう」


 ようやく華にメッセージを送るという一つの大きな壁を超え、スマホを投げ捨ててから体を起こし、俺は風呂場へと向かう。

 しかし、すぐにピコンと通知音が鳴り、俺はくるりと身体を反転させてベッドの上に置きっぱなしにしたスマホの元へすぐさま戻る。

 ロックを解除してスマホの画面を見れば、華からの返事が返ってきていた。

 そこに書かれていたのは……。


『なっ……いつ私の下着見たの⁉』


 という驚いたような文面だった。

 俺はすぐさま返事を返す。


『いや、朝起きた時に華が寝間着脱いだ状態で眠ってたから……』

『そ、それで私の下着を見たってわけ⁉』

『まあ、そんな感じ』


 すると、今度はブルブルとスマホのバイブレーションが振動する。

 華から電話がかかってきた。

 俺は通話ボタンをタップして電話に出る。


「もしもし?」

『……大翔の変態』


 電話に出るなり第一声が変態扱い。

 俺の心にグサっと刺さるものがあったけれど、平静を装って会話を続ける。


「仕方ねぇだろ、起きたらそっちが寝間着脱いだ状態で寝てたんだから。不可抗力ってやつだ。んで、どうしてあんな派手なヤツ履いてたんだ?」

『べっ、別にそんなのどうだっていいでしょ! 何、私の下着のセンスに文句つけるわけ?』

「別にそんなんじゃねぇよ……。ただ、夜に俺の布団にもぐり込んできたから、何か意図があったのかなと思っただけ」

『い、意図とかないしぃ⁉そもそも、大翔にそんな気使う必要ないでしょうが!』


 はい、この時点で脈なし確定。

 まあ、来汰やマスターの言うとおりだったな。


「そかそか。なら、華が寝てる間に勝手に覗き見るようなことして悪かったな」

『べ、別に謝る必要ないのに……』

「いや、そこは謝らさせてくれ。そもそも華には、他に気になってる奴がいるのに、泊りでディスティニー行こうとか言っちまったし」

『待って。大翔と泊りでディスティニー行くこととそれは関係ないでしょ? 私は普通に楽しかったし、それに私に気になっている人がいたとしても、別に大翔となら別に嫌じゃないというか……』

「でももし華が付き合うことになったら、そうはいかないだろ。その男に勘違いされて、今度は華が傷つく羽目になるかもしれない。華ならきっと告白すれば付き合えるだろうし、今後はそういう勘違いされそうな行動は出来るだけ控えような。それじゃ……』

『あっ、待っ――』


 そこで、俺は華の言葉の続きを聞くことなく電話を切ってしまう。

 華が何を言おうとしたのは分からなかったけど、とにかく今は振られたという事実を受け止めることだけで精一杯だった。

 俺は大きくため息を吐いてベッドに倒れ込み、スマホを充電プラグに差し込んでから、そのまま毛布を頭まで被る。

 今日は悲しみで眠れそうにないなと思いつつ、自分の気持ちを整理するために、一人からに閉じるのであった。

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