第6話 ピンク・ザ・ビュー

 俺とはなはディスティニーを後にした。

 舞浜駅からディスティニーパークの外周を走るモノレールに乗車して向かったのは、本日宿泊予定のホテル。

 ディスティニーパークの敷地内にあるホテルで、なかなか学生が宿泊することが出来ないようなお高めのリゾートホテル。

 チェックインを済ませて部屋へと向かう

 勿論、二人きりなので同部屋。

 ルームカードを部屋のドアにかざして施錠を解除して部屋へと入る。


「お疲れ様―」

「ふぃーっ……疲れた」


 華はそのまま手前のベッドにダイブしてしまう。


「お疲れさん……先にシャワー浴びていいぞー」

「ありがとう……」

「……」


 しかし、俺はシャワー室の方を見て言葉を失う。


「ん、どうしたの大翔ひろと?」

「いやっ……あれ」


 そう言って指差した方へ華も視線を向ける。

 シャワー室を見れば、そこに広がっているのはオーシャンビュー。

 なんと、シャワー室がガラス張りになっていたのだ。

 これじゃあすべて丸見えじゃないか!

 そんなことを思っていると、華がちらりとこちらへジト目を向けてくる。


「先に入っていいぞって、そういうこと?」

「ち、違うんだって! 何の気なしに言ったらそういうつくりになっていただけで、本当にたまたまだから!」

「大翔の変態……」

「だから違うんだってばぁ!」


 あぁ、もう!

 どうしてこんなことになるんだよ!

 俺は懊悩おうのうしながらも、すぅっと息を吐いて一旦冷静になる。


「と、とにかく、俺はロビーで適当に時間潰してるから、先に入ってくれ」

「えっ……別に部屋にいてもいいのに」

「バカ言え、部屋にいたら、それこそお前に変態認定されるだろうが」

「べっ……別に……私は大翔になら見られても……」

「へっ、なんだって?」

「なっ、何でもないし。大翔のスケベ、意気地なし!!!」


 顔を真っ赤にして罵声ばせいを浴びせてくる華。

 なんかすごい納得がいかないけど、これ以上言い争いをしても意味がないので、俺は貴重品きちょうひんだけを持って部屋を出て行く。


「それじゃ、終わったら連絡くれ」

「はーい」


 部屋を出て、エレベーターでロビー階へ降りて、簡易的かんいてきな休憩室のような所の椅子に座り、大翔はスマホをいじりながら時間を潰すのであった。

 

 しばらくして、華からメッセージが届き、部屋に戻って今度は交代で俺がシャワーへ。

 もちろん華にはロビーで待機してもらい、何とかはらはらのシャワータイムを終える。

 華が部屋に戻ってきた頃には、夜もだいぶ更け、就寝する時間帯へと差し掛かっていた。

 どちらからとでもなく、お互いに大きな欠伸が出てしまう。


「……そろそろ寝るか」

「うん、そうだね」


 そう言って、歯を磨いたり寝る支度を整え、俺は一足先ひとあしさきにベッドへ潜り込む。

 続くようにして華が洗面台から部屋へ戻ってきたかと思うと、そのまま手前にある自身のベッドを素通りし、何故か間の通路に向かってくる。


「ほら、どいてどいて」


 そして、何を血迷ったか、華は俺のベッドへ入り込もうとしてくる。


「はぁ⁉ いや、華のベッドはそっちだろうが」

「……そういう意味じゃないっての。ほら、いいから早く詰めて詰めて」


 有無を言わせぬ勢いで、華は強引に俺のベッドへ入ってきてしまう。

 俺は何も言えずに、華の入るスペースを開けてから、身体を反対側へと向けた。

 華の奴何考えてんだ⁉

 俺が混乱していると、華は俺の背中へピトっと頭をつけてくる。


「はぁ……久しぶりに大翔と寝るの何だか落ち着くな」

「いやっ、今まで一度たりとも同じベッドで寝た事ねぇだろうが」

「えっ、そうだっけ?」

「そうだよ。大体、気になってる男子がいるくせにこんなことしていいのかよ?」

「……ダメ?」


 甘ったるいすがるような声で尋ねてくる華に、俺は思わずたじろいでしまう。


「うっ……そ、それは別に……」


 そんな声音こわねで言うのは反則だろ。

 俺が躊躇ちゅうちょしているのを見て、華は俺の服のそでをきゅっとつまみ、さらに密着してくる。

 俺は高まる鼓動を押さえるようにして、はぁっとため息を吐く。


「ったく、俺はそっち向かないからな」

「えっ……良いの?」


 俺が根負けしたのが意外だったのか、華が驚いた様子で尋ねてくる。


「華が潜り込んできたんだろうが……まっ、もう寝るだけだしな」

「そっか……ありがとう」

「ほれ、部屋の明かり消すぞ」

「うん」


 俺は部屋の明かりを消して、暗闇につつまれた部屋で、華の温もりを背中に感じながら就寝する。


 しばらくして、華のスヤスヤと心地よい寝息が聞こえてきた。

 ディスティニーで歩き回って疲れてしまったのだろう。


「人の気も知らないで、心地良さそうに寝やがってよ」


 俺はまたもやふぅっとため息を吐いてしまう。

 こっちとら、心臓がバクバクで寝れそうにないってのによ。

 一人徹夜コースを覚悟してから、俺は少しでも寝れればいいなという願いを込めてまぶたを閉じることにした。



 チュン、チュン……。

 俺がふと目を開けると、すずめの鳴き声が外から聞こえてくる。

 部屋のカーテンの隙間から朝の日差しが差し込み、俺の顔に直撃していた。

 どうやら、俺も疲れがまっていたようで、いつの間にか眠りについてしまったらしい。

 まあ、長距離移動の後にディスティニーだ、疲れない方がおかしいというもの。

 俺はんんっ……と寝ぼけたまま寝返りを打つ。


「⁉」


 すると、目の前に可愛らしい寝顔が現れる。

 そうだ、昨日は華と一緒のベッドで添い寝したんだ!

 一瞬息が止まりそうなほど驚いてから、俺は慌てて寝返りを打つ。

 しかしその反動で、俺が毛布を一緒に絡み取ってしまい、華の身体にもかけられていた毛布ががされてしまう。


「あっ、ヤベっ……」


 起こしてしまったかと思ったが、華は悩ましい声を上げ仰向けになり、そのまままたスヤスヤと眠ってしまう。


「ふぅ……」


 俺は安堵の息を吐いてから、再び華へ布団をかけてやろうと視線を戻した時だった。


「なっ……」


 その光景に、思わず言葉を失う。

 視線の先には、はだけた寝間着からのぞき通るような白い肌。

 そして、その下に履いている、神々こうごうしく輝きを放つ蛍光ピンクのパンツを……。

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