第5話 華からのメッセージ

 それから、俺とはなはディスティニーを思う存分満喫した。

 ではしゃぎ、でずぶ濡れになり、ポップコーンを購入してシェアして食べ歩きしながら『姫と野人』の新エリアへと向かった。

 アトラクションに乗った後は、森の中にある野人の城で映画と同じシチュエーションのモノマネをして写真を撮ったりと、とにかくディスティニーを二人でエンジョイ。

 その後も、『プー太郎のハニーハント』や『地を這うダンボ』、『イッツ・ア・リトルワールド』、『フォレストクルーズ』など多くのアトラクションを堪能していると、気づけばすっかり日は沈み、空は漆黒の闇につつまれていた。

 パレードを観賞して、今はディスティニーランドのシンボルであるシンデレラ城の前に来ていた。

 夜闇の中で、お城は四方からライトアップされ、きらびびやかに輝いている。

 そんなお城を、俺たちは正面から見上げるように眺めていた。


「……綺麗だね」

「あぁ……そうだな」

「記念に写真撮ろうか」

「おう」


 華はスマホを取り出して、設定などをいじってから城に背を向けて手を前に伸ばす。


「ほら、もっとこっちに寄って寄って」

「お、おう……」


 俺は肩が触れ合いそうな距離まで華へ近づく。

 しかし、それでもカメラに収まりきらなかったのか、今度は華の方から距離を詰めてくる。

 ピトっとお互いの肩が触れ合い、華の黒髪が俺の頬をなぞる。

 思わぬ不意打ちに、俺はまたも華を意識してしまう。

 肩から感じる温もりと髪から漂うフローラルな香り。

 改めて、華が女の子であることをこれほどかと意識させられる。

 ダメだ、忘れろ俺。いくら華を意識したって、華にはもう好きな人が……!


大翔ひろとどうしたの? ちゃんと目開けて?」

「あっ、悪い」


 華に注意され、俺は慌ててスマホのカメラのレンズを見つめ、無理やり作り笑いを浮かべる。


「はいっ……チーズ」

 カシャッ……カシャッ……!


 二度シャッターを切り写真を撮り終え、俺と華は同時に肩を離した。

 華はスマホで撮った写真を確認すると、ぱっと顔を上げ、バッチリといった様子で親指と人さし指で丸を作ってみせる。


「後で俺にも送っといてくれ」

「分かったー!」


 写真を貰って、大切に思い出として残しておこう。

 そんなことを考えながら、俺はもう一度お城を見上げる。

 本当は、ここで告白する予定だったんだけどな……。

 当初頭の中で描いていた計画を思い出す。

 夜のお城の前で、俺が華の手を取り、『俺、華のことが好きだ。これからもずっと一緒にいたい。友達としてじゃなくて恋人として……。だから、俺と付き合ってください』などとくさ台詞せりふを言おうとしてたなんて、今思えば痛すぎて悶絶もんぜつものだ。

 でも、もうその必要もない。

 華は俺のことなど眼中にないのだから。

 俺が今思うのは、華が気になっている男の子と幸せに結ばれて欲しいということだけ。

 そんなことを心の中で願っていると、ふと右手をぎゅっと握られた。

 視線を向けると、隣に並んだ華が顔を正面のお城に向けたまま手を繋いできた。


「今日は楽しかった。大翔と久々に会ってこうして昔みたいにはしゃぎまわって、本当に良かった」

「あぁ、俺も楽しかったぞ」


 不意打ちの感謝の言葉に思わず手に力が入り、華の手を強く握り返してしまう。

 すると、華が顔を俺の方へ向けて来て――


「また……二人で来ようね」


 といって、華は瞳を潤ませ、優美に微笑んでくる。

 だから、そういう態度を取られたら勘違いするだろうが……!

 今度は俺じゃなくて、気になっている奴と結ばれたときに来ればいい。

 頭の中で難癖なんくせをつけつつも、俺は無理に笑って口を開く。


「おう……またいつかな」


 刹那、お城の上で、煌びやかな花火が打ちあがる。

 どうやら、パレードが最後のパフォーマンスを終えた後に出る演出らしい。

 俺たちは手を繋いだまま、お城の上で輝く花火を眺める。


「ねぇ……大翔」


 すると、花火の喧噪の合間に、華が声を掛けてくる。


「ん、なに?」


 俺が尋ねて華の方を見ると、華も俺の方を見て……


「~~」

 ピューッ、バンッ、バンッ!


 華の口元が動き、何やら言葉を発したようだったが、花火の弾ける音にかき消されて聞き取ることが出来なかった。


「……えっ、今なんて言った?」


 俺が慌ててもう一度聞き返すも、華はつーんと唇を尖らせた。


「なんでもないよー。聞き取れない大翔が悪いんだもーん!」


 華は残念でしたというような表情でニヤニヤ笑うと、手を離し、城を背にして歩きだしてしまう。


「……何て言ったんだろう?」


 俺は疑問に思いつつも、華の後を追っていくのであった。

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