第3話 運命の国

「着いたー!」


 降り立ったのは京葉線けいようせん舞浜まいはま駅。

 まだ開演前だというのに、ディスティニーランドへ向かう人々が改札口からぞろぞろと溢れ出てくる。

 その光景をの当たりにして、俺は思わず顔を引きつらせてしまう。


「すげぇ人。この人ら全員が同じ目的地に向かうんだって考えると、ぞっとしてくるな」

「そうかな? とかの方が人ヤバくない?」

「確かにそうだけど……なんか俺たち場違いな気がして……」


 オタクの祭典さいてんコミックマーケット、通称『コミケ』も凄い人の数だけれど、ディスティニーの場合は家族連れや学生が多く、きらきらと輝いているように見えて、俺には場違いな気がしてしまうのだ。


「そんなことないでしょ、だってほら、カップルだっていっぱいいるし」


 はなが指差す方向には、手を繋ぎながら楽しそうな様子で歩く若いカップルや、初デートなのか緊張した様子で初々ういういしく並んで歩く学生カップルなどが散見された。


「俺たちはどう見られてるんだろうな?」

「へっ⁉」


 俺が無意識にそんなことを口走ってしまうと、華が驚いたような声を上げて、こちらを見上げてきた。


「ど、どうなんだろうね……」


 どこか落ち着きのない様子で身体を揺らし、視線をキョロキョロとさせる華。

 そんな華の慌てっぷりを見て、もしかして華も俺とそういう風な関係に見られることを多少なりとも意識してくれているのかと勘違いしてしまいそうになる。

 お互いに得も言えぬ雰囲気が漂ってしまい、俺が慌てて口を開く。


「まあでも、コミケと違ってこっちはランドとシーに分かれてるから、多少は分散するし気持ち的には楽だな!」

「そ、そうだねっ!」

「そんじゃ、俺たちも向かうか」

「う、うん! 行こう!」


 そうして俺たちも、人々の流れに従って入り口ゲートへ歩いていく。

 ランドの入り口ゲート前につくと、既に多くの人が列をなしていた。

 俺たちは列の最後尾に並んで、開演の時間を待つ。

 その間に、園内のマップをスマホで見ながらはなに尋ねる。


「最初はどこから行く?」

「私乗りたい! 前来た時休業中で乗れなかったんだよね!」

「おっけい。じゃあそれに乗ろう」

「あっ……でもそれなら、先にのファストチケット取っておきたいな! あれは絶対に普通に並ぶよりファストチケットで入った方がいいから」

「分かった。それじゃあまずはのファストチケットから取ろう」

「おっけい!」


 そうして今日のプランを計画していると、あっという間に時間は過ぎ、開演時刻を迎えた。

 場内アナウンスが流れ、ディスティニーのテーマソングが華やかに俺たちを迎えてくれる。


大翔ひろと、今日は思いっきり楽しもうね♪」

「おう!」

 

 プランを決め終え、二人でにこりと微笑みあうと、入場ゲートに並ぶ待機列が動き出す。

 列はスムーズに進み、数分でゲートの前までたどり着く。

 改札機のような所へチケットを通して入園完了。

 キャストのお姉さんやお兄さんたちに見送られ、いざ運命の国ディスティニーランドへ。

 俺が目の前の光景に感動している矢先、華がこちらへ振り返り、急かすようにその場で足踏みを始める。


「ほら大翔、急ぐよ!」

「えっ待って、走るの⁉」

「当たり前でしょ! ファストパスは早い者勝ち。いわば争奪戦なんだから!」


 そう意気込み、華は俺を置きざりにして全速力で走りだしてしまう。


「おい、待てって!」


 俺の呼び止めも聞かず走っていく華を俺はすぐに追いかける。

 華はそんなに足が速い方ではないので、俺はすぐに華に追いつくことが出来た。

 そしてそのまま、華の隣を六割程度の力で並走する。

 すると、まだ入り口から数百メートル程だというのに、華は既に息切れ寸前の状態だった。

 今にもフラフラと倒れてしまいそうにぜぇ……ぜぇ……と荒い呼吸をいている。


「華……大丈夫か?」

「ダメ……もうむりぃ……」


 そう言って、華は早くもその場に立ち止まってしまう。

 肩で大きく息を吐きながら、膝をついて頭を下へ向けていた。


「ったく、体力ねぇのに意気込むからだっての。ほら、チケット貸せ、俺がファストパスとってきてやるから、華はゆっくり歩いてこい」

「あ、ありがとう……ここは大翔に任せた」


 素直に手に持っていたチケットを手渡してくる華。

 俺は華からチケットを受け取り、華へもう一度声を掛ける。


「それじゃ行ってくるから、息整えてから来いよ! 無理すんな」

「うん……ありがとう大翔」


 華のことは心配だったけれど、今は目の前のことよりこれから迎えるであろう華との素晴らしい素敵なデートを夢見て、俺は断腸の思いで華から離れ、一気にファストパス発券所目掛けて全速力でかけていくのであった。

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