3. 関連情報について

この失踪事件もまた、投稿者本人による自作自演ではないのかという指摘は当然あった。

だがこの点に関しては、事実であると断言できる。筆者はツイッターで投稿者の親族とコンタクトを取り、この事実確認を行った。行方不明者届も出されており、2021年8月19日の時点では投稿者は公的に行方不明者であった。

最後の投稿以降は筆者も親族の方と連絡は取れておらず、現在の状況は不明である。


気になる点は多々ある。

投稿者はなぜ失踪したのか。「これはフィクションです」に関係があるのか。あるとすれば、なぜ投稿から半年以上経った今更になって?

更に、親族の方の最後の投稿内容も奇妙だ。「これはフィクションです」に書かれた文章ではなく、動画の方を気にしている。「聞いたり、」とはどういうことなのか?


その答えは闇の中だが、本件について筆者が調べた情報をここに共有する。投稿者が見つかるなにかの手がかりになることを祈っている。

もし、さらなる情報をご存知の方があれば、筆者までご連絡いただきたい。所轄の警察署まで責任を持って届け出る。


まずは、動画の音声に含まれていた謎の言葉「ね(?)みやさま」について。

どうしても音が途切れた部分が聞き取れなかったのだが、根気強く調べていくと1件だけそれらしきものがヒットした。


ねがみやさま

https://japan-folklore.livedoor.biz/archives/10103240.html


これは、日本の民間信仰をまとめている個人ブログだ。

要約すると、「ねがみやさま」というのは九州のとある限られた地域で語られる都市伝説の類で、「ねがみやさま」についてのある言葉を口にすると、口にした者は心神喪失状態になってしまう、というものだった。

ブログには来歴の考察なども載っているがここでは省く。気になる方はリンク先を参照されたい。

動画に登場する言葉はこの「ねがみやさま」でまず間違いないだろう。というのも、親族の方に伺ったところ、投稿者は九州出身なのだという。地域も「ねがみやさま」の言い伝えがあるエリアとごく近い。投稿者は地元のマイナーな都市伝説を作品のモチーフに選んだのだと考えられる。


さらに、これに関連して気になる事件を見つけた。

ねがみやさま信仰がある九州某県において、2017年に女子大生の不審死が起こっている。だが気になるのは亡くなった女子大生ではなく、遺体とともに発見されたもうひとりの女子大生である。

この点についてはニュースではほとんど報道されていないが、あるオカルトサイトに記載があった。

彼女はで発見されたという。

もちろん、単なる偶然かもしれないが、不審死の方もかなり奇妙な亡くなり方をしており、とても人間の仕業とは思えない。なにか超常的な力が働いたのではないかと考えずにいられない。

http://fenneljujube.wp.xdomain.jp/キャトルミューティレーション_学生寮/


しかし上記はいずれも「心神喪失」になるというもので、今回の失踪事件とは一見無関係に見える。

やはり「ねがみやさま」の祟りなどはなく、投稿者は自分の意志で、もしくはなんらかの事件に巻き込まれて失踪したのだろうか。

そう考えた矢先、友人がこんな話を教えてくれた。


彼はねがみやさま信仰のある地域の大学出身で、なにか知らないかと打診をしていたのだ。

ねがみやさまのこと自体は知らないようだった(彼は九州の生まれだが、別の県からその大学に進学していた)が、不審な失踪事件には心当たりがあるという。

彼の妹の同級生、その母親が失踪したのだという。

当時妹は高校1年で、その同級生(仮にCさんとする)とは仲が良かった。友人の突然の不幸に妹も動揺したのか、毎日のようにCさんから聞いた話を家族に相談していたそうだ。

その話を要約すると、Cさんの母親は、失踪の数日前から「ちょっと神社に行ってくる」と家を出ることが多くなった。

それまでそんなことは一度もなかったから、家族も不審に思った。とはいえ止める理由もなく、最初のうちはそのままにしておいたのだが、ある日の下校中、Cさんはふらふらと歩く母親の姿を見た。

彼女が向かう先は、Cさんが思っていた神社の場所ではなかった。Cさん宅付近には小さいが比較的きれいな神社があり、てっきりそこに行っているのだと思っていたのだが、母親が向かっていたのは住宅街の中に突如出現する、崩れかけた廃神社だったのだ。

Cさんは子供の頃から、その廃神社は危険だから行ってはいけないと当の母親から言い含められていた。その廃墟になぜ?

声をかけようかと逡巡している間に母親は細い階段を登って、薄暗い木々の影の消えていってしまった。

帰ってきたら話を聞こう、と思ったその日以降、母親は家に帰ってこなかった。

もちろん、件の廃神社にも探しに行ったが、ボロボロに崩れた鳥居と本殿、それに簡素なプレハブ小屋があるだけで、そこには誰もいなかったという。

この話の奇妙な点はまだある。

失踪から6年ほど前に、母親はこの廃神社を訪れていたらしいのだ。それはPTA役員の仕事の一環だったそうだが、母親はそこで不思議な体験をしている。

いるはずのない管理人に会った、と言っていたそうだ。

初めてそこを訪れた時、管理人に「あっちから入ってきてはいかん」とまくしたてられ、わけも分からず追い返された。後日、菓子折りを持って再訪すると、そこには誰もおらず、管理会社に問い合わせたところ、管理人など置いていないという。

そんなこともあり、廃墟で危険なだけでなくちょっと怖いから行っちゃだめよ、と子どもたちに説明していたそうだ。


失踪数日前からの不審な振る舞い、最初の出来事から失踪までの奇妙なブランク。期間は違えど、今回の件と似てはいないだろうか。

さらに、この廃神社の名前を聞いて、筆者は驚いた。

意加美おかみ神社」

全国に同じ名前の神社はいくつかあるが、この神社の祭神は淤加美神おかみのかみである。

すでに「ねがみやさま」のブログ記事を読んだ方はお気づきであろうが、淤加美神は「ねがみやさま」の元となったと考えられている龍神だ。



奇妙な符合。しかしそれぞれが少しずつズレていて、情報が増えるほどに全体像が見えなくなる。

これを読んで、なにか思い当たることがあれば教えてほしい。投稿者の発見を心から願っているが、それ以上に、この真相を知りたいという欲求が抑えられなくなっている。

それからもう一つ。もしこの件を調べるとしても、「ねがみやさま」の名前だけは、絶対に口に出さないでほしい。


ひとつだけ告白をすると、件の九州の友人、彼に「ねがみやさま」のことを聞いたときに、口に出すなと言いそびれていた。彼は電話で先程の話をしてくれたのだが、開口一番こう言ったのだ。

「ねがみやさま? ってのは知らないけど」

と。

彼の身が心配だ。彼の安全を確保するためにも、なんでもいい、少しでも情報をいただけたらと思う。

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