1. 事実関係の整理

まず、この「これはフィクションです」という作品(? 便宜上今後は「当該作品」と呼ぶ)にまつわる事実関係を整理しよう。


投稿者のツイートから、当該作品は「小説」として書かれていることがわかる。小説と呼ぶにはずいぶん不完全な体裁ではあるが、ツイート本文でも明記されている通り、画像内に記載されている内容は完全なフィクション、創作であるということだ。


実際にこのような事件はなかったのか。

結論から言うと、「矢白楓」という名前の失踪者は確認できなかった。

Googleで「矢白楓」というキーワードを完全一致検索しても、当該作品についての言及しかヒットしない(同姓同名の別人も存在しないようだ)。

都道府県警察によっては行方不明者リストを公開しているが、そこにも「矢白楓」の名前は存在しない。

また、特定失踪者問題調査会が公開している失踪者リストにも、同様に名前はなかった。

https://www.chosa-kai.jp/archives/missing


福島県で起きた未解決の失踪事件としては、1991年に当時7歳の少女が自宅から姿を消したという事案があるが、発生年や当時の年齢、福島県内でも場所や失踪した状況、家族構成など、ほとんどの点が異なっている。


同様に2020年の東京で24歳の女性が行方不明になった事案についても調べたが、少なくとも公表されてはいなかった。

(もっとも、令和2年の行方不明者数は全国で約77,000人、女性は約28,000人いるので、その中に「矢白楓」さんが含まれていないとは断言できないが)


以上の点から、画像に記載されていた「失踪事件」については「フィクションである」と断定してよいだろう。



更に、留守番電話の動画についても検証を行った。

画像に関してはiPhoneの留守番電話画面の画面収録で不審な点はない。

音声については、いくつか不自然な点がある。

ひとつは、声は途切れているのに背景音は途切れていない箇所がある点。もし電話自体の音声不良であれば、電話の向こうの音全体が途切れるはずだ。この音声は少なくとも、声と背景音は別に録音されている可能性が高い。

もうひとつは、当時の考察でも言及があったが、サイレンの音が日本のものではない点。こちらの音に関して調べたところ、iPhoneの動画編集アプリ「iMovie」にプリセットされている「パトカーのサイレン」という効果音に酷似していることがわかった。同様に「こおろぎの鳴き声」という効果音も存在しており、背景で流れている虫の声もこの効果音を使用したものと考えられる。

音声については、元の音声をだいたい300%程度に引き伸ばしたもののようだ。音声部分の最後に女性と思われる比較的高めの声が入っているが、引き伸ばされた部分を元に戻すとほぼ同じ声になる。

それでも途切れた部分があるので全ては聞き取れないが、筆者には以下のような内容に聞こえた。


「か(わ?)いそう (か?)えでちゃんは だども ね(?)みやさまが (??)たんだから しょうが(な?)いねえ かわい(そ?)う かえ(で?)ちゃん ごめんね」


そしてこの女性の声であるが、投稿者の声に酷似しているのだ。

(投稿者はツイキャスで不定期に配信を行っており、そのアーカイブは今も確認できる。

https://twitcasting.tv/frogfrogfrosch/)


上記の点から、この動画に関しても、最初の投稿と同様に、投稿者による創作と考えて間違いないだろう。



投稿者の「これはフィクションです」という言葉に偽りはなかった。

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