Ⅰ トリカゴの若き王と、その仲間たち

 一ヶ月、確かにちょっと長い。でも、生きているか死んでいるかと言われたら、ちょっとわからない微妙な期間。ここで男でも作って仲良くやってるのかもしれないし。

「バクローさんには詳しくお話ししませんでしたが…あくまで、アヤノがどうなったかの調査で――百万。別途、必要経費もお支払いします」

「まぁ――トリカゴで男でもできて、意外とのほほんと暮らしているかもですよ。一ヶ月くらいならまだ死んでいると決まったわけではないと思います。とりあえず、今その子がどういう状態なのか、調査に入りますね」

 おれの言葉に、ミナシマはまたくすりと笑う。控えめなその笑い方はマジでキュートで、惚れてもおかしくないくらい。

「あれ?なんかおかしいこと言いました、おれ?」

「ふふ、さすがはジンベエさんだと思いまして。噂に違わない、すごい人なんだな、と。ビーバーズはかなり好戦的なチームだと聞きますし、そんなにも物腰軽くこんな依頼を受けてくれるなって思ってもみませんでした。なによりも、イメージと全然違う。丁寧で、気さくな方。きっと。モテるんでしょうね。やはり、貴方に直接お会いして依頼してよかった」

 ミナシマはそう言うとテーブルの上に茶色い封筒を置いた。

「では、改めまして。前金で二十万――ご確認ください」

「わかりました。確かに――お受け取りします」

 おれは平然を装いながらも、封筒を空けて中を確かめる。へへッ――とんでもねぇ大金だ。手が、手が震えやがるぜ――。

「それでは、また二週間後の同じ時間にここで――でどうでしょうか?とりあえずの期間はそれで大丈夫ですか?」

「全然問題ありません、今日から動きますし、大丈夫です、わかりました。では、また二週間後の同じ時間に。今度は遅刻しませんので。二週間後までには結果を出せるように頑張ります」

 手が震えながら数えた金も、ちゃんと一万円が二十枚あった。とんでもない大金。

「ふふ、お気になさらず。これしきの遅刻ならば気になりません。では、私はこれで。車を待たせてあるので、戻ります。また――ご連絡しますね」

「ああ、もしなんか違うことでここ来るなら、なんかしらで連絡してください。報告とかもちょこちょこしたいですし、コーヒーくらい奢りますから」

 ミナシマは「ありがとう」と言うと席を立ち、そのまま軽く頭を下げて店から出て行った。軽く一息ついて残ったコーヒーに口を付けながら、外を眺める。おれの懐には今――二十万。今夜は何を食べよう?すごい、楽しみだ。

「ジンベエちゃん、はい」

 早苗さんが、にこにこしながらおれのテーブルに巻物みたいな紙を置いた。それを見て青くなる。早苗さんはにこにこはしているけど、首には青筋が立っており、かなり歯を食いしばっているようだった。

「いっぱいお金貰ったねぇ?ジンベエちゃんにはお世話になったから、これでもかなーりサービスしているんだよ?これまでのツケ、しめて十七万五千六百円。払えるよね?」

「あ、ああ――」

 ボンボンは外から借金逃れでトリカゴに来た夫婦が始めた喫茶店だ。本格的なコーヒーを出すと話題になり、流行ったけど、当時「龍泉」という品外館の下部組織に目を付けられて店の利権などをめぐり、直接的な襲撃、店の前に死体を置かれるなど、かなり酷い嫌がらせをされていた。

 それをたまたまおれが助けた縁と、おれの家に近いからよく利用するようになり、いつしか金があんまりにも無いときはツケでもいいからというマスターに甘えて、食って食って食いまくって飢えを凌いでいた。調子に乗ってバクローとも何回もここで食べている。

「早苗、まぁ――一括じゃなくてもいいじゃないか。ジンベエくんは恩人なんだし…」

「あんたは黙っててッ!」

 マスターのナイスな提案も却下。ま、まぁそうだよな…食った分は払うのが当然だよな。

 おれは震える手で十七万五千六百円を支払うと、残った金をどう大切に使っていくかを真剣に考えた。いや、まだ二万弱あるし、またボンボンで同じくらい食えるんだ、プラスに考えるっていうか、当然のことなんだ!人間として、当たり前のことをしただけなんだ!おれはゴブリンじゃない!ニンゲンいや、イセイジン、ヒトガタセイメイタイなんだッ!

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