Ⅰ トリカゴの若き王と、その仲間たち

 本当に男ってのは喧嘩の話が好きだ。オルグは少し上の世代だから、直接おれ達と争うことはなかった。少し上の世代には傍観者が多く、おれ達が現役でやんちゃをやっていた頃には、表には出てくることはなかった。

 オルグの世代は、どちからと言えばトリカゴでのしあがるっていうよりも、争わずに安全な生活をしたいって奴らが多かったってのも傍観の理由なのかもしれない。

 まぁ、当時は異星人同士で殺し合いなんて当たり前の話で、そう考えるのも普通なんじゃないかなーとも思うけど。

 そんな世代の中では、今──暴力を旨とする生き方のオルグは特殊な存在であるけど、オルグもまた、おれ達がやんちゃをやっている頃には傍観をしていた。それなりに動いてのかもだけど、少なくともおれは当時オルグのことを聞いたこともない。仲間も居なかっただろうから、おれ達の動向を見守っていただけなのかもしれないけどね。

 ただ――オルグの暴力は確かなものだ。傍観者が多い少し上の世代とは思えないほど、尖っている。なんてたって、オルグの種族ボルバータの能力、肉体強化はかなりチート性能だ。近接戦闘ではかなり有利になるだろう。身体の一部を自由に鋼鉄化できるんだから。

 おれがオルグのことを初めて知ったのは、シオリが女人を立ち上げてからだ。初期の女人には敵が多く、色々と大変だったけど、敵を蹴散らし、シオリを守ったのは間違いなくオルグの活躍だ。(まぁ、おれもそれなりには貢献したけどね。)

 だからおれは、トーヤとは違ってオルグを傍観者世代だ、とはそれほど思わない。少なくとも、今はシオリの騎士様として活躍してんだから。おれは卑しいゴブリンだけどね…。

「どうかな、おれはもう現役じゃないし、どっちが強いとか、そういうことにそもそも興味がないし、運だよ、戦いの勝敗なんて、結局運だから」

「…よく言いますよ、アニィがそれを言いますか」

 その後は、久しぶりに昔話に花を咲かせながら結構な時間まで酒を呑んだ。トーヤは楽しそうに昔のことを語り、女の子やメンバーもそれを楽しそうに聞いていた。

 久しぶりに結構酒を呑んだおれは、そんな話の中、ずっとシオリのことを考えていた。

 さっき、メガックに言われたことが心の中に引っかかっているのかもしれない。

『たまにね、酔っ払うと、僕に言うんだ。これだけ私は大きくなったのに、やっとジンベエに並ぶことができると思ったのに、全然振り向いてくれない――ってね。女人も、トリカゴの規模じゃこれ以上はたやすく大きくはなれないし、するつもりもないと思う。これだけ女人を大きくしたんだ、シオリさんは、ジンベエくんと並んだと思った、並びたかった。今度こそ、足を引っ張る存在にならないと思ったのに、当の本人はまったく見向きもしないから、焦っているんだ、それで、不安定な状態なんだよ』

 もう――シオリとは戻らない、戻れない。

 だけど、もしも――。

 もしも、シオリがおれに助けを求めるのであれば――。

 言葉では助けを求めなくても、おれが判断して、シオリが困っているのなら――。

 おれは身体を張る。

 それだけは――いつまでたっても変わらない。――変えない。

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