Ⅰ トリカゴの若き王と、その仲間たち
そういえばシオリも言っていた。トーヤのところはかなりどんぶり勘定で商売をしているから、そろそろちゃんとした金庫番入れないと駄目な規模かもねって。トーヤ、口に出してはあえて言わないが、トリカゴの女王がそう言っているんだ。そろそろちゃんとやりなさい。
「アニィはどうなんすか?何でも屋なんて辞めて、バクローさんと一緒にうちきてくださいよ、頭になってくださいよ。あ、でも…アニィは姉御んとこのがいいか…。というかまぁ、どっちでもいいすね、うちでも、姉御んとこでも。だけど、アニィにはやっぱ女いじるなんて似合いませんから、荒事が似合いますから、うちどうすか、うちに!」
しかしトーヤはべらべらと口が回る。もう少し台詞を切ってくれマジで。
「おれはいんだよ、自由にやりてーからな。金だってそんなに欲しいわけじゃないしな」
「アニィほどの男がふらふらしてるっつーのも、自分は問題だと思いますけどねぇ」
トーヤは不満そうにそう言ってから酒を煽る。グラスに氷も何も入っていない、ストレートの琥珀色の液体、つまりはウィスキーだ。
「私が口挟んだら怒られるかもだけど、しぃ姉と戻ればいいのに。しぃ姉は今でも、ううん、ずっと今までジンベエさんと戻るために頑張ってきたんでしょ?」
隣に座っている女人の女の子が、おれの腕におっきいオッパイを押し当てながら上目遣いにそう言った。
「おいおいやめとけ。アニィと姉御は、他人が口を挟んでいいところじゃない。二人には二人のペースがあるんだから」
トーヤが笑いながらそう気を使ってくれた。そう、その件は非常に難しい。話のベクトルを変えようかな。
「まぁ、今日は寄るつもりはなかったんだけど、ついでだからいいか。トーヤ――明日ちょっとまた寄るかも。ケルベロスの力――っていうか、お前の個人的なコネを使うかもしれない。確かお前、ビーバーズと仲良いよな?」
「ビーバーズになんかあるんすか?アニィが?まぁ、仲はかなりいいと思いますよ。頭はネバレスって奴なんすけど、一昨日も呑みにいきましたし。あいつら、見た目超可愛いのに、超気合い入ってるから好きなんですよね。今から行きます?」
「いや、今はいい。受けるかどうかも、お前の力が必要かどうかもわからないんだ。ただ、バクローが結構やばそうだっていうんでね。内容によっては、こっちで勝手にやるからさ。一応、もしも手伝って貰うようだったら、お礼とかも用意できそうだから、安心してくれな」
おれの言葉に、酒を持つトーヤの指がピクリと反応した。
「水臭いことを言わないでくださいよ。どんな依頼でも、おれ個人でも──ケルベロス全体でも、アニィの為に受けますよ。お礼なんていうものも一切要りません。自分とアニィの仲じゃないっすか。それに――」
トーヤはグラスを見つめながら、そこで言葉を切った。くるくるとグラスに入った酒を回してから、ぐぃっと勢いよく飲み込む。
「トリカゴの王のお願いを、断るわけにもいきませんしね」
「おれは王じゃない、トリカゴの王なんてのは、お前やシオリのが合っているだろ」
「謙遜しないでくださいよ、誰もが認める――王の一人じゃないですか」
トーヤはそう言うと笑い、おれにも酒を勧めるようにグラスになみなみとウィスキーをつぎだした。いやいや、頼むから氷くらい入れてくれってば。
「そーだよーしぃ姉もよくジンベエさんこそが本当の王だってぼやいてるよ。オルグさんは、あんまりジンベエさんのことよく思ってないかもだけど、いじめないでね」
隣のネアンデルタおっぱいちゃんが腕にぎゅいぎゅいおっぱいを押し当てながらそう言う。正直、わし掴みにして上下にゆさゆさやってたりたいくらい、弾力に優れたシロモノだ。男の夢だろう、おっぱいを掴んで上下にゆさゆさするのは。
シオリはまな板だから、付き合っているころは物理的に不可能であり、その夢は叶えられなかった。今も昔も絶対に口に出来ないことだけど。
「オルグさん、あの人――大丈夫?シオリにかなり粗末にされてるっぽいけど」
「あれで喜んでいるんだから、いいんじゃない?オルグさんは、しぃ姉の傍にいられるだけで幸せっぽいし」
おっぱいちゃんはそう言って笑ったけど、おれは全然笑えない。どんだけ女人は変態野郎が多いのだろうか。メガックといい…オルグといい――。
「豪傑のオルグ――素手の喧嘩じゃ負け無しっていいますね。どうでしょう、やっぱ、それなりなんすかね?自分はアニィとやってないからそうなだけで、アニィには到底かなわないどころか、足下にも及ばないと思いますけどね。所詮は傍観者世代ですよ」
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