Ⅰ トリカゴの若き王と、その仲間たち
最下層から自宅へと向かう途中に、大人達が遊ぶリピュノヘイルとは色が違った、もっとガキ共が好むような店が集まる区域、『ミミッド』がある。こっちはマジで名前の由来はよくわからないけど、みんなここをミミッドと呼ぶ。
品外館は外からの人間がミミッドへ入ることを禁止はしていないけど、あまり推奨はしていない。ミミッドは最下層ほどじゃないけど、外からの客を決して歓迎していない。
品外館の売人がうろうろし、ガキ同士の揉めごとが絶えないこの場所は、酒だ女だギャンブルだ――と言ったリピュノヘイルとは違って、外向けじゃないし、ここにはびこるガキ共も外を嫌っているから、外の人間を見ればすぐに絡む。
まぁ、嫉妬しているんだろうな、自由な外の人間に。おれ達は所詮はここに閉じ込められた、異星人だ。何年経っても、何十年経っても、ここからの解放はないだろうし。
そんなミミッドの中心に事務所を構えるチームが、『ケルベロス』。
女人ほどではないけど、トリカゴではかなり名の通ったチームで、ガキ共を束ね、トリカゴで用心棒みたいなことをいて稼いでいる。依頼があれば、外からの客も警護したり、怖い顔の奴が優しく案内までしたりする。
リーダーはトーヤという優男風のイケメンであり、おれもよく知っている男。そんなトーヤが取り仕切るケルベロスの事務所の前を通ると、事務所の前に立っていたガタイのいいハゲ頭がおれを見て声を上げた。肌が赤い、きっとオルグと同じ種族、ボルバータだろう。
「ジンベエのアニィ!」
「あ、ああ。おう――」
おれはこのケルベロスのノリが苦手だ。とにかく声がでかい。だけど、ケルベロスの前を通らないとなると、自宅まではかなり遠い道のりとなってしまうから、バクローの家から帰るときは通らざるをえない。
「ボスなら中に居ますよ!なぁにやってるんですか、今日はシオリさんとこから女の子も来ているんで、寄ってってくださいよ、ボスも喜びますから!おい、てめぇら突っ立ってねーで早くジンベエのアニィを案内しねぇか!」
「いや――今日は――」
「なーに言ってるんですか、遠慮しねぇで、ほら、早く!」
にこにこしたハゲ頭と鼻から顎までをバンダナで隠したまだ若い二人に腕を掴まれて事務所に通される。
「ボス!ジンベエのアニィが到着しました!」
ケルベロスの事務所は、煙かった。トーヤの好みで照明も薄暗いから、見通しが悪い。中央にどかんと置かれたソファーから男が立ち上がる。トーヤだ。
「おお――アニイ!なーにやってすか!さぁ座って座って!」
「え!?ジンベエさん!?マジ!?」
「あージンベエさんだー」
「ジンベエさんこんちゃっす!」
「ジンベエさんお疲れ様っす!」
「生ジンベエ久しぶりに見ちゃったーきゃはー」
「ジンベエさんと遊んだなんて言ったらしぃ姉に怒られちゃうかもねぇ」
「ジンベエさんこんちゃっす!」
マジ、うっせぇ。一気に全員で喋るな。
「さ、ジンベエのアニィ、ゆっくりしてってください」
にこハゲが、おれを中央のソファーまで案内し、座らせた。同じテーブルに座っているトーヤは上半身裸。女の子達も、下着できゃっきゃしている。マジ、なにやってんだコイツらは。テーブルにはトランプと酒が散乱していた。
「こんな派手に遊んで、そんな儲かってんのか?」
現状を見て、まず気になったのはそこだった。おれは金がない、嫉妬から来る言葉だったのか、それとも――おれの中にある贅沢を許さないゴブリンハートがそう言葉を発してしまったのか。
「儲かってるわけないじゃないすか!自分は金に興味がないんで、少しでも上がった分――稼いだ分はすぐにこうやって使うすよ。それがトリカゴ民じゃないすか?せめてトリカゴの経済は回さないといけないですしね!」
「まぁ、お前らしいって言えばお前らしいけどな。でもまぁよ…チームの為に、少しはちゃんと金を貯めておけよ」
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