Ⅰ トリカゴの若き王と、その仲間たち
――豪傑のオルグ。確か、戦闘種族である純血のボルバーダ。赤い肌、でかい身体、黒い角。おれより少し上の時代の人で、その時代では敵なし。素手ならトリカゴ最強と言われている男。女人がここまで歩んできた道の端っこには、オルグがなぎ倒した様々な奴らとチームが転がっているだろう。
シオリに惚れ込んでしまったオルグは、喜んでシオリの配下となり、シオリの壁となるものはすべてぶち壊してきた。豪傑と呼ぶに相応しいその身体からは、なんか大地からエネルギーを吸収してるんじゃないのかなっていつも思う。
「ねぇいいじゃん、たまには遊んでよジンベエ。最近、全然相手してくれないんだもん。前はよく事務所にも顔出してくれたのに」
「今更おれなんかがシオリの事務所に顔出せるかっての、立派すぎて入れないよ」
ねこなで声のシオリの手を離したけど、すぐにまた掴まれた。よく見ればシオリの顔はほんのり赤い。酒を飲んでいるのかもしれない。
「オルグさんもなんとか言ってやってくださいよ、品外館の集まりの約束ぶっちぎったら、さすがの女人でもまずいっすよね?」
「――…」
オルグは何も言わなかった。ただ、殺す目でおれを見つめているだけ。シオリと仲良くするおれが――いや、男が気に入らないのだろう。まぁ、気持ちはわかる。男なんてものはみんな嫉妬に狂ってる。だけど、おれに怒るのは筋違いだよな。
「いいんだよ、オルグは関係ないじゃん。さぁ、ジンベエ行こうよ。私、いいお店知ってるからさ」
「シオリさん、今日はまずいと思います。もう、先方に行くと伝えちゃってますので…」
やっとオルグが口を開いた。そんなオルグに、シオリは露骨にため息をついてからすごく冷たい視線を向ける。
「業務的な急用ができたって言っといてよ。さ、ジンベエいこっか」
「おいおい」
おれは別に暇だからいいけど、シオリは忙しい。なんてったって、このトリカゴのトップと言われるチームの頭なんだから。おれの足りない脳細胞じゃ、その忙しさすら想像できない。
やんわりと手首を掴むシオリの手を離そうとしたけど、シオリはぎゅっと掴んだまま離さなかった。シオリの手首を掴んで無理矢理に引きはがすこともできる。だけど、そこまではしない。
「さぁ、いこいこ」
どのみち、昔からシオリは自分を曲げなかった。その時にしたいこと、自分の意思を優先した。そう考えると結構すげー女。しかもシオリって、異星人じゃなくて地球人なんだよね。
シオリは、ずんずんとおれの手を引っ張り、リピュノヘイルから出る。オルグは、最後まで「ちょっと待ってー」というスタイルでおれ達を少しだけ追いかけてきたけど、すぐに諦めた。
オルグだって知っているんだ、シオリが――こうなったらもう止めても無駄だということを。
最後にオルグと目があった時、オルグは困った表情から明らかに敵意剥き出しの表情に変えた。まぁ、無理もない。オルグがおれに対して特に敵意剥き出しなのは、しょうがない。
なんてたっておれは、シオリのモトカレ。そう、元彼氏。オルグからしたら、面白くないよな。決しておれのせいではないのだけれど、心の中でオルグに「ごめんね、うまくやっといてね」と謝っておくことにする。
「さぁ、どこいこっか。ジンベエ、久しぶりだから、今日は呑むよ」
いつだってこの街の女王様は自由気ままだ。でも、それについていくと決めたオルグ。女王様の騎士として生きていくと決めたオルグ。是非、その騎士道──確かラバルディってやつを頑張って貫いて頂きたい。
つうか、どこいこっかじゃねぇよ、さっきなんかいい店あるとか言ってたじゃんか。あと、おれマジで金ねーからな。
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