朝とルール~②~

私たちは "恋人" ではない。


『ね、裕飛。明日からはさ、兄妹になるけど、好き同士でもあるの。』


『うわぁ~!その "好き同士" ってやつめちゃめちゃいいわ!ニヤける!』


『もー!真面目に聞いて!えー、私たちは、兄妹になることで多くの特権を手に入れられます。が!それは少しの我慢によって守られる平穏なのです!』


『楓、難しい言葉使わないで。』


今のどこに難しい言葉があったのだろう。まっ、いいや!


『つまりね、私たちの関係は、法律上はなんら問題ないけど、周りから見たらやっぱり理解されないわけ!』


『え!じゃあ、兄妹になったらダメじゃん!』


『最後まで聞いて!でもね、あることを守れば、兄妹であることの特権を最大限に活かしながら、周りからもとやかく言われない最高の生活が手に入るの!』


『なに!何を守ればいいの!』


『それはズバリ!この関係を、全力で隠し通すことよ!そして、めちゃめちゃ仲の良い兄妹になるの!』


『え、それだけで良いの?』


さすが裕飛。私と同じ考え方だ。特権の偉大さを完全に理解している。


『そう!それだけで良いの!それさえ守れば、家族だからずっと一緒にいられるし、休みの日に2人で出かけたって、仲の良い兄妹ね~って言われるだけ!はい、最高!』


『はい!最高!絶対守る!』


『我慢という名のスリルというか、2人だけの秘密

というか…、これ自体も楽しんじゃおうよ!せっかくだし!好きな人と兄妹なんて経験できないし~!』


『まじ最高だわ!ルール色々作ってこうぜ!』



こうしてノリノリで決めた様々なルールに基づき、好き同士がバレないよう、私たちはお互いを "想い人" として接している。

決して恋人とは呼ばないというのも、ルールのひとつ。恋人ではあまりに距離を近く、強く感じてしまうから。それに準じて、恋人がするようなことはしない。隠すことが辛くなってしまうほど、重い事実を作らないと決めた。



「楓!行くぞ!」


「ちょっと待ってよ!パパママ!行ってきます!」


朝は必ず一緒に学校に行く。これもルールのひとつ。といっても、私たちは違う高校に通っているため、最寄り駅まで。私はここから3駅先の進学校。裕飛は逆方向に3駅先の…うーん、ちょっぴりおバカな高校に通っている。


「あ~ら。今日も仲良しねぇ~。いってらっしゃい!」


「おーツインズ!気ぃつけてな!」


隣の家のおばさんも、タバコ屋のおっちゃんも。み~んな私たちを仲の良い兄妹と言ってくれる!これで良いのだ!最高!


「よし!じゃーな楓!帰りもここで待ち合わせな!」


「うん!気を付けてね!いってらっしゃい!」


駅のホーム。私たちはここでいってらっしゃいのハイタッチをする。そして一瞬だけ、その手を "ぎゅっ" として、お互いの手を握る。両片想いの私たちの、1秒だけの小さな秘密だ。

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