さらば さらば さらば

エリー.ファー

さらば さらば さらば

 さようなら、さようなら。

 君が知っている通り、二度目はない。

 会わないまま、消えていく者たちへ捧げる唄よ。

 さようなら、さようなら。

 悪ふざけのように見せながら真面目に語り、その実、既に顧客は移動して、そちらの顔色をうかがうために吐き出された言葉で作られた別れの唄よ。

 さようなら、さようなら。

 死を司る神はいない。踏み外した人が、ただひたすらに行方をくらませるだけ。

 一通りの道は歩んだ。

 嘘はない。

 しかし、真実もない。

 その夢が叶わぬと分かっているのに、夢を語らねば誰もついてこない。夢を叶えるための仲間ではない。その日の金をせびるための仲間。

 叶わぬ夢を餌に、おびき寄せた仲間から、小さくもらう金でその日を過ごす。

 しかし、それが王道であり正道。

 偽りなどない。

 すべてが真実。


「私は死ぬかもしれません」

「そういうヤツほど死なないんだ」

「でも、死ぬはずです」

「何故、そう思う」

「理屈はないのです」

「理屈がない。それは本当か」

「はい」

「理屈がないのに死ぬ気がするなら。間違いなく死ぬだろうな」


「裏切ったと聞いておりますが」

「裏切ったわけではないだろう。そのような道が他にもあったというだけだ」

「しかし、皆がそう言います」

「皆とは誰だ」

「皆とは皆のことです」

「分からんな。理解できん」

「しかしっ」

「こちらが裏切り者ではないのか」

「何を仰っているのですか」

「裏切りなど視点によるものだろう。違うか」

「それは、そうですが」

「気にするべきではない」

「しかし、気になります」

「裏切ったのはお互い。裏切られたのもお互い。これ以上のものは何もない」

「しかし、それでは余りにも」

「しかし、これで終わりなのだ。もう、追いかける理由はない」


「芯というものについてどう思いますか」

「あんなものは存在しないよ。ただの幻想」

「そうでしょうか。私には芯というものこそが大切であると思います」

「冷静に考えなよ。芯って、そもそも何だい。人によっては同じことをし続けることを芯と呼ぶし、柔軟であることを芯と呼ぶ場合だってある。人それぞれだろう」

「えぇ、そうです」

「でも、君は芯というものを一つ決めて、それ以外のものを排除しようとしたじゃないか」

「していません」

「してた。していなかったとしたら、今からしようとしていた」

「していませんし、しません」

「怪しいなあ」


「信じていたものに裏切られることって、どれだけ悲しいことなのか分かりますか」

「分かりません」

「分からないなんて、あなたの体には血が通っていないんですか」

「血が通っていないのかもしれません」

「何故、もっと反論をしてこないのですか」

「反論できるような生き方をしていないと分かっているんです」

「そういうことじゃないでしょう。反論してくれないと議論にならないじゃないですか」

「分かるんですが、別にそういう意味で喋っているわけではないので」

「そういう生き方が嫌われるところなんです。あなたはとってもずるいです。ずるい、ずるい」

「分かります。それは凄く分かります」

「昔の仲間とは、上手くいっているんですか」

「いや、それほど」

「どれほどですか」

「あぁ、その。なんとも言えません。昔ほどじゃないです」

「それを寂しいと思っているでしょう」

「寂しくはないんです。新しい仲間が周りにいるので」

「じゃあ、大丈夫ということですか」

「そうなんです。大丈夫なんです」

「あ、そうですか」

「分かります。大丈夫なのがおかしいんですよね。分かります。でも、私はそういう時でも大丈夫な人間なんです。だから、皆さんと同じ歩幅では歩けません。ごめんなさい」

「いいです。もう、いいです。さようなら」

「はい、さようなら」

「だからっ、なんでそうやって、あっさりしてるんですかっ。もっと、ないんですか」

「あんまり。その、ないです」




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