40. 心配性なのは血筋ですわね


「エレノア……。」

「……ルーファス?」


 ゆっくりと瞼を開けると薄暗い自室に窓から月光が降り注いでいます。


 そして月明かりの下に月光を集めたような美しく光る銀髪のルーファスが私の寝台の傍で立っていたのです。


「遅いわよ。心配したではありませんか。」

「悪い。親父殿とディーンに色々やらされて、伯爵位を継ぐ手続きやらでこちらに来れないように画策されていた。」


 やっぱり、お父様もディーンお兄様も影で画策する癖は治らないのね。


「そういえば、ルーファス・デュ・アルウィン伯爵様。私と結婚してくださるのですって?」


 寝台から起き上がり、ゆっくりと立ち上がってからルーファスの方へと手を差し出すと、ルーファスは跪いて私の手の甲へ口づけを落としました。


「そうです。エレノア嬢、どうかこの私と結婚してくれませんか?」


 跪いたルーファスはその美しく光る宝石眼で私を上目遣いで見つめ、求婚したのです。


「よろしくてよ。」


 そう言って微笑むと、ルーファスはその整ったかんばせを綻ばせて微笑み返しました。





「それにしても、どうして伯爵位など譲り受けたの?貴方は貴族になどなりたくはなかったでしょう?」


 ルーファスは権力を求めるタイプではないし、私もルーファスと一緒ならば侯爵令嬢としての立場を捨てても良いと考えていましたから、不思議だったのです。


「親父殿とディーンが、『エレノアに苦労させる訳にはいかないから伯爵位を継ぐ気がないならばエレノアはやらん』と脅してきた。」

「私は貴族でなくても貴方と一緒ならどんなところでもやっていこうと思っていたのに。」

「そう言うだろうと思ってエレノアの気持ちも伝えたが、『《『無職の》》輩に娘はやれん』と。」


 無職?ルーファスはお父様の子飼いの諜報員でしたのに。


「『諜報員などという勤めをしていればエレノアが心配して身体を壊すかも知れないから、きちんとした領地経営でも学べ』と。それならばあの小屋で狩人でもすると言えば『森のクマにでもエレノアが襲われたらどうしてくれる』と言って却下された。」


 本当に、私が心配性なのはお父様とお兄様方に似ているのね。


「本当に貴方はそれでもいいの?貴族の務めなど、したくもなかったでしょう?」

「エレノアが貴族を捨てても俺と居たいと言ってくれるように、俺もアンタが傍で居てくれるならば貴族の務めだろうが領地経営だろうが何でもやるさ。」


 私たちはなんだか可笑しくなって、顔を合わせて笑ってしまいました。


 お互いがお互いのために自分の生活を変える覚悟なのです。


 こんな幸せなどあるでしょうか?

 

「それではこれからもよろしくお願いしますわ。ルーファス・デュ・アルウィン伯爵様。」



 





 


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