39. お父様いい加減になさいまし
「あなた、いい加減になさいな。エレノアが泣いてしまったら、あなたのことを私が許しませんからね。」
あたり一帯が一気に寒くなるような冷たいお母様のお声がして、お父様がビクリと肩を震わせました。
最近のお母様はおっとりとした雰囲気が鳴りを顰めて、なんだかとても芯が強い方のようね。
「マリア。いや、悪かった。だが、私だってまだ納得がいってないというか。まだ心の準備もできていないし。」
「だからって、わざと意地悪な言い方をなさらなくてもよろしいでしょう?」
お母様に怒られてシュンとなったお父様、そして何も喋らずに考え込む珍しい様子のエドガーお兄様。
ディーンお兄様は僅かに口元を緩められているわ。
「あの、結局どういうことですの?」
なかなかお話にならないお父様に変わって、考え込んでいたエドガーお兄様が口を開かれました。
「父上、私が陛下から先日騎士爵を賜ったことで我がアルウィン家が保有する伯爵位に空きが出たということでしょう。」
「エドガーお兄様、そうでしたの。おめでとうございます。それで、それと私の結婚は一体?」
恐る恐る尋ねてみましたら、お父様が少しいじけたお顔で私に答えてくださったのです。
「我がアルウィン家の保有する伯爵位を『《遠縁の》》男子に分け与えた。そしてエレノアはそこに嫁ぐことになったんだよ。」
「あなた!いい加減になさい!」
「マリア!怒らないでくれ。私だってまだ可愛いエレノアが嫁ぐことなど考えたくもないんだよ。」
「あなた、もう決めた事でしょう?そのために王城にディーンと二人で泊まり込んでまで手続きを済ませたのでしょうが。」
ディーンお兄様とエドガーお兄様は、もう黙って話を聞くだけにしているようです。
「マリア、分かったよ。エレノア、お前はルーファス・デュ・アルウィン伯爵に嫁ぐことになったんだよ。」
「ルーファス・デュ・アルウィン伯爵……。ルーファス?」
そのまま私は思考が停止してしまったようで、気を失ったようです。
「エレノア?エレノア!大丈夫か?」
「父上のせいだぞ!エレノアがショックで気を失ってしまったじゃないですか!」
「あなた!もうあなたとはしばらく口を聞きませんからね!」
「マリア!すまなかった!エレノア!大丈夫か?エレノア!」
遠くの方でお母様がお父様を叱りつける声が聞こえてきました。
ディーンお兄様とエドガーお兄様の慌てる声も。
ああ、もう頭が痛いわ。
ルーファスに逢いたい。
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