41. 結婚式に涙はつきものですが


 そうして私とルーファス・デュ・アルウィン伯爵の婚姻はシュヴァリエ王国国王陛下の結ばれることとなったのです。


 国王陛下の甥であったジョシュア様との婚約破棄を経て、宰相の娘で侯爵家令嬢である私が伯爵家との縁続になることを国内の貴族が色々と噂することもあるだろうと、それを牽制するための王命でした。


 きっとお父様が国王陛下に進言なさったのでしょうね。


 このシュヴァリエ王国は宰相であるお父様がいるこらこそ成り立っていると、陛下も分かってらっしゃるのです。



 私はシアーラと一緒にスタージェス学院を卒業いたしました。

 ジョシュア様がいらっしゃらなくなった学院は、時々切ない気持ちがすることもありましたが皆さまが良くしてくださったので心地よく過ごせました。

 

 そしてあっという間に婚姻の日が訪れました。


 それまでルーファスはお父様やお兄様たちに色々なご指導を受けていたようですけれど、私からするとまるで本当の父親と兄弟のようでとても微笑ましく見えましたわ。


「エレノア、とても綺麗だよ。やはり婚姻は取りやめにしたらどうだ?まだまだお前は俺だけの可愛い妹でいてくれてもいいんだぞ?」

「エドガーお兄様、婚姻を結んでも私はお兄様の妹に変わりはありませんわ。」


 エドガーお兄様は騎士服をお召しになって、とても凛々しく素敵ですのに今にも泣きそうなお顔をしてらっしゃいます。


「エドガー、エレノアを困らせるな。エレノア、とても美しいよ。ルーファスのことで困ったことがあればすぐに兄様に言うんだよ。」


 ディーンお兄様はプラチナブロンドに映えるとても素敵なスーツをお召しになって、エドガーお兄様を制止しながらも私の方を眩しそうに見てらっしゃいます。


「エレノア、今日の貴女はいつもにも増してとても綺麗よ。とても幸せそうね。本当に良かったわ。」


 そう言って、お母様こそお美しいドレスを身に纏われていますのに。

 私のベールを下ろしながら優しい微笑みを浮かべてらっしゃいます。



 私とルーファスの挙式は王城の敷地内にあるステンドグラスが見事な大聖堂で執り行われることとなりました。

 本来ならばここで私とジョシュア様を挙式を執り行う予定でしたのに、このような結末になるとは想像もできませんでした。


 挙式には、国王陛下はもちろんウィリアムズ公爵家の新しい御当主であるジョシュア様の弟君もおいでです。

 

「エレノア、まさかお前がルーファスと婚姻を結ぶこととなるとは思わなかったよ。あの子も私にとっては息子のようなものだったが、私たちの可愛いエレノアを奪われるとは思いもよらなかった。それでも、お前が幸せならばそれで良い。」

「お父様、ありがとう存じます。」


 赤いカーペットが長く伸びたバージンロードをお父様のエスコートで進んでゆきました。


 厳かな雰囲気の大聖堂内では、バージンロードの左右で装花の飾られた椅子に多くの方々が腰掛けられています。


 そして、祭壇に近づくと正装を身につけたルーファスがこちらを見ているのです。

 ルーファスの銀の髪と紅い瞳が、今日は特別美しく見えました。


 私はお父様からルーファスへとエスコートを交代され、並んで司祭様がいらっしゃる祭壇へと上がりました。


「ルーファス・デュ・アルウィン。貴殿はエレノア・デュ・アルウィンと結婚し、妻としようとしています。あなたは、この結婚を神の導きによるものだと受け取り、その教えに従って、夫としての分を果たし、常に妻を愛し、敬い、慰め、助けて、変わることなく、その健やかなるときも、病めるときも、富めるときも、貧しきときも、死が二人を分かつときまで、命の灯の続く限り、あなたの妻に対して、堅く節操を守ることを約束しますか?」


 大聖堂に響く威厳のあるお声で司祭様がルーファスへと誓いの言葉を投げかけます。


「誓います。」


 ルーファスは普段見せないような真剣な面持ちで答えています。


「エレノア・デュ・アルウィン。貴女はルーファス・デュ・アルウィンと結婚し、夫としようとしています。あなたは、この結婚を神の導きによるものだと受け取り、その教えに従って、妻としての分を果たし、常に夫を愛し、敬い、慰め、助けて、変わることなく、その健やかなるときも、病めるときも、富めるときも、貧しきときも、死が二人を分かつときまで、命の灯の続く限り、あなたの夫に対して、堅く節操を守ることを約束しますか?」


 ルーファスと私がこの場でいることが夢のようで、まだ私は信じられないような気持ちなのです。


「はい。誓います。」


 婚姻の誓約を立てた後には誓いの口づけをしなければなりません。

 私はとても緊張して、まだ少し不自由さの残る右足が脱力してふらついてしまったのです。


 その時、すかさず隣のルーファスが私を支えてくれます。

 この人は常に私のことを気にかけてくれているということが、本当に嬉しくて胸が苦しくなりました。

 

 いつも私のことを見守ってくれているのね。


 そして私の両肩にルーファスが手を置いて誓いの口づけをしようとした時、エドガーお兄様の啜り泣きが聞こえてきたのと、ディーンお兄様がエドガーお兄様を諭す声がハッキリと聞こえてきて、思わず頬を緩めてしまいました。


 そして緊張がほどけていったのです。


 ルーファスもお兄様たちの動きに気づいて、笑いを堪えている様子です。


「エレノアを取られて悔しがるアイツらを見るのもいいかもな。」


 そう言って、ルーファスは私の唇にしっかりと口づけを落としました。


 そして司祭様が夫婦となったことを宣言なさったのです。


 その瞬間エドガーお兄様は項垂れ、ディーンお兄様は涙ぐみ、お父様は眉間に皺を寄せて涙を堪えておられました。

 お母様だけはニコニコといつも通りに微笑んでいたのが見えたのです。




 






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